Memento Mori -死を想え-

Last-modified: 2013-01-21 (月) 01:40:33
 
 

仮に、私がフランを、咲夜を、パチュリーを、美鈴を、目の前で無残に殺されたとしたら。
その時、私は果たして平静でいられるだろうか。殺した者を無事で済ましているだろうか。

 

if(もしも)の話は好きではない。
それで何度も迷って後悔もした。
何より、私が歩んでいる今こそが、私自身が選んだ運命なのだから。

 

だが、肉親への情と怨讐から、そうなってしまった者を見て――
私の境遇と重ね合わせたり、複雑な感情を覚えるのは確かだった。

 
 
 
 

世界移動シナリオ-ARMORED CORE Paradise of Stain編のイベント

Memento Mori -死を想え-

 
 

ミッション解放条件
Endless Night -終りなき夜に生れつく-クリア

NEMO ANTE MORTEM BEATUS -誰もが死ぬまで幸福ではない-(AFカブラカン撃破)

 

「文々。新聞…? ああ、それが?」

 

ネクスト運搬用のヘリ内部。コア内部に収納されたネクストのコクピットで、私は咲夜の通信回線越しの連絡を受け取っていた。
文々。新聞は独立傭兵のリンクスを中心に、幅広く配布されるメールマガジンである。
理由は分からないが、咲夜が矢鱈熱心に進めるので、フランと共に取り敢えず購読することにしている。

 

『三か月前のバックナンバーをお読みになりましたか?』
「えーっと、確か『オーメルサイエンス管轄の一施設にて事故。保有ネクストが消失』…よね。
 あまり気にはならなかったけど……それが?」
『あの施設ではオーメル側がレイレナードの技術者を招聘し、何事かを行っていたそうです。
 恐らくは、ネクスト絡みではないかと』
「え、えーっと咲夜? 貴女が優秀なのは重々承知だけど、その情報の出所は何処からなのかしら……」
『あの新聞とは異なった、独自の調査を行った結果です』

 

まったく。このメイドは暗躍するのが実に得意だ。

 

「……優秀ね」
『感謝の極みです、お嬢様』
「でも、それと今回のミッションと何かしらの因果がある?」
『ミッションではありませんが、最近問題になっているイレギュラーネクストを御存知ですか?』
「……『リム・ファイアー』か」

 

かつては反カラード派の過激武装勢力に身を置いていたテロリスト。
そしてここ数カ月前から、蛮行で悪名を馳せているイレギュラーネクストだ。
リンクス相手に無秩序なテロリスト行為を仕掛け続け、カラードのリンクスも数人が犠牲になっていると聞く。
ネクスト生身問わず、全身を念入りに蜂の巣にされるという、残虐極まりない方法で。
企業やカラード所属のリンクスの間では、マブリグ解放戦線の雄と謳われたかつてのイレギュラーネクスト、砂漠の狼ことアマジーグに匹敵する脅威と認識されていた。脅威以外の評価は天と地の差もあるが。

 

『彼がイレギュラーネクストとして知られるようになった時期と丁度符合します。
 そしてお嬢様も存知の通り……リム・ファイアーに屠られた対象はオーメルにとって好ましくないモノ。
 GA、インテリオルグループのリンクスばかりです』

 

咲夜の言う事がなんとなしに見えてきた。
オーメル側が、イレギュラーネクストの笠に隠れた質の悪い山猫を飼っているということか。
姑息な手が大得意な奴ららしい。

 

「勘づいているのかしらね。他の連中も。
 今回のミッションはアームズフォート、カブラカンの撃破。そして、撃破対象はオーメルグループの傘下。
 作戦プランを聞いた限りでは、カブラカン以外に脅威は窺えないと聞く。
 ……来るのかしら。そのイレギュラーネクストとやらは」
『……お嬢様』
「仕事は反故できない。私はこのまま出撃するわ。
 …わざわざ心配してくれてありがとね、咲夜。愛してる」

 

通信回線先の咲夜が急に黙りこくった。
何か変なことを言っただろうか。疑念を含めて、首を捻っていると

 

『………お嬢様』
「え? あ、うん」
『録音し損ねました。先程の言葉をもう一回仰っていただけませんか?
 できれば……恥じらいを込めてそっと囁く感じで!』
「恥ずかしいから嫌よ」
『そんな、殺生な…!』

 

咲夜に対して残念な気持ちを抱かないうちに、私は通信回線を切った。

 

 

[Patchouli Knowledge]
ミッションを説明するわ。

 

依頼者はGA。
目標はアルゼブラ製アームズフォート・カブラカンよ。

 

知っていると思うけど、今までのアームズフォートの比ではない重装甲・突進力を持ってるわ。
ランドクラブやギガベースとは違って、今のところ明確な撃破方法は見いだせていない。
…だからこそ私とレミィ、そして私の友人の友人であるアブ・マーシュが開発した「それ」の出番と言う訳。

 

…耳聡いのは良いけど、試作段階を無理に使わせるあたり人使いが悪いわね、GAも。

 

カブラカン以外に脅威となるものは報告はされていないわ。
……強いて可能性を上げるとしたら咲夜の報告にあったあのイレギュラーネクストくらい。

 

……気にしても仕方ないわね。
妹様がケーキを作って待ってるわ。
早々に仕上げてしまいましょう。

 

 
  [このミッションを受諾しますか?]  
 [  OK  ]  [CANCEL] 
作戦エリアキタサキジャンクション郊外
作戦目標AF撃破
 

 

[Patchouli Knowledge]
ミッション開始よ。カブラカンを撃破して。
その背中の大型兵器を撃ち込めば、カブラカンといえどもひとたまりもないわ。

[Remilia Scarlet]
「但し一度限り。まあ、簡単に済めばいいんだけどね」

 

砂漠化した大地を派手に走行するカブラカンに接近する。
使用機体は「03-AALIYA」をベースにプラズマライフル「SAMSARA」とアサルトライフル「04-MARVE」を装備した「ドラクリア」。背部に大型の兵装を装備しているが、現時点では使えない。
ある程度距離を詰めると、カブラカンは自律兵器群をばらまいて足止めしようとする。
機動力はないのでスルー推奨。

 

[Patchouli Knowledge]
カブラカン、起動兵器を展開したわ!
……レミィ!

[Remilia Scarlet]
「雨後の筍の様にぽこじゃかとまあ……!
 無視するよ、弾が足りなくなる!」

 

そのまま自律兵器を振り切り、カブラカンに接近すると、
イベントシーンが挿入され、そのままイベントが進む。

 

[Remilia Scarlet]
「カブラカンに接近、これより作戦行動に……
 ……後方から機影?
 パチェ、確認して。…分かり切ってるとは思うけどね」

[Patchouli Knowledge]
ええ…ネクストよ。

 
 
 

後方から追走した機影の正体。
ダークレッドのネクストだ。
背にプラズマキャノン、両腕部に旧レイレナード製のマシンガン「03-MOTORCOBRA」を装備したシンプルな武装。
03-AALIYAHの優美かつ鋭い形状は、機体色と相まって禍々しい印象を私に与えた。
何より、それはリンクス戦争以前まで使っていたアセンと似通っていた。
鮮やかな紅を淀ませた様な機体色といい、歪な鏡像を見ている様だった。

 

[Patchouli Knowledge]
件のイレギュラーネクストと同じよ。
……咲夜の懸念が的中したのか。
レミィ、気を付けて!

 
 

[Rim Fire]
貴様が…
国家解体戦争初期のリンクス、レイレナードの亡霊か…

 

重苦しく響き渡る、怒りに滾った男の声。
怨嗟の色を隠そうともせず、呪詛を吐きつける様に語りかける。
……だが、何故私について詳細に知っている。

 

[Remilia Scarlet]
「……」

 

[Rim Fire]
…ピン・ファイアーというレイヴンを知っているか。
迷彩色の四脚型ノーマルでもいい。

 

心当たりなんてない。
国家解体戦争時代なら、尚更。
当時は周囲に目をやる余裕なんてなかった。

 

[Remilia Scarlet]
「……っ?」

 

眉をひそめると、男は通信回線の向こうから吐き捨てた。

 

[Rim Fire]
…やはりな。
貴様らにとって、レイヴンなど取るに足りない存在か。

 

―なんだ、こいつ。

 

異様な態度に警戒心を強める。
本能がこの男に対して警鐘を鳴らしていた。
極めて危険、と。
そして、男がぶちまける様に吼えた。

 

[Rim fire]
…所詮リンクスなど害悪でしかならない。
皆殺しにしてやる、全て……!

 

[Remilia Scarlet]
「随分と殺気立ってるわね……」

 

[Rim Fire]
当り前だ…
…俺の父親は貴様達オリジナルに殺された……
貴様と同じ、レイレナードのネクストに!

 

生憎、私にはわからなかった。
ベルリオーズか、アンジェか、ザンニか、笠松か。
……

 

[Remilia Scarlet]
「……復讐、ね」

 

[Rim Fire]
…レイヴンではリンクスを殺す事など夢のまた夢。
父が乗ったノーマルでは、貴様らを屠る事は出来なかった…
…だが、企業共に拾われた時、忌々しい事に俺には資格があることがわかった。
だから、手に入れた。コイツを。

 

リム・ファイアーは、新しい自分の半身を誇る。
血に錆びた赤黒い機体の姿を。

 

[Remilia Scarlet]
「……ネクストか」

 

[Rim Fire]
俺が失った父親の死の無念を、親父を殺した貴様らの死の間際に刻みこんでやる。
その為に俺はこの空っぽの人形に名付けた、メメントモリ(死を想え)と、な……」

 
 
 

 
 

赤眼の深淵

 
 

敵ネクスト「メメントモリ」が増援に出現。これに対応することに。
機動力を生かして急接近しながら、マシンガンを連発してくる。プラズマキャノンの使用頻度は低め。
マシンガンは二次ロックオンしないので、ある程度距離は取りたいが、そうなるとこちらの武装が活かせなくなるため、結局インファイト気味の戦闘となる。アリャーの実弾耐性は低めなので、マーヴで一気に溶かしてしまいたい。
敵APを50%削れると、イベントが進む。

 
 
 

 
 
 

[Rim Fire]
まだだ! まだ終わらん……!
貴様らリンクスを! 皆殺しに! この世から抹消して!
そうしてようやく父の無念は晴れるんだ……! その為なら、手段は問わん……!

 

機体損傷で姿は醜悪に歪み、AALIYAのデンタルバッテリー構造のようなカメラアイがギラギラと発光する。
装甲値がどれだけ削がれようとも、敵ネクストは怯む様子を見せない。
プラズマキャノンの閃光が視界を焼き、鋼鉄の散弾が蜂の巣にしようと迫りくる。
FCSに捉えようとすると、側面に回り込む。

 

…追いつめているにも拘らず、私の方が押されていた。

 

マシンガンの弾幕をクイックブーストの連続で回避。
それでも回避しきれず、人工物の豪雨が粒子装甲を削る。

 

ダメージのフィードバックに堪えるよりも早く、血錆びた機影が迫る。

 

[Rim Fire]
貴様も同じだろう!
肉親の情に懐き、企業を裏切ったバケモノ!
奴らを殺された時、貴様はどうする! 一体どうする……!

 

もしかしたら、私もコイツと同じ末路をたどっていたのかもしれない。
一切合財を失って、レイレナードで手綱の効かない兵器として扱われていたように。
リンクス戦争のあの時、フランや咲夜を手にかけていたら――
……私は一体どうなっていたか。

 

だが、

 

[Remilia Scarlet]
「……if(もしも)の話は好きじゃない」

 

所詮、仮定に過ぎない。

 

[Remilia Scarlet]
「亡霊にでもならない限り、死人は口なんて効かない。
 その無念は、お前が思い描いた妄想に過ぎない。

 
 

 ……貴様の私怨の言い訳を、死者になすりつけるな」

 

[Rim Fire]
……貴様らを殺す。俺は、父を殺した貴様らの存在を認めない。

 

[Remilia Scarlet]
「…生憎死ぬつもりはない。やる事があるのでね」

 
 

[Rim Fire]
家族の団欒なら地獄で好きなだけやらせてやる…
貴様を殺した次は妹の……破壊天使、その次は貴様の僕の番だ。
一人づつ、喪う苦しみを味わせてやる……このメメントモリで、な……

 
 

[Remilia Scarlet]
「……へえ?」

 
 

メメント・モリは、他人に死を押し付ける為の言い訳ではない。
Mors certa, hora incerta.(死は確実に訪れる。だがその時はまだわからない。)
……だからこそ、その言葉には死の瞬間まで悔い無く生きようという意味が込められている。

 

どうひっくり返えそうが、コイツが言う様な怨讐を投げ捨てる為の吐き溜めじゃない。

 

そして、何より、
私の前でフラン達を害するとのたまったか。

 

[Remilia Scarlet]
「その前に貴様を血の池地獄(スティージュ)の沼にブチ込んでやる」

 

何年も前の、あの時に決めた。
私達の命は、吸血鬼生は、私達自身のものだと。
好き勝手踊らされてきたんだ。死ぬ時くらい、自分たちで決めると。
自分自身の生殺与奪を決めるのは、私達以外他ならないと。

 

だから。
それを阻もうと云うのであれば、

 

そいつらを焼き尽くすまでの話。阻むもの全て。
真っ黒に。

 
 

[Patchouli Knowledge]
レミィ、もう時間がないわ! カブラカンが離脱してしまう!

[Remilia Scarlet]
「ええ……そうね」

 

何を言っても無為。
この男は、幻想に囚われていた。
何よりこいつは特大級の地雷を踏みつけた。

 

[Remilia Scarlet]
「……今の自分の姿を、鏡で見直すといい。リム・ファイアー」

 

本来、ネクスト相手に使うつもりはなかった。
本来、メメントモリの背後のカブラカンを焼きつくす為の代物だった。
本来、アームズフォート以上の脅威に対処するための兵装だった。

 

だが、今は、

 

使わざるを得ない。
ここで奴を確実に叩き潰す。

 

[Remilia Scarlet]
「私では……鏡に映りたくてもできない」

 
 

 
 
 
 

『統合制御体に指示。背部ユニット接続』

 

異音を立て、歪な背部兵装が駆動を開始し、変形。
そのまま前腕部ハードポイントに結合。
直後に、結合部から火花と金切り音が湯水のように発生する。

 

【ユニット接続 完了】
『マニュピレーター、1,2,3,4番ライン、AMSで接続』
【モーションデータ参照……NONE】
『FCS、モーション、手動マニュアルに切り換え』

 

ユニットが6基の特大チェーンソー型超振動ブレードを展開。
ブレードは円環状に並ぶ。

 

【出力……ERROR:供給不全】
『チェック。余剰出力をカット。情報伝達を伝導系に集中。
 ジェネレータ出力85%をユニットに供給及び出力を上昇。規格限界は無視』
【安定性に異常・機体に致命的負荷を齎す危険性有り】
『チェック。問題を無視。実行』
【……クリア セーフティ解除 シーケンス・スタート】

 

円環状に並んだブレードがドリルかガトリングの銃身の様に高速回転を開始した。
それを認め、私は対規格外兵器用の、超過兵装の起動を開始する。

 

≪GRIND BLADE NEXT Ver0.35≫ アクティブ』

 
 
 
 

 

ユニットが高速回転を起こし。ブレードの刀身は赤熱化。
超振動を起こし、爆熱を巻きあげる。

 

同時に、ある現象がネクストに生じていた。

 

ジェネレーターや排熱機構等の理由から、
火炎放射をぶちまけられるか、溶鉱炉に身投げでもしない限り
ネクスト規格では起こり得ない現象。

 

熱暴走。

 
 

私のネクストは、灼熱を纏っていた。

 
 

[Rim Fire]
貴様……なん…だ、その兵装は……!

 

[Remilia Scarlet]
「ふ、ふふ……スタビライザーかエクステンションとでも思った……?」

 

[Patchouli Knowledge]
……! レミィ、無…! カブ……ンに……

 

機体全体が異常をきたす程の膨大な情報処理に、パチュリーの声はノイズにかき消されている。

 

首筋のAMSプラグに接続したコードが異常発熱を起こし、
AMSを通じて、馬鹿げた量の情報処理と負荷が流れ込む。

 

海老反りに背が反る。身が跳ねる。
歯を食いしばる。全ての感覚を敵を叩き潰す為に傾ける。

 

[Remilia Scarlet]
「……っ!」

 

ノイズが混じった視界の先には、ダークレッドに染まった、ネクストの姿があった。

 

『オーバードブースト、レディ』

 

オーバードブースタを展開。
ブースタ内部に貯蓄されたコジマ粒子をプラズマ化、噴射。
最大時速1000km以上の、音速を越えた世界に片足を踏み込む。

 

その矛先はイレギュラーネクスト、メメントモリ。
メメントモリが両腕から乱射する鉄の弾雨が、ドラクリヤのボディを蜂の巣にしようと迫る。
KP出力は全てオーバードブーストに回しており、プライマルアーマーは空気抵抗の逓減しか果たせていない。
弾がドラクリヤの真紅の装甲を貫くたびに被弾個所が剥がれ、内部が露出する。

 

被弾など知った事ではない。

 

損耗を無視して、強引に突破する。

 

[Rim Fire]
貴様……!?

 

このまま、ヤツを焼きつくす。

 

そして、右腕に接続された爆炎と轟音を巻きあげる暴力の塊を振り上げた。

 
 

[Remilia Scarlet]
「妄執に囚われた男、歪な私の鏡像」

 
 

肉親を失った無念に心を蝕まれた者。
私が辿りつくかもしれなかった可能性のif(ひとつ)を見据え、
搾り出すように呻く。

 
 

[Remilia Scarlet]
「死を想え」

 
 

今がその時だ。

 
 
 
 

甲高い音が残響を残しながら長く長く鳴り響き、私の鼓膜を叩いた。
あまりの高温を発する為、落雷の様に空気が膨張し、炸裂したのだろう。
それは、歓喜の感情を吐きだす悪魔の哄笑のようだった。

 

半ば引っ張られるように振り回したため、狙いは大きく削がれた。
結果として、先の一撃は掠めただけに終わる。
しかし、敵機体の粒子装甲は一瞬で消し飛んだ。

 

爪先が僅かに引っ掛かっただけにも関わらず、接触した敵ACの半身が、蒸発した。

 
 

[Rim Fire]
馬鹿な…こんな……

 
 
 
 
 

[Rim Fire]
父…さん……!

 

怨嗟に取り込まれていた男の声が、その時だけ変わっていた。
復讐者から、父親を失い苦悩する青年のものに。

 

そして、それがリム・ファイアーの最期の言葉だった。

 
 

[Remilia Scarlet]
「……ッ!」

 
 

歯を噛む。
……まだ終わってはいない。

 

ミッションターゲットであるカブラカンが残っている。

 

[Patchouli Knowledge]
レミ…! 限……それ以上は……!

[Remilia Scarlet]
「……ぐ……、あと一発! 多少の無茶くらい…承知のうえよ…!」

 
 

 
 

『GRIND BLADE NEXT』を起動した状態でミッション再開。
オーバードウェポンの稼働時間内までにカブラカンに一撃を入れなくてはいけない。
ENに心許ないアリーヤだが、オーバードウェポン使用中はKP、ENの回復力が大幅に増加している。(ただしプライマルアーマーは使えないが。)
オーバードブーストを全速力でふかし、速攻で叩き潰そう。
『GRIND BLADE NEXT』の一撃を叩き込んだ瞬間、カブラカンは大爆発を起こす。

 
 

 
 

走る結界。
そう評されたカブラカンの分厚い側面装甲に超振動ブレードを叩き込んだ途端、
カブラカンは爆発を起こした。

 

そして機体バランスを崩し、カブラカンはそのまま転倒する。
障害物破砕ブレード内部の無限軌道はギャリギャリと音をあげるが、
起き上がれる訳もなく、やがてそれも機能を失った。

 
 
 

[Patchouli Knowledge]
レミィ!

[Remilia Scarlet]
「……あ、うん。何とか大丈夫…お脳が焼き切れるかと思った」

[Patchouli Knowledge]
タダでさえカツカツなのに、二回連続起動させるなんて、滅茶苦茶よ…!
本当に考え無しなんだから!
その場のテンションに身を任せたら命がいくつあっても足りないわ!

[Remilia Scarlet]
「……うん、ごめん。お小言はあとで聞くから、今はとにかく回収班寄越して。
 頭は知恵熱で済みそうだけど、それ以外が色々焼き切れちゃったみたい」

 

[Patchouli Knowledge]
……さっき、妹様がすごい顔でネクストの方に向かったわ。
泣くわよ。

 

[Remilia Scarlet]
「覚悟はしておいた筈なんだけどなあ……」

 
 
 

地平線に視線を向ける。
その先には、ダークレッドのネクストが残骸となって鎮座していた。
肉親を失い、その復讐に駆られた男。
最後の最後に奴は何を想ったか。

 
 

どの道、私も地獄に落ちる。
殺しを鬻げる職業ゆえ、天国に行ける様な身分ではないことは自覚している。
責めも、恨みも、その時が来ればそちらの気が済むまで受けよう。

 
 

その時は、ずっとずっと先になるけど。
それまでは私自身の死を想う事にする。

 
 

機体からまたたく火花をぼんやりと眺めながら、私は長く長く息をついた。
首のAMSプラグ接合部からは赤いラインが滴り落ちている。

 

[Remilia Scarlet]
「一難去ってはまた一難…まあ、生きているうちはずっとこんな感じよね」

 
 

DUM SPIRO, SPERO. -生きる限り、希望はある-

 
 

「試作品だから、安定性とかパラメーターに杜撰な所があったわ。改善する個所は山ほどある。
 ……だからこそ、使い時はよく見極めるべき。そうは思わないかしら、レミィ。
 使用限界ぎりぎりまで扱うなんて、ネクストごとお釈迦になってもおかしくないわよ」

 

ミッション終了の翌日、パチュリーから説教を山ほど貰った。
こっちは体のあちこちに火傷を負っているんだけど。

 

「どうせすぐに治るからいいでしょ」

 

…それは幾らなんでもあんまりじゃないかなぁ、友人よ。

 

「でも、ネクストはレミィや妹様みたいに自己修復なんて便利な機能付いてないの。
 特に脚部はズタボロよ。修復するくらいなら、新しいものに取り換えた方がいいわ」
「……うちの組織、スペアのパーツあったっけ?」
「……ある訳ないじゃない。レミィのものを含めて、ネクストが3機もあるのよ?
 維持費用含めて、一杯一杯。特に旧レイレナードの脚部なんて未だ復刻が……」
「それ以上言わないで……! 頭がフットーしちゃうよぉおっ;;」

 

頭を抱えて、パチュリーの言を遮る。
久々に本気で参った。暫くネクストに乗れる目処が立たないということか?
一応カブラカンは撃墜した。その事実はそれなりに大きく広まっていると思う。
しかし、此方もかなりの痛手を被ってしまったようだ。

 

「お嬢様、パチュリー様。そこまでです」
「あ、咲夜」
「……何でかしら。あとお株を取られた気がするわ」

 

涙目になっていると、咲夜が現れた。
その手には携帯端末が握られている。

 

「お嬢様、お嬢様宛てに御電話です」
「? あ、うん……もしもし?」

 

携帯端末を受け取り、耳に当てると懐かしい声が聞こえてきた。

 

『よお、久しぶりだな』
「……お前か」

 

相手はレイレナード時代の知り合い。……だが正直なところ、その声を聞きたくはなかった。
「裏切り者」と罵られてもいいと、心に決めた筈だが、
それでも「彼」と対応するには辛いものがあった。

 

『カブラカンの件、聞いたぞ。派手にやったみたいじゃないか』
「……うん」
『…まだ気負っているのか。気にするなと言ったんだがな』
「相手に平然としろって方が難しいわよ……いつも通り私と関われるお前が凄いのかもしれないけど」

 

か細く息を吐く。
昔馴染みである電話の主は、以前とまったく変わらない。
……それが、余計に罪悪感を感じる。

 

『で、だ。さっきメイド長殿から聞いた。脚部が使い物にならなくなったんだって?』
「困ったことに、ね」

 

電話先の相手は暫く考えていたようだったが、思いついた様に私に提案してきた。

 

『俺の使っていたものでいいなら、提供してもいいが』
「…04-ALICIA/Lか?」
『ああ。今の俺には無用の長物だからな』
「……」
『気にするなといったぞ、ブラム。こうして生きているだけ儲けものだ。
 お前はそんな潮らしい奴じゃないだろ』

 

沈黙する私を、電話先の相手は宥める様に語りかけた。
本当に変わっていないな、と微苦笑を込めて溜息を吐く。

 

「……わかったけど、その名前で呼ぶのだけはやめてよ。正直、恥ずかしい」
『個人的には、是非恥じらってほしい所だがな。そっちの方が受けもいい』
「……切るわね」
『お、おい。怒ることはないだ――』

 
 
 
 

「終わった?」
「…うん、終わった。何とか脚部は確保できそう」
「それならよかったわ。規格は?」
「…04-ALICIA/L。旧レイレナードの中量逆関節パーツよ」
「04-ALICIAか。……ところで大丈夫、レミィ? 電話切ってから少しだけ顔色悪いけど」

 

なんやかんや言って、心配してくれるパチュリーが嬉しかった。
頷いて、パチュリーに向けて笑う。

 

「大丈夫よ、大丈夫。まだ死ぬわけにはいかないから」
「そうよ。私も咲夜も妹様もいるんだもの。死んだら承知しないわ」

 

その言葉を深く噛み締める。

 

「……ええ」