手馴

Last-modified: 2015-12-02 (水) 18:57:34

シナリオ/世界移動シナリオ-SAVIOR IN THE DARK編のサブクエスト

前説

オムレツを作るには卵をフライパンに割り入れねばいけません。
しかし、卵をフライパンに入れただけではオムレツは出来ません。
上手にオムレツを作るためには何度も何度もオムレツを作り続けて、コツを掴む必要があるのです。
つまり、何にでも手慣らしの練習は必要と言うことですわ。

 

――特に、初めて行う事柄には。

 

手馴

依頼説明

あなたを番犬所に呼びつけた紫は出し抜けに質問をしてきた。
「魔戒騎士にとってのレゾンデートルとは何かご存じですか?」
あなたは答えた。ナイトであることであると、即ち守りしもので在ることであると。
この世界にきて日が浅いあなたではあったが、あの黄金の輝きはまざまざと騎士の生き様を伝えて来たのだと。
「ならば、全ての魔戒騎士に共通する、魔戒騎士にとっての最大の弱点とは何でしょうか?」
あなたは答えた。わからないと。
騎士によって得意不得意はあるだろうが、全ての騎士に共通する弱点などと言うものは思いつかなかった。
しいて言うならば鎧の召喚時間なのだろうが、鎧が無くても一級冒険者達並に強い魔戒騎士達にとって、鎧の時間制限は弱点とは呼べないとあなたは紫に告げた。

 

「守りしものであること。これこそが魔戒騎士にとっての最大のよわみなのです」
紫は、あなたに語り始めた。

 

「この様に、騎士や法師達は守りし者としての役割を代々血によって受け継いできました。積み重ねた歴史は確固たる強さと意志を生み出しましたが……少々、頑固が過ぎる時もあります。特に守りし者である事については」
あなたは問うた。それは別に不思議な事ではないし、当然の事では無いかと。
人外が表におらず魔の技術が裏にしか流れないこの世界の人理の守護者である魔戒騎士なのだから、強烈な自制はして当たり前ではないかと。
「当然です、例えばですが騎士が貧弱一般人に剣を振るう事などは決して許されませんし、したら即座に刺客が飛んでいきます。ですが、その貧弱一般人が悪意をもって騎士を襲って来ようとも、それどころかホラーを用いる悪行をしていたとしても、人間に剣を抜くことは許されないのです」
ホラーを使う?、そんな人間がいるのかとあなたは首を傾げた。
「はい。人間の悪意や狂気は、時に私達の想定を超えた例外を生み出します。そして、私達はそのイレギュラーに対応する法を持たないのです」
あなたは呆れた。馬鹿では無いかと。
そんなもの、天狗ポリスが獣使いに襲われても銃を撃たず、モンスター相手にだけ反撃を許しますよと言っている様な物ではないかと。
「あなたの世界ではイザ知らず、この世界の警官は天狗じゃありませんし、犯罪者に襲われても普通は銃を撃ちません。後、その獣使いとかもいません」
平和なのか危険なのかよく解らない世界だとあなたは紫に言った。
「平和ですよ。ホラーや魔戒騎士いう存在が表向きには笑い話のフィクションで済んでいるのですからね。その維持こそが騎士達の使命なのです」
あなたは問うた。要するに、自分に何を頼みたいんだと。
紫は答えた。
「魔戒騎士達には出来ない汚れ仕事ですわ」

 

あなたは紫にハッキリと告げる。自分は冒険者としてあちらの世界でいろいろな仕事をしてきているが、それでも人を殺して金をもらう積りはないと。
冒険者は何でも屋ではあるが、殺し屋では無いのだと。
「理解していますわ、私としても貧弱一般人を殺すような事をあなたに頼む事はありません、私も、一応は守りし者ですのでね。さて、あなたに頼みたい事柄ですが……彼についてになります」
紫はスキマから一枚の写真を引き抜くと、あなたに手渡した。
如何にもカタギでは無い様子のチンピラが写っている。
「彼は、ホラーです」
要するに狩れと言うことか?あなたは紫に質問をした。
元の世界で多くのモンスターと戦ってきたあなたからすれば、並大抵のホラーなど恐れる相手ではない。返り血の問題を別にすればだが。
実力の証明をしろというなら了解したとあなたは紫に告げると、紫は意味深な笑みを浮かべた
「……彼を下手に狩れば、あなたは人殺しとして警察に追われる事になりますわよ」
ホラーなのにか?とあなたは問う。
「そのホラーはカラーギャングの頭に憑依したホラーでして、常に取り巻きのカラーギャングを側においているのですよ。魔戒騎士相手の盾と餌を兼ねて、私達も隙を探っているのですが中々機会が見いだせず……埒を空ける必要が出てきました」
要するに、ホラーを狩りやすい状況に追い込む事があなたの仕事だと紫は暗黙に告げている。
問題は手段だが……それは?とあなたは問うた。
「まず、あなたはホラーが率いているカラーギャングを徹底的に狩って下さい。そうすればホラーがあなたを倒しに出てきます。ああ、人間相手にはキッチリ手を抜いて下さいね。魔戒騎士と並ぶあなたの力は、普通の不良など簡単に殴り殺せるのですから」
自分の取り巻きがやられたら逃げるんじゃないのかと、あなたは紫に疑問を投げた。
「むしろ逃げてくれたら狩りやすくなりますわ。人目の少ない場所で獲物を探すのはホラーの専売特許と言う訳ではありませんので……それにこの手の足りないサンピンは自分が舐められる事が決して耐えれません、ましてやあなたは騎士でも法師でもない一般人……ホラーは自身のメンツを保つ為にあなたに戦いを挑むでしょう」
そこで狩れと?
「いえ、恐らくホラーは自身の取り巻きに周りを囲ませた衆人環視の状況であなたに戦いを挑むでしょう。自身の名を高める為にと、万が一にそなえて。そうなったら、あなたはホラーを一対一で徹底的にぶちのめしてしまえばいいのです」
ホラーが変身して襲ってくる可能性もあるのではと、あなたは聞く。
「来るでしょうね。しかし、衆人環視の場ではあり得ません。自身の正体を隠さねば食事に支障をきたしますから。人知れずあなたを狩ろうとした場所が」
紫は酷薄な笑みを浮かべた。あなたの世界の紫も時たま浮かべる、化生の笑みだ。
「そこが、彼の処刑場となります。狩ろうとした場所で狩られるのは、大層に愉快ではありませんか」
紫はスキマからこの世界の紙幣を取り出すと、あなたにぽんと手渡した。
「軍資金です。カラーギャング共を狩る傍らでこの街に慣れて下さい。そして、まずは……」
紫はあなたを指差すと、頭から足元までをなぞった。
「その格好、表の店でもう少しこの世界に合わせた格好にしてくださるかしら?失礼ですけど、ゲームかアニメのコスプレにしか見えませんよ」

クエスト内容

  • やることは紫の指示通り。まずは夜の繁華街でたむろしている貧弱カラーギャングにひたすら粘着し続ける。
    • カラーギャングは常識的な意味合いでの人並で、正真正銘の雑魚。元の世界の不良とは雲泥の差がある。
      PCの腕っ節がどれほどこの世界の平均から逸脱しているかがハッキリと分かるだろう。
  • その内ヘッドの遣いを名乗るチンピラが話しかけてくるので、付いてくとカラーギャングに囲まれてホラー憑依者の親玉とタイマンする羽目になる。
    • カラーギャングのグラは普通の不良だが、ホラー憑依者のテンプレとして生身であろうと鎧なしの魔戒騎士に匹敵する強さを見せる。つまり並のモンスター程度の歯ごたえはある。
      この世界移動シナリオに突入できるあなたが苦戦するはずもない相手なので、さっくりと片付けてしまおう。

顛末

「これで勝ったと思うなよ」「もう勝負ついてるから」
数えきれぬ程聞いたセリフに、数えきれぬ程吐いたセリフで返答したあなたは、怨嗟の篭ったホラーの視線と、カラーギャング達の畏れの混じった視線を背に浴びながらその場を去った。
後は汚いホラーが襲いかかってくるのを人気のない場所で待つばかり。そう思いながらねぐらに向かっていたあなたを、突如として呼び止める声がした。
「おい」
あなたの目に映ったのは、つい先程ぶちのめしたホラーチンピラだ。
死なない風にしたとはいえ半殺しにはしたはずなのに、ホラーの瞳は異様な生気に満ちていた。
雑魚とはいえホラーはホラー、ソウルメタルでもない獲物での疵はすぐに治ると言うことだろうか。
それとも、カラーギャングの幾人かを食らったか。どちらであろうと、あなたからすればどうでも良かった。
「さっきは良くも俺のメンツを潰してくれたな……詫びを貰いに来てやったぜ」
まずは、音を立てて異形へと代わり自分に迫るホラーをどうにかする方が先だ。
あなたは自分の武器を取り出して構えると――突如、ホラーの腹から突き出た銀の煌きを見た。

 

驚愕に見開かれたホラーの眼に映るものは銀色の狼。
牙狼とは異なる、銀の狼を模した鎧。紛れも無く魔戒騎士であった。
「ガァ……てめぇ……魔戒騎士か……」
「そうだよ、ホラー」
ホラーの問いに答えたのは、元の世界でも聞き覚えのある声だった。
「後ろから……それでも、騎士か……汚えぞ」
「そいつぁ俺には褒め言葉だ。あばよ!」
そして、目にも留まらぬ疾さでホラーに銀線が走りぬけたかに見えた直後、ホラーは穢れた血を撒き散らしながら爆発四散し、ホラーであった一本の短剣が音を立てて落ちた。
あなたは飛来する血を避けた後、銀の鎧に視線を向けた。
「おいおい、助けてやったんだぜ。そんな目で見るんじゃねえよ。兄ちゃん」
『いきなり現れて信用しろって言う方が無理でしょう。解除しなさいよ』
「ま、それもそうだな」
銀の鎧がほどける様に解除され、空に消え去っていく。
鎧の中から出てきた男は、声から連想した通りの汚さを持った男。恐らくはこの世界の汚い忍者であった。
「俺は汚い忍者って呼ばれてる。コイツはパルスィだ」
『よろしくね、新顔さん』
嫉妬妖怪と同じ声を発したのは汚い忍者の付けたペンダント、ザルバと同じ類であろうか。

 

あなたはこの世界の汚い忍者に質問をした、なんでここにいるんだ?と。
「紫のババァから聞いてなかったのか?俺は元々あのホラーを狩ろうと目ぇ付けてたんだがガードが固くてな、どうにもならねえから助太刀を頼んだんだよ。狩りは俺がやるからどうにか隙を作ってくれってな」
『まさか騎士でも法師でもない人間を使うとは思わなかったけどね……その若さでその強さ、妬ましい……』
どうやら、あなたは紫から全てを知らされていなかったようである。
肝心な事を隠し通して物事を進める紫は、間違い無く八雲紫であった。
「しっかし、お前何者だ。ソウルメタルの獲物も筆も無しにホラーとやり合おうとするなんてよ。命知らずも良いところだぜ」
『ニンジャソウルも臭わないし、この子、本当にただの人間よ。なのに強い……』
猜疑心に満ちた視界をあなたに向ける二人。こう言う所は世界を越えようと汚い忍者であった。
さすがに世界を超えて来ましたとは言えないあなたは返答に困るが、汚い忍者は口元を緩めた。
「まあいいさ。この街にはいろんな野郎がいるもんだし、いていいんだ。お前はババァに使われる程度の信頼があって、腕も立つ。それだけ判れば十分だ」
この世界の汚い忍者はあなたに背を向けて去ろうとするが、一度だけ振り返った。
「何かあったら俺も手を借りるかも知れねえ。そんときは安値で頼むわ」
そして黒い影は去っていった。

報酬

――紫からの現金『10万円』

 

――紫、汚い忍者の信頼度向上。

 

――夜の街での知名度向上。

予告

光在るところには闇が在ると言います様に、輝きは必ず影を生み出すものですわ。
影とは即ち人の業、あらゆる悪が生み出る黒い海。
この眠らない街は、ネオンの下に無数の影を生み出す悪の大海原と呼べるでしょう。
とても魔戒騎士だけでは手が足りないのですが、問題はありません。

 

次回、闇狩?

 

夜の闇を狩るのは、魔戒騎士だけでは無いのですから。