Guardando Nel Buio -暗中模索-

Last-modified: 2013-02-14 (木) 12:49:58
 

レミリア・スカーレット
カラードランク7 上位ランカーの一人で、私のたった一人の肉親。
私と同じ、個人の情から企業を離反したオリジナル。

 

企業に属していた頃の事を、お姉様はあまり多く語らない。
たまに寝言で、当時の事を呟くから、そこから推測するしかない。

 

きっとお姉様にとって、それは暗闇の中を彷徨う様な日々だったのだと思う。

 

……人の事は言えないけど、寂しがり屋なの、お姉様。
寝る時も、咲夜か私かパチュリーを引っ張りこんで一緒に寝るくらい。
国家解体戦争からリンクス戦争までの反動なのでしょうね、きっと。

 

リンクス戦争で再会して、
また一緒に暮らすようになってからそれはずっと続いている。

 
 
 
 

世界移動シナリオ-ARMORED CORE Paradise of Stain編のイベント

Guardando Nel Buio -暗中模索-

 
 

ミッション解放条件
オーダーマッチでランク7 ヴァンパイアタスクを撃破

UNTAMABLE -飼い慣らせぬもの-(武装勢力排除)

……何年前の事になるか。
「企業」と呼ばれる連中に家族と引き離され、私はリンクス養成施設と呼ばれる無機質な監獄に押し込まれた。
突然の事で、何もできなかった。これまでの日常が瞬く間に崩壊した時の事は、今でも思い出せる。

 

夜の王である吸血鬼が、非力な蝙蝠になり下がり、モルモットとして扱われる感覚。
肉親と従者と友人と居場所を全て失い、孤独と絶望に打ちのめされたあの時の感覚。

 

偶々、AMS適性が高かった為に、アーマード・コア ネクストを扱う操縦者―リンクス―として抜擢されたが、
そうでなければ、無残な姿で研究室の一サンプルとして列挙されていたことだろう。

 

…そうして、私は企業の駒として国家解体戦争に参加した。
全ての戦力が平らかになり、企業の下、パックス・エコノミカという新しい統治が敷かれても、
私を取り巻く現実は変わらなかった。

 

「企業の権威」の一角として、最低限の身の保障と権利は手に入った。
…だが、空の様な有様であることは変わりない。
出自による好奇と敵意の視線に苛まれ、居場所がある訳でもない。

 

…結局、自分自身を守る為に、
何より困窮する精神を保つ為に、
私は攻撃的になるしかなかった。

 

……自ら視野を狭めていた、と言えばそれまでだ。

 
 
 

 

[Operater]
ミッションを説明する。
目的はレイレナード社が保有するコロニー・パークス
その地下施設を占有したテロリスト、これらの排除となる。
彼らはノーマルやMTを所有。施設に立て篭もり、無意味な声名を喚き散らしている、
シュープリス、ラフカット、スプリットブロッサムと共に協働し、これらの撃破に当たってほしい。

 

レイレナードに歯向かい、そしてパックスの在り方に異を唱える愚か者だ。
ナイアガラの流れに押し潰されるが相応しい。容赦しない様に。

 

 
  [このミッションを受諾しますか?]  
 [  OK  ]  [CANCEL] 
作戦エリアパークス大深度地下施設
作戦目標敵全撃破
 

 

「…ドラクリア、ミッションを開始する」

 

[Berlioz]
待て、ブラム・ストーカー。
ブリーフィングは聞いていたのか?

 

「『目標を破壊する』。
 明確だ。躊躇する必要もない」

 

[Zanni]
…ブラム、今回は協働任務だ。

 

「協働、ね。
 …所詮、リンクスだ。連携もないだろう。
 互い、好きにやればいい。私もそうする」

 

[Berlioz]

 

……良いだろう。だが、無謀にだけは走るなよ。
この局面で友軍を失うのは好ましくない。

 

「言われなくても」

 

[Hakurou]
…いいんですか、ベルリオーズ。

 

[Berlioz]
良いとは言い難い。
……しかし結果を出せるなら、話は別だ。
取っ付きにくいが、あれの腕は確かではある。

 

…多少の同情もあるが、な。

 

[Zanni]
……

 
 

大深度施設を占拠した武装勢力を排除する。
敵はMTとGA系ノーマルが多数。
自機となる「ドラクリア」はフレームを03-AALIYAHに、ジェネを「S08-MAXWELL」に換装している。
武装は右腕にマシンガン「03-MOTORCOBRA」、左腕にアサルトライフル「04-MARVE」。そして右背部にプラズマキャノン「TRESOR」。パルスガン「PG02-DENEB」を格納。
主要武装が近接戦重視なので、近寄って一気に溶かす戦法が向く。
一応、僚機はいるが、ミッション開始地点からかなり離れた位置で敵を対処している。

 
 

「此れで最後か」

 

[Berlioz]
シュープリス、此方もコンプリート。
作戦は成功だ。

 

「ミッション完了か。
 ……帰投する。腹が減った」

 

[Berlioz]

トマトジュースでいいなら奢るが。

 

「…生憎、飲むのは紅茶かワインだ」

 
 

 
 

「どういう事なんですか!」

 

ミッションから帰還してすぐの小言に、私は思わず顔を顰めた。
小言の主はNo.33 白桜。先のミッションにいた「スプリットブロッサム」のリンクス。
国家解体戦争より後にリンクスとして見染められた――所謂「第二世代」の一人だ。
ブレード主体の戦法を好み、コイツ自身が剣の達人という事からか、No.3のアンジェとは気が合う。
そして、私のルームメイト。
ここまではいい。

 

「共同とあれほど言っていたじゃないですか。どうして単独行動に走るんです!?」

 

どういった訳か、こいつは事あるごとに私に突っかかってくる。
嫌味や悪辣な感情があってのことではないようだ。
お節介焼きなのか、気真面目な性分なのか、あるいは両方か。

 

「結果は出した。ベルリオーズも納得した。
 ……それでいいだろう」
「それだけで済む問題じゃ……」
「お前は私の母様なのか?
 他の奴らみたいに放っておけばいいだろう、私みたいな鉄砲玉」

 

吐き捨て、さっさとその場を後にしようと振り向いた途端、大柄な体躯にぶつかった。

 

「鉄砲玉だろうが、オリジナルであり、重要な戦力には変わりない。
 ブラム、白桜。こんな所で、何をしている?」
「…ザンニか」

 

面倒なのが一人増えた。
No.12 「ラフカット」のリンクス、ザンニだ。
ベルリオーズの信頼する腹心であるコイツも、何故か私に対して何かと世話を焼いてくる。
こんな無愛想な吸血鬼の小娘のお守を自発的にするより、
どこかの酒場で戦友と杯を交わし合っている方がお似合いだろうに。

 

「どうせ、またいつもの事だろうがな。
 …ほら、疲れただろう。缶飲料を買ってきた。飲んでおけ」

 

そう言って、白桜に緑茶を、私にトマトジュースを寄越してきた。

 

「要らない。…お前が飲むといい」

 

そう言い捨て、突き返し、ガレージを後にする。
トマトジュースに見えるが、よく見れば野菜ジュースだ。
幾ら実が赤かろうがトマト以外の野菜が入っている時点で受け付けん。

 

「ブラム。…それは、あんまりですよ」
「……いや、いいさ、白桜。
 …無理にとは言わん。
 だが、少しくらい厚意に甘えてもいいんじゃないか。ブラム」

 

怒る訳でも、押しつける訳でもなく。気遣う様な口調でザンニが窘めた。

 
 

「何をそんなに死に急いでいる?」

 
 

背に投げかけられたザンニの言葉に、一瞬立ち止まる。
振り向き、言葉を返した。

 
 

「……どうでもいいからだよ、何もかも」

 
 

その時の二人の思いつめたような面構えを見るに
私は、おそらく見るに堪えない表情をしていたのだろう。

 

少なくとも、事実のつもりだった。
国家解体戦争以前、家族、友人、場所、私はそれら全てを失った。
もう、私の中にはほとんど残っていなかった。
周囲に攻撃的な反面、その内面は虚無的だったと言っていい。

 

そして何より、他者からの厚意に触れる事が怖かった。
何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
全てを失い、此処に流れ着くまでの間、悪意の中で生きていただけに。

 

……他人に甘えて、それまでの隔絶が壊れることが、
脆弱な本性が周囲に漏れる事がその時の私には一番恐ろしかった。

 
 

迷子は家が遠いから、家が見つからないから泣く。
だから、私も最初はずっと泣いていた。

 

ある時、私は泣くことをさっぱりやめた。
泣き疲れたからではなかった。

 

気付いてしまった。
もう、家には二度と帰れないんだと。

THE ENCOUNTER -対峙-(ノブリス・オブリージュ迎撃)

 

アナトリアのネクストがGAEの拠点の一つであるハイダ工廠を攻撃した事で端を発したリンクス戦争。
当初は、保有するリンクスの質や主だった戦力から、GA・ローゼンタール(厳密にはオーメルだろうが)陣営の困窮に終わるだろうという意見が多かった。
…その意見の大半を、アナトリアのネクストが覆すことになろうとは、誰が予想できただろうか。
周りから時代遅れの遺物と揶揄された、レイヴン上がりのリンクス。
報酬のみであらゆる勢力からの依頼を請け負う、リンクスの中でも例外的な存在。
その戦果は、圧倒的だった。
戦争のアドバンテージは、GA・ローゼンタール側に傾く。

 

主要施設を破壊されたインテリオルはドロップアウトし、首脳陣と保有リンクスの大半を失ったBFFは実質崩壊状態へと陥った。
当然、レイレナードも無事ではなく、テスト中の新型ネクストを破壊され、作戦遂行中だったNo.23がMIA*1するという憂き目を受ける。

 

窮地に追いやられたレイレナードにできる事は、攻めることのみだった。

 

そして、私に与えられた任務はN0.3 アンジェ同様、単独での遊撃行動。
主要施設の攻撃を兼ね、敵対ネクストを誘導し、これを迎撃する。

 

その筈だった。

 

 

任務の受領より大分前、ふとした事が切欠で、私は問題を起こした。
壊滅したBFFからの預かりという形でレイレナードが引き取ったリンクス、No.15アンシールとの諍いが原因だった。

 

詳細は…省く。
険悪な対面とそこからの発展が原因となり、
私はヤツを人事不省に叩き込み、その際に本社の備品をいくつか破壊した、とだけ述べる。

 

戦力を危うく再起不能にしかねたという事で、私は軟禁状態に置かれた。
発端を目撃していたベルリオーズ達が意見しなければ、もっと重い処分が下ったという。

 

その事が契機となって、周りの連中は私が人間とは違うことを改めて認識したようだ。
ネクストを駆る戦場ならまだしも、身体能力だけなら圧倒的にアドバンテージがある。
今まで借りた猫の様な素振りを取っていただけに、油断しきっていたのだろう。

 

今まで以上に孤立する中、私に関わろうとする物好きは相変わらずだった。
ザンニや白桜がそれだ。

 

いつだったか、彼女は私にこう打ち明けた。

 

「……やる事があるんです。大事な人を救うために。
 その為に、私はリンクスを志しました」

 

嘘偽りの感じられない真直ぐなその言葉に、胸の中がチリチリした。
そいつの素性は分からない。でもこんな純朴で、直向きな奴がいるなら、そいつはきっと幸せだ。
白桜を見て、そいつがどう思うのかまでは分からないが、私はそう思う。

 

「……そう。
 羨ましいわ、そいつが」

 

毒気はない。純粋に、羨ましかった。
安否を望む者がいると言う事に。

 

「そんなこと、ありません。
 貴女にもいますよ。大事に想ってくれる人が」
「……そう、ね」

 

フランも、咲夜も、パチュリーも、その行方は分からない。
みんなは無事なのだろうか? 健在なのだろうか?
……そう思うと、ずっと前から務めて思い出さないようにしていた皆の顔が脳裏に浮かびあがった。
無意識に抑えていた事を考え、息が詰まる。

 

「…大丈夫です、だからそんな顔しないでください。
 貴女らしくないです」

 

その時の白桜の言葉には、不思議な自信と安心感が含まれていた。

 

…アンジェが斃れ、白桜がレイレナードを離反した際も、
その言葉だけは頭の中で強く反響していた。

 

 

[Operater]
ドラクリアに緊急連絡。
No.4 ノブリス・オブリージュがそちらに接近している。
ローゼンタール陣営における最高戦力だ。撃破に成功すれば奴らの戦力を大きく削げる。
難敵には違いあるまいが、なんとしても打倒に心血を注いでもらいたい。
以上だ、幸運を祈る。

 

……物思いに耽り過ぎていたようだ。
敵が来る。

 

 
  [このミッションを受諾しますか?]  
 [  OK  ]  [CANCEL] 
作戦エリアアグリッサ採油施設
作戦目標ノブリス・オブリージュの撃破
 

 

敵はTYPE-HOGIREベースの中量二脚「ノブリス・オブリージュ」
OBと2段QBを駆使する為、中量二脚とは思えないほどとても素早い。
中距離を保ちながら連装レーザーキャノンやライフルを発射してくるが、一定の距離まで近づくとブレードで積極的に接近戦を持ちこんでくるので、そこを一気に狙いたい。
また、破壊天使砲は発射の度にENを大きく使うので隙が生じる。地形を利用しつつ戦おう。
自機か敵のAPが40%以下になると、ムービーが発生する。

 

 

ノブリス・オブリージュ、ローゼンタールの最高戦力。
これまで撃破してきた、雑魚のノーマルや半端なネクスト戦力とは比べ物にならなかった。
それは優雅に空を舞いながら、背の翼から閃光を発し、焼きつくそうとする。

 

その姿が、癇に障った。

 

天使の翼のような、悪趣味な兵装。貴族の義務を意味するその名前も。
自身と所属する企業が、絶対的な正義とでも言いたげな、その様に。
所詮、企業は利益第一優先の陰謀屋。その先兵である私達は戦争屋だ。
そこに義務もあったものか。

 

「……死ねる、かよ。
 貴様らにだけは、殺されてたまるか……!」

 

内心に湧いた感情を、声に出して、叫んでいた。
そして、

 
 
 

『……お姉様?』

 
 
 

ノブリス・オブリージュから、声が聞こえてきた
敵であるネクストを通じて聞こえてきたのは、忘れる筈もない妹の声だった。

 

『レミリアお姉様なの?』

 

気がついた時には、私はノブリス・オブリージュの前から逃走していた。
フランが五体満足で、しかし敵側のネクスト戦力である事実を呪うより前に、恐れがあった。
それを認識し、対峙しようとすれば、私自身の精神の均衡が保てなくなる。
此れまでひた隠しにしていた脆弱な精神面が、露呈していた。

 

これ以上この場にいてはいけない。
必死に私を呼ぶあの子の声を振り払い、作戦エリアを離脱することに必死になっていた。

 

それ以外の選択肢は、思いつかなかった。

 
 
 

私の行動はミッション放棄ではなくノブリス・オブリージュへの戦略撤退と受け取られた。
しかし、復帰当時の精神状態が問題となり、私は再び軽い軟禁状態となった。

 
 
 

 
 
 

「聞えるか、ブラム・ストーカー。ベルリオーズだ」
「……」

 

特別房の扉の向こうから、トップランカーの声が聞こえてきた。

 

「レイレナード上層部は、少数精鋭によるネクスト部隊によるGA陣営への急襲を計画した。
 私とザンニ、BFFのアンシール。アクアビット社からリンクスの計四機のネクストだ。
 其処に、お前は含まれてはいない。……だが、間もなく軟禁も解除される。
 最悪の場合に備え、本社の護衛勢力を担う可能性があるだろう。
 失敗を背負う必要はない。いつも通りだ」
「……ベルリオーズ」
「なんだ?」
「…もし、敵に、これまでの苦楽を共にした友人がいたとしたら、
 身の代に変え難い肉親がいたとしたら…お前はどうする?」

 

向こうから面くらったような気配があった。
私の様なキャラでこう言う発言をすることは確かに驚くかもしれない。
…弱音染みた言葉を漏らすくらいには、面の皮が薄くなってしまったんだろう。

 

「……
 企業の命を全うする。
 軍人なら、其処に疑問を挟む余地はない」

 

そしてベルリオーズの返した返答は、理想的な軍人という評価に違わないものだった。
やっぱりなと思うと、向こうから溜息の音が聞こえた。

 

「……何があったかは問わん。…だが、気負うなよ、ブラム・ストーカー。
 確信的な異端者が、らしくもない」

 
 

異端者か。
相変わらず、気遣いが上手いトップランカーだ。
孤高を気取って失敗した、タダの臆病者の小娘と変わらないというに。

 
 
 

「聞えるか、ブラム。俺だ」

 

ベルリオーズが去ってから、暫くして、明朗な声が扉の向こうから聞こえてきた。

 

「……ザンニか」
「俺から言える事はベルリオーズと変わらんが、あまり気負うな。
 互いにできることを全うすればいい」

 

ザンニは相変わらず、愛嬌のある語りで話してくる。
私の様な問題児が相手にも関わらず。

 

「…お節介焼きだな、お前は。
 ……どうして、そこまで私に絡む?」
「……」
「私に女性的魅力がないのは自覚している。
 …"そういう"趣味なのか?」

 

裏表のない自虐のつもりだったのだが、急にザンニが黙りこくった。
……いや、待ってほしい。
本当にそういう性癖だったのか? そんな馬鹿な。

 

「……
 言いたい事は幾つかあるが……まず一つだけ言わせてくれ。
 俺は"そういう"趣味ではない。
 …お前を見ていて、ほっておけなくなった。それだけだ。
 もし俺に娘がいたなら、お前くらいの歳になんだろうと思って、気が付くとついついな」

 

安心したと同時に、やや憮然とした。
確かに私は幼児体型だが。

 

「……子供扱いするなよ、ベルリオーズの召使い」
「ははは…すまんな。
 …さて、そろそろBRFの再確認に行ってくる。この状況だ。軟禁も解かれる。
 その時は表向きくらい、周りに殊勝な態度を取ってやるといい。別段、悪いものではないさ」

 
 
 

ザンニも、ベルリオーズも去った。
お節介焼きの執事と話して、錯乱しかけていた精神もだいぶ落ち着いた。
だから、考えていた。
ここから、自分が一体どうするべきなのか。

 

「……やる事があるんです。大事な人を救うために。
 その為に、私はリンクスを志しました」

 

白桜の言葉を思い出す。
仮に、白桜が私なら――どうしただろうか。

 

白桜がレイレナードを離反した理由は、きっと――

 
 

CRITICAL DRIVE -後なき進撃-(レイレナード離反)

 

「ブラム」
「……」
「…軟禁は解かれたばかりだ。現在、お前にミッションは与えられていない。
 ……何故、ガレージに向かっているんだ」
「…………」
「お前がミッション以外でネクストに乗ることなど、今までなかった。
 いや、そもそも、そんな事はあってはならないが」
「………………」
「…レイレナードを離反するつもりなのか?」
「……………………」

 

見つかった時点で、最早黙って通すのは不可能。
溜息を吐き、ザンニに視線を向ける。
待ち伏せとはつくづく趣味が悪い。

 

「…随分と勘がいいな。いや、ここは私の方が問題か」
「……行方を眩ませた白桜には、本社から追手が出ている。
 企業に離反することが、イレギュラーネクストになることがどのようなものか。
 お前とて理解できない訳ではないだろう」

 

諭すように、ザンニが語りかける。
思えば、ベルリオーズ以外に慮る様な言葉をかけるのは彼と姿を消した白桜くらいだったか。
彼らだけは、打算抜きで私に関わろうとしていた。

 

「妹が、さ」

 

ぽつりと、声が漏れた。ザンニが身じろぐ。

 

「妹がね、ローゼンタールにいたんだ。
 ローゼンタールのリンクスとして。
 ……『破壊天使』だった」

 

その言葉を聞き、ザンニは沈黙する。
そして時間を掛け、彼は口を開いた。

 

「……ローゼンタール本社を襲撃するつもりか、たった一人で」
「…いいや。だが放っておくつもりはない」

 

一度は考えた。
……しかし、ローゼンタール本社を襲撃した所で、フランと真っ向から望まない戦いを繰り広げるか、
その陣営のネクスト達に迎撃されて死ぬのが目に見えている。
どうひっくり返っても、私自身の力ではあの子を救い出すことなど不可能だろう。

 

だから、賭けることにした。
私の離反を知った時、あの子はどう行動するのか。

 

無謀な行為だ。だが、現状では最悪の展開しか想像できない。
フランが敵側の最高戦力という立場である以上、近いうちに衝突するだろう。
……此方の最高戦力、No.1 ベルリオーズと。

 

「馬鹿げている。その為に何もかもを放り出すつもりか!」

 

ザンニが、忌々しげに吐き捨てた。
この男がここまで声を荒げるのも珍しい。
優秀な軍人であるこの男からすれば、当然の言葉だ。
それでも、

 

「……それでも、私にとってはたった一人の妹なんだ」

 

私は義理も忠誠も持たない、自分勝手な吸血鬼に過ぎない。
兵としては最低の部類だ。それを自分自身が何より自覚している。
立ち去ろうとする私の肩をザンニの手を掴んだ。

 

「ブラム……!」
「止めるなよ、ザンニ」

 

レイレナードでの自分の立ち位置は理解している。
自己を守るために、そうなって然るべき戦いをしてきたのだから。
フレンドリーファイア上等の戦力など、企業も持て余すだけだろう。
それこそ、危険分子扱いされていたレオーネ・メカニカのサー・マウロスクのように。
何れ使い潰される筈だった捨て駒が勝手に消える。それだけだ。

 
 

「誰も哀しまないわ」

 
 

肩に置かれた手を静かに払い、背を向ける。
去り際に、ザンニが何事かを呟いた気がした。

 
 

 
 

後方より、レイレナード社のネクストを確認。
レッドキャップ……それにラフカットか。

 

まさか、ネクストを裂く余裕があるとはね。
連中には後の事が控えている。私だけに構っている余裕はない筈だ。
上手く中破程度に追い込む。それで退却はするだろう。
…あとは適当に撒くだけだ。

 

 
  [このミッションを受諾しますか?]  
 [  OK  ]  [CANCEL] 
作戦エリアナイアガラ環境保護区域
作戦目標追手の迎撃
 

 

ランダス

 

「……来たか。随分と早いな」

 

[Zanni]
ネクスト、ドラクリア及びそのリンクスに警告する。
60カウント以内に投降しろ。
…今ならまだ間に合う。

[Unseal]
投降? 裏切り者にそんなもの必要ねぇだろ。
さっさとブッ殺しちまおうぜ。

 

「……端的に言おう、No.12。
 私から言う事は何もない」

[Zanni]
……
なら、話を省くとしよう。

 
 

撃退目標となる敵勢力は、レーザー兵器を中心に武装した04-ALICIAベースの逆関節「ラフカット」、
後方からの狙撃を得意とする049ANベースの重量四脚狙撃機「レッドキャップ」。
2VS1の、不利な状況での戦闘となる。また、作戦エリアは霧が濃いので目視での戦闘は向かない。
そして敵機のいずれかのAPが70%以下or自機のAPが50%以下になるか、一定時間が経過するとレッドキャップのFCSが異常をきたし、レッドキャップはそのまま退散する。

 
 

[Unseal]
チッ……不調かよ。FCSがダメになりやがった。
俺は一旦退くぜ。
尻拭いはあんただけでもできるよな。

 

「どうする、ラフカット。
 …お前も退いてみるか」

[Zanni]
侮ってもらっては困る、ブラム。
結果はまだ見えておらんよ。

 
 

レッドキャップは退散。残るラフカットの相手をする。
ラフカットはメリエス社製レーザーライフル「LR01-ANTARES」がかなり痛い。PA整波装置も装備している為、心なしか堅い。
張りついて一気に攻めたいが、反撃が怖い。
できるだけプラズマキャノンは多様せず、一撃離脱戦法を心掛けよう。
EN管理の上手さと慎重さが勝利の決め手となる。
ラフカットのAPを30%以下まで削れば、ラフカットも撤退する。

 
 

[Zanni]
まさか…
…ここまでのもの、か。

「…互いにこれ以上の余裕はない。
 私は何処(いずこ)かへ去る。
 レイレナードに反旗を翻す気はない。GAやローゼンタールの軍門に下るつもりもない。
 ……追っても金の無駄だ。そう言っておけ」

 

[Zanni]

 

逃げるつもりなら、ギア・トンネルを使え。
この近くに廃棄されたコロニーがある。
入り組んだギア・トンネルに潜り込まれれば、此方も見つけにくい。

 

…俺ならそうする。

 

「…何故、そんな事を?」

 

[Zanni]
これは俺の独り言だ。お前に向けて教えたつもりもない。
…それに、存外、偽の情報かもしれんぞ。

 

「…」

 

[Zanni]
…………行け。
お前にはほとほと愛想が尽きた。
お嬢様のお守りにはうんざりだ。

「……
 ありがとう。今の今まで、世話になった。

 

 ……感謝している」

 

[Zanni]
ハハ…
殊勝とは、似合わんな…
悪いものでも食べたのか?

「……殊勝な態度を取ってみろ。
 言ったのは、貴方よ」

 
 

[Zanni]
ああ……そうだな。
ブラム…

 
 
 

「さようなら、ザンニ」

 
 

 
 

そうして肉親への情から、私はレイレナードを離反した。
後悔はしていない。
半ば強制的に徴兵された様な手前、忠誠など無い。寧ろ濁った怒りすらある。
……其処にいた物好き達に対して、罪悪感がなかったと言えば嘘になるが。

 
 

あとはフランにこの動きが伝わって、反応を期待するしかない。
七転八倒、行き当たりばったり。
確証もない杜撰な行為だが、何もしないよりはずっと良い。

 

…それが無駄な足掻きであったとしても。

 
 

離反した以上、隠れる場所が必要だ。
延々とギア・トンネル経由で潜伏している訳にはいかない。

 

その時、頭の片隅に浮かんだのは、我が家。
二度と帰れないと思っていた場所――紅魔館
……その光景が頭に浮かんだ時、私は暗闇の中に、光明を見出したような感覚を覚えた。
可笑しい話だと思う。吸血鬼に光は大敵であるというのに。
それでも、

 

「……帰ろう」

 

ほんの僅かな郷愁を声として洩らしながら、
私はギア・トンネルを疾走した。

 
 
 

*1 Missing In Action 作戦中におけるいくえ不明