イベント/黒き神との謁見

Last-modified: 2011-11-10 (木) 10:25:23

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


黒き神との謁見

臼姫の皮算用

「そろそろ来る頃だと思ってたわ^^♪」
久々に顔を出したような気がする主人公を、臼姫は重々しい(?)口調で迎えた。
「例のプロジェクトのこと、忘れてないわよね?^^♪♪」
は、hai!(プロジェクト!?な、何のことだっけ……!?)
「『腹黒シーフ捕縛作戦』なんて大事なこと、忘れるわけないものね^^♪聞いた私が悪かったわ^^♪」
は、腹黒シーフ……?やっぱり初耳なんだが……でも絶対に口には出さないようにしよう、うん。
「鈴仙^^♪人払いは済ませてあるかしら^^♪」
「hai!もちろんでうs!」
秘書の真似事がすっかり板についた鈴仙が間髪いれず答えた。
「これまで腹黒シーフの目撃された地点を考えたところね^^♪腹黒シーフは海の近く、それも上陸に便利なところに集中して目撃されているの^^♪」
うん……?それって、もしかして……。
「そこで、私は閃いたの^^♪腹黒シーフの正体は……巷で噂の、漆黒の痛風なんじゃないかってね!」

 

…………社長。
ちょっと今更です……。

 

「うはwwwwwww臼姫天災wwwwwwww」
「すごいです社長!」
内藤と鈴仙がパチパチと拍手した。
お前らも気付いてなかったわけじゃないでしょう?っていうか一緒にいたし……。
と、鈴仙が小声で話しかけてきた。
「……早く。ここは拍手するところだから……」
……納得。
主人公も乾いた拍手を送り、臼姫社長はとりあえず満足したようだった。
「……まぁ、いいわ^^♪私だって、この推理に絶対の自信があるってわけじゃないもの^^♪……もしも、もしもよ?我が社の全兵力をつぎ込んだ挙句、間違ってたら……って思うとね。鈴仙、ウチの経営状態をざっくり知らせてあげて^^♪」
「はい……この情報を集めるため、各地に傭兵を派遣したり情報屋から買ったりで……経費が、かな~りかさんでいます!2度も遠征する予算はもうないですー」
「聞いての通りよ^^♪私たちは空振りするわけにはいかないの^^♪そ・こ・で、貴方の出番ってわけ^^♪貴方、以前にもブラックジャック号に乗ったんでしょう?^^♪」
「俺様とwwwwww鈴仙ちゃんも乗ったよwwwwwww」
「要するに、貴方たち三人にとっては、勝手知ったる船ってわけね^^♪だから、貴方たち三人にブラックジャック号を捜し出して調べてほしいのよ^^♪私の推理が正しいかどうか?ってことをね^^♪やってくれるかしら^^♪」
hai!任せて下しあ!
「よく言った^^♪……いい?我が社の浮沈はこのプロジェクトにかかってるの^^♪なんとしても、証拠を掴んできてね^^♪もし、当たってたら、ウチの傭兵を総動員して腹黒シーフをとっ捕まえにいくからね^^♪」

 
 

一方、ブラックジャック号の『腹黒シーフ』はといえば。
あの時、身体から黒い幻影を噴出させてから、未だに目を覚ましていなかった。
傍らのコイシと2体のオートマトンが心配そうに寝顔を覗き込む。
「……ずっと、寝たままだな」
「でも……前みたいに、うなされなくなったみたい」
「めいかいノものデモゆめヲ、みルノカ?」
「……分かんない。でも、この人も夢に見るような辛い経験を沢山してきたんだと思う」
と、部屋に墨樽が入ってきた。
「痛風の加減はどうだwwwwwww」
「今は落ち着いてるみたいよ」
「そうかwwwwwwこれでもwwwwww感謝してるんだぜwwwwww」
「ウム……ドウカシタカ?」
「いやwwwwwwなんでもねぇよwwwwwww(・えちょ 審判の日も近いってのにwwwwwwwwww)」
そう言って、墨樽は甲板に戻っていった。
代わりに、ようやく痛風が意識を取り戻す。
「痛風!?」
「審判の……日……wいかねーと……w」

過去の悲劇

コイシたちが去った部屋に、痛風と墨樽がいた。
「痛風wwwwwwあいつらをどうする気なんだ?wwwwwww『アレ』も待ってるだろうよwwwwww」
「ヨウ、つうふう!まタセタナ!」
そこへ、再びコイシとアヴゼンが戻ってきた。
「てめぇら戻ってくんのはえーよwwwwwwちゃんと掃除したのか?wwwwwww」
「失礼しちゃう。ちゃ~んと甲板をピッカピカにしてきたんだから!」
「……墨樽wwwwww俺はこいつらと話があんだwwwwwwちょっと外出てろよwwwwwww」
「最近思ってたんだが俺の扱いひどくね?wwwwwww」
愚痴を言いつつ、墨樽は素直に部屋を出て行った。

 

「……具合はどうなの?」
「もう大丈夫だwwwwww一睡もしないで看病してくれたみてーだなwwwwwwwwありwwwww」
「……うん。……あっ、でもあの……私のこと……」
思い出したようにコイシが慌てだす。アトルガンの聖皇だったことだ。
「……ちょっと前の俺だったら、もう斬ってたなwwwwwww」
「!」
「安心しろwwwwwコイシ一人斬ったって俺の心は浮かばれねぇwwwwwww」
口では愉快そうだが、痛風の心は常に黒いものが渦巻いていた。
だが、今は……。
「……俺は昔、イフラマドの皇太子だったんだwwwwww王子さまってわけだなwwwwwww……けど、暢気に留学してる間に、故国はアトルガンに攻められたんだ……w」

 

痛風は、過去の出来事を語ってくれた。
帰るべきところを失ったこと。
諦められず、王国の残存艦隊を集め、反皇国組織コルセアを結成し皇国軍と戦ったこと。
来る日も来る日も戦いの連続だったこと。
ラミアを用いた皇国軍の策略によって、コルセア艦隊は一夜にして壊滅させられたこと。
唯一、難を逃れたブラックジャック号も皇国軍に包囲され、撃沈されたこと。
……自分が、死んだこと。

 

「死んだって……その、やっぱり亡霊なの?」
「亡霊、かwwwwww微妙なとこだなwwwwww」
「どういうこと?ペリキアで痛風から現れた、あの影が関係してる?」
痛風は頷き、部屋の片隅の、あの絵を見た。
鉄巨人アルザダールと、冥路の騎士オーディンの戦いを描いた絵。
ブラックジャック号から投げ出され、暗く冷たい海底へと沈みながら、痛風と墨樽は願った。
イフラマド王国の守護神オーディンよ。もう一度……
「一太刀でいい……皇国に復讐するチャンスをくれ……ってな」
そして、本当に現れた。
神は言っている「まだ死ぬ時ではない」と……言った「審判の日、近づきし時、我は汝の願いを叶えよう……。ただし、復讐を果たした後は、我が騎士となりて、宿敵アレキサンダーを討て」と。
「アレキ……サンダー。皇国が危機に陥ったとき、鉄巨人に宿って復活するっていう、救世主の名前よ」
「知ってるwwwwwwだから俺は契約をのんだんだwwwwww……皇国への復讐。ただ、それだけのために、な」
痛風が次に目覚めたのは、沈んだはずのブラックジャック号の甲板の上だった。周囲にいた部下たちは、墨樽以外はフォモルと化していたが……。
「長い夢を見てたみてぇだったwwwwwwでも、そこは……www」
「現代……200年後の世界だった?」
痛風は頷く。
それから、対皇国戦準備のために蛮族と手を組み、また鉄巨人奪取のカギとなる人形を捜し求めた。
「でもな、俺は気付かされちまったwwwwwww俺が憎んでたのは、王国を滅ぼした当時の聖皇と……あいつが治めていた時代の皇国だ……ってなwww今の皇国でも、コイシ、お前でもねぇwwwwwwざまぁwwwwwwって感じだろ?wwwww復讐のことだけ考えてきたのに、針路を見失っちまったわけだwwwwww」
「情けないわね!貴方にはまだ、イフラマド王国の再興っていう夢があるはずじゃない!」
「……けどよw」
「私は寺院で勉強したから、色々知ってるよ。皇都に暮らすイフラマドの末裔の人たちが今でも王国を懐かしんでるとか、そのために戦ってる人たちがいることとか。だから、痛風はその人たちが幸せに暮らせる道を探し出せばいいんだよ」
コイシの言葉に、痛風の心は再び揺れていた。
「そうかwwwwww今でも、イフラマドの連中はwwwwww……けど、それはアトルガンと戦火を交える血塗られた道じゃないのか?w」
「オイ、ていとくあらタメつうふうおうじヨ。オまえハ、だれトはなシテイルノダ?」
「……え……w」
「どーんと、わらわに任せるがよい!」
コイシ……いや、ナシュメラが胸を張って宣言した。
「wwwwwwwwwwwそうだったな、コイシはwwwwww俺もコルセアだ、その賭け乗ったぜwwwwww」
「うん!そうこなくちゃ!」
痛風にとっては大きく未来を照らす言葉だったが、コイシ自身にとってもそうだ。「聖皇になんてなりたくなかった」コイシが、今ようやく、聖皇としての明確な目的を見つけたのだから。
「だったら、早速そのオーディンとの契約を取りやめにしないと……」
「ああwwwwwそのためにゃオーディンに会わねぇとなwwwww」
「明るい未来の話をするのはいいけどよwwwwww・えちょ 部下の公然でいちゃつくの止めてもらえませんかお二人さんwwwwwww」
先ほど痛風に部屋を追い出された墨樽だ。口調はふざけているようだが、その実彼は冷静だった。
「オーディンは部下共々復活させてくれたし、ブラックジャック号だって浮かべてくれたwwwwwwwもう契約は履行済みなんじゃねぇの?wwwwww」
痛風には、ハザルムへ行って新たな冥路の騎士に……つまり、オーディンの化身となる道しか残されていない。墨樽はその可能性を指摘した。
「ねぇ、ハザルムって?」
「聖皇なのに何にも知らねぇんだなwwwwww人形遊びが好きすぎて宰相のお人形にされちまったんじゃねぇの?wwwwww」
「意地悪言ってないで、教えてよ」
「へいへいwwwwwwwハザルム試験場ってのはなwwwwwwアトルガンが合成獣の実験をしてた場所のことさwwwwwwそこでの実験が一線を越えちまったんだろうなwwwwwwオーディンのいるヴァルハラ……冥界って言った方が分かりやすいか?wwwwそこに通じまったんだよwwwwwww」
痛風は少し考え、決心した。
「……ハザルムへ行くぞwww」
「つうふうヨ、ほんきカ?」
「俺は、ハザルムに行ってオーディンと会って、そんで契約を破棄するぜwwwwwww」
痛風の答えを、墨樽はただ笑う、それだけで返事とした。
「痛風、いいの?そんなことしたら、オーディンの力で蘇った貴方たちは……」
「誰にだって、とんずらしたい宿命ってもんがあんだよwwwwwwでも、その宿命を変えんのも人間だwwwwww俺は、コイシにそれを教えられたんだぜwwwwwww」
「ふぇ?私?」
「コイシを見てるとなwwwwww昔の自分を思い出すんだよwwwwww……まだ見ること聞くこと全部が新しくて楽しかった、留学してた時の自分をなwwwwwwコイシ、お前は皇国と皇国の人間の現状を救う術を捜してるんだろ?wwwwwそのために、今ではアトルガンの、世界の本当の姿を知りたがってるwwwwwww」
「うん……だけど……」
「てめぇも来い、ハザルムによwwwwwそんで、自分の目で真実ってのを見極めんだwwwwww」
痛風が差し出した手を、コイシは戸惑いつつも、確かに握ったのだった。

 

「提督。また、ネズミが艦内に入り込んだようです」
フォモルの部下の報告を受けて甲板に出た一同が見たのは……主人公と内藤と鈴仙だった。

月が照らす

フォモルたちに剣を向けられる主人公たち。
「ああっ待って待って!その人……たちは私の傭兵とー……えと、知り合いなの!」
それを制してくれたのは、コイシだ。
「あれwwwwwwなんでコイシちゃんがここに?wwwwwwww」
「色々と事情があるのよ、複雑な」
「私の傭兵って……貴方たち、ちょっと見ない間にどんな関係になってるのよ」

 

そんなやりとりの末、墨樽の提案により、とりあえず皇国軍から奪取したお宝の護衛という大事な任務を任された。
「大事な任務ってのは分かるわ。私たちが宝を持って行っちゃう可能性だってあるんだし」
だからこそ、敵対していた自分たちにこんな任務を任せるのはおかしくない?と鈴仙は言う。
「臼姫の依頼とも違うしねwwwwwwww」
あの時は墨樽に丸め込まれてしまったが……しかし、一度引き受けた仕事を傭兵がボイコットするわけにはいかない。ひとまずは宝の隠し場所へ行ってみることに。

 

たどり着いたのは、確かに金銀財宝の山だった。
「うはwwwwwww目がwwwwwww目がwwwwwww」
内藤は大袈裟だが、気持ちは分かる。
そして、その山の、前には、意外な人物が立っていた。
「あれwwwwwwゲッショー殿じゃない?wwwwwwwひwさwしwぶwりwwwwwww」
「……臼姫の傭兵がやってくると聞いてござったが……よもや御主たちとは……残念至極でござる。特に主人公殿、同じ余所者同士、初めて会うた時よりじっこんしていただき申した。拙者、心より感謝してござる」
ゲッショー殿の口調は重々しい。いつものような、親しみやすい雰囲気では、ない。
「されど今、敵味方としてこの辺境の地にて相見えるは天命というほかござるまい……」
「ちょっと、ゲッショー……何言ってるの?」
「何でwwwwww戦う感じなのwwwwwwww俺様混乱状態wwwwwwww」
「それとも、所詮あんたもヤグードだったってこと!?」
「……言葉が過ぎ申した。是非もなし」

 

「月照、参る!!!」

  • vs.ゲッショー
    両手刀装備のヤグードで、勘違いしがちだが侍ではなく忍者である。
    元々の攻撃力が高めな上、「臨兵闘者皆陣烈在前」で攻撃力を、「醜の御盾」で防御力を上げ、数々の強力な技を仕掛けてくる。
    何より厄介なのが「忍法・影灯篭」。
    これは実体のある分身を複数出現させるもので、HP、攻撃力ともに低いが、一時的とはいえ数で上回れると非常に苦しい展開となる。
    特に、分身が一斉に微塵隠れなどしたら尋常ではない被害が出るのは明白だ。
    ゲッショー殿は、一連のイベントの中でも最難関の相手だと断言していい。
    「一度生を享け滅せぬもののあるべきか……」

「……流石は……やはり、一人で御主たちに挑むは無謀でござったか。されど、この月照。故あって敗れるわけには参らぬ。……い、いま一度、尋常に……」
ゲッショーはもう一度刀を握ろうとして……今度こそ崩れ落ちた。

 

「……拙者の、完敗でござる。されど、御主たちの如き達人に敗れたのでござる。冥土にて何の恥じ入ることやある。……されば、最後の頼みがござる。介錯をお願いでき申すか」
「断るわ」
内藤は介錯の意味が理解できていないみたいだったが、鈴仙は即答で断った。
「ねぇ、教えてよゲッショー。何で、こんな真似を?」
「……故も分からぬままでは、拙者を斬れんのでござるか。そこが、御主たちの魅力でござる……。致し方なし。しからば拙者の譲れぬ理由、聞かせて進ぜよう」

 

「ふふふ……驚きめされるなよ。実は拙者……東のさる国の間者に候ふ

 
 

「…………驚かれぬのでござるか?」
「え……あ、な、なんだってー(棒)」
「スパイとかwwwwwwゲッショー殿カッコヨスwwwwwwww」
内藤は割と驚いていたが、優しい主人公と鈴仙は素直に驚いてあげたのだった。
「左様でござろう。好を結びし御主たちを今まで欺いておったこと、心より御詫び申す」

 

ゲッショー殿は詳しく語ってくれた。
今を遡ること一年と数ヶ月前のこと。
月照は東の国の長、『輝夜姫』の命を承り、国を出立した。
目的は、膠着した戦線を打破する秘策を皇国軍が準備中との報の真偽を確かめ、真ならば其を阻止せんがため。
また、敵の敵は味方という論で、現地では蛮族と呼ばれる獣人や野伏せり共と同盟を結ぶためだった。
しかし、皇国の策については、魔笛や人形が其の鍵となることこそ掴んだものの、その正体を暴くことは出来ず。
期待していた現地の獣人も、噂どおりの精強でこそあったが、野蛮すぎて信頼を置くことは出来なかった。
また、月照は、敵地とは言えど、アルザビの罪なき民を苦しめる獣人たちを許すことができなかったのだ。
そして、実はあの時から痛風に再会していたことも話してくれた。
腹を割って話した所、彼は一見すると軽薄なようだが、礼節を弁えた立派な人物だった。主人公同様に信頼の置ける人物だと判断したらしい。
痛風は月照に言った「昔のことなんざ忘れてよwwwwwww一緒に皇国を戦おうぜwwwwwww」と。
つい先ほど、痛風の部下、墨樽に、戦と天変地異で荒廃した東の国への資金援助まで申しこれたらしい。

 

「されど、其は今は夢でござる……。墨樽殿との約定を守れず、いふらまどの御宝は今、こうして皇国に摂取されんとしているのでござるから……」
「ちょっと待って!私たちは別にここのお宝を奪いに来たんじゃないわよ」
「……え?」

 

ゲッショー殿に、ことの経緯を話した。
「さては妙は話でござるな。一方では拙者に宝を取りにこさせ、一方では御主たちに宝を護らせんとするとは……されど、痛風殿の内に秘めたる情熱……。拙者が見るに決して演技ではござらぬ」
「もしかしてwwwwwww墨樽なんじゃないwwwwwwww」
……あの糞樽め。嵌めやがったな……。
「……拙者、嫌な予感がするでござる。御主たち、一刻も早う、はざるむへ!こいし殿が元へ馳せ参じられよ!」

黒き神

ハザルム試験場にて。
痛風、コイシ、墨樽、アヴゼン、メネジンの前で、青い炎が陣を描くように燃えていた。
だが、不思議と炎は熱くはなかった。痛風が言うには、この世界の炎とは別物らしい。こちらの世界の光を浴びなければ見ることも難しい、冥界の火だ。この火には熱もない、だが魂を焦がし、肉体を焼くという。

 

「闇を司る戦の神にして冥界の王オーディンよ!従騎士痛風、只今、門前に馳せ参じました」
いつもの軽い口調とはまるで違う、真剣そのものに痛風がオーディンを呼び出そうとしている。
青い炎が描く魔法陣が破れ、冥界が口を開ける。そこから、風が巻き起こる。……アストラル風だ。
冥界の者である痛風や墨樽にはどうということはなかったが、そうではないコイシやオートマトンはそうはいかない。耐え切れず、吹き飛ばされて気を失ってしまった。
「コイシ!大丈夫か!?」
「待てwwwww来るぞwwwww」
冥界の穴から、飛び出すものがあった。
巨大な馬に跨った……オーディン。

 

「……余を呼んだのは……汝なりや?……存念を申すがよい」
「光を遮り、時間を作った……オーディン!俺に残された時間は、あとどれくらいだ?ww」
しかし、オーディンは痛風の質問には答えなかった。
「……汝は怒りを晴らせしか?」
「……怒り?ww怒りってなんだよ?wwwww」
「皇国への復讐のことじゃねぇの?wwwww」
「……いいやwwww俺の怒りは、とっくに消えちまったよwwwww」

 

「……汝は怒りを晴らせしか?」
「(こいつ人の話聞いてんのか?wwwww)……けど、オーディンwwww俺は、復讐よりも大切なことを見つけちまったんだwwwwイフラマドの連中が、誇りを持って暮らせるwwwwwそんな王国の再建に、俺は命を捧げたいんだwwwwwだから、俺にしばらくの自由をくれ!」
痛風は、今の自分の気持ちを、正直に話した。だが……。

 

「……汝は怒りを晴らせしか?」
「……オーディン?wwwwwどういうこった?wwwwwww」
「やっぱそうかwwww」
一人、合点がいったように墨樽が喋る。
「おい、一人で納得してないで俺にもわかるように話せwwwww」
「前にも言ったよな?wwwwwもう契約は履行済みなんじゃねぇのってよwwwwwwあのオーディンは本物じゃない、俺たちが騎士になる用意ができたかどうか、それを裁定する以外の機能はないんじゃないのか?wwwww」
「…………えwそ、そんじゃあ契約の破棄は……w」
「無理、だろうなwwwww」
「……畜生!」

 

「おい、骸骨頭のINT4の糞神wwwwww俺の声が聞こえてるか?wwwwww」
「……汝は怒りを晴らせしか?」
「駄目だこりゃwwwwww」
「う……痛風?」
ようやく目を覚ましたコイシ。また、主人公たち傭兵もこのときにはその場に駆けつけていた。
「あーあwwww来ちまったか……w」
それに気付いた墨樽は、声を落とし、逆に痛風が声を張り上げる。
「おい、傭兵どもwwwww俺たちはケリをつけなくちゃなんねぇwwwwww……コイシを頼んだぜwwww……そいつは、俺の……いや、イフラマドの希望なんだからなwwwwww」
「痛風?……何をする気!?」
「こいつが化身だってんならwwwwww」
痛風の手元に、冥界製の双短剣が現れる。
「戦って本体を引きずりだしてやるよwwwwww」
痛風が剣を振り、衝撃波を発生させる。

 

だが、それはオーディンの化身の前でいともたやすく消滅し、むしろ痛風に跳ね返りダメージを与えた。
「……マジかよw」
「ハハハハハハハッ!汝は怒りを晴らせり!余は汝を騎士に任ぜよう。審判の日……ラグナロクに馳せ参じ、アレキサンダーを討ち果たす、その日まで!」
そう言うとオーディンの化身の馬は嘶き、冥界の穴へと還ってしまった。

 
 

「どう……して……痛風!怪我は?痛くない?」
「痛くねぇwww……いや、痛いって感覚がねぇw」
それは……痛風がまた一歩、冥界に近づいたことを意味していた。
「コイシ、大丈夫か?さっきアストラル風に当てられただろ?」
「うん……あの風からは懐かしい音が聞こえた……私が育った寺院の、ゴルディオスの間に吹いていた風と同じ、涼やかな音……」
「もう……何がなにやら」
「誰かwwwwww説明プリーズwwwwwww」
鈴仙と内藤が混乱していたが、さすがに今説明してやる余裕はなかった。
……後でね。

 

「で、これからどうすんだよ?wwwww多分、まだ時間は少しだけあると思うがwwwww」
「……そうだなwww急ごうぜwwwwwこの身体が俺の意思で動けるうちに、なwwww」
急ぐって?
「鉄巨人を破壊するんだよwwwwコイシの姉が復活させる前になwwwwww」
……もし、完全なるオーディンの化身となってしまった痛風とアレキサンダーの宿った鉄巨人が衝突すれば……。
……ラグナロク。世界の終わりの始まり……。
「鉄巨人を破壊した後は、俺自身にも決着を……ん?」

 

ふと、視界の隅からフォモルの部下が駆け寄ってきた。何やら慌てている様子だが……。
「て、提督、参謀!早くお逃げ下さい!ふ、不滅隊がすぐそこまで……」
言いかけて、そこでフォモルが背中から長い刀で袈裟斬りされ、倒れた。
パチパチ、と乾いた拍手をしつつ、宰相サトリが現れた。
「お手柄でした、ナシュメラ。次期冥路の騎士と、外国の密偵を一網打尽にするとは」
「お姉ちゃん!」
「くそっwwww」
痛風が武器を構えようとするが、それをサトリが制す。
「下手なことはやめろ、漆黒の痛風。それとも、冥路の騎士と呼んだ方がいいか?ハザルムに潜り込んでいた貴様の部下は全て捕らえた。それから……貴様の噂を聞きつけて付近に参集しつつあったイフラマド系の民衆もね」
周囲から覆うかのように続々と不滅隊が集結していく。
「私たちに非協力的とはいえ、我が国の民には違いない。無益な流血は避けたい。分かりますね?」
「……チッwww」
「……連れていきなさい」
痛風と墨樽が、反アストラル体で拘束されていく。
沈痛な思いで、痛風がコイシに問うた。
「コイシ……いや、聖皇ナシュメラ!これがお前の国のやり方なのか?皇国は、やっぱ200年前から何も変わってねぇのか!?」
「……待ちなさい!命令です、その人を放しなさい」
コイシがナシュメラになる。声はコイシのままだが……。
「へ、陛下。恐れながら……」
「構うな。行け」
戸惑う不滅隊隊員を、セフィロスが叱る。

 

「ちょっと……わらわの命令が聞けぬのか!」

 

今度は声色まで変わって、もう一度ナシュメラが命令を下した。
「聞きなさい、ナシュメラ。貴方は聖皇の身でありながら国政を放棄し、あまつさえ反皇国勢力と行動を共にした。故に、法に則り全権の象徴である蛇王ザッハークの印は宰相の私が預からせてもらったわ」
「そんなっ!」
「残念ながら、もう貴方には何の権限もない……ただの小娘よ」
サトリの口調はどこまでも冷酷で、感情がないかのようで。
「お姉ちゃんは聖皇を……私を裏切ったの?」
「……裏切った、ね。貴方がそれを言うの?」
「……お姉ちゃんは何も分かってない。痛風のこと。お姉ちゃんは何も知らないじゃない!」
その時、コイシが小声で呟き、何かを手渡した。……輝金の短剣。臼姫と聞こえた気がしたが……。
「主人公は、私が身分を偽ったって、そんなこと関係なくいつだって助けてくれた!」
アヴゼンが、魔法を詠唱していた。それは墨樽が得意とする空間移動魔法……。
激動の展開の中で、傭兵たちだけが難を逃れたのだった……。