イベント/Rumia Distress

Last-modified: 2012-12-22 (土) 16:57:56

世界移動シナリオ-ARMORED CORE Paradise of Stain編のイベント

Rumia Distress

ラインアーク防衛
後に何度か発生するラインアークへの攻撃とそれの対応。
その初戦にてホワイト・グリントは戦闘不能に陥り、そのリンクスは治療に追われる。

 

ホワイト・グリントが機能を停止し、リンクスが集中治療室まで担ぎ込まれ、
その無事が確約するまでの間、私は気が狂いそうなほどの不安に苛まれていた。

 

―10年以上前から、彼は私とその故郷の為に戦い続けた。
その故郷を失った今は、ただ私の為だけに。

 

…今も昔も、見ている事しかできない私は、ひたすらに無力だった。

 
 
 
 
 
 

「…目、覚めた?」
「おいィ…ここは…」

 
 

体を起こそうとして、彼は呻く。
私はそれを押し留め、囁きかけた。

 

「メディカルルームだよ」
「…ルームアか」

 

私の姿を認めた途端、彼は安堵したように大きく息をついた。
それに反応を見せないようつとめながら、私は彼に話す。

 

「…わかると思うけど、暫くネクストには乗れない。肉体的な意味で、だよ。
 アサルトアーマーの直撃を受けて、その状態からネクストを強引に操縦したんだもの。
 時間をかけて治療しなきゃ、本当に壊れてしまう。
 ………願いだから休んで」

 

事実だった。
彼の劣悪なAMS適性とその負荷に関して、私は良く知っている。
ネクストへの大規模なダメージ、それによる致命的な負荷。それを無視して尚、彼は機体を動かした。
……生きている事が、奇跡だ。

 

諭すように語る私に対して、彼は猛禽類の様な鋭い眼差しで問いかけた。

 

「…ラインアんクはどうなる ナイトがいなくてはなり立たないという事実」
「…傭兵を戦力として買うしかないと思う。それでもいつまで資金が持つかはわからない。
 最悪の場合は……」

 

一呼吸する。
…彼の前でこれを言うには、ほんの少しの覚悟と勇気が必要だったから。

 
 
 
 

「……私が、ネクストに、ホワイト・グリントに乗る」

 
 
 
 

前から考え、周りから何度も止められていた事だった。

 

「銃器の扱いだけなら、上手くなった。AMS適性も、低くない。
 だから――」

 

―10年以上前、斜陽を辿ろうとしていたアナトリアがアスピナ同様、「独立傭兵」というビジネスを「商品」としたとき。
本来なら、その「商品」は私が担当する筈だった。

 

最初期のAMS適性テスト。その頃はまだ戦争の道具ではなく、画期的な社会貢献の一環として収まっていたAMS技術。
その第一の被験者で成功例だった私が。

 

しかし、戦争屋として殺しを鬻ぐには「技術不足」と
単純な適性の高さだけではマトモな戦力にはなり得ないと訴え、
私の登用を強く反対し、その任を担ったのは

 
 

「おいやめろ馬鹿!!」

 

目の前にいる彼だった。

 
 

「っ!」
「おまえを守ると決めたのは俺なんだが!? 約束破るのは犯罪だぞ…!」

 
 
 
 
 
 

「じゃあ、どうすれば良いっていうの!?」

 
 
 
 
 
 

あの時、私が瀕死の彼を助けなければ、アナトリアは崩壊せずに済んだという者がいる。
企業に目を付けられる事もなく、相応の立場に甘んじるだけで済んだと。
だから、私はアナトリア失陥の元凶なのだと。
だから、彼がラインアークまで辿りついたアナトリアの難民の為に戦い続ける事は当然の義務なのだと。

 

…あまりにも勝手な話だった。

 
 
 
 
 
 

「限界だよ… ずっと、見ているだけ…見殺しにするしかないなんて!」

 
 

「『アナトリア失陥の元凶』、『疫病神』、『お前がいなければネクストなんて生まれなかった』
 そう言われても構わない! でも…あなたが危険な目に遭って、ずっとそのままで…!
 堪えられないよ…このままじゃ……!」

 
 

…思考より、感情が先走って呂律が回らない。
私は子供の我儘のように彼に剥き出しの感情をぶつけていた。

 

「ルーミア」

 

奇矯な訛り抜きで、彼が私の名前を呼んだ。

 
 
 
 
 

「それでおまえが死んだら俺はどうすればいい」

 
 
 
 
 

その言葉で、激昂していた私の頭が覚めた。
心臓を冷たい手で鷲掴みにされたように。

 
 

「俺が戦うのは、また同じ事を繰り替えさせる悲しみの連鎖が狙いじゃないんだが。
 お前を守りたい ただそれだけの事実なんですわ? お?」
「それは私にだって言えることじゃない。……あなたが死んだら、私もどうしていいかわからない」

 

「「」確かに戦う事はお前にもできるだろうな。だが俺を支えてくれるのはお前にしかできないと思った」
「代わりに戦う事は支えにはならないの?」

 

「ならない」
「……っ!」

 

「ルーミアが戦うのなら、俺の寿命がストレスでマッハにぬる」
「……」

 

無言で、彼の胸板を力なく叩いた。うつ伏せに顔を預けて、表情を隠す。
泣いているのがバレバレだったとしても、顔を見られたくはなかった。
彼は私の髪を優しく撫でて笑う。

 

「やっぱりナイトはルン見アにもてるなーと思ってたんだがしぐ気付いた
 もてる為にナイトするのは馬鹿
 真のナイトは思わずナイトをしてしまってる真のナイトだからるみゃにもててるのだという事実」

 
 

「…ヒキョウなんだよ、ブロントさんの馬鹿」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

疲れ果てた彼が眠りに就くまで、私は子守唄を唄っていた。
これくらいしかできない。でも、それが一番大切なことなのだと彼は笑う。

 
 

I've already fallen.(とっくの昔に堕ちている)
I can't drive my head.(自分の考えすら抑えられない)
It's that I fall in you. Fall in you.(あなたに溺れてしまってた)

 

I've already fallen.(堕ちてしまってもいい)
I can't drive my head.(何も分からない)
It's that I fall in you. Fall in you.(もうあなたのことしか考えられない)

 
 

口ずさむ子守唄は、きっと彼と私自身の心境を唄っていた。