イベント/騎士の誓い

Last-modified: 2012-01-28 (土) 01:33:00

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


騎士の誓い

洞窟の奥

スコールたちと一時的に別れたテンシ。あんまり心配だったので、PCも一緒に残ることにした。
二人とドラコニスは、始めて会った洞窟に戻ってきていた。ドラコニスが、この奥に見せたいものがあると言うのだ。
一体何があるのだろうと期待半分不安半分で暗い洞窟に足を踏み入れる。自分の腕が見えないような真の暗闇だったが、ドラコニスが自分の口で小さな火を灯して照らしてくれた。

 

しばらく進むと、光が見えてきた。痛む目を慣らしながら、光の中へ足を踏み入れる。

 

そこは、アイノンを見おろせる小高い丘の上だった。
周囲には、ほとんど朽ち果てている柱を見つけた。何やら文字が刻まれていたが、知らない文字で読めない。
「これ……もしかして古サンドリア文字?」
柱を見たテンシがうーんと唸る。
読めるのか?
「駄目ね。習ったこと無いし……それに、風化しすぎている。学者を連れてきてもまともに解読できないと思う」
「騎士の誓い」
「えっ?」
不意にドラコニスが呟いた。
「そこにはこう書いてあった」

 

 騎士の誓い

 

 騎士の口は真実のみを語る
 騎士の心は純潔を保つ
 騎士の怒りは邪悪を滅ぼす
 一人でも言葉を覚えていれば誓いは消えない
 一人でも気持ちを強く持てば誓いは果たされる
 一人でも生きていれば次代に誓いは受け継がれる

 

「騎士の誓い……。ずっと昔からサンドリアの歴史から消えた『古き誓い』だと聞いているわ。原文を記した書物が見つからないから口伝されていたんだけど、そのうち誓いの内容は大きく変わって、意味の無いものになったからって……」
「見つからんのは当然だ。あの時代に紙などという物はなかったのだからな」
ドラコニスの口ぶりは、まるでその時代を直接見てきたかのようだ。竜は長命だと聞くが、一体何十、何百年昔のことなんだろう。
「ドラコニス、貴方は一体……?」
「かつて、人と竜が共存していた時代があった。私は、その古き時代からたった一人生き延びてしまった、ただの死に損ないの老いぼれだよ」

竜の記憶

人と竜が共存していた時代。
初めて聞いたが、紙の無いくらい昔の話らしい。
「その時代は……人は竜を崇め敬い、竜は人に様々な恩恵を与えていた。やがて人間は己の力に自信を持つようになると、次第に敵対的になっていったのだが」
ドラコニスは懐かしい記憶を辿っているようだった。
「いわゆる、龍神信仰というやつだ」
龍神信仰。現在では廃れて久しいと聞いたことがある。
「龍神信仰かぁ。サンドリアじゃ滅多に見ないわね。約一名、そういう知り合いもいるけど……」
おそらくは白玉楼の踊り子を思い浮かべてテンシが呟いた。
「人と竜の共存と言えば、竜騎士とか?」
「ああ、たまに見かけるな。彼らの技術もあの時代から伝わるものだ。時代が変わっても、竜と人の交流が絶えたわけではない……がな」
ドラコニスが物憂げに言葉を切るので、テンシが不思議そうに彼を見つめた。
「あの時代の友人は皆息絶えた。この世界に私よりも年老いた竜は存在しないのだよ」

 

ドラコニスは物憂げだったが、昔のことを思い出すと楽しいのか、当時のいろいろな話を聞かせてくれた。
まだ若かった彼と親交を重ねた男のこと。
竜の知恵を借りて次第に文明を発達させていった国のこと。
やがて力を身に付け増長し始めた者たちのこと。
竜との敵対の風潮が強まりつつある中で最期までドラコニスと共にあった者たちのこと。
本当に色々な話を。

 

時間が経つのも忘れて聞き入る内、気付けば満天の星空が広がっていた。
ドラコニスと同じ時代を知るのだろう星が幾つも瞬くのを見て、ドラコニスが静かに語った。
「話を聞いてくれた事、礼を言う。お陰で決心がついたよ」
「……決心?」
「私は知っているのだ、竜の心臓を持つ者の殺し方を」

 

「戦う決心がついた。お前たち人間と共に、不死の敵と……そして、私自身と戦う決心が」

襲撃前夜

夜が明けた。
視界が生きている内に捜し物をする。ドラコニスがここに連れてこようと考えたもうひとつの理由でもあった。
「……あった!これね?」
さほど時間をかけずテンシが目的の品を発見した。
フロッティ。忌々しき竜殺しの剣だが……背に腹は変えられまい」

 

それからもう一度、日が巡ってくる頃には、アウトポストには多数の戦士が揃っていた。
サンドリアの援軍を連れて、スコールたちが戻って来たのだ。
カナコ団長は人手が足りないと言っていた通り、いくら小さな領地と言えども、攻めるには少々心許ない数だ。
「ちょっとちょっと、目の前の最強最速の吸血鬼さまが見えないの?」
と、レミリアがふふんと鼻を鳴らしながらアッピルしてきた。
「サンドリアは本当に人手不足なのね……まさか義姉さまの救援を受けなければならないなんて」
「……義姉さまと呼んでくれるのは良いけど、何でイヤミっぽく感じるんだろう」
イヤミだからじゃないですかね……。

 

「アイノンには民間人もいる。正面から乗り込んで巻き込むわけにはいかない。その点、少数精鋭なら隠密行動も取りやすい。戦力不足も考え様ね」
カナコ団長が作戦の概要を伝えた。
まず、目立つドラコニスが先陣を切って城を直接襲撃する。これで敵軍の注意を引くと同時に、住民を避難させる。すぐそこにドラゴンが現れるのだ、躊躇はしないだろう。
「僭越ながら、避難先導は僕が勤めさせてもらいます!」
元々アウトポストに駐留していた、柔和そうな彼がおずおずと手を挙げた。
「助かる。住民の退去が済み次第、順次戦力を投入する。こちらの手数が少ない以上、長期戦は不利になるばかりだ。少数であることを活かし、機動力で勝負する。電撃戦だ、気を引き締めろ」

 

この作戦ではドラコニスの危険度が非常に高いが……。
「私から志願したのだ、気にするな。言っただろう?ドラクアは私を殺せない」
「そう、それよ!」
と、テンシがドラコニスを指差す。
どうした?
「なんで、そんなに自信があるの?」
テンシの言う通り、ドラコニスの口調には確信めいたものがあった。
「……同じ心臓を持った弊害だ。私とドラクアは痛みを共有しているのだ。私の痛みは奴に、奴の痛みは私に還る」
……そうか。あの時異様に痛がっていたのは、スコールがドラクアを斬った直後だったからだったのか。
「それじゃ、下手にドラクアを攻撃できないじゃない……」
「問題ない、私が奴を殺す。責任を持ってな……」
そう宣言するドラコニスの表情には、どこか悲壮な色があった。