書き起こし/シークエンス1

Last-modified: 2016-01-19 (火) 21:46:29

ポーカーで5つの数字が順番に連なった役をストレートという。
麻雀で全ての数を順番に1つづつ揃えた役を一気通貫という。
では、本物の人間同士でこんなことが起こりうるのだろうか。
現実ではもちろんあり得ないだろうが、あったら面白いことだろう。
これはそんな極々単純な発想から生まれた物語である。
 
 
 
一宮「ふぁぁ・・・あと20秒。んー・・・もう、うるさーい」

一宮「あっ・・・7時1分。これなら余裕で間に合うよね?」
 
やたらに1という数字を気にする彼は一宮桂一。
この春・・・というより、今日から高校生にならんとする15歳の男の子である。
 
一宮「始業式だから、多分なにも持っていかなくてもなんとかなるけど・・・一応筆記用具と手帳だけ入れておこう」

一宮「これでよし、やっぱ緊張するなぁ・・・まあ中学から二神も一緒に来てるし、大丈夫か」

一宮「じゃあ、行ってきまーす」
 
 
 
二神「よっ!」

一宮「わっ・・・うわぁ・・・びっくりした二神か」

二神「10年一緒にいるのに未だにその反応か・・・こりゃ高校入った後も変わらなそうだな」

一宮「悪かったねぇ・・・?」

二神「バァーカ、いい意味で言ってるんだ」
 
この少年、二神駿二は小学校以来一宮と学校、クラスを共にしてきた腐れ縁。
これから足を踏み入れる高校も、もちろん一緒である。
 
一宮「いまいちよくわかんないけど・・・そういうことにしとくよ。ところで二神、本当は野球やりたくて私立も受けたんだよね?」

二神「まぁ・・・全部落ちたけどな。俺は打撃がテンでダメだから、評価してもらえなかった」

一宮「未だに信じられないよ・・・二神は足が速いし、守備なんかファンがつくほど上手いのになぁ」

二神「しょーがないさ、俺が行けそうな私立は今みんな3年生のエースや4番が抜けて・・・即戦力を欲しがってたみたいだから」

一宮「推薦じゃなくて一般で受けて、そこから野球部に入るってことも出来たんじゃないの?」

二神「やろうとしたさぁ、けど親の家計助けなきゃいけないって考えたら・・・推薦で野球特待生受けるしかなかったんだよ」

一宮「そっか」

二神「ま、こっちにだって野球部はあるって聞いてるし、フッ・・・何よりお前がいるから結構安心できるし結果オーライってところだなぁ」

一宮「僕のどこを見てなにに安心してるの?普通、不安だらけにしかならないと思うよ」

二神「なんとも言えない安心感ってやつだ」

一宮「やっぱよくわかんないな・・・あっ横断歩道だよ」

二神「・・・っと赤だなぁ、止まるか」
 
 
 
一宮「あれ?ビニール袋が舞ってる」

二神「たまにあるんだよなぁ、ああいうの」

一宮「あれっだんだん落ちてきた・・・車に被さっちゃ不味くない?」

九段「あっこのままじゃ危ない!」

一宮「何あれ、凄い・・・」

二神「袋どころか、信号がつかめそうな高さだった」

九段「おぉー、ふぅギリギリでしたぁ。ときにそこの男の子たち!」

一宮「ああ、はい」

九段「この袋は君たちのものですか?」

二神「いえ、全く覚えはないですけど・・・」

九段「そうですか・・・これは失礼しました。でもっでもっ、きっとどこかに落とし主がいるはずっ!その方の為にも至急手続きをとって探さねばぁ」

一宮「それは、雲をも掴むような話だと思います」

二神「言い換えれば・・・普通にゴミが飛んできたって話じゃ」

九段「あぁー、でもでも9時まではここに立つという勤務になっているからには、ここを今離れればみなさんの安全を守るということを放棄してしまうぅぅぅ」

一宮「おまわりさん・・・すみませんもう青信号ですよ」

九段「あっ、あああああー!申し訳ありません」

九段「気をつけて行ってらっしゃいませ!」
 
 
 
一宮「慣れてない道だと、なにが起こるかわかんないよね・・・」

二神「・・・まあな・・・ん?」

一宮「どうしたの?」

二神「なぁよお、あの店・・・ちょっと面白そうじゃね?」

一宮「どれどれー、春の味覚・・・梅の実香る、ラーメンスープ・・・えっ?」

二神「山菜出汁の蕎麦つゆ・・・いっぱい260円」

一宮「他はー・・・3倍濃縮ポン酢、牛丼つみ並み、だくっだくらく・・・普通のメニューはないの?」

二神「・・・パッと見る限りなさそうだな」

七戸「おはようございます・・・高校生ですか?」

一宮「ええ、今日からです」

七戸「わぁっそうなんですか!おめでとうございます!!、そんな新生活の景気付けに・・・この激辛坦々スープを一杯いかがでしょう?」

二神「すんません・・・辛いものは苦手なんで・・・」

七戸「そうでしたか・・・ごめんなさいね。もし近くを寄ることがあったら、いつでも寄ってくださいな。これお店のチラシです」

一宮「はちじゅう・・・ななや?」

七戸「八十七夜(はちじゅうしちや)・・・って読むんですよ」

七戸「ちなみに私の名前は数字の7と書いてそのまま七です。どうぞ、お見知り置きを」

二神「フッ・・・ありがとうございます、じゃっいこか」

一宮「そうだね」

七戸「凄くどうでも良いって顔された・・・でも、勝負はこれからよ坊やたち・・・フフッ」

八橋「あまり変なものをしょっぱなから勧めるんじゃねーぞぉ?」

七戸「だってここもともと変なものしかないんじゃないですか・・・」

八橋「そりゃそうだったかな。ま、このこだわりに少しでも興味を持ってくれるお客さんが増えりゃ、俺はそれだけで満足だ!」

七戸「世の中コアな趣味の人も多いですもんね」

八橋「まあ、需要がある限り店はたたまねえぜ?」
 
 
 
一宮「はぁ・・・なんか入学式に行くだけなのに凄くエネルギー使ってない?」

二神「へっ、同意するぜ・・・」

一宮「あっ、やっと見えてきた」

一宮「未だに読み方がよくわかんないんだけど・・・一万の まん にあとこれは しずく ?」

二神「ああ、万は ばん と呼んでその次の零は れい って読むんだ」

二神「それぞれ1万(いちまん)と零(ぜろ)を表す感じだな」

一宮「つまり万零(ばんれい)・・・か」

一宮「僕は・・・1組か、出席番号もやっぱり1だ」

二神「いち!・・・フッ、どうやら俺も1組みたいだなぁ」

一宮「そのあだ名で呼ばれると色々混乱しそうだよ」

二神「わからなくもないが、いざ呼ぶとこれがしっくりくるんだな」

一宮「僕はあまり納得してないけどね」

二神「へっ・・・とりあえず早めに教室行こうぜ、人だかりも凄いし」

三屋「えーと三屋、みーつーやー・・・あった!・・・1組、か」

三屋「よぉし・・・いこう、といっても私引っ越してきたばかりで・・・友達居ないんだよねぇ」

三屋「こんな時、無理にでも友達をつくる方法はぁ・・・かんがえるんだ!あたし!!」
 
 
 
一宮「出席番号順だからー・・・入り口側の隅っこの席か。まあそのうち席替えでなんとかなるよね」

五井「おはようございます。はいはい静かにー。えーっとだなぁ、今日はまず9時半までホームルームをして担任の俺も含めみんなに自己紹介をしてもらう」

五井「それが終わったら体育館に移動して45分の入学式。終わり次第今日は解散ということになります。なので、ホームルームが終わったら持ち物は全部持って移動」

五井「ん?・・・手ぶらの奴が何人かいるぞ・・・まあとりあえずー今日は何もなくてもなんとかなります。明日もまぁー、カバンかでかい袋かあれば大丈夫かなぁ」

五井「初版の事情で教科書は明日配ることになるので、それだけは覚えといてな?」

一宮「しっかりしてるのか、そうじゃないのか・・・よくわからない人」

五井「それじゃあまず、担任の自己紹介から行きますか。黒板に注目ね」

五井「五井了五、最初も最後も数字の五。担当は社会科全般。君らの学年では現代社会、クラスによっては政治経済を担当します。人柄とか趣味とかは・・・まあ、おいおい授業のネタに挟んでいくと思うのでよろしく」

一宮「(えっ・・・これ・・・偶然ってレベルじゃないよ!今までの人生でこの法則が当てはまるのは、僕と二神だけかと思ってたのに)」

五井「それじゃあ早速みんなに自己紹介してもらいます。特にネタがなければ名前だけでも構わないぞ。まずは・・・一宮」

一宮「は、はい!」

五井「 頼むぞ、切り込み隊長」

一宮「えーっと、一宮桂一といいます。小学校からずっと出席番号が1で名字が あ から始まる知り合いがいません」

一宮「・・・何言ってんだろ・・・あっこれからよろしくお願いします」

五井「はいありがとう。トップバッターに恥じない声明の持ち主だな」

一宮「えっ・・・あっ、はい」

五井「それじゃあ次は・・・井上」

一宮「(緊張しまくって変なこと言っちゃった・・・滑ったかなぁ?まあ、あれは本当のことなんだけど・・・)」

三屋「(先生が5 、そして最初の子が・・・1・・・これ!もしかして!!)」

五井「そろそろ半分を越えてきた頃だなぁ、おっ・・・また数字が出てきたぞ。次は二神」

二神「はいっ、りょくえん中(漢字不明)出身の二神駿二といいます。野球やってたんで、それきっかけで仲良くなれればいいと思います・・・よろしくお願いします」

五井「二神は聞くところによれば、りょくえん中では知る人ぞ知る守備の達人だったらしい、玄人好みのプレイヤーは俺も好きだなぁ・・・ああ、それじゃあ次は堀」

一宮「二神そんなに有名人だったの・・・?それともこの先生、実は隠れファン?・・・謎だ、色々と謎だ」

三屋「間違いない!これはもう偶然じゃない、運命だよー!!・・・ただ、4がいないのが惜しいけど・・・よし、1、2、3で友達になるために思いっきりアピールしてやるぅ!!」

五井「凄いなぁ、こんな偶然があるとは・・・はっはっ、俺もびっくりだ。次、三屋」

三屋「はい!、私もびっくりです!!名字も名前も3がつく三屋三亜っていいます。数字つながりで、みなさんどんどん友達になってください!!」

五井「一宮、ご指名だぞ」

一宮「(何これ、何なのこれ!突然の展開に何も言えない・・・)」

五井「恥ずかしくて答えられないのか・・・フッまったく可愛いもんだな」

三屋「あっなんか・・・ごめんなさい・・・とにかく、よろしくお願いします!」

五井「アピールが強いのはいいことだぞ、はい次は室見」

三屋「あっちゃーしくじったかなぁ?だけど、チャンスはまだ絶対あるはず」

一宮「(先生、初対面なのにいきなりふらないでよ・・・てか、なんで僕だけ?やるならせめて二神も一緒に巻き込んで・・・)」

五井「よし、一通りみな自己紹介が終わったな。それじゃあ体育館に移動するからついてきてくれよ?・・・ああ、悪いが今日だけは番号順に並んでくれ」

三屋「(あっ、残念・・・これじゃあ圭一くんと二神くんに近づけないよぉー)」

一宮「(やっぱり僕が先頭だよね、まあもう慣れたけど)」

二神「(式が終わったら部活見学だなぁ、楽しみだぜ)」
 
 
 
校長「新入生の皆さんこれより3年間、よく学び、よく遊び、青春の忘れ得ぬ時を過ごしましょう・・・ただいまをもちまして、県立万零高校、第34回入学式を閉式致します。一同、礼」

五井「はいはい、静かに。今日はこれで解散ですが、最後に一点。君らの学年は一年だが教室は3回だからな?明日以降も間違えないように、それじゃあ解散」

一宮「あ、入る時が先頭なら出る時は一番後ろか、早く二神追いかけないと・・・」

一宮「うぅっ・・・ハァハァハァ・・・」

二神「お疲れ、いち」

一宮「二神、これからどこいくの?」

二神「決まってんだろ?野球部の部活見学だよ」

一宮「ああ、そうだよね。そこは譲れないもんね」

二神「そんなわけで、俺は見学してから帰るから・・・お前は先帰ってても大丈夫だぞ」

一宮「ねえ、ちょっと気になったんだけど・・・」

二神「うん?・・・なんだ?」

一宮「入り口に部活の先輩達がどっときてるけどさぁ」

二神「ああ、勧誘だろ?中学でもあったじゃん」

一宮「いや、それは勿論わかるよ?僕が気になるのは・・・その中に野球部らしい人がいないってこと」

二神「えっ・・・ゔぁ・・・ゔぉおいまさか、そんなわけないだろ」

一宮「みんなこれとわかるユニフォーム着てたり道具もってるけど・・・一番左がバスケ部、その隣がサッカー部、剣道部、陸上部、んーやっぱりいないよ!」

二神「いや、待て待て・・・よーく目を凝らして見るんだな」

五井「なーあ、二神・・・ちょっといいか?」

二神「あっ、先生」

五井「その・・・な?非常に残念な事実なんだが・・・」

二神「えっ・・・もしかして」

五井「野球部は残った2年がそれぞれや↑む↓を得ない事情で全員や↑め↓て、活動停止になったんだ・・・」

二神「えっそんなぁ・・・そんな・・・」

五井「申し訳ない、入学早々落ち込ませちまって」

二神「俺の・・・青春・・・」

一宮「二神・・・気持ちはすごく分かるけどとりあえず今日は帰って、また明日どうするか考えようよ?」

二神「バットも・・・スパイクも・・・全部残しといた・・・はぁぁ、俺の・・・俺の青春」

五井「あーあ、並大抵のショックじゃないなこれは・・・」

一宮「(どうしよう、ここまで落ち込ん出ると幼馴染でもどうしたらいいかわからないよ・・・)」

三屋「思わぬチャーンス!じゃなかった、私の仲間になるであろう人が落ち込んでる・・・これは放っておけるわけない!!」

一宮「うわぁ、あれ、えーっと」

三屋「三屋三亜だよ」

五井「おぉー、今度こそご指名だぞ一宮に二神」

一宮「先生、さっきからちょいちょい悪ノリしてません?」

五井「はははっ、それは気のせいじゃないか?」

二神「なんだよ・・・俺は今誰とも話したくないんだ・・・」

三屋「話したくないなら、話半分に聞いてくれればそれでいいの。これは、私のわがままだから」

二神「うるせぇ・・・勝手にしろ」

三屋「うん!勝手にする!!」

一宮「一応、僕はちゃんと聞いてるから・・・」

三屋「ありがとう!えっとね、同じ数字を持つ仲間としてあたしと友達になって欲しいの!!その代わり・・・あたし、頑張って2人を助けるから!!」

二神「・・・んぇ」

三屋「・・・遠くから引っ越してきたばかりで、この街のことも知らないし、不安でいっぱいだし何より・・・」

五井「三屋その先は言うな、俺もそういう奴はたくさん見てきたからな・・・」

三屋「いえ、言わせてください。私・・・友達を作るのが・・・凄く、苦手なんです!」

五井「どういう形であれ必死にきっかけを編み出して頑張れる奴はいい奴だ。一宮、二神、こいつの純粋な思いに・・・どうか答えてやってくれ」

二神「わかったよ・・・だけど、どうやって俺を助けるんだ?相当ショックだった・・・この傷は中々癒えないぞ」

三屋「勿論マネージャーみたいにいくらでも個人練習には付き合うし!あっ後さ!!あたしたちとなんか部活みたいなことやろうよ!!」

一宮「どちらかと言うと、そっちの方が中心に聞こえるんだけど・・・」

三屋「ぎくぅ・・・」

五井「まあ、悪くはないだろう。二神もこれを機に野球以外に視野を広げてみたらどうだ?」

二神「んっ・・・なんだか初めてあったのに前から俺を知ってるかのような言い方ですね」

五井「そりゃそうだ、中学時代からお前のプレイに魅せられたファンの一人だからな!自己紹介の時に言ってたあれはほんとの事なんだぞ」

一宮「二神ってやっぱり密かに有名人だったんだ。それでさ、そのやりたい事って何?」

三屋「優しいなぁ、桂一くん興味持ってくれたんだね!?あたしたちでさぁ、一緒に遊んだりするのもそうだし・・・暇があったら、困ってる人を助けようってのはどうかな!!」

二神「俺たちそんな大した事が出来る奴らじゃないぜ?」

一宮「何気に僕も含まれてるけど・・・勿論上に同じ」

三屋「私たちにできる範囲でいいの、もし手にを得なくなったらできそうな人を精一杯探すんだよ!それやるだけでも、ちょっとでも色んな人の役に立てると思わない?」

二神「自分と、自分の家族の事しか考えらんないような俺がお前に協力する資格なんてないなぁ」

三屋「そしたら・・・気が向いたらでいいから、力を貸してくれると嬉しいな・・・勿論!あたしは頼まれなくっても二神くんを手伝いに行くけどね!!」

二神「う、うるせぇ・・・何度言わせんだ・・・勝手にしろ」

一宮「二神、もしかしてツンデレ・・・?」

一宮「・・・ああ、僕は特に入りたい部活とかなかったし、暇さえあれば協力するよ」

三屋「ほんと!?嬉しいー、そしたらさぁ早速だけど名前決めない?」

一宮「・・・何の?」

三屋「あたしたち3人の!いちにーさんだから・・・ワンツースリーでいこうよ!」

二神「センスないな」

一宮「・・・うん、いまいち」

三屋「ぅぅう、そう?・・・ごめんなんか他に意見ある?」

一宮「急だから何も思いつかないや」

二神「お前の無茶な提案でできた部活もどきだし、お前の案でいいだろ」

三屋「なんか投げやりっぽいのが気になるけどー・・・それじゃーワンツースリーで!」

五井「よぉし、そういう事なら数字を持つ同志として、俺も君らに協力するぞ」

一宮「あんまりいい予感がしないのは、気のせいかなぁ」

五井「この五井了悟、今日から君らのワンツースリーの顧問を拝命しよう」

三屋「うわぁー、ありがとうございます先生!」

二神「フッ・・・いち、この2人が暴走したらお前が抑えたぞ(聞き取れない)」

一宮「今のうちに言っとくけど・・・それは無理」
 
こうして数字の縁でつながった、というより連なった3人の高校生たちのドタバタな日常が幕を開ける事になった。
どこへ向かうかわからない3人と、それを支えているのか、焚き付けているのか分からない曲者教師五井。
彼らはこれからどんな人物と出会い、どれほどの事件に遭遇していくのであろうか。