イベント/雪上の彼方

Last-modified: 2021-12-12 (日) 15:58:41

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


雪上の彼方

「紅魔幻想綺譚」「流れる血の色は」経過後、アルタナ四国のどれかに属しており、主人公の名声が一定以上で受領できる。

 

受領 ~ 北の地へ

敵軍の偵察の為にザルカバードに向かった部隊が連絡を絶った。
(ウィンダス所属の場合、彼らの任務に大魔元帥の呼び出しが含まれる)
彼らの捜索、安否の確認をしてほしい。
なお、敵領地内での行動になるため、大多数による行動は推奨できない。

 
 

凍土に覆われた極寒の大地。
吹雪と険しい地形で人を寄せ付けぬ僻地、ザルカバード。
身を蝕むような寒さが訪れる者の体を貫き、感覚を焼く。

 

……この人外魔境の地こそ、闇の王を首魁とした彼の魔軍の本拠地である。
そして主人公は今、この忌み地に足を踏み入れていた。

 
 

吹雪が強い。まるで吹き飛ばしてやると言わんばかりの強さだ。
北の地、ザルカバードに訪れる者を拒むかのように、氷雪が体温を奪い尽くそうと襲いかかる。
しばし物陰でやり過ごし、吹雪が止むのを待つ。

 

そうしてしばらくすると風の音が止んだ。どうやら吹雪が止んだらしい。
再び探索を再開すると、道中に足跡を見つけた。
吹雪の中、未だ残っているところを見るとまだ新しいもののようだ。
足跡の大きさや形状を見ると、獣人やモンスターのものではない。
もしかするといくえを絶った部隊のものだろうか……。
登山家もこのような危険な土地にわざわざ訪れるとは考えにくい。(登山家は常に危険を冒すものだが)
どちらにしろ、この足跡をたどれば、なにか道が見えるかもしれない。
一筋の光明を得た思い出で足跡に追従する。

零下の黒騎士

足跡をたどり、どれほど進んだであろうか。
気が付けば、足跡は既に途切れてしまっていた。
代わりに目の前には白銀の大地に青黒い影を落とす魔城が一つ。

 

……ズヴァール城。

 

魔軍の拠点たる、闇の牙城が目の前に聳え立つ。
そして、牙城の門前では見張りと思わしきデーモン達と、人間の部隊が刃を交えていた。
……後者はおそらく探していた部隊。

 

先走ってしまったのか、それともズヴァール城を確認した矢先にデーモンに見つかってしまったのか。
なんにしろ、非常に不味い事態だ。

 
 

どう行動するべきか、思考している時、異変が起きた。
急に視界が薄暗くなったのだ。いや、
……足元の影が濃くなっている?
それはが頭上に何かが通り過ぎたという事に気付いた瞬間。
地面が激しく揺れた。

 
 
 

乱戦の最中。
戦場のど真ん中で雪煙が巻き上がり、地響きが起きた。雪煙の近くにいた部隊の兵士が吹き飛ぶ。
時間を経て、雪煙が薄らぎ、その中に黒い塊が見えた。
雪煙が完全に消え、その姿が完全に露わになる。
黒い塊の正体は、身を屈んだ異形。その姿は金縁で彩られた禍々しい漆黒の鎧に身を包んだ巨漢の騎士。
外見はガルカにも似ていた。しかし背丈はそれとは桁違いに違う大きさ。頭部には巨大な角が天を衝き、肩や背には鉱石の様な突起物がいくつも屹立し、異形さをより一際象徴している。
積雪に覆われた地面に深く足を踏み締めた巨漢はゆっくりとその身を持ち上げた。

 

兜から覗く瞼がゆっくりと開き、邪悪に輝く兇眼が姿を現した。

 

巨漢の騎士が片手を持ち上げる。
その手には鎧同様に禍々しい形状の片手剣が握られていた。
巨漢が全身を捻る様に剣を構え――抜き放つ。

 

気付けば主人公は十数メートルほど背後に吹き飛んでいた。顔に冷たい雪がぶつかり、粒が口の中に入る。
目の前には部隊の人間が地面に倒れ伏し、死屍累々の有様を見せている。
……剣が振り抜かれた瞬間、その剣圧だけで吹き飛んだというのか。

 

規格外の威力に、思わず戦慄に身を震わせた。
この、目の前の化け物こそが……

 

こいつが、闇の王か……!

 

闇の王が歩を進めた。
その道中に在ったかろうじて息が残っていた部隊の人間を剣を振い、いともたやすく薙ぎ払う。
……こちらの息の根を止めるつもりなのだろう。

 

後退すべきなのに、足が上手く機能しない。
それでも必死にあがく。その間にも、巨漢はこちらへゆっくりと確実に接近する。

 

ここまでなのか、と脳裏に絶望的な言葉がちらりと浮き上がる。
辞世の句が思いつきそうな状況に、

 

主人公の目の前の地面が噴き上がり、そこから何かが飛び出してきた。
一瞬、闇の王の攻撃か何かかと思ったが、違った。
飛び出してきた何かが、闇の王に斬りかかったのだ。

 

闇の王は大剣で一撃を受け止め、鍔競り合いの様な形になる。
そこから蹴りの一撃を飛ばすが、バックステッポで回避される。

 

「ぬぅっ!」
「……」

 

乱入者は、ぼろぼろの漆黒の全身鎧を纏っていた。
全身鎧を纏っているとは思えぬ身のこなしに、闇の王が呻く。

 

その姿を見た途端に、主人公の口から肺から空気が漏れ出したような言葉が零れた。
げぇっ、しっこく。

 
 
 
 

唐突に起きた出来事を前に、主人公はしばらく自失呆然としていた。
目の前には漆黒の騎士が、同じく漆黒の鎧を纏った巨漢――闇の王と対峙している。

 

激しく切り結ぶ両者。
方や巨大な大剣を、方や重厚な両手剣を。
まるで丸めた画用紙を振り回すように軽々と、しかし目も止まらぬ勢いと鋭さで振り、斬り結ぶ。
剣と剣がぶつかり合う衝突音の連鎖は、徐々にその間隔を速めていく。

 

……あの闇の王と一体一で渡り合っている。

 

気付けば、剣戟は鉄の暴風と化していた。

 
 

闇の王が腰を下ろし、低く屈む。足を跳ね上げ、高く飛んだ。
高空から上段の構えで剣を振り下ろし、一撃を以て脳天を砕かんとする。

 

防御は不可能。そう判断したのか振り下ろされる剣の一撃を漆黒の騎士は側転で回避する。
……見れば先程己が居た場所に白雪が間欠泉のように吹き上がった。
その光景を横目で見ている内に、闇の王が袈裟斬りで襲いかかる。

 

闇の王の一撃を、漆黒の騎士は剣の面で受け止めた。そのまま角度を傾けて流す。
剣と面の表面が擦れる度に尋常ではない量の火花が散り、両者を照らす。
威力が殺されたことを認めると、漆黒の騎士は剣を斜め下に振り、一撃を弾き飛ばした。
受け流す動きから、背後に振り向くような動作。
そこから身を捻り、宙をきりもみに回りながら、刺し穿つように剣を突き出す。

 

剣先が狙うは、無防備になった胴。

 

「――!」
「ふん……!」

 

目の前に迫る兇撃。しかし闇の王はそれ一笑に伏す。
そこからやる事は単純明快だった。
足を大きく上げ、そのまま踏み潰す様に振り下ろし、突き出された剣の面を踏みつけそのまま地面に叩きつける。
剣と同じく地面に体を叩きつけられた漆黒の騎士の兜目掛け、追撃の蹴りが飛ぶ。

 

金属がたわむような音が響き、騎士が吹き飛んだ。

 

闇の王は左手を目の前の虚空に突きだし、その掌に力が集う。

 

彼方へ飛んだ漆黒の騎士が今まさに体勢を立て直そうとした瞬間。
その目の前に、掌から放たれた漆黒の球体が迫った。
体勢も取れぬまま剣を振り、球体を弾く。明後日の方向に飛んだ球体は大きく炸裂し、黒の残滓を白い大地に残す。

 

「……っ」

 

漆黒の騎士が空いた手を闇の王目掛け突き付けた。
その掌に、先程の闇の王の技と同様の漆黒が集中する。
一瞬だが闇の王の目に驚愕が彩られる。

 

数秒のラグを経て、鏡移しの様に黒球が撃ち出された。
「ぬぅんっ!」
闇の王が球体を直に受け止めた。掌に抑え込まれた球体は激しく脈動を繰り返す。
しかし握りつぶさず、闇の王は剛腕を振い、それを全力で投擲。
球体はそれ以上の速度と威力を以て漆黒の騎士へと真直ぐに跳ね返り、爆発した。

 
 
 

小さな球体を中心に発生した黒の爆発が収まる。
爆心地の中心には両膝を地面に着いた漆黒の鎧の姿があった。外套は燃え尽き、装甲のあちこちは大きく割れ、隙間から噴煙が漏れだす。

 

「……」

 

それを見る闇の王の瞼がぴくりと動く。
剣を支えに、目の前の鎧がぎこちない動きながら、立ち上がろうとしている。
魔力の爆発を至近距離から、それもまともに浴びた。にも拘らず鎧の中身は生きている。

 

「……」
「貴様……」

 

押し殺すような呟き。
鎧が億劫そうに首を三度ほど振った。途端、その兜に細かい罅割れが走る。

 

元々ボロボロの鎧ということもあるのだろうが、先程の攻撃を受けて、遂に鎧の耐久が限界を迎えたのか。
罅は兜だけに留まらず、鎧全身を覆い尽すように走り、がらがらと瓦礫が崩れる様な音と共に自壊を迎えた。

 
 

その姿を見た闇の王が眼を見開く。

 
 

「……死ぬかと思った」

 

蜂蜜色の髪を軽く梳き、額に走る流血も厭わず、漆黒の鎧の中身は可愛らしい声でぼそりと零した。

 

端的に言えば鎧の中身はヒュムの女性だった。
ひとつだけ、背中に変な物体がある事を除けば。
その背には、一対の木の枝の様ななにかがある。そこから七色の宝石を木の実の様につけていた。
それが小さくぱたぱたと動いている。まるで翼か何かの様に。

 

「……何故だ」

 

「何故、お前がここにいる、フランドール

悪魔の妹

初めて繰り出される闇の王の問い。その名を呼ぶ声は重々しく、陰鬱で……僅かな嘆きの響きが込められていた。
対してフランドールと呼ばれた女性はぶっきらぼうに返す。

 

「いちゃ悪いの?」
Sl vs Fds.jpg
手首を軽く振る。手の内に一枚の札が現れた。
スペルカードだ。

 

構えたスペルカードをもう一度手首を振って、見せる。
そして無造作に背後へ放り捨て、

 

「禁忌『レーヴァテイン』」

 

宣言した。途端、炎柱がザルカバードの曇天を貫く。
炎柱の正体は、幅は1メートル、全長500メートルを越す見上げる気にもならないほど長大な業火の剣。
剣はフランドールが構える両手剣を芯に、その馬鹿げた有様を大気に曝している。
その熱気に中てられて大気は歪み、周辺の地面が半ば湧き水のような様を見せていた。炎がどれほどの熱を放っているのかは一目瞭然。
やがて炎は収縮し、両手剣を纏う様な形になる。フランドールは剣を横に構え、

 

「死に腐れ、お父様

 

淡々と言い放ち、剣を振り、逆袈裟に空を斬った。
その動作を合図に、剣に纏っていた炎が解き放たれ、天を貫いた500メートル強の業火へと変化。剣の軌跡に沿って一気に薙ぎ払う。

 
 

闇の王ではなく、彼の背後に在る高大な山脈を。

 
 

それから間もなく、地響きのような音が響いた。
音源は業火が一閃した部分から上層。そこから津波のように押し寄せる白い怒涛が見えた。
土台の一部を抉られる様に失った積雪が、重力と山岳の斜面を勢いに、此方へ急接近している。
崩落する公園の砂山のように、雪崩が起きた。

 

!
「……どうする? あと20秒は遊べるよ?」

 

闇の王は答えず、剣を両の手で握り、別けた。巨大な大剣が分割され、二振りの片手剣へと姿を変える。
無言の戦意を受け、フランドールは目を鋭く細める。
「ねぇ、そこの人」

 

呼ばれた。主人公のことだろうか。

 

「そうだよ、さっきから呆然としている貴方」

 

「……今すぐ逃げて。わたしがアレを相手している内に、その間に雪崩に呑みこまれないように、出来るだけ遠く、出来る限り速く」

 

そう言うと、闇の王へと向き合い、片手に持った両手剣をぐるん、と豪快に一回し、手の内に収める。
「腰は抜かしていないよね? 足は竦んでない? 凍傷は大丈夫? ……無問題なら即実行だよ」

 

そう言い、地を蹴った。先ほどとは比べ物にならない速さで闇の王に接近する。

 
  • 大規模戦闘
    ♪Artificial Line
    勝利条件:????1ターン生存
    敗北条件:主人公orフランドール・スカーレットの戦闘不能
     
    敵ユニットはフランと相対するように闇の王が一体。そして主人公の周囲を囲むようにガーゴイル×2が4ユニットが配置されている。
    見ての通り非常に危険な状態での開幕である。
    しかし戦闘から1ターン経過で戦闘が中断するため、それまで持ちこたえればよい。勝利条件こそ設定されていないが実質1ターン生存である。
    闇の王は自分から行動しないので、フランをぶつけて1ユニットでも多く潰すなどしてタゲをひきつけるといいだろう。
    ちなみにこの戦闘における闇の王のHPは設定できる値の限界まで設定されている。ターン制限もあり、撃破は実質不可能。
 

フランが後ろへ飛びのく。その視線の向こう、雪崩が間近まで迫っている。

 

「そろそろ、逃げるね。……ごきげんよう、お父様。そのままシャーベットになっちゃえ」

 

最後にそう言うとフランは背に生えた異形の翼を目一杯広げ、飛翔。
猛スピードで雪山を滑空。逃亡中だった主人公を掻っ攫い、クレバスへ飛びこむ。
そのまま底の見えぬ峡谷へと姿を消した。

 

「……」

 

白銀の大地に足を踏み下ろし、闇の王はフランドールが消えた峡谷を見つめ続けた。その背後に、全てを呑みこまんと雪崩が押し寄せる。
突如、闇の王は腰を深く下ろし、その場にうずくまった。
全身に力を込めたその巨体に肉眼で視認できるほどの膨大な魔力が滾る。

 

「ぬうぅぅぅぅぅぅあああぁぁああぁっ!」

 

雪崩がその巨体を完全に覆い尽くそうとする直前。背を反らし、腕を広げ、内部に溜めこんだ超高圧状態の魔力を、咆哮と共に解き放つ。

 

黒が白を冒し、穢し、打ち消す。
爆縮された魔力が消えた後には、雪崩は闇の王周辺の積雪ごと跡形もなく消し飛んだ。
上空からは黒みがかった雨が北の大地に降り注ぎ、ザルカバードの大地を黒く塗らす。

 
 
 
 

雨を浴びる闇の王の傍に配下のデーモンが姿を現した。

 

「……彼奴等は如何致しましょう」

 

デーモンは膝を着き、異形の巨漢に上奏する。

 

「……追え」

 

答えは簡潔。

 

「御意」

 

返答を受けデーモンは恭しく頭を下げ、一礼。そして掻き消す様に姿を消した。