書き起こし/ディスポ

Last-modified: 2016-06-19 (日) 02:20:57

●1幕 Suicide《スーサイド》1

霖之助「スポイル。スポイルとは、本来もっている良い性質を損なうこと。物事をすっかり台無しにしてしまうこと。または、甘やかして台無しにしてしまうこと」
秋。夕方。とある学校。ランニングをする生徒達の掛け声。下校を告げるチャイムとともにひぐらしの鳴き声が聞こえる。
部活を終えて帰宅準備の生徒3人。
女子高生A「はー!終わった終わったー!!ねえねえボーリング寄って帰らない?」
女子高生B「元気だねー・・・私もうそんな元気ないよー」
女子高生A「じゃあさ、カラオケでいいからさ。いこうよー」
女子高生B「えー、カラオケたかいよー」
女子高生A「ちょっとだけちょっとだけ」
女子高生C「私はごめんね。用事あるんだ」
女子高生A「ええー?」
女子高生C「ごめんね」
女子高生B「しょうがない。じゃあ(私が)付き合うよ」
先生「おーい、陸上部。いつまでもだらだらしてないでさっさと帰れ。大会近いんだろ?」
女子高生ABC「はーい」
女子高生A「いこいこ」
女子高生C「あ、じゃあ私、まだ用事あるからここで」
女子高生B「うん。じゃーねー」
女子高生C「ばいばい」
女子高生B「明日はつきあってよー?」
女子高生C「うん、ばいばい」
女子高生B「ばいばーい」
帰るA・B。ひとりごちるC
女子高生C「さてと・・・屋上まだ開いてるよね」
一人階段をあがってるC。ふと足を止めると、運動部の掛け声が聞こえる。
女子高生C「がんばってるなー・・・私達も負けてらんないよね」
再び階段を上るC。屋上への扉を開く。
女子高生C「よかったーまだ開いてた」
屋上へあがると虫の声と運動部の掛け声がわずかに聞こえてくる。ドアを閉めると歩きだすC。
オレンジ色の夕焼け。牧歌的なBGM。
女子高生C「もう夕方だ。暗くなるのはやくなったなー・・・。最後の大会か。インハイは終わっちゃったけど・・・よしっ大会に向けて明日も練習がんばらないと!・・・さて」
唐突にBGMとSEが止まる。
女子高生C「死ぬか」
間。女子高生Cが地面に激突する音

OP

●2幕 探偵登場

霖之助「1988年。後にバブルと呼ばれる史上空前の好景気。その序幕にあたる時代。僕達は東京にいた」
キーンコーンカーンコーン学校のチャイム。
女子高生D「おーい姫海棠」
はたて「うっ、先輩・・・」
女子高生D「なんだその顔は。水泳部に入る決断、してくれたか?」
はたて「先輩もしつこいですね。決断もなにも、私は部活に入る気なんかないって言ってるじゃないですか」
女子高生D「なぜだ。お前ほどの運動神経を無駄に遊ばせておくなんてもったいない」
はたて「なぜっつったって、そういうのやる気ないもん」
女子高生D「うーん、個人競技ならインターハイだって夢じゃないのになぁ」
はたて「ま、そりゃ相手が人間じゃあねえ」
女子高生D「ん?なにか言ったか?」
はたて「いえいえ、なんでもないです」
女子高生D「なぁ姫海棠、お前、他(の部活)からも勧誘されているだろう」
はたて「ええ、まあ」
女子高生D「どこか部活にはいっちゃどうだ?このさい水泳じゃなくったってかまわん」
はたて「はあ」
女子高生D「いいか姫海棠、青春は短い。打ち込むものの一つでもやっておかねば後悔するぞ」
はたて「せ、青春ねえ?」
女子高生D「冗談ではないぞ。お前のためだと思って言っている」
はたて「いやまあ、それはありがたいけどさ、私仕事が忙しいからそういうのは遠慮してるのよ」
女子高生D「仕事?姫海棠お前バイトしてたのか?転校生だから知らないと思うが、ウチの学校、バイトは・・・」
はたて「知ってますよ。バイト禁止でしょ?いいのいいの私の場合、自分で起業してるからバイトじゃないですし」
女子高生D「き、起業だと?お前一体なにをやってるんだ?」
はたて「ふっふっふっ・・・、私立探偵よ」
女子高生D「はあ?探偵って・・・あの探偵か?」
はたて「先輩もなんか困ったことあったらなんでも相談してね!んじゃさよならー」
女子高生D「あ、おい!待て姫海棠!!」
走り去るはたて、女子高生Dを振り切る。走り去る。
立ち止り、振り返る。背後にいるであろう先輩にひとりごとで声をかえるはたて
はたて「ごめんねー、学生生活を満喫してる暇とかなくってさ」
女子高生A「はーたてちゃんっ!!」
背後から突然声をかけられて驚くはたて
はたて「ひゃうお!?」
はたての大声におどろく女子高生A
女子高生A「ひゃあああ!?」
はたて「な、なんだ明日香か・・・」
明日香「もう~、びっくりさせないでよねぇ~」
はたて「ごめんごめん。なんか水泳部の勧誘うけちゃってさぁ・・・」
明日香「はたてちゃん運動すごいできるもんね。どっか入ればいいのになー」
はたて「明日香まで先輩と同んなじこと言うんだから」
ふたり、会話をしながら下校に歩き出す。牧歌的なBGM
明日香「でもしょうがないよね、はたてちゃん、お仕事あるし」
はたて「まあね。つっても来る依頼は迷子の猫を探してくださいってやつばっかだけど」
明日香「うわあ、いいなぁ猫。私猫だいすき。最近はやってるよねー外国の猫。アフリカンショートヘアだっけ?」
はたて「アメショね、アメリカンショート」
明日香「そっかー・・・アフリカに猫いるのかな?」
はたて「しらんがな」
明日香「いいなーウチでも飼えないかなー」
はたて「猫飼うのが仕事じゃないからね?私」
明日香「あ、そか・・・ねえ、はたてちゃん?」
様子が暗くなる明日香。足を止めてうつむく。BGMフェードアウト。
はたて「ん?」
明日香「私も、はたてちゃんにお仕事頼んでもいい、かな」
はたて「猫の探し方くらいただで教えてあげるわよ」
明日香「ううん、そういうのじゃ、なくて・・・その・・・」
明日香が真剣になった様子を感じてはたても真剣になる。しかし、優しく気を使うように声をかける
はたて「・・・なにか困ったことでもあった?」
明日香「ねえはたてちゃん、頼子ちゃんって知ってる?同じクラスの」
はたて「ヨリコ?そんな子いたっけ?」
明日香「うん。うちの番長みたいな感じの子」
はたて「番長・・・」
明日香「はたてちゃんが転入してきたときには、もうあんまり学校に来なくなってたから」
はたて「ふうん。不登校ってやつね。で?そのヨリコがなんなのよ」
明日香「うん・・・私、心配になっちゃって・・・」
本題に入ったことを察して優しく促すように相槌をうつはたて
はたて「うんうん」
明日香「頼子ちゃんの家まで行ってみたんだけど・・・」
場面過去。頼子の家の前の明日香。声リバーブ
明日香「ええと・・・このアパートで、あってる。ここが頼子ちゃんの家・・・」
SEチャイムのおと。
明日香「頼子ちゃーん。私だよー、明日香だよー(SEチャイム)。頼子ちゃんいないのー?」
場面現在。リバーブ消える
はたて「ヨリコは、呼んでも出なかった」
明日香「うん」
はたて「たまたま留守にしてただけなんじゃない?」
明日香「私も最初は(そう思ったんだけど)・・・家の人も含めて留守なのかなって」
場面過去。リバーブ。SEガチャ。ドアをあける音
明日香「頼子ちゃーん・・・ううーん、留守なのかなぁ」
隣人「ちょっと?うるさいんですけど。なにやってんのあなた?」
明日香「あ、すすみません・・・もう、帰ります・・・」
隣人「ったく・・・」
明日香「あっ!ちょっと待ってください!」
隣人「なに?」
明日香「あの、ここの家の人、いつぐらいにいるか知りませんか?」
隣人「はあ?」
明日香「私、その、友達で・・・だから・・・」
隣人「あのねえ、ここの家、ずいぶんと前位から空き家ですよ」
と、それだけを言うと、隣人は自分の部屋にひっこんでしまう。
場面現在へ戻る
はたて「ヨリコの部屋は空き部屋だった。しかも随分前から」
明日香「うん」
はたて「住所間違えたんじゃなくて?」
明日香「そう思って学校の先生に確認してみたの・・・そしたら」
はたて「そしたら?」

明日香「頼子ちゃんの住所を知ってる人がいないの。それどころか頼子ちゃんがいなくなったことなんて知らんぷりで・・・まるで避けてるみたい。頼子ちゃんがいないってことを・・・」
はたて「ふうーん?たしかになんか妙ね・・・」
明日香「うん・・・」
はたて「で?私に依頼したいことって?(寸間)だいたい予想ついてるけど」
明日香「はたてちゃん、頼子ちゃんを探してくれませんか」
はたて「ふふん。言っとくけど私は安くないわよ」
明日香「えっ?・・・それじゃ」
はたて「いいわ、頼子の捜索、私が引き受けてあげる」
明日香「あ・・・ありがとう!はたてちゃん!」
はたて「ふふっ、友達の頼みは断れないわよ」
明日香「はたてちゃん・・・」
はたて「それに・・・このヤマなあんか臭うのよね。ただの行方不明ならいいけど」
明日香「それって怖いことが起きてるってこと?やめてよー・・・」
はたて「それを調べるのよ、今からね。じゃ早速取材・・・じゃなかった捜査にいくわよ」
明日香「え?そ、捜索ってなにするの?」
はたて「まずは聞き込みね。頼子のアパート。そこを管理している会社へ行ってみるわ」

●3幕 アメイジングライフ編集部

雑誌アメイジングライフ編集部。電話がひっきりなしに鳴る。どれも雑誌の内容に対しての苦情である。背後で編集者たちの怒声。(編集ABの声)雑誌の編集部というよりはヤクザの事務所のようである。
編集A「はいアメイジングライフ編集(間)オタクもしつこいねえ!知らねえものは知らねえって言ってるだろ!」
編集B「いや、そんなこと言われましてもねぇウチは記事書いてるだけですからねぇ、真偽まではわからんのですよ、これが・・・」
机に足を放り出し、紙飛行機を飛ばしてあそんでいる編集長。紙飛行機はさきほどボツにした自身の記事である。
編集長「あーあー、なんだかなぁ・・・最近めっきり活きのいいネタがありゃしねえ。これじゃ読者どもの食いつき、どんどん悪くなっちゃうよ・・・いっくら景気がよくったってよ、こんな夢のねえ時代じゃあなあ・・・」
そんな中ドアを勢い良く開き射命丸出社
射命丸「やあやあおはようございます皆の衆!毎度おなじみ清く正しい射命丸です!!」
編集長「なにがおはようございますだ馬鹿野郎。もう夕方だ夕方あ!」
射命丸「あやや。ちょいと出遅れましたかねぇ?」
編集長、次第に机をガンガンと踵で蹴りながら罵倒
編集長「ちょいとじゃねえぞ、ええ?ウチはな、昼の2時にはみいんな出社してるんだよ。新人の分際で重役出勤たぁいいご身分だな?ええ?」
射命丸「そんなことより編集長!とくダネですよとくダネっ・・・!」
編集長「人の説教聞き流すんじゃねえぞコラ」
射命丸「実は、近所の高校で学生の飛び降り自殺がありました。ワタクシその取材のために遅れた次第でして」
編集長「それがとくダネか?」
射命丸「左様」
編集長「はぁー・・・(深いため息。間)いいか射命丸。アメイジングライフはな、オカルト雑誌なんだよオカルト雑誌!。幽霊!UFO!謎の生物に都市伝説!俺たちゃそういううさんくせえ記事に命かけてんだ!ガクセーの青春ドラマも、リアルな人死に事件もお呼びじゃねえんだよ!わかる?!」
射命丸「なるほどオカルト。(間)しからば天狗の記事なんてのはいかがです?」
編集長「はっ、天狗だぁ?きょうび天狗なんざ小学生もビビらねえよ」
射命丸「ははぁ、左様で。ま、そりゃそうと、件《くだん》の女子高生の飛び降り、もうちょい詳しく聞いてみちゃもらえませんかねぇ」
編集長「とくダネか?」
射命丸「とくダネです」
編集長「ふぅむ・・・」
編集A「ネタだけでも聞いてやんなよおやっさん、とくダネだってんだからさ」
射命丸「あやややや!そこなチンピラ、いいこといいますねえ!」
編集A「おおよ!俺ぁ文ちゃんのファンだからな!」
編集長「ま、足が速いのだけは認めてやるがな」
編集B「ネタだって悪くねえって。なによりタフだ。くにゃくにゃとタコみてえに軟弱なのにくらべりゃあ拾いもんだぜ、おやっさんよ」
射命丸「可憐さと愛らしさも取り柄ですんでそこんとこお忘れなく」
編集長「ったくいいツラの皮だぜ・・・で?その飛び降りがなんだって?」
射命丸「はいはい!・・・まずはこの連続自殺事件、同じ女子高内で二月《ふたつき》ほど前から起こり始めたものなのですが」
編集長「二月前ったら、お前がウチに来るちょい前くらいか。それで?」
射命丸「自殺者の数はすでに27人にも及んでいます。この時点ですでに異変と言えます。が、ワタクシ射命丸、取材を進めるうちに被害者に奇妙な共通点をみつけました」
編集長「奇妙な共通点?」
BGMアンビエントな感じになる
射命丸「ええ・・・一般的な自殺の特徴に、自殺者の精神状態が普通じゃないってのがあります。過度の心的ストレス、すなわち借金苦や家庭内暴力、成績の不安などが原因になることが多い・・・」
編集長「それがなんだ。んなこたぁ当たり前だろうが」
射命丸「そう。それが当たり前です。ですが、この件《けん》の自殺者はそれに該当するものがない。つまり全員、日常の精神状態だったのです」
編集長「どういうこったそりゃ?」
射命丸「悩みもなければストレスもない。むしろ部活や勉強で明日への活力にあふれているくらいです」
編集長「はああ?」
講談師のように話し出す射命丸。ノッてくる。
射命丸「インターハイ出場の夢やぶれた陸上部員。しかして己の出した結果に悔いることもなく。来週に控えた陸上大会に向けてみなぎる気力。(きりかえして淡々と)そんな人物が突然屋上から飛び降りた。部活の直後、友人と明日遊びに行こうと約束をした直後に・・・どう思います?これ」
編集長「どうってそんなもんお前・・・」

射命丸「おかしい、でしょう?」
編集長「ああ、たしかに」
射命丸「編集長。これは呪いです。現代の、新世代の呪いですよ。死を促す呪い。それがあの女子高でのみ蔓延しはじめている・・・見出しはこうです、すわ!死の呪い!次の被害者はあなたかもしれない・・・」
編集長「・・・おい射命丸」
射命丸「はいはい編集長」
編集長「次号の監修までに記事にしろ。落とすんじゃねーぞ」
射命丸「はいよろこんでー!」

●4幕 姫海棠捜査網

明日香「ここがあのアパートの管理会社、か・・・」
はたて「明日香、あんたなんでついて来てるのよ」
明日香「聞き込みするんでしょ?いちゃだめ?」
はたて「だめ。この不動産屋がクロだとしたら、まっとうな人間じゃないかもしんないでしょ」
明日香「えっ。じゃあなおさらはたてちゃん1人にはさせられないよ」
はたて「私は大丈夫なの。大丈夫だから探偵なんてやってんの。それに明日香がいてもすることないの」
明日香「でも・・・」
はたて「でもじゃない。報告は後ほど口頭と書類で行います」
明日香「・・・私がいたら邪魔?」
はたて「邪魔」
明日香「ひどい」
はたて「ひどくない。いいから帰りなさい」
明日香「うう・・・」
にべもないはたての言葉を受けてべそをかいてしまう明日香。それを見てちょっと気が引けるはたて
はたて「ったく・・・っていうかさ、その頼子って子?なんでそこまで肩入れすんの?友達だから心配ってのはわかるけど」
明日香「うん・・・私ね、高校入ってからいじめにあってたんだ」
はたて「えっ!明日香が!ちょっと大丈夫なの?それって」
明日香「大丈夫だよ。大したことなかったし・・・頼子ちゃんが、助けてくたから」
はたて「そ、そう?ならいいけど」
明日香「頼子ちゃんとはそれからの友達なの」
はたて「そっか・・・じゃあ心配だよね。うん!私がなんとかするから!安心して?ね?」
明日香「お願い・・・はたてちゃんも気をつけて」
はたて「まかせなさいって」
ばてん
自動ドアの音 ドアが開いたチャイム
不動産屋「(ドア音に対しての挨拶)いらっしゃいませ。(切り返してはたてにかける)どうぞおかけください」
はたて「あ、はい」
不動産屋「お部屋をお探しですか?」
上の空な感じのはたて
はたて「ええ、まあ・・・」
はたて心の声リバーブ「さて、どう切り込んだものか」
不動産屋「左様でございますか。ご予算などお決まりでしたら・・・」
はたて「あーごめんなさい。実はもう入りたい部屋決まってて」
不動産屋「お調べになって来られたのですね」
はたて「そうなんですよ」
不動産屋「それはそれは、お手数をおかけしました。住所か建物の名前はお分かりになられますか?」
はたて「大体の住所しかわからないんですけどー」
不動産屋「ええ、結構ですよ。こちらで調べますから」
はたて「えっとー、四丁目のー」
不動産屋「はい、四丁目の」
はたて「コーポブータン、イチマルニ号室」
間 BGMアンビエント
不動産屋「・・・ええっと・・・お客様?それはどこでお調べにになりました?その建物は・・・」
口調が強くなるはたて
はたて「隣人がね、言ってましたよ。この部屋にはずっと前から誰も住んでいないって」
不動産屋「ど、どういうことです、それは・・・」
はたて心の声リバーブ「この動揺っぷり、ビンゴね。さて・・・」
はたて、人が変わったように口調がかわる
はたて「お前、勘が悪いな・・・なぜ話がもれているんだと聞いているんだよ」
不動産屋「ちょ、ちょっとまて!私のせいだと言いたいのか!?知らない!私は口を滑らせるようなことはなにも・・・!」
はたて「口を滑らせるようなことはしていない?」
不動産屋「そうだ!当たり前だろう!あんただって・・・」
素の喋り方にもどるはたて
はたて「あら残念。滑らせたわよあんた。たったいま」
不動産屋「あっ・・・っ!き、きさま・・・」
はたて「こんなあっさりカマにかかるなんて、あんたよっぽど下っ端でしょ」
不動産屋「きさま一体何者だ・・・」
はたて「姫海棠はたて。探偵よ」
不動産屋「探偵だと・・・あの小娘のことを嗅ぎ回っているんだな・・・誰に頼まれた!」
はたて「あの小娘・・・頼子のこと?」
寸間
不動産屋「頼子?なんだそれは」
ミステリっぽいジングル
はたて心の声リバーブ「あれ?」
はたて「あんた、なんか知ってるんでしょ?大人しく話すなら手荒なことはしないから・・・」
震えだす不動産屋。恐怖に怯え出す
不動産屋「あ・・・ああ、あ・・・」
はたて「ん?どしたの急に」
SE怪しげズモモモモ
不動産屋「違う!私じゃない!私は!」
はたて「落ち着きなさいって、私は・・・」
獣の咆哮。場に妖怪が現れる。筋肉が異常発達した闘犬のような姿している。体毛はなく、真っ黒な身体。憤怒が極まったような凶悪な表情している。目は赤く発光し、呼吸をする口からは時折炎がちろちろと姿を見せている。恐怖の悲鳴をあげる不動産屋
はたて「な、なによこいつ」
明日香「はたてちゃん!なにがあったの!!」
はたて「明日香!?あんたなんで!」
明日香「なに、あれ・・・?」
はたて「馬鹿!入ってくるな!!」
不動産屋「はああー!!!」
不動産屋恐怖の叫び。不動産屋に襲いかかる獣。
はたて「明日香!見ちゃダメ!」
不動産屋「ぎゃー!」
断末魔の悲鳴をあげる不動産屋。骨の砕ける音。
はたて「うっ・・・」
不動産屋を喰らい尽くす獣。はたてを一瞥すると煙のように消える
明日香「は、はたてちゃんっ・・・」
はたて「大丈夫。もう消えたわ」
明日香「いまのなに?消えた・・・ってどういうこと?」
はたて「そんなの、私にだってわかんないわよ。でもこれで手がかりは減っちゃったね。おまけに、たぶん面が割れたわ。あんたも」
明日香「わ、わたし・・・」
ただ震える明日香
はたて「まさかあんなのが出て来ちゃうとはね・・・思ってたよりややこしそうじゃん・・・」

●5幕 外の世界の香霖堂

戸を開ける音。ガラララ。
マダム「ごめんあッさあせ!」
霖之助「いらっしゃい」
マダム「あーたが香霖堂さんですの?アタクシ、我が家のお宝を引き取っていただきたくて伺ったんですの、お宝を!」
霖之助「そうですか。そりゃどうも」
マダム「この壺なんですけれどもね?」
どん。置かれる壺
マダム「我が家に代々伝わる秘宝ですのよ。宅でまた猫ちゃんを飼うことになりましてね。置けなくなってしまったんですの」
霖之助「はあ」
マダム「これ、おいくらになりますかしら。我が家に代々伝わる秘伝の壺なんですけれども」
霖之助「秘伝ねえ・・・じゃあ、ま」
共鳴音
霖之助「フッ・・・ふふふふ・・・・」
マダム「・・・?なにがおかしいんですの?」
霖之助「これはあなたの家の物ですか?」
マダム「ええ。我が名高きご先祖様で作った物でござーますのよ」
霖之助「くっくっくっく・・・くだらん」
マダム「・・・は?」
霖之助「さてご婦人、まずはこの道具の名だが『詐欺師の壺』と言う。用途はその名の通り、善良な一般市民を騙し、そぐわない値段を巻き上げるために創られたものだ」
怒るマダム
マダム「なっ・・・な、なななな・・・・!!なんですってー!!」
霖之助「とぼけているのか?それとも騙されているのか。どっちみちその壺に値段はつけられないね」
マダム「んまー!!なんて失礼な!」
霖之助「失礼はお前だ。秘宝だ?秘伝だ?物を売るなら、出自くらい理解してから来たらどうだ」
マダム「・・・アタクシ、失礼させていただきますっ!!」
霖之助「失礼はお前だと言っている」
マダム「こんな無礼を受けたのは生まれて始めてでしてよっ!!」
バアン。ドア閉まる
霖之助リバーブ「これが僕の『道具の名前と用途がわかる程度の能力』正に商売人になるべくしてもった能力と言える、が」
霖之助「ふう・・・懐ばかり豊かになって、反面心の卑しい者ばかり。なんともいやな時代にやって来てしまったものだ。冗談じゃないよまったく・・・」
射命丸「あややややや。なぁにが冗談じゃない、ですか。こんなへんぴな店がまともにいっているのは、この時代の人間の懐が豊かだからでしょうに」
霖之助「ちがう。僕の商才あっての賜物だ」
射命丸「相変わらずシケた顔してますねぇ。こーんな美少女が遊びにきたんですからもっと愛想よくなさい」
霖之助「くっ・・・なにが美少女だ。この古狸が」
射命丸「いやですねぇ、狸じゃなくて天狗ですよ」
霖之助「どうでもいいよ。要がないなら帰れ。あるならさっさと済ませて帰れ」
射命丸「やれやれ、あなた相手じゃ、コミュニケーション能力はさほど重要になりませんね」
霖之助「悪かったな」
射命丸「めっそうもない、楽だって言ってるんですよ。今日はあなたに相談がありましてね・・・」
ジングル。時間経過
霖之助「ふうん?ごくごく一般的に充実した生活を営んでいる女子高生が、理由もなく突然自殺する、ねえ・・・」
射命丸「左様」
霖之助「自殺なんて今日日《きょうび》珍しくもないだろう。現代病ってやつじゃないのか?」
射命丸「そうかもしれません・・・でもねぇ、それじゃあ記事になんないんですよ」
霖之助「知らないよ、そんなの・・・」
射命丸「我がのアメイジングライフはオカルト雑誌です。それっぽい知識ありませんか?香霖堂」
霖之助「あるよ」
射命丸「あやや即答!教えなさい」
霖之助「いやだね」
射命丸「なんで!」
霖之助「冗談じゃない。なんで僕があなたの記事の手伝いをしなきゃあならないんだ。言っとくけどあなたには貸しもなければ恩もないんだからな」
射命丸「またまたイケズなんだからぁ~そんなこと言いっこなしですよ!」
霖之助「いいじゃないか、死にたいやつは死なせておけば」
射命丸「それじゃ記事にならないんですってば!ねえ~香霖堂~たのみますよぉ~」
霖之助「断る。帰りたまえ」
射命丸「・・・あなたが八雲の御大将から賜った依頼の内容、私知ってるんですよ?」
霖之助「なんだって?」
射命丸「んふ?記事が雑誌になって噂が広まれば妖怪が生まれるかもしれませんよ?人の想像力と信仰こそが我ら妖怪の存在の源ですからね」
霖之助「はあ~・・・いいだろう」
射命丸「最初から素直にそういえばいいんです」
霖之助「あなたはその連続自殺を妖怪のせいにしたいんだな?」
射命丸「それがベストですね」
霖之助「くびり鬼というものを知っているかい?」
射命丸「くびり鬼、ですか」
霖之助「いき、いつき、大陸ではイーグィとも言う。死神の仕事を、一部代行する妖怪だ。ところであなたは冥界に定員があるのは知っているかい」
射命丸「まぁそのくらいは。定員オーバーになったら死者は冥界に入れないんですよね?」
霖之助「そう、定員の空き待ちをする所が、例の幽霊がいるおなじみ白玉楼だ」
射命丸「あいかわらず話がまわりくどいですねぇ・・・」
霖之助「何か言ったか?」
射命丸「いえいえ。冥界の定員には上限があるって話ですよね。それで?」
霖之助「それで、あまり知られていないが、冥界の定員には、これ以下に減ってはいけないという下限もあるんだ」
射命丸「へぇ・・・そうなんですか」
霖之助「冥界は定員が少なくなったら補充《ほじゅう》をしなければいけない。そんな時、くびり鬼の出番というわけだ」
射命丸「ふーん」
霖之助「なんださっきからその態度は」
射命丸「長いんですよあなたの話は、要するになんなんです?そのくびり鬼ってのは」
霖之助「要するにくびり鬼は人間を自殺させる妖怪だ。そうすることで足りなくなった冥界の定員を補充する」
射命丸「なるほど、人をくびる鬼、くびりの鬼って訳ですね」
霖之助「この妖怪が発する死への誘惑は相当な強制力をもっていてね。普通の人間じゃあまず逆らえない。それこそ日常に満足している人間でも、突然死ななければないない、と言った心持ちになるんだ」
射命丸「今回の件にぴったりじゃあないですか!それ、いただきです!」
霖之助「どうかな。新たに妖怪を生み出すには、その自殺事件とくびり鬼は親和性が高すぎる。たんに本物が来てたんだとしたら、紫の依頼に足りるものにはならないよ」
射命丸「さあ、それはこれからの働き次第でしょう。事実を創造し結果をコントロールするのがジャーナリストの仕事ですからね」

ジングル

●6幕 探偵、香霖堂にくること

はたて「はあ~あ。結局ここを頼りにしなきゃなんないだなんて。情けねーやらめんどくせーやらで憂鬱・・・」
明日香「ここって、雑貨屋さん?こーりんどー・・・って読むのかな?ここがなんなのはたてちゃん?」
はたて「知り合いの店・・・入るわよ」
明日香「う、うん?」
ドアが開く
はたて「霖之助、いる?」
霖之助「やれやれ・・・今度は君か」
明日香「こ、こんにちはー・・・」
霖之助「こんにちはお嬢さん。なんの御用かな?」
明日香「え?えっと、あの、私じゃなくて、その・・・」
はたて「人の友達ナンパしてんじゃないわよ」
霖之助「ナンパなどしていない挨拶だ。あと言っておくが、僕は挨拶をしないようなやつは相手にしないからな」
はたて「さっきしたじゃん」
霖之助「いる~?なんて挨拶はない。こないだ教えてやっただろう。やってみたまえ」
間、やがてはたてぎこちなく
はたて「・・・御機嫌よう霖之助」
霖之助「御機嫌ようはたて。さっさと要件を言って帰るがいい」
はたて「コンニャロー・・・」
霖之助「まさか、買い物をしに来たのかい?」
はたて「んなわけないわよ。私、今とある依頼を調査してるんだけど・・・」
霖之助「まだ探偵ごっこを続けてるのか」
はたて「ごっこじゃないわよ失礼ね」
霖之助「まあいい。話くらいは聞いてやろう。で?依頼がどうしたって?」
はたて「行方不明になった頼子って子を探して欲しいって言う内容。この子が依頼主の明日香」
霖之助「はじめまして明日香君。僕は森近霖之助。見ての通り普通の雑貨屋店主だ」
明日香「は、はじめまして、森近さん」
霖之助「うん、いい返事だ。でははたて、話しをつづけたまえ」
はたて「・・・ま、いいわ。実はね・・・」
ジングル。時間経過
霖之助「ふむ・・・存在がなかったことになった少女に、獣のような化け物ね。なるほど興味深い」
はたて「不動産屋はなにかを知ってた。でもそれを聞き出す前に・・・」
霖之助「妖怪に食い殺されたわけか。ふむ」
明日香「あんなお化けが現実にいるだなんていまでも信じられません」
霖之助「信じられない?そうだね、現代日本に化け物や妖怪や、ましてや天狗なんているわけがない」
はたて「いい度胸してるわねあんた」
明日香「もしかして頼子ちゃん、あの化け物に襲われたんじゃないかって思うと・・・怖くて・・・」
霖之助「ああ、それは大丈夫だよ。保証する」
明日香「本当ですか・・・?」
はたて「おっ、あんたにしては気がきくこと言うじゃん」
霖之助「は?」
はたて「大丈夫だよだなんて、安心させてあげたんでしょ?」
霖之助「安心させて?なんで僕がそんなことをする必要があるんだ?」
はたて「・・・あっそ」
霖之助「君達がみたという犬に似た化け物、それは妖怪ではなく式神だ」
はたて「式神?あれが?」
霖之助「そう」
はたて「なんでわかんのよ。みてもないくせに」
霖之助「その程度の事、話を聞けば大体わかる」
明日香「式神って、あのゲームとか漫画に出てくるあの式神ですか?」
霖之助「そうだ」
明日香「そんなのが・・・本当にあるんですか?」
霖之助「おや?君は怪物を目の当たりにしたのに、式神は信じないのかい?」
明日香「そ、そうですけど・・・もしかして大きい犬だったかもしれませんし・・・」
霖之助「その式神が、さっきから君の目の前にいて、会話までしているっていうのにかい?」
明日香「目の前、って・・・」
カウンターの奥のドアが開き、人物が現れる。森近霖之助である。
霖之助「そう。さっきから君が話しかけている僕。それが式神だ」
明日香「あ、あれ?森近さんがもう一人!?ふ、双子だったんですか!?」
霖之助「僕はさっきからずっと奥の部屋にいたよ」
明日香「えっ、えっ、えっ?」
霖之助「店番をしていた僕が式神だ」
と言うと、こもった爆発音とともに消える式神霖之助
明日香「きゃっ!?・・・森近さんが一人、消えちゃった・・・」
はたて「式神に店番させてたの?商売の勉強しに来たとか言っといて」
霖之助「あの女からもらったギャラの前払い分だよ。僕は式神とかそういったものとは相性がいいみたいでね、扱いやすいからなにかと重宝している」
あっけにとられてため息を吐く明日香
明日香「はあー・・・」
霖之助「言っとくけど手品じゃないよ、陰陽道の式神を操る術だ。どうだい?これでも疑うっていうのかい?」
明日香「い、いえ・・・信じました・・・」
霖之助「結構。で、だ、君たちが遭遇した式神だが、狛犬と呼ばれるタイプとみて間違いあるまい」
はたて「狛犬」
霖之助「結構手強いよ。君じゃ下手に手を出していたらただではすまなかっただろう」
はたて「手強い?式神なのに?」
霖之助「式神なのに」
はたて「そういえば、どっかの狐も結構手強いって文が言ってたっけ・・・」
霖之助「監視と口封じを命じられていたんだろう。監視対象を食い殺して命令は実行したわけだから、今はもうただの紙に戻っている」
はたて「そういえば、いきなり消えたわ、あの犬」
霖之助「消えたわけじゃない。注意深く観察していれば呪符に戻る瞬間を確認できたはずだ・・・それでよく記者がつとまるな、君は」
はたて「いまは探偵よ」
霖之助「狛犬クラスを操るとなると、術者は相当の実力者とみて間違いあるまい。面倒になるまえに手を引くことを提案するよ」
はたて「やだ」
霖之助「そうかい。なら死なない程度に頑張りたまえ」
はたて「何言ってんのよ。霖之助、あんたも捜査に協力すんの」
霖之助「冗談じゃない。なんで僕が」
はたて「そうくると思ったわよ」
霖之助「大体、捜査の協力って言ったって、僕が操作できるのはせいぜいさっきの式神くらいだよ」
はたて「・・・鬼丸国綱」
霖之助「だろうと思ったよ・・・断る」
はたて「ちょこっと聞き込みの手伝いしろって言ってんの!」
霖之助「見ての通り僕は本を読むのに忙しいんだ。危険を冒してまで外出する気はさらさらないね」
はたて「私が外に来た理由!」
霖之助「は?」
はたて「(はたてが外に来た理由を)あんた興味もってたでしょ。協力してくれるならこれまでに分かった情報を共有してもいいわ」
霖之助「ほう・・・どういう風の吹き回しだい?」
はたて「・・・」
霖之助「たしか・・・プライベートには干渉されてたくないと言っていなかったか?」
はたて「そうよ。(でも)しょうがないでしょ。あんたの力が必要なの」
霖之助「必要なのは僕じゃなくて、一丁目の情報力だろう」
明日香「一丁目?」
霖之助「まあいい(本を閉じる)今回は頼まれてやろう。条件を忘れるなよ」
はたて「言っとくけど成功報酬だからね」
霖之助「かまわないよ。ふっふっふっふ・・・」
ちゃき。刀を手に取る霖之助
明日香「な、なんですかその刀。まさか本物じゃないですよね?」
霖之助「君の言う本物が、真剣かという意味なら本物だよ。名を鬼丸国綱と言う」
明日香「鬼丸国綱・・・いいんですか?真剣って違法なんじゃなかったでしたっけ」
霖之助「大丈夫。これはとある人物から借りている物でね。ま、通行証のようなものさ」
明日香「は、はあ・・・それがさっき言ってた一丁目って事ですか?」
霖之助「その通り。君はなかなか注意力に優れているね」
はたて「本題は理解してるでしょうね」
霖之助「頼子の失踪について。キーワードは、死体になった不動産屋、そしてそれを死体にした式神。そんなところか。認識違いは?」
はたて「十分よ」
霖之助「情報が得られたら香霖堂に戻るから、折を見てまた来るといい。君はどうする?」
はたて「念写が必要になるかもしれない。文のカメラを借りに行ってくる。あいつにも話を聴いてみたいしね」
霖之助「射命丸さんなら、今しがたまでここにいたよ。取材に行くと言っていた。行く先は君のかよっている学校だ。会うなら行ってみるといい」

●7幕 式神と射命丸

学校。夕方。下校してゆく生徒たち。チャイムの音。キーンコーンカーンコーン
その生徒たちに右に左にくるくると声かけてまわっている射命丸
射命丸「へーい彼女ぅ!お暇でしたらワタクシとお話などどうです?あっ、そこな彼女!じつに可愛らしいですね!ぜひお話を聞かせていただいたいのですが!」
女子高生A「ちょっと、なにあの人・・・」
女子高生B「変質者かな?」
女子高生A「わ、私、先生呼んでくるね・・・」
射命丸「あいやまたれよそこな女学生」
女子高生A「きゃー!!」
射命丸「あややや、悲鳴などあげずともよろしい」
女子高生B「な、なんなんですかあなた!」
射命丸「あや!あやや!ワタクシ決して怪しいものではございません。この辺でおきたという事件についてちくとお話をお伺いしたいだけでして。はい」
女子高生A「えっ?事件、ですか?この辺で?」
射命丸「しかりしかり」
女子高生B「へ、へんなことしたら、すぐに警察を呼びますからね・・・」
射命丸「ご安心めされ。天地神明に誓って怪しい者ではございません」
女子高生A「じゃあ・・・ちょっとだけなら・・・」
射命丸「グッド!ではまずお召しの下着の色から・・・」
はたて「アホかー!!」
はたてキック(飛び蹴り)吹っ飛び、ダウンする射命丸
射命丸「あやー!!」
女子高生AB「姫海棠ちゃん!」
はたて「この変質者は私が食い止めるから、いまのうちに行きなさい」
女子高生B「ありがとー!!」
女子高生A「ごめんね!」
倒れながらも這いずるように女子高生を追おうとする射命丸
射命丸「あっ、ああ・・・待って・・・」
はたて「待ってじゃねー」
はたてキック(はたて踏み)
射命丸「ぐええー!!ひ、酷いじゃあないですか・・・はたて・・・」
はたて「文、あんた人の学校の前でなにやってんのよ」
射命丸「あ、あや?ここあなたの通っているとこでしたか」
はたて「そーよ」
射命丸「なにやってるってそりゃもちろん・・・(間)おおー(感嘆)」
はたて「な、なによ・・・」
射命丸嬉しそうに
射命丸「今日の下着は紫ですか!実にアダルティなぐえー!!」
はたてキック(はたて踏み)
はたて「しねっ!いまここで死んでしまえ!!」
射命丸「暴力反対!暴力反対!」
はたて「あんたがっ!踏まれるようなことっ!するからでしょうがっ!」
射命丸「なんですっ!パンツの一枚や二枚っ!減るもんじゃなしっ!」
踏み終了。怒鳴るはたて
はたて「減るのよ!私のは!」
はたての攻撃が止むと一転おちょくり口調になる射命丸
射命丸「しかしあなた、お子ちゃま体型のくせに下着はエロいやつばっかですねぐええー!!」
はたて「このっこのっこのっこのっ!」
はたてキック(はたて踏み)
射命丸「あややややや!このままではワインになってしまいます!やめなさい!ヤメテ!」
はたて「はあはあはあはあはあ・・・はあー・・・ったく・・・立ちなさいよほら」
手を貸すはたて
射命丸「ううむ、踏んだり蹴ったりとはまさにこの事ですね」
はたて「あのねえ・・・で?マジな話なにやってたのあんた」
射命丸「もちろん取材ですとも。とあるヤマを追ってましてね」
はたて「とあるヤマ?」
射命丸「女子高生連続自殺事件。聞いたことがありませんか?」
はたて「連続自殺?なにそれ」
射命丸「この学校でそういった事件が起きているのですよ」
はたて「はあ!?この学校で!?」
射命丸「しかり」
はたて「そんなの聞いたことないわよ。どっか別の場所と間違えてんじゃないの?」
射命丸「私がそんな凡ミスすると思いますか」
はたて「それもそっか・・・うーん、心当たりないなぁ」
射命丸「そうですか。ううむ・・・掘った芋は苦労するほうが美味いといいますが・・・途中で折れてしまっては元も子もないですねぇ」
はたて「へえ、文が弱音なんて珍しいじゃん」
射命丸「私はわりと観察者ですから・・・苦戦していますよ」
過去シーン場転。声リバーブ
射命丸「これ以上取材をするなとはどういう意味です編集長!」
編集長「てめーは日本語がわかんねーのか。取材するなっつたら、取材するなって意味だよ」
射命丸「次号の原稿はどうするんです!まさか落とすなんて言うんじゃないでしょうね」
編集長「俺だってんなことしたかねえさ。だがよ国のお偉いさんから直々にお達しがきたんだよ。例の自殺の件から手をひかねえと、雑誌どころか会社をしょっぴくってな」
現代に場転。過去シーンここまで
はたて「ん?どうしたの?」
射命丸「いえいえなんでも。それよりもこのヤマ、どうも奇妙でしてね・・・誰になにを聞いても有効な情報がまったく得られない。まるで自殺者の存在がなかったことになっているかのようです」
はたて「シラ切られたんじゃなくて?」
射命丸「私も関係者が隠蔽しようとしているものと思いました。ですが、みな嘘をついているようには感じません。知らないんです。実際に身近で起こった出来事のことを」
はたて「んなアホな」
射命丸「長年培ったアヤチャンセンサーが虚偽はないって言っているので間違いありません」
はたて「そ、そう」
射命丸「連続自殺のことを誰も知らない。自殺者の友人までも『言われてみれば最近あの子みないねどうしたのかな』といった感じです」
はたて「ううーん。影が薄かったってんじゃないわよね・・・」
射命丸「もうじき大会を控えている運動部の生徒までもが消えたんですよ?言われてみればそうですね、で済むものでしょうか?」
はたて「存在自体がなかったことねえ。そんなこと本当に・・・ん?存在自体が無かったこと?」
射命丸「記事にしようにも、こうも手ごたえが無いんじゃあねぇ・・・」
はたて「ねえ文、私もいま別のヤマ追ってるんだけど・・・」
射命丸「まだ探偵の真似事などやっているのですか。そんなのやめてさっさと記事を書きなさいって言ってるでしょう」
はたて「うっさい、そんなの私の勝手でしょ。私が追っているのは失踪事件。頼子って子を探してる。この学校の生徒よ」
射命丸「頼子?はて、聞いたことがありませんね」
はたて「その子も存在が無かったみたいになってる。隣人、不動産屋、みんな頼子を知らないって言うのよ」
射命丸「ふうむ・・・それは頼子も、失踪したわけではなく自殺しいてる可能性が高いですね」
明日香「頼子ちゃんが・・・自殺?」
はたて「あ、明日香!?いつのまに?」
射命丸「何者です」
はたて「失踪事件のクライアントで私の友達よ」
明日香「うそでしょ・・・頼子ちゃんが、自殺だなんて・・・」
はたて「大丈夫よ、いまのはただの推理で・・・」
獣のうめき声
明日香「えっ?きゃー!!!」
射命丸「あれは狛犬ですか!?こんなものが今の日本に・・・」
はたて「明日香逃げて!走れ!」
明日香「あ、ああ・・・」
文、無関心そうに
射命丸「腰を抜かしてますね」
はたて「明日香!」
明日香に走り寄ろうとするはたて。慌てる文
射命丸「えっ、ちょ、ちょっと待ちなさいはたて!」
ごあああ!はたてに襲いかかる狛犬
射命丸「いけない・・・はたて!!!」
はたてを庇う文。がぶり。噛まれる文
射命丸「ぐ、うううう・・・・!!」
はたて「あや!!あんたなにやってんのよ!」
射命丸「み、見ての通り、身を呈してですね・・・」
はたて「ちょっと!なんで戦わないのよ!」
バキバキバキ骨が砕かれる
射命丸「ぐああああ!!」
はたて「文ー!!」
消える狛犬
明日香「狛犬が・・・消えた・・・」
射命丸「踏まれたり噛まれたり・・・いやはやモッテモテですねぇ・・・うっ」
倒れる文
はたて「文、ちょっとねえ嘘でしょ・・・文、しっかりして!文ー!!」

●8幕 一丁目の霖之助

霖之助「千代田区一丁目一番・・・ふむ、ここに来るのもしばらくぶりだな」
守衛「あー、ちょっとあなた、ここから先は一般人は入れませんよ」
霖之助「ふむ。守衛か・・・僕の名前は森近林之助。一般人じゃあないよ」
守衛「はぁ、たまにいるんだよなこういう人・・・いいから、ね?帰ってくれないと私が怒られちゃうんですよ」
霖之助「この刀の持ち主に会いに来ただけだ。用が済んだらすぐに帰るよ」
刀をみて警戒を高める守衛
守衛「なんだその刀・・・そ、それは、まさか鬼丸国綱!?」
霖之助「そうだよ」
守衛「それではあなたが陛下の恩人の・・・た、大変失礼をいたしました!!」
霖之助「じゃ、通るからね」
守衛「お待ちください!陛下は現在どなたともお会いになられません」
霖之助「は?なんで?」
守衛「そ、それは・・・」
霖之助「他言はしない。理由があるなら言いたまえ」

守衛「陛下は体調を著しく損なっておいでです・・・」
霖之助「なるほどね、そうだったか・・・じゃ、今日は大人しく帰ろうかな」
守衛「森近さん、失礼を承知で申し上げます・・・」
霖之助「なに?」
守衛「・・・妖怪を産み出し陛下の滋養とする作戦、実行役であるあなたに全てがかかっていると言っても過言ではない。そのために賜った霊剣鬼丸国綱のはずです」
霖之助「急いだからってそうそう見つかるもんじゃあないんだ。新たに産まれる妖怪なんて」
守衛「ですが・・・陛下は・・・陛下のお命は・・・」
霖之助「わかっているよ。すまなかった」
守衛「急いでください。強行的な手段をとった集団があると聞き及んでいます」
霖之助「外の人間で、他にも妖怪を生み出そうなんて企む連中がいるってことかい?」
守衛「はい」
霖之助「何者か知っているな」
守衛「はい・・・内閣情報調査室《ないかくじょうほうちょうさしつ》、情報管理部門《じょうほうかんりぶもん》」

●9幕 病院にて

射命丸「あややや!それでは看護婦さん!病院内のスキャンダルについてひとつ取材させていただきたく!」
看護婦「あの、本当に困るんですけど・・・」
射命丸「あや~?怪しいリアクションですねぇ?さてはあなた・・・」
はたて「アホか」
はたてハリセンすぱあん!
射命丸「おう!」
はたて「すみません迷惑かけちゃって」
看護婦「い、いえ、患者さんは元気が一番ですから・・・」
そそくさと去っていく看護婦
はたて「ったく、なにふざけてんのよ」
射命丸「取材ですよ、取材。あの看護婦クロですね・・・うっぐうぅ・・・」
はたて「えっ、ええ?そんなに強く叩いてないよ?」
射命丸「犬に噛まれた傷の方ですよ・・・いやはやお恥ずかしい・・・」
はたて「ねえ文、なんであの時やられるがままになってたの?やりかえせない理由でもあるの?」
射命丸「んなわけないでしょう。たんに不覚をとっただけですよ」
はたて「不覚って、あんたが?いくら狛犬が強いって言ったって・・・それにその傷。噛まれただけでこんな大怪我するなんてまるで人間じゃない」
射命丸「・・・」
霖之助登場
霖之助「いまの射命丸さんは人間と変わらない。いや、それ以下だ」
はたて「霖之助」
霖之助「いい様じゃないか。そんな体で無茶をしたようだな、射命丸さん」
射命丸「香霖堂、あまり余計なことは言わないように」
霖之助「余計な事じゃないよ」
はたて「なにそれ・・・どういうことなの?」
霖之助「射命丸さんは弱ってる。当たり前だ、なんの準備もなくこっちに来て二月《ふたつき》も滞在しているんだからな」
はたて「詳しく教えなさいよ!なんで文が!」
霖之助「妖怪は人間の想像力が具現化した存在だ。妖怪の存在を信じるものがいなければ、それだけ妖怪の力は衰えるということだよ」
はたて「だからどういうことよ」
霖之助「いまの日本じゃ妖怪は子供のおとぎ話にもならないってことさ。ましてや天狗は名前も知らない人間だって少なくない。射命丸さんの妖力は衰えてさもありなん、だよ」
射命丸「いまとなっては神通力はおろか、スカートをなびかせることすら難儀です・・・とほほほ・・・」
はたて「とほほって・・・あんた大変じゃないの!このままじゃ・・・」
霖之助「このままじゃ射命丸さんは、存在が希薄になり果てて消えてしまうだろうね」
はたて「う、嘘でしょ、そんなの・・・」
射命丸「ま、私が風がおこせなくたって、現代社会には扇風機がありますから、不便はありますまい」
はたて「そういう問題じゃない」
霖之助「そもそも幻想郷は、忘れられようとしている妖怪が消えてしまわないためにあるんじゃないか。自ら望んでそこから出たんだ。死のうが消えようが自業自得だね」
射命丸「そゆことですね」
はたて「いい加減にしなさいよ!!」

はたて「消えるかもしれないのよ。なんでそんなにのんきなのよ」
霖之助「はあ?」
看護婦「あのぅ、ご面会は静かにお願いします・・・」
はたて「私は文が消えるなんて絶対に許さない」
射命丸「許すの許さないのの問題じゃないくて、これはですね・・・」
はたて「霖之助」
霖之助「ん?」
はたて「表にでなさい。話があるわ」
霖之助「そう?そういうことなら香霖堂にでもいくか」
はたて「文!」
射命丸「は、はい?」
はたて「消えるなんて絶対許さないからね。そこでしばらく待ってろ」
締まるドア
射命丸「はあ?・・・あの子のああいうところ、いまだによくわかんないですね・・・ま、悪い気はしませんが?」

●10幕 再び香霖堂

机バアン!
はたて「霖之助!文を助ける方法知ってるんでしょ。言いなさいよ」
霖之助「さっきちゃんと話をしたよ。聞いてなかったのかい?それともただのアホか?」
はたて「アホでもなんでもいいわよ・・・なんか知ってるならさっさと言え」
霖之助「はぁ・・・僕は射命丸さんが幻想郷を出たから弱ってるって言ったんだ」
はたて「つまり幻想郷に戻れば・・・」
霖之助「元に戻るよ。ただ、結界の力に頼った、いわゆる幻想入りは望めない」
はたて「なんで」
霖之助「僕達は結界の力を突破したから外の世界にいるんだ。こっちに来ても結界の強制力で幻想入りさせられてしまうんじゃ滞在できないだろ?そういう風に仕掛けてもらっているのさ、僕たちは」
はたて「だったらスキマに直接頼みましょう・・・あんたこないだ香霖堂で言ってたわよね」
はたてリフレイン「式神に店番させてたの?商売の勉強しに来たとか言っといて」
霖之助リフレイン「あの女からもらったギャラの前払い分だよ」
はたて「前払い分って言ったわ。ってことはスキマ女から何かの依頼を受けていて、それはまだ終わっていない。ちがう?」
霖之助、愉快そうに
霖之助「そうだね。確かに僕は紫と契約を交わし、それを満たすためにこっちに来ている。で?どうする?」
はたて「依頼が完了したらスキマ女と会うんでしょ。残りのギャラを受け取るために。その時に文だけでも幻想郷に帰してもらうわ」
霖之助「なるほど。ま、面白いんじゃない?・・・やってみたまえ」
はたて「やってみるわよ。だから教えて。あんたがスキマ女から受けたの依頼ってなに?」
霖之助「・・・新たに妖怪を産み出し、それを幻想郷に連れて行くことだ」
はたて「妖怪を、産み出す?」
霖之助「そう」
はたて「そんなのどうすれば・・・」
霖之助「興味あるならオスの鴉天狗をみつけて誘惑でもしてみたら?」
はたて「するか!」
霖之助「冗談はさておき」
はたて「コンニャロー・・・」
霖之助「あてがないわけじゃない」
はたて「まじで?」
霖之助「まじだ。この依頼、一応真剣に動いてはいるんだ」
はたて「一応かよ」
霖之助「さて、僕はさきほど面白い情報を仕入れた」
はたて「一丁目の情報ね」
霖之助「そうだけどそうじゃない。彼は体調不良で面会謝絶だったよ。そんなことより・・・」
はたて「割と一大事なんじゃないのそれ」
霖之助「この事件、裏で内調が動いている」
はたて「内調って・・・もしかして内閣調査室のこと!?」
ナレ「内閣調査室とは、内閣の政策に関する情報の収集調査を行う機関とされている。が、実際は古来より生き残る呪術の確保や、新たな魔術の研究、そしてそれらの行使を日本政府の名のもとに行う、いわば日本の中枢に横たわる巨大でかつ本物のオカルト実行集団なのだ」
霖之助「彼らの目的もまた妖怪を生み出すことだと言う。そこではたて」
はたて「なに?」
霖之助「念写を3種類ほどするんだ」
はたて「3種類?3枚じゃなくて?」
霖之助「うん。3種類、数枚」
はたて「いいけど・・・出来は保証しないわよ。文ほどじゃないけど調子悪いから」
霖之助「まったくだ。射命丸さんは致命的にまで弱ってるのに、なぜ君はそれほど様子が変わらないんだ?同じ鴉天狗なのに」
はたて「そんな事私が知るか。あと文のポラロイド借りられなかったから、これしかなくって」
ことり。ふところからフジカラー写ルンです
霖之助「・・・それ、写ルンですじゃないか。フジカラーの」
はたて「うん・・・だから期待しないでね」
霖之助「別にお見合いに使うわけじゃあないんだ。写ってりゃそれでいい。君の念写は名前がわかればそれを媒介として写せるんだったな」
はたて「うん。名前以外の情報もあればもっと条件をつけて写せるけど?」
霖之助「いや、まずは名前だけで十分だ。ではさっそく一種類目は・・・自殺したという女子高生を誰でもいいから。名前は射命丸さんから聞いているんだろう?」
はたて「うん。やってみる」
BGM変わる。アンビエントな雰囲気。精神統一するはたて
はたて「来いっ!」
シャッターを押すはたて。カチっ。昔の写ルンですなので音がしょぼい
はたて「しょぼいな」
霖之助「次は、明日香君が探しているという少女、頼子だ」
はたて「えっ?言っとくけど、いまの私の念写、被写体の過去しか写らないから、頼子のいまの居場所とかわかんないわよ?」
霖之助「わかっているよ。念写で居場所がわかるなら、頼子だってとっくにみつかっているはずだし、君の探偵業はもっと繁盛している」
はたて「ほんとよね」
霖之助「いいからやりたまえ。僕には思うことがある」
はたて「わかったわよ・・・ん~・・・!」
カチっ。シャッターを押すはたて
はたて「撮った。と思う」
霖之助「よし。次で最後だが、その前にこの二枚を現像する」
はたて「なんで?まとめて全部撮ればいいじゃん」
霖之助「いいや、最後は自殺した女子高生の念写写真も媒介として使うんだ」
はたて「自殺した子の写真を媒介にして撮ればいいのね?なんだかわかんないけど・・・で?誰を撮ればいいの?」
霖之助「君もよく知っている人物。明日香君だ」
はたて「はあ?明日香?なんでよ?あの子の写真なら・・・」
霖之助「いいから。僕の予想通りなら、君が追っている失踪事件と、射命丸さんが追っていた自殺事件。面白いところで繋がるはずだよ」

●11幕 ハタタ神成り

学校の登校風景。他愛ない話題に興じる女子高生二人
女子高生A「そしたらあいつったらマジんなっちゃってー」
女子高生B「えーマジでー馬鹿じゃねーの」
女子高生A「でさー・・あっ」
女子高生B「なに急に、あ・・・」
明日香「おはよ~」
間 よそよそしい二人。明日香を恐れている
女子高生A「行こ」
女子高生B「うん」
明日香「・・・」
去ってゆく二人。はたて登場
はたて「なにあれ感じ悪い」
明日香「はてちゃん。おはよ」
はたて「おはよう(間)ねえ明日香・・・あのさ・・・」

明日香「ん?なに?どうしたのはたてちゃん」
はたて「えっと・・・」

手乗りアヤチャン「あやややや!なにやっているのですはたて!」
はたて「えっ?おわー!」
手乗りアヤチャン「さっさと明日香氏に要件を伝えなさい!」
明日香「ぬいぐるみが、喋ってる・・・」
はたて「あ、あんた文!?なんで?なんでこんなちっちゃくなってんの!?」
手乗りアヤチャン「あや~。ワタクシは射命丸にて射命丸にあらず。香霖堂があつらえた式神です」
明日香「式神、ってあの?」
手乗りアヤチャン「左用。さしたる能力はありませんが意識は本体とつながっております。愛らしい通信機だと思っていただければ結構」
はたて「要するに携帯電話みたいなもん?」
手乗りアヤチャン「携帯電話?なんです?それは」
はたて「知らないの?車載電話の持ち運べるやつがあるのよ」
明日香「へぇーなにそれ、すごいね」
はたて「デカいし重いし高いし、実用性はないけどね。実際ポケベルで十分だけど・・・なんとかゲットしたいのよね、あれ・・・」
手乗りアヤチャン「いまはそんな話どうでもよろしい。はたて」
はたて「(ため息)わかってるわよ・・・ねえ、明日香」
明日香「なに?はたてちゃん。どうしたの?」
はたて「あんた、いじめられてたの、大したことなかった、って言ってわよね・・・」
明日香「う、うん。それが、どうかした?」
はたて「この写真、みて」
明日香「なにこの写真・・・えっ!!?」
はたて「イジメの現場を念写したものよ」
手乗りアヤチャン「明日香氏、ここに写っているのはあなたに間違いありませんね?」
明日香「どうして・・・どうしてこんなの・・・」
はたて「ごめん、でも・・・どうみても大したことないようには見えないよ」
明日香「・・・」
はたて「それと、これは頼子を念写した物よ」
明日香「頼子ちゃんの?っていうか念写?はたてちゃんあなた一体なんなの?」
はたて「いいから見て」
ぱさ、手渡される写真
明日香「・・・これ、どの写真も真っ黒・・・なにも写ってないじゃない」
手乗りアヤチャン「そう。なにも写っていません」
はたて「私の念写はね、被写体の過去の姿しか写らないの。つまり・・・」
明日香「つまり、なに・・・」
はたて「つまり・・・だからね・・・」
手乗りアヤチャン「過去がない人間など存在しません。はたての念写が真っ黒だということはつまり。頼子という人物は存在しないということです」
明日香「は?」
手乗りアヤチャン「いじめの苦痛から逃れるためにあなたが作り出したイマジナリーフレンド。それが頼子の正体です。頼子とはあなたの妄想の中だけの存在なのですよ、明日香氏」
明日香「そんな・・・だって、頼子ちゃんは私を助けてくれて・・・私、いじめられなくなったの頼子ちゃんのおかげだもん!」
獣の声。ぐるるる。ごああ!
手乗りアヤチャン「くっ・・・やっぱり出ましたか・・・」
はたて「狛犬。まずいわね・・・一旦逃げる?」
霖之助登場
霖之助「この式神の命令は、明日香君の妄想をかっこたるものにするための邪魔な存在を食い殺すこと、すなわち今は君たちをだ」
手乗りアヤチャン「香霖堂」
霖之助「逃げたってその先でいつまでも現れるぞ」
はたて「じゃあどうすんのよ」
霖之助「とりあえずこれは倒さなければな。狛犬の呪符はとても貴重だからね。一枚失うことだってやつらには手痛いはずだ」
はたて「倒すったって、それができれば苦労はないっつーの。それともあんたがやるってわけ?」
霖之助「僕が?冗談じゃない。やるのは君だよ」
はたて「はあ?だってあんた、私が戦ったらただじゃすまないって・・・」
言い合っているうちに襲ってくる狛犬。ごああああ!
手乗りアヤチャン「危ない!はたて!!」
共鳴音
はたて「えっ」
狛犬に対して打撃を繰り出すはたて。有効打となり悲鳴をあげる狛犬。少し距離をとり、はたてを警戒して唸る。
はたて「な、なにいまの。私の体が勝手に」
霖之助「式神について少し教えてやろう。式神の式とは用いるということ。神とは超自然的存在全般をさす。そしてその超自然的存在には妖怪も含まれる。つまり、陰陽道の式神の術を利用すれば妖怪を意のままに用いることができる」
はたて「待て待て!あんたまさか!!」
霖之助「妖《あやかし》の力もちて彼《か》を討たん。急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》!」
共鳴音。光り出すはたて。電撃を纏う。声エロく
はたて「んんっ・・・ちょ、ちょっとやだ!」
手乗りアヤチャン「なあるほど、そう来ましたか。やりますね、香霖堂」
はたて「関心してないでその白髪男をとめろー!」
狛犬おそってくる。ごああ!
霖之助「森近霖之助の名において理《ことわり》なさん」
どおん!爆発音。とかぶるはたての悲鳴
はたて「こらああ!!!」
霖之助「我が式となりてあの狛犬を倒せ!姫海棠はたて!」
はたて「やだあああー!!」
狛犬に向かってふっ飛んで行くはたて。爆発音。狛犬の悲鳴。消える狛犬。がれきの崩れる音。しばらく沈黙
霖之助「なんなんだいまのは・・・いや、術者の才能が式神にも反映してしまったというわけか・・・」
手乗りアヤチャン「違いますよ、何言ってるんです香霖堂」
君夜を籠めて《きみよをこめて》 十里来て《とさときて》
新治渡りは《にいばりわたりは》 掻き曇り《かきくもり》
ハタタ神成り《はたたかみなり》 垣破る《かきやぶる》
※古事記ハタタ神の文節より抜粋
手乗りアヤチャン「はたてとは、はたたく雷《いかづち》、霹靂《へきれき》のこと。ハタタ神、すなわち雷神とは本来風神に唯一ならび対するほどの神格を備えた存在なのです」
霖之助「な、なるほど、それでこの破壊力か・・・」
手乗りアヤチャン「普段はへなちょこですがね。知っててやったんじゃないんですか?」
霖之助「・・・もちろん、知っていたとも」
がらら。がれきの中から這い出てくるはたて。誇りまみれ
はたて「うっ、うう、もうお嫁にいけない・・・」
手乗りアヤチャン「べそべそしている暇はありません。狛犬ごとき倒したところで、この事件は終わりませんよ」

●12幕 くびりの鬼

頼子「うううううう・・・・」
明日香「えっ?」
手乗りアヤチャン「この気配・・・きましたね」
霖之助「これこそ内調の、そして紫の目的でもある」
頼子「うううううう・・・・」
明日香「この声もしかして・・・」
霖之助「頼子は明日香の想像だけに存在する、明日香を護るための存在」
頼子「うううううう・・・・」
霖之助「だが彼女は想像の域を超えて具現化した」
頼子「おおおおお!!!!」
明日香「頼子ちゃん!?頼子ちゃんなの!?」
霖之助「それ幻想、すなわち妖《あやかし》なり」
BGMとまる。
霖之助「新たに生まれた、いや、生み出されたれた妖《あやかし》よ、お前の理《ことわり》は示された。くびり鬼。それがお前の名だ」
頼子「おおおおお!!!!」
明日香「頼子ちゃんは・・・本当にいたのね・・・」
霖之助「霊剣鬼丸国綱、いまこそ真の刃をみせるがいい」
刀を抜く音
明日香「はっ?や、やめて森近さん!頼子ちゃんに何をするつもりなの!?」
つかつかと頼子に歩み寄る霖之助
霖之助「件《くだん》の連続自殺事件、あれは頼子がやったことだ。君を守るため、頼子は君をいじめていた生徒をその能力で次々と自殺させていたんだ」
明日香「だからなによ!誰も私を助けてくれなかった!私の友達は頼子ちゃんだけなの!」
霖之助「頼子などという人物はいない。君は利用されたんだ。一人の老人の延命を目的とする者達の手によって。その想像力と境遇を」
頼子に刀を構える霖之助
明日香「やめてー!!」
霖之助「やめて?」
明日香「お願いです頼子ちゃんを・・・頼子ちゃんを斬らないで!!」
霖之助「ふん・・・いやだね」
ずばっ斬られる頼子
頼子「ぐおおおおお!!!!・・・・」
消える頼子

明日香「いやああ!!!」

●13幕 終幕

はたてモノローグリバーブ
はたて「こうして女子高生連続自殺事件は犯人であるくびり鬼、頼子の消滅をもって一応、決着した」
香霖堂で談話する霖之助とはたて
霖之助「内調の目的は妖怪の誕生にあった。現代社会では確信的、確定的に妖怪を誕生させるのは容易な事じゃあない。確定と幻想は相対するものだからだ。確定を求めれば幻想は薄らぎ、幻想を求めれば確定があいまいになってしまう。その矛盾との格闘の中でようやく探し出されたのが、妖怪を産み出すまでに強い感受性と悲劇的な境遇を合わせ持つ少女、つまり明日香君だ。彼女が起こす連続自殺事件は明日香君の妄想、つまり頼子を妖怪くびり鬼とする確定材料であり、また困ったことにとてもわかりやすい反社会行動でもある。ことが公になれば、当然周辺社会は事件としてとりあつかい、優秀な日本警察はことなく明日香君にたどり着き、事件は収束してしまうだろう。明日香君が逮捕されることはさておき、連続自殺を止めることは頼子を妖怪くびり鬼として誕生させる妨げるになる。したがって警察やマスコミが事件を嗅ぎつける前に事件自体をなかったことにしたんだ。表社会の人間には察することもできない超自然的な力を用いてね」
はたて「人が死ぬのを助長してたってのね・・・最悪・・・」
霖之助「自殺した人間の存在をなかったことにしたのも内調がほどこした記憶を改変する術とみて間違いあるまい。あんな大掛かりな術など他に行える者は現代社会じゃあ他にいないからね」
はたて「よくわかんないんだけど、そもそもなんで自殺した子をなかったことにしなきゃいけなかったの?」
霖之助「事件を社会からの隠蔽するため、そして明日香君を孤立させるためだ」
はたて「明日香を孤立させるため?いじめてた子たちがいなくなったら明日香が孤立するってどういうこと?」
霖之助「結局のところ、明日香君と一番結びつきが強かったのは、明日香君をいじめていた連中だったということなんだよ。明日香君の感情はどうあれね」
はたて「なにそれ・・・そんなの・・・納得いかないわよ・・・」
霖之助「単純にはいかないんだよ、人間ってやつは」
はたて「・・・」
霖之助「それはそうと、情報収集に対しての君からの報酬だが・・・」
はたて「うっ、覚えてたか」
霖之助「当たり前だろ。僕をなんだと思っている」
はたて「わかってるわよ・・・約束だもんね・・・」
霖之助「今回は無しということにさせてもらおう」
はたて「え?」
霖之助「一丁目の情報はもってこれなかったし、それに目的は失踪した頼子の発見だっただろう?それも結局ああいうことになってしまった。あれは君の本意じゃないはずだ」
はたて「そうだけど、結局助けてもらっちゃったし・・・うう~ん、なんかそれはそれでフェアじゃないような気がする」
霖之助「お互い様だよ。気にするな」
はたて「うん・・・でも」
霖之助「どうかしたかい?」
はたて「やっぱり可哀想だよ」
霖之助「明日香君と、頼子がかい?」
はたて「うん・・・何かしてあげたかった・・・」
霖之助「何を言う。あれ以上の結末があるものか」
はたて「頼子って要するに明日香を助けたかったわけでしょ?それってこっちにいさせてあげたかったことじゃん。それなのに・・・」
射命丸「ま、香霖堂の言うとおり、あれはあれで最善だったと思いますよ」
はたて「はあっ!?あ、文!?」
突然の文の登場に呆然としてしまうはたて。それを気にせず論ずる文
射命丸「死に至る呪いはもともとは明日香氏の能力だったと考えられます。頼子が消えても明日香氏本人がくびり鬼となっていたかもしれません」
霖之助「いや、それは少し違うよ射命丸さん、だってあの二人は・・・」
我に返って、割ってはいるはたて
はたて「文!あんた幻想郷に帰ったんじゃなかったの!?」
射命丸「ええ。わりと元気になったんでまた戻ってきましたよ」
はたて「ば・・・ばっかじゃないの!?あんたを送り戻すのにどんだけ苦労したと思ってるのよ!」
射命丸「えー?べつに私がどこに居ようなんて私の勝手じゃあないですか」
はたて「もうわっかんないわよ・・・あんたが何考えてるのか・・・」
霖之助「ふっ・・・なに、難しく考えることはない。明日香君と頼子、彼女達と同じさ」
射命丸「ほほう?どういうことです?」
霖之助「結局僕たちは、名前を呼んでくれる人の元へと戻っていくように出来ている。人間だろうと妖怪だろうと。それだけのことだ」

●14幕 そして幻想に至る

目を覚ます明日香
明日香「う、ううーん・・・あれ?ここは・・・どこなの、かな」
紫「こんばんは、お嬢さん。ここをどこかご存知じゃないいのかしら?人間の一人歩きはとっても危険でしてよ?」
かさかさ妖怪達の気配
明日香「ひっ、な、なにあれ!?」
紫「結界に事故あったわけでもないのに普通の人間がこっちにきちゃうだなんて。よっぽど必要とされていないこなのかしらね?」
明日香「わ・・・私が必要とされていない・・・」
紫「そう・・・でも安心なさい。それももうお終い」
妖怪達の気配大きくなる。ピークまで高まった所でBGM止まり、少女の声
頼子「明日香!」
明日香「えっ?」
紫「あら?」
頼子「てめーら・・・明日香に触るんじゃねー!!」
謎の力を発する頼子。ぎぃいいい。妖怪死ぬ!
紫「あらあら?」
頼子「大丈夫か明日香!」
明日香「あ、あなた、もしかして・・・頼子ちゃん!?」
キョトンとする頼子
頼子「はああ?当たり前だろ?何言ってんだよ」
明日香「えっ、だって、頼子ちゃんは、私の妄想で、この世にはいない子だって・・・」
頼子「だ、大丈夫か?・・・もしかしていまのやつらにやられて頭打ったのか!」
明日香「う、うう・・・うわーん!!」
泣き出す明日香。頼子に抱きつく
頼子「えっ!?ど、どうしたんだよ明日香!?」
明日香「頼子ちゃん!頼子ちゃーん!!」

頼子「大丈夫だぞ、明日香。これからもずっとお前は私が護ってやるからな・・・」
紫「あらあらあら。なんだあの子ったらちゃんとお仕事したんじゃない。この調子でよろしく頼むわね?霖之助?」
明日香と頼子、声リバーブ
明日香「頼子ちゃん、ずっと友達でいてね」
頼子「うん。ずっと友達だ。明日香」

幕 エンディング曲

謎の声A「またも我々の計画が邪魔されたようだな。大人しくアレを我々に引き渡せば事は済んだものを・・・」
謎の声B「まったく、陛下もお戯れが過ぎる。霊剣鬼丸国綱をまさか幻想郷の化物になど賜るなどと・・・」
謎の声A「森近霖之助・・・やはり野放しにしておけぬか・・・」

次回予告「日本を裏で牛耳るオカルト組織、内閣調査室。鬼丸国綱を奪うべく内閣調査室の刺客が霖之助の前に現れる。それは霖之助と同じく妖怪の血を引く人間だった。ディスポイラーズ第2話『内調の刺客、外の世界の妖怪人間』闇のフィルムに偽りの影」