Endless Night -終りなき夜に生れつく-

Last-modified: 2013-01-01 (火) 02:31:28
 

―リンクス戦争の中盤。
私との交戦を機にお姉さまはレイレナードを抜け、
レイレナード陣営の最高戦力との戦いでそれを知った私も、
後を追う様にローゼンタールを離反した。

 

互いにそれに至るまでの激戦と追手との戦いで、五体満足といえるような状態ではなかった。
それでも、衝き動かされるようにある一点の場所へと向かう。
嘗ての思い出の場所に。

 

若しかすると過去を懐かしむより、最期の場所を探していたのかもしれない。
死期を悟って、住処から死に場所へと姿を消す野良猫のように。

 
 
 
 

世界移動シナリオ-ARMORED CORE Paradise of Stain編のイベント

Endless Night -終りなき夜に生れつく-

 
 

ミッション解放条件
Fall In Forbidden -禁忌へ落ちていく- Guardando Nel Buio -暗中模索- のクリア

LAST INTERCEPT -最終迎撃-(紅魔館防衛)

満身創痍の状態で漸くたどり着いた嘗ての家は見る影もないほど荒れ果て、廃墟と化していた。
いや、コジマ汚染や戦争の影響下で未だこの状態を保てることを驚くべきなのかもしれない。
目の前の惨状を当然と知りつつ、その姿に私は無条件の悲哀を覚えていた。

 

ネクストを離れた場所に安置し、正門を抜け、庭園を通り、館への扉へと向かう。
花が咲き誇っていた庭園は朽ち果て、破壊痕が点在する。
なるべくそれらを見ないように、私は歩を進めた。
そして錆付いた門に手を掛け、力を込めて開け放つ。
舞い落ちる埃と引き摺る様な重苦しい音は、扉を開く者が何年も存在していないことの証左だった。

 
 

「……ただいま」

 
 

目の前に広がるのは、幽霊屋敷の様な有様。
数年ぶりに帰還した紅魔館には、既に人の気配はなかった。
――嘗ての館の主人だった私を除いて。

 
 

蜘蛛の巣は屋敷の中をこれでもかと張り巡らし、シャンデリアは崩れ落ち、装飾品は略奪され尽くされている。
僅かに残されていた清掃用具を使い、私は屋敷の中を清掃していた。水源も状態は悪いが確保されている。
損壊個所については、今の設備ではどうしようもない。それでもどうにかなる場所だけは何とかしたかった。
フランでも、咲夜でも、パチュリーでも、妖精メイド達でもいい。
誰かが帰ってきたときに、今の私と同じような気持ちを抱えない為に。
たった一人となっても、その居場所を守るのが――主の役目なのだから。

 

雑巾を絞る手はあかぎれで血が滲み、足腰はいい加減痛い。まるで棒きれの様。
それでも、やめる事はなかった。他の場所で戦っているだろう妹や友人達の事を考えると、尚更。

 
 
 
 
 
 

「ここに来れば、誰かが帰ってくるんじゃないかなって。そう思っていたの」

 

只管清掃に従事していると、背後から聞き覚えある声が耳朶を優しく撫でた。
幻聴にしては、やけにハッキリしている。
声の主が騒霊なのかはわからないが、空耳でないなら声で返すのが道理というのもだろう。

 

「私は誰かが此処に残っていて、今でも帰りを待っているかもって考えていたわ。実際はこの有様だけど」
「趣味も嗜好も全然違うけど、考える事は案外似通っているのね」
「そりゃそうでしょ。…私達、姉妹なんだから」

 

振り向く。
視界がぼやけて明瞭ではないが、妹の姿があった。
姿自体ははっきりしているから幻覚や亡霊の類ではない。

 

「お姉様ったら泣き虫ね、相変わらず」
「そういうあんたは鼻声が酷いわよ。風邪でも引いたの?」

 

何年振りかの再会だと言うのに、受け答えはお互いつっけんどっけんだ。
でも、これでいいんだろう。湿っぽいのは性に合わない。
だから、言いたい事だけはっきり言う。

 
 
 

「おかえり」

 
 
 

生意気な妹は、鼻を大きくすすって一言。

 
 
 

「ただいま」

 
 
 

 

奇妙な偶然とでも言えばいいのかしら。
根っこが似通っていたともいえるけど。

 

でも、喜んでいる余裕と時間はあまり残されていなかった。
企業を離反した私達を待っていたのは、その企業からの膨大な敵意。
ローゼンタールの最高戦力とレイレナードの主戦力のひとつを野放しにできるほど、彼らは肝が太くはなかった。
私達の知る由はなかったけど、その頃には既にレイレナードは壊滅の一途を辿っていた。
故に、イレギュラー排除にやってきたのは、ローゼンタール、それを傀儡として操るオーメルの戦力。

 

でも不思議なことに――今ある些細な救いに比べれば、それすらもほんのちっぽけな事に思えた。
その時の私やお姉さまは言葉にできないほど疲弊していた。ネクストの損傷具合も一目瞭然。
絶望的な状況だ。
抱いている感情も、自暴自棄からくる退廃的な蛮勇だったのかもしれない。

 

例えそうだったとしても、それを自覚しても、退く訳はない。

 

此処は、私達とみんなが帰る場所だ。
今は門番もいない。メイド長も、食客も、しもべのメイド達もいない。
その主と肉親である私達がいなくて、それを一体誰が護ればいい。

 

錆と汚れに塗れて半壊したネクストに乗り込むには、十分すぎた。

 

 
  [このミッションを受諾しますか?]  
 [  OK  ]  [CANCEL] 
作戦エリア最終防衛ライン
作戦目標追撃戦力全撃破
成功報酬1500000c
弾薬費保証500000c
 

 
SELECT PLAYER
ドラクリア
リンクス名、レミリア・スカーレット
乗機は03-AALIYAベース。
マシンガン、アサルトライフルなど近距離戦重視の兵装を装備
ノブリス・オブリージュ
リンクス名、フランドール・スカーレット
乗機はTYPE-HOGIERベース。
ブレードとライフル、連装レーザーキャノンを装備。
背中の連装レーザーキャノンは高威力だが機体への負荷も大きい
 

操作する機体を選択。選ばなかった方は僚機として扱われる。
なお、このミッションは自機はAP75%、僚機はAP60%という、ある程度疲弊した状態で開始する。
最初から武器の弾数は消耗していない。

 

 
 

[Frandre Scarlet]
…お客様よ、お姉様。
No.6 No.30に…あの時のネクスト、か。

 

[Remilia Scarlet]
……随分と雁首揃えてまあ。
まるで猟犬…いや猟猫か……これは。

 

[Kitanai Ninja]
……

[Cello]
死にかけ相手にここまでやるものなのか?
……いちいち大袈裟なんだよ、みんな。

[Mido Auriel]
…残念です、フレデリカ。
この様な結果になるとは。

 

[Frandre Scarlet]
……随分と…余裕綽々ね。
…当然といえば、当然?

 

[Cello]
違うか? 簡単な任務だ。

[Remilia Scarlet]
……ふ、ふふ。ま、そうなるか。
いいものね、余裕があるって。

[Mido Auriel]
…何が、おかしい。

 

[Remilia Scarlet]
……『絶対に勝てる』『残飯処理』『楽な仕事』
どうせそう思っているんだろうが
本当にその程度で済むと思える? …済ませるものですか。

[Cello]
…薄汚い裏切り者が。
企業に尻尾を振るしか能がなかった輩が何を偉そうに……

[Frandre Scarlet]
……そんな生き方、望むべくもなかった。
…あの頃みたいな毎日があれば…私はそれだけでよかった。

 

[Cello]
……何?

 

[Frandre Scarlet]
……どの道、安穏に生きるには…手を汚し過ぎた。
……それでもね。

 

 

道具の様に戦ってきた。
傀儡の様に戦ってきた。
機械の様に戦ってきた。
肉親を奪われ、考えることを諦め、無気力に戦い続けてきた。
その為に、大勢の命を奪い去ってきた。
利権屋の道具として。
戦争の駒として。
皆殺しの雄叫びをあげるしかない、戦争の犬として。

 

それを言い訳にするつもりはない。
責めなら地獄に堕ちた時に存分に受けてやる。

 

だけど、
これだけを譲るつもりはなかった。

 

ようやく取り戻した、大事なものだったから。

 

 
 

Asending into Naught

 
 

[Frandre Scarlet]
それでも…
この現状だけは、私達が自分自身で選びとった結果。
譲るつもりはない…!

 

[Kitanai Ninja]
……

 

[Cello]
吼えるじゃないか。
だが、お前達に一体何が出来る?
所詮は惨めな裏切り者だ。
何もない、何も変わらない。

 

…簡単なんだよ、こんなの。

 

[Remilia Scarlet]
なら、それを証明すればいい。
来なよ、御同輩。…簡単なんでしょ?

 
 

敵ネクストはTYPE-HOLOFERNESをベースに、中距離戦を想定した兵装を装備した軽量二脚機「テスタメント」
テスタメント同様にTYPE-HOLOFERNESをベースにレーザーライフル、レーザーブレード、散布型ミサイルを装備、軽量らしい高機動戦に向いた「ナル」。
そしてTYPE-JUDITHをフレームに、内装を変更、アサルトライフル、ブレード、レーザーキャノン、標準型レーダーを装備した軽量二脚機「ハングドマン」。
ハングドマンは攻撃をほとんどせず、適当に浮いているだけと明らかにやる気が見られないので、実質2VS2。APが不足気味の為劣勢だが、僚機の方はAIのロジックが非常に優秀なので簡単に落ちる事はない。
敵ネクストのいずれかのAPを30%以上削ると、ハングドマンは撤退する。

 

[Kitanai Ninja]
……メインブースターがイカれた。
このまま退却する。

[Mido Auriel]
馬鹿な…
戦闘続行は可能な筈です。

[Kitanai Ninja]
……ここが海上だったらどうするつもりだ、貴様。
「簡単な筈」の任務で死ぬつもりはない。

[Mido Auriel]
……

[Cello]
別にいいさ、僕一人でもできる。

 
 

[Frandre Scarlet]
……

[Remilia Scarlet]
……っ

 

 

心身を蝕んでいた疲労は、既に無視できるレベルではなくなっていた。
視界は黄昏色に焼かれ、統合制御体をコントロールする意識が半濁している。頭に流れ込む情報が狂おしいに煩い。
…歯を食いしばり、吹き飛ばされそうな意識を強引に維持する。負荷を敢えて被り、身体に鞭打つ。

 

この後ろには、大切な場所がある。
そして、私達の姿を追っている人がきっといる。
此処で斃れる訳にはいかない――

 

 
 

戦闘を続行。再開前に比べると僚機の動きが悪くなっているため、注意したい。
僚機は基本的にテスタメントと相対する傾向にある。集中してテスタメントのAPを削りぬこう。
HPを30%程度まで削ればテスタメントは撤退する。

 

[Cello]
この状況から…!?
何なんだよ…化物め…!

[Remilia Scarlet]

簡単に潰せる筈の相手に、追いつめられるって…どんな気分…?
教えてくれないかしら…

[Cello]
っ!
調子づくなよ、この戦争屋風情が!!

 

[Remilia Scarlet]

あはは、ごめんごめん…
私が間抜けだったみたいね。謝るわ。

 
 

…山猫どころか社畜風情が相手じゃあ
受け答えなんてできるわきゃないわね…!

[Cello]
戦争屋あッ!

 
 
 

[Cello]
…ぐっ…

[Frandre Scarlet]
…死にたくないなら、さっさと逃げればいい。
簡単でしょう、天才。

[Cello]
……

 

これよりも、大きな仕事が控えている。
…油断しただけだ。負けた訳じゃない。

 
 

 

視界素子から確認できる光景に強いノイズが走る。
立体レーダーが掻き乱れ、統合制御体がひっきりなしに警告を告げる。
たまに全身の感覚があやふやになり、動作しているのかすらもはっきりと分からなくなる。
ネクスト、そしてそのリンクス自身に限界が迫っていることを暗に知らせていた。

 

 
 

残るはナル一機。この時点での僚機の動きは完全に死んでいる為、実質1VS1になる。
テスタメントに比べると、お世辞にも動きは良いとは言えない。
一定距離内に入ると積極的にブレードを振ってくるため、引き撃ちで蜂の巣にしてやろう。

 
 

[Mido Auriel]
フレデリカ…
何故…貴女が…

[Frandre Scarlet]
……
フレデリカも、ノブリス・オブリージュも、既に死んだ。

 

…恨んで。

 
 
 
 

[Remilia Scarlet]
……敵勢力は粗方迎撃した。
終わったか…?

[Frandre Scarlet]
……
レーダーに…増援。

 

[Remilia Scarlet]
そんな訳ない、か…
……いける?

[Frandre Scarlet]
……私、No.4よ?
…余裕。

[Remilia Scarlet]
口のへらない妹ねぇ…
…でも最高の返事よ、フラン。

 
 

 
 

レーダーに現出したのは複数。前方の地平線からノーマル部隊の姿が見える。
TYPE-ARGINEにTYPE-DULAKE。
オーメルとローゼンタールのノーマルの混合。
東方から猛スピードで接近する機影もあるが…ネクストか。それも二機。

 

「たった二人を処分するにしては……随分と過剰ね…」
『これまでの…評価の裏返し…じゃない?』
「…そう考えて…おきましょうか」

 
 

『対象を確認、作戦開始。既に虫の息だ』
『できるだけ生かして確保する。あれでも貴重な戦力だ』

 
 
 

全身が痙攣している。
既に意識も朦朧としている。
唇を何回噛み切っても、大した効果は望めなさそうだった。
機体も駆動系や制御系のあちこちが激しくショートし、統合制御体が全損寸前と喧しくエラーを吐く。

 
 

それでも、

 
 

『…ねえ、聞える? お姉様』

 
 
 

―……聞える。

 
 
 

「聞えるわ、フラン」

 
 
 

それでも、闘志までは失せていない。
まだ、斃れるつもりはない。
そうするだけの理由がある。
私達の命は、吸血鬼生は、私達自身のものだ。
好き勝手踊らされてきたんだ。死ぬ時くらい、自分たちで決める。
自分自身の生殺与奪を決めるのは、私達以外他ならない。

 

『じゃ、往こうか』
「ええ、そうね」

 
 
 

それを阻もうと云うのであれば、

 

焼き尽くすまでだ。そいつらを。真っ黒に。

 

一秒でも長く、生きる為に。

 
 
 

『馬鹿な! 相手は手負いの筈だ!』
『何故、あんな動きが出来る…!』
『既に弾は使い尽くした筈だ! 囲んで一気に叩け!』

 

焦ったような声とともに、敵が動いた。
フランもローゼンタールのノーマル・TYPE-DULAKEを相手にしている。
厳密に言えば、フランを相手に複数のノーマルがレーザーブレードを手に殺到していた。
死神を気取った雑兵が数を以って「足掻くな」「運命を受け入れろ」と嘲笑う。

 

そんなもの願い下げだった。
襲いかかる激痛、AMS負荷、取り巻く全てを噛み砕き、行動に移す。

 

ノーマルが連射するハイレーザーをクイックブーストの連続による急加速で捌きながら接近する。
レーザーが減衰したPAを突き抜けるが、機体には掠り傷にしかならない。
そのまま、既に弾が尽きたアサルトライフルの整流用ブレードをコックピットに突き刺し、抉る。
ブレードを伝う液体が機体の潤滑油なのか、パイロット自身の血液かはわからない。
そんなもの、どうでもいい。

 

ノーマルを串刺しにした状態でサイドブースタを最大推力でふかし、反転。
そのままオーバードブーストをかける。
脊髄に焼けた鉄棒を差し込んだような激痛が体を蝕んだ。
みっともない悲鳴を上げそうになるが歯を食いしばって堪える。
身を前に傾かせながら、統合制御に命じ、オーバードブースタの推力を上げる。

 

その先にはフランの機体に襲いかかるノーマル共の姿。

 

「がああああああああッ!!」

 

焼けつくような痛みと共に、喉が咆哮を上げ、ノーマル部隊の動きが止まった。
串刺しにした残骸をノーマルの群れへ蹴り飛ばし、
僅かに残ったマシンガンの中身を吐き出す。
爆散した残骸の破片と爆炎に巻き込まれ、体制が崩れたところを、
フランのレーザーブレードが一気に焼き切った。

 

そして、機体同士が背中併せになる様な形に並ぶ。

 

「ねぇ、聞える? フラン」
『ええ、聞えるわ。お姉様』

 

そのまま自身/ネクストの首を傾いで残りのノーマル共を見据えると、
ノーマル共はその場から一歩退いた。

 

『「次は? さぁ、早く…!」』

 

自由と情を懐く裏切り者
そう否定するなら、すればいい。
それを否定し返してやる。
私達は最後の一時まで抗う。

 

『「早く来いよ臆病者!!」』

 

叫んでも、敵は動かなかった。
私とフランは敵ノーマル部隊と対峙し続けていた。

 
 
 
 

『敵ネクスト、接敵… 来るよ、お姉様…』
「景気の……いい話ね…」

 

増援と思わしきネクストが視界に写る。
紫と青のネクストだ。だがその組み合わせがおかしい。
紫はインテリオル製のY02-ALBIREO、青はオーメルの軽量二脚だ。

 

『あれは…サウザンドナイブズ…
 それにもう一機はメリエスのパラケルススか!? 何故…!』

 

敵対していた筈の陣営のネクストが何故揃っているのか。
こいつらの反応はどういう事なのか。
もう、違和感を考える余力はなかった。
呂律の回らない舌を回して声を絞りだす。

 

「……焼き尽くすだけだ」

 

今ある敵を、何もかもを滅ぼせば、
この永い夜も終わる。

 

辛うじて保っていた最後の意識を、敵に傾けようとした直後。
増援に現れたネクストが、ローゼンタールのノーマル部隊に対して攻撃を仕掛けていた。
全身を苛む苦痛が夢ではないことを実証している。
なら、それで良い。

 

数は多かったが、所詮ノーマル。
二機のネクストによって、あっという間に駆逐され尽くされた。
ぼんやりした意識でそれを眺めていると、二機のネクストが此方に向かってきた。

 

『やれやれ…ようやく追いついたわ。
 ……あの侍に感謝しなくてはね』

 

懐かしい声だ。
本の虫だった友人もこんな感じに捻くれていた気がする。

 
 

『…お待たせしました、お嬢様』

 
 

「……さくや?」

 
 

もう、限界だった。
そこで私の意識はぷっつり途絶えた。

 
 

 
 

…あの時は本当に驚いた、うん。
まさか、咲夜とパチュリーも企業を離反してたなんて。
お姉様が企業にいた頃の同僚と咲夜達にコネクションがあったようで、
私はともかく、お姉様の所在についてはそれでわかったみたい。
時間はかかったけど、ギリギリのところで探し当てられた。
……未だ大団円、とはいかなかったけど。

 

『借りを返す』

 

そういって、二人は別の戦場へ向かってしまったから。
その後の世情の動きを見るに、借りを返す相手が何なのかは想像にするに易い。
……でも、お姉さまも私も深く突っ込まなかった。
詮索するには、お互いに課せられた足枷があまりにも重かった。

 
 

 
 

二日程度休んで、ようやく満足に動ける程度に回復。
そして、あれから何週間か経過した。
未だに頭に鈍い痛みが響いているが、あともう一日もすればじきに収まるだろう。
多分、生身の人間なら廃人一直線か数か月も生死を彷徨っている羽目になっている。
便利な体のつくりに生まれた事を改めて感謝しつつ、やるべき事を成さなくてはならない。

 

まずは紅魔館の復旧。
そして、散り散りになった人員を集め戻し。

 

未だ咲夜やパチュリーは「借りを返している」最中だが、
安否のメールが定期的に来るため心配はしていなかった。
いや、そういうポーズを取っていたというのが正しいか。
…最近は、メールも来ない。

 
 

物想いに耽っていると、4人に分身して屋敷を清掃中のフランが掃除を手伝えと怒鳴る。
まだ頭痛は治っていないのに悪魔使いが荒い。再開した時のしおらしさはどこへ行ったのか。
…というか私に比べて、あの子は治りが早すぎる気がする。
これ以上怒られる前に、エントランスから小言が届かないであろう庭に向かう。
傍に建造した急ごしらえのガレージにはポンコツ状態のネクストが収まっている。

 

コジマ技術を一切使わなければネクストも物言わぬ鉄屑とたいして変わりない。
動かなければ動かないで、バラして整地用のローラー辺りに改造しよう。
技術者が聞いたら血涙を流しそうな話だが、むしろ流してしまえばいいと思う。
……まあ、冗談なのだが。パチュリーが帰ってきたら、いつか直してもらおう。

 
 
 
 

―リンクス戦争は終結したが、未だ争いの余波は止まらない。
コロニーの多くは破壊され、重金属の汚染物質が大気を蔓延する。
パックスという態勢が利益のみを追求し続けた結果なのだろうが、私からは言える事はあまりない。
その尖兵となっていたのは、紛れもない事実だったがゆえに。

 

……これからが大変になる。
少なくとも、これで企業の追手が潰えたとは断言できない。
もしかすれば再びちょっかいをかけてくる可能性もある。
恐らく、穏やかな暮らしを迎える事は不可能だろう。近いうちに再びネクストに乗る日々が始まる。

 

なら、戦いに赴いていないときくらいは、フラン達と一緒に過ごす日常を享受したい。
実験材料として捕らえられ、企業の尖兵として戦い続けた頃には叶わなかった、かつての日常を。
それくらいは許されるだろうか。

 
 
 
 

……どうも湿っぽい事を考える癖が身についてしまったようだ。
あまり私らしくない。

 

溜息をついていると地平線の向こうからぼんやりと光るものが見える。
ヴェスパートレイルを引いて近づいてくるそれは、待ち人が乗っている筈のネクスト二機だった。

 

A POT OF TER -お茶でも一杯-(後日談)

 

「……そんな訳で、お姉様ったら今朝もまた寝言で呟いてたわ」

 

夕暮れのお茶会でその事を姉に告げると、渋面を浮かべ、そっぽを向かれてしまった。
こういう素振りがかなり子供っぽくて愛らしい。

 

「聞き流しなさいよ、寝言くらい。私だってあんたのローゼンタール時代について詮索したことないでしょ」
「…聞きたいなら話してもいいよ? 特に面白くもない話だし」
「その理由で却下。いくら言われてもレイレナードの事は話さない」

 

姉が困ったような顔を浮かべながら、紅茶をすする。
私もその気はなかった。ただ、姉とこうして遊べるのは中々に楽しい。
10年前は、そんなこと思ってもできなかったから。

 
 
 

「…ん。メール?
 ……『お茶会』のお知らせか。お姉様、ちょっとカラードまで行ってくるね。……お姉様?」

 

携帯端末に届いたメールの簡潔な一文を読み終え、姉に一言断ろうと声をかけると、
姉はアンニュイな溜息をついて、テーブルの上に人差指で「の」の字を書いている。
うっかり襲いたくなる程度にはいじましくて絵になる。

 

「合コンか…そっか…フラン、お姉ちゃんを置いてっちゃうのかー……」

 

…何を言うか。そんな華やかな場所じゃないのは重々知っている癖に。

 

「…そう言うならお姉さまも『お茶会』に来ればいいじゃない」
「パス。顔合わせたくない奴がチラホラいるのよ」
「……ダリオ・エンピオとか?」

 

もし、それなら納得はできる。
最近お茶会の乗連になりつつあるNo.11は結構な人見知りな上に口が悪い。
…姉くらいなら逆に辛辣な言葉で返しそうなものだけど。

 

「……誰そいつ?」

 

面識はある筈なのに真顔で即答。哀れ、ダリオ・エンピオ。

 

「ま、軽い冗談は置いておいて。
 …行っておいで、フラン。情勢を掴むには参加しておいて損はないから。
 それに、私はあの中じゃ埋もりがちな気がする」
「そんなことないと思うけど…――ところで冗談はどっちの方?」
「合コンの方」

 

……。
うん、お姉様はこういう人だったね。

 
 
 

 
 
 

どうも、また寝言で昔の事をぽつぽつ漏らしていたらしい。
黙ってくれればいいのにそうしてくれない。あの子らしいと言えばあの子らしい。
お返しにフランをからかってみたが、こんな他愛もないじゃれあいも「日常」なのだとしみじみ感じ入る。
現在の世情が抱える問題点などから手放しでは喜べないが、企業を離反したり、死ぬ気で戦い続けた甲斐はあった。
あの時行動しなければ、こうして紅茶を飲む事もなかったのだから。
その一点で一切の後悔はしていない。

 

『カラードのお茶会に行く』
そう言ってフランが席を外してから暫くすると、咲夜が現れた。

 

「お嬢様」
「ん? どうしたの、咲夜」
「先程、手紙が届きました。お嬢様宛てですわ」
「ん」

 

差し出された手紙を受け取る。

 

「飲み会のお誘いか。久々に行ってこようかな」
「…前々から思っていたのですが、何故あの方は差出人名をいちいち【召使い】にしているのでしょうか」
「単なる遊び心じゃない?」
「…お嬢様の従者は私だけですよ?」

 

不満そうな咲夜にハグをきめた。
頬でお腹をさすったら、満足したように息を吐いたので身を離す。

 

「…昔の名前がそういう感じだったから、で納得してよ」

 
 
 
 

 
 
 
 
クリア報酬03-AALIYAH/Grs
ジェネレータ
レミリア機「ヴァンパイアタスク」が装備する、ジェネレータ「03-AALIYAH/G」のカスタムタイプ。
軽量化しEN容量も増加している。