書き起こし/ファッセ3

Last-modified: 2016-06-19 (日) 02:18:23

●1幕 西行との出会い
アンビエントな曲
飢餓にあえぐ人々、男性モブ入れ
動物(ねずみ?SE探し中)の鳴き声。
それを見つけて狂喜する男
男1「に、肉・・・肉だ!ははは!!」
男2「よこせ!そいつを俺によこせー!」
男1「離せ!これは俺の肉だ!」
殴られる男2、岩肌に叩きつけられて、がっ、とか、ぐっ、とか短い断末魔をあげて絶命。
骨の砕ける音
動物に食らいつく男1、
男1「はぁはぁはぁ・・・あぐ・・・」
動物騒いでいるが、噛み砕かれ静かになる
喉を鳴らして血液を嚥下する
男1「はぁはぁ・・・んぐんぐごく!じゅるる!!」
錫杖の音。下手より老尼僧と若武者登場
老婆は西行、若者は在りし日の頼朝である。
西行「飢えに耐えかねてはらからを殺めるか・・・南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
男1「んぐ、ぐは・・・はぁはぁはぁ(西行と頼朝に気がつく)あ?」
頼朝「あと少し訪れるのが早ければ・・・」
西行「頼朝、お前ならどうするね」
頼朝「はい・・・御仁」
男1「て、てめえらも俺の肉を横取りしようってのか・・・!」
頼朝「そうではない、我ら仏の教えを説いているもの。施しを受けてはくれまいか」
男1「握り飯!」
頼朝「そうだ、まずはこれを収めて、、うわ!」
どんと頼朝にぶるかるように、握り飯を奪うと食らいつく男
男1「ガツガツ!ムシャムシャ!」
頼朝「慌てなくてもまだある。これをこの村の者で分け合い、助けとして欲しい」
西行「甘いわ」
頼朝「え?」
男1「まだあるっちゅうたか・・・」
頼朝「あ、ああ。この、私が背負うている荷は全てくいものだ」
男1「あああああ!!」
突然頼朝に襲いかかる男1
頼朝「なにをする!」
男1「分け合うだと?そんなこたあさせねえ、そいつは全部俺のもんだ!」
頼朝「なっ!?」
男1「くいもんよこせぇえええ!!」
じゃりん!と鋭い錫杖の音、西行が振るったのだ。
ゴっという鈍い音。男1強か頭を打ち、ぐぅと唸ると倒れて絶命する。
頼朝「さ、西行様・・・」
西行「頼朝、アタシはこの旅の間は、西行寺の頭領でもなんでもない。ただの坊主だといったはずだよ。それがわからないなら京都へお帰り」
頼朝「も、申し訳ございません和尚様」
西行「よいか頼朝、このような浅ましき者は救うことはない。捨て置くのだ」
頼朝「しかし・・・」
西行「(口調が崩れてちょっと優しくなる)あんたの言いたいことはよーくわかる。でもね、理想は飽くまでも理想だ。あんたの持ち合わせで一体何人が何日行きられるね」
頼朝「この村の人口が13人として・・・いや、一月なら・・・」
西行「もたないね。皆が正しく互いをいたわり合ったならばね。だが実際にはふた月はもつだろうよ」
頼朝「なぜです」
西行「浅ましきが一人奪うからさ。どうぜ残るのが一人だというのなら・・・」
頼朝「人が人を選ぼうというのですか」
西行「それが貴族社会の基本だ。清盛が作ろうしているのはそういう世の中さ」
頼朝「先ほどの者は浅ましきは生きんとするがため!殺すことはなかった!」
西行「あいつは殺しをしたからね。殺生は罪なんだよ」
頼朝「殺生を行ったのは和尚様も同様でしょう!」
西行「自己防衛だよ自己防衛。一々細かい男だね」
頼朝「私は・・・納得いきませぬ。人が人を選ぶだなどと・・・」
西行「賢いけども頭が硬いねあんたは」
頼朝「なにかできることがあるはずだ・・・なにかが・・・!」
西行「できることならもうしてるじゃないか」
頼朝「ダメだ!!これじゃあ限界があるんだ!」
西行「こう考えな。あんたの娘と、赤の他人。その二人が今にも死にそうになっていて、あんたは一人だけ救うことができる。どちらを救うね?」
頼朝「それは・・・選べません」
西行「辛くても選ぶんだよ頼朝。いいかい、全てを救うなんざできない。お前が未熟者だからじゃない、そんなことは誰にだってできないんだよ」
頼朝「和尚様、私は・・・」
西行「いいかい。娘か他人か、どちらか一つ。なにを選ぶかはあんた次第・・・覚悟だけは決めておくんだ。わかったね、源頼朝」
頼朝「私は・・・」
突然遠くから男の悲鳴
男3「ぎゃあああああ!」
西行「頼朝!」
頼朝「はっ!(返事)」
男3「お、鬼だ!人食い鬼だぁ~!誰か助けてくれー!!」
駆けつける頼朝
頼朝「無事か!」
男3「あ、ああ!お侍様!鬼が!」
頼朝「鬼だと?」
男3「出るんだ、このところ村を人食い鬼が・・・そいつに・・・うちの倅が、く、くわれ・・・あああああ!!」
頼朝「妖怪がこんなところにまで現れるとは」
駆け足の音が近づいてくる。素早い
奇声をあげて飛びかかってくる小那由他
小那由他「ケーーー!」
ドカっ!ナタの様な刃物を叩きつけられる男
血泡を吹いて絶命する
男3「うごごごご」
イナゴのように飛び回る人影。子供ほどの大きさの小鬼ようだ
頼朝「素早い・・・だが!」
すらりと刃を抜く
さらに飛びかかってくる小那由他
小那由他「キエーーー!」
頼朝「はあっ!」
太刀を振るう頼朝
小那由他「ぎゃあああああ!」
頼朝「ちぃ!かすっただけか!はあああ!」
さらに一太刀振るう

小那由他「いでぇ・・・!」
頼朝「なに!?」
咄嗟に太刀を止める頼朝
小那由他「いでぇよぅ・・・」
頼朝「まさか、お前・・・人間、なのか」
悲鳴とも威嚇ともとれない唸り声をあげる小那由他
小那由他「うううう・・・」
頼朝「それじゃ、そんな馬鹿な・・・」
西行「しっかりおし、いい大人がだらしないね」
頼朝「しかし、こんな・・・こんな年はのいかない子供が・・・人を・・・」
西行「これが現実だよ」
頼朝「救いは、ないのでしょうか」
西行「(頼朝に)考えが立派なのはいいことだけどねぇ、仏様ならぬ人間様にゃ限界があんのさ(切り替えて那由他に極めて優しく)わっぱよ、アタシたちゃあんたの獲物にゃちと手にあまるなぁ?」
小那由他「ぐるるる・・・」
西行「くちがきけるんだ、名前くらいあるだろ?このババアに教えちゃくれないかね」
小那由他「ううう・・・な、ゆ、た・・・」
西行「なんだって?もう一度聞かせてくれるかい?」
小那由他「な、ゆた」
西行「なゆた?それがあんたの名前なんだね?」
小那由他「なゆた、なゆた、なゆた、なゆた、なゆた・・・」
ナレ「飢饉は日本中を襲い戦の火種を作ることになる。幽々子と次郎左衛門の出会いより10数年前の事である」
OP曲

●2幕 紫と次郎
ナレ「源義経と会合を果たした次郎左衛門は、妖怪八雲紫にいざなわれるまま、幻想郷のさらに隠されたもう一つの結界のなかにいた」
次郎「それじゃあやっぱり、京都で西行妖が復活するって言うのか!」
紫「その通り。非常にゆゆしき事態ですわね」
次郎「こうしちゃいられない!今すぐ京都にいかなきゃ!」
義経「(冷静に冷めた感じ)行ってどうする」
次郎「決まってるだろ、止めるんだよ頼朝を!」
義経「止める?無理だな。てめーみてぇな不安定な力じゃ頼朝には勝てねえよ」
次郎「誰も戦うなんていってないだろ」
義経「説得でもするつもりかよ。己の信念のために全人類を滅ぼそうとした男を」
次郎「じゃあなにもしないで大人しくしてろってのか!誰かが頼朝を止めないとまた多くの人が死ぬんだぞ!」
紫「横槍をいれて申し訳ないのですけど。源頼朝が滅ぼそうとしたのは人間だけじゃありませんのよ?」
次郎「そうだ、もっと多くの命が、奪われるんだ」
紫「私(わたくし)が申し上げたいのはそういうことじゃございませんの」
次郎「え?」
紫「源頼朝は人間だってことが言いたいのですわ。お分かり?ニンゲンさん」

義経「ケジメとれっつってんのか?」
紫「まあ、ありていを申し上げれば」

義経「おいバケモン、紫っつったか?面白いこというじゃねえか・・・」
紫「そ?そんなに面白くないと思うけど」
義経「頼朝のケツを私が拭けか・・・てめえは頼朝のケツの穴に頭突っ込んで窒息して死ね。腐れ妖怪野郎」
紫「困りましたわね。私、窒息くらいじゃ死ねませんの」
義経「秀衡に吹き込んだのはてめーだな」
紫「その子はだれ子ちゃん?」
義経「窒息くらいじゃ死なねぇか・・・私が息の根止めてやろうか!あぁ!?」
次郎「よせよ義経!敵はこいつじゃなくて西行妖だろ!」
義経「味方ともかぎらねえだろうが!」
紫「確かめてみる?おじょ~ちゃん?」
義経「喧嘩売ってやがるのかこの野郎!!!」
羽音、鞍馬天狗登場
鞍馬「まーまーまーまー、みなさん、ここはひとつ落ち着いて」
次郎「だ、だれあんた?」
鞍馬「私(わたくし)のことなんざどうでもいいじゃありませんか、ねえ八雲の御大将(おんたいしょう)?」
義経「ん?」
紫「その御大将ってやめてくださらない?私があなた方に協力してるのって、ただの成り行きですのよ」
義経「んんんん?」
鞍馬「まぁまぁ。ウチが上手くいってるのはほとんどあなたのおかげじゃあないですか」
義経「あー!てめえ、どっかで見た顔だと思ったら・・・鬼一法眼(きいちほうがん)か!?」
鞍馬「あや~、そういうあなたは源義経さんですねぇ。どーもどーも。一瞥以来ですな」
ナレ「鬼一法眼。京都鞍馬山に棲むと伝えられる伝説の妖術士であり、その正体は妖怪、烏天狗である。義経は頼朝の傀儡とされる以前、彼女に師事していたのであった。自らの秘術を文・武・龍・虎・豹・犬のからなる6卷の書に収めており、このうち虎の巻を義経に授け、体術と妖術を伝授した」SEばっさばっさ
義経「は、羽が生えてる・・・てめえマジで天狗だったのか」
鞍馬「そゆことです」
義経「じゃあ、てめえがアイツを裏切った月の使者だって話は・・・」
鞍馬「ああ、あれですか。あれは方便です。その方が面白いと思いましてねぇ」
紫「あら、鞍馬さんとお知り合いでしたの」
義経「鞍馬だぁ?」
鞍馬「左様。私、ここでは鞍馬天狗で通ってまして」
義経「そりゃお前の京都での通り名じゃねえか」
次郎「ねぇ義経、こいつ誰?」
義経「私の師匠、っていうかなんていうか・・・戦い方は全部こいつに習った」
次郎「義経の師匠~!?」
義経「名前は・・・あ~・・・なんて呼んだらいいんだ?」
鞍馬「好きなように呼んでくださって結構。名前なんて個体を識別するための記号です」
次郎「じゃあ、鞍馬、だっけ?俺たちと一緒に京都へ行ってくれ!」
鞍馬「は?」
次郎「西行妖って知ってるだろ。京都で復活しようとしてるんだ。止めるのを一緒に手伝ってくれ!」
鞍馬「いやですよ。なんで私(わたし)が人間の手伝いなんぞを」
次郎「人間だけじゃない!生き物全てがピンチなんだ!妖怪だって!」
鞍馬「ああそうですか。それと私が人間の手伝いをするのとどう関係が?」
次郎「え?いや、だから、頼朝を止めないと、あんただって死んじゃうんだよ」
鞍馬「そうですねえ」
次郎「だから手を貸してくれ」
鞍馬「お断りです。天狗はそういうものではありませんゆえ」
次郎「え?いや、だから・・・」
紫「無駄よ次郎クン。彼ら古い妖怪は独自のロジックで行動するの。自らの生き死にをもってさえそのルールは変わらない」
鞍馬「さすがは御大将。お若いのによくご理解をされてますねぇ」
紫「それにあなた、少々誤解していますわね。あなた方では、いえ、現時点においてはこの世の誰にも西行妖復活は止められない」
次郎「やってみなけりゃわかんないだろ!」
紫「私、やってみなくてもわかることの方が多いんですの」
次郎「それじゃあなんで俺たちにこんな話をしたんだよ」
紫「貴方と同じく浅ましき思慮の元、幻想郷の百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)が京都へ向かいました。あなた方にはその首魁を止めて欲しいのです」
次郎「百鬼夜行?」
義経「カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ。妖怪の集団行進のことだよ。集団であり、百鬼夜行で一匹の妖怪ともいえる」
紫「人間ならば万に一つ、西行妖を止められるかもしれません。しかし、幻想である妖怪がアレに対抗するのは、兎が虎の口の中を住処にしようとしているようなもの。逆にその魂魄をくらい尽くされ、アレに力を与えてしまうことになるでしょう」
次郎「それじゃあ・・・」
紫「首魁を止めれば百鬼夜行もただの烏合の衆。殺しても構いません。必ず百鬼夜行の首魁を止めなさい」
義経「フン、そういうことなら面白そうだ。そいつの名は?」
紫「酒呑童子、伊吹萃香」

●3幕 次郎と幽々子の約束
幽々子、歌のハミング
歩み寄る次郎に気がつくと振り返り微笑む
次郎「その歌、好きなんだな」
幽々子「よくお母様が歌ってくれた歌なの」
次郎「そっか」
幽々子「おかえり、次郎」
次郎「ごめん幽々子、一人で退屈だったろ」
幽々子「ん~ん」
次郎「お前も一緒に聞いてればよかったのにさ」
幽々子「(いいの)私、難しい話聞いてると眠くなっちゃうから」
次郎「あははは」
幽々子「お散歩してた」
次郎「そっか、じゃあ少し歩こうぜ」
幽々子「うん」
さくさく足音
幽々子「どんな話してたの?」
次郎「やっぱり頼朝は西行妖を蘇らせようとしている」
幽々子「お父様・・・」
次郎「大丈夫。頼朝とは戦わないよ」
リバーブ
ちょっと前の会話
次郎一人の回想
紫「異界の神である西行妖を復活させるには、幾つもの複雑な条件がありますの。復活阻止の鍵は頼朝打倒ではなく、娘の幽々子を押さえることですわ」
次郎「幽々子が?」
紫「あの娘は西行妖の依り代。西行妖が現世で活動するための肉体として選ばれたのです」
鞍馬「神の依り代ですか。まるで巫女かお相撲さんですねぇ」
次郎「そうだったのか・・・それじゃあ幽々子の黒死蝶は・・・」
義経「西行妖から流れてきた力の一部だろうな」
次郎「くそっ」
紫「いずれにせよ、あの娘が介在しないことには西行妖はこちら側で実体をもつことができない。それが私の見解です」
義経「わけわかんねぇぞ。要するになにが言いてぇんだよ」
紫「西行寺幽々子。彼女を奪われさえしなければ、西行妖復活はない、と言いたいのですわ」
義経「はっ、なにをいうのかと思えばくだらねえ。いいか、頼朝は馬鹿じゃない。幽々子がいない場合の準備だってしてるはずだろうさ」
次郎「俺もそう思う。もし幽々子が絶対に必要なら俺が助け出した時すぐに取り返しに来てたはずだ。それに、那由他は頼朝に対抗する手段を探してたみたいだった。つまり頼朝は幽々子抜きのまま計画を進めてるんだ。これって西行妖復活に幽々子は関係ないってことにならないか?」
鞍馬「物事にはタイミングってもんがありますからねぇ。時期がきたら動き出すってことだって考えられますよ?」
義経「てめえ、鞍馬、無関係装ってたわりに口出ししてくるじゃねえか」
鞍馬「まーまー、暇なんですよ、口出しくらい勘弁してください」
紫「断言いたしますわ。西行妖復活に西行寺幽々子の存在は必要不可欠です。あなた方をここに案内したのもそれが私の目的の一つだからです」
次郎「あんたの、目的?」
紫「ええ。西行寺幽々子の身柄は幻想郷で預からせていただきます」
リバーブ・回想終了
幽々子「よかった」
次郎「え?」
幽々子「次郎とお父様が戦うことになるんじゃないかって、本当は心配だったの」
次郎「あ、うん・・・ごめんな」
幽々子「ん~ん。気にしてない」
次郎「なあ幽々子、全部終わったらどうしたい?」
幽々子「ん?」
次郎「やっぱ頼朝のところに帰りたい?」

幽々子「私、あの地下牢の中でずっと一人ぼっちだった。お父様がそうしたからじゃない、私の死を操る能力が、また誰かを殺めてしまうから。寂しくて、哀しくて、泣きそうになったら、あの歌を、歌ってたんだ。お母様の歌」
次郎「そっか・・・」
幽々子「お父様はかわっちゃったわ・・・この旅が終わったあとは、一緒にはいられなくなると思う・・・でも」
次郎「でも、なに?」
幽々子「もうあの歌はいまので最後」
次郎「え?」
幽々子「約束、してくれたでしょ?」
次郎「うん。絶対にやぶらないよ」
幽々子「さっきはほっといたくせに」
次郎「あれは!その・・・ごめん・・・」
幽々子「くすくす。だからね、私は平気だよ」
次郎「・・・なあ、この西行妖の騒動がおさまって、お前の旅、何年、何十年かかるかわかんないけどそれも終わって、全部終わったらさ・・・俺の故郷へ行かないか」
幽々子「次郎の?」
次郎「みせたいんだ、俺の生まれたところや、育った景色」
幽々子「・・・うん。連れてって。行こう、一緒に」
次郎「へへ、つっても、ほとんど燃えちゃって残ってるものはないけどね」
幽々子「え?・・・広有様のお屋敷は無傷で残ってたよ」
次郎「そっか、幽々子が最後に見た後だったんだ」
幽々子「あの時は、燃えちゃったのは西行寺で、広有様のお屋敷にご厄介になって・・・あれ?」
次郎「そうなんだ俺の時も似たような感じだったよ、うちが燃えてどこかに泊めてもらって・・・」
心臓の音
幽々子「ねえ次郎?」
次郎「なに?」
幽々子「なにか変。私、広有様がお子様を、あなたを連れているところを見たことないわ」
次郎「え?」
幽々子「それに広有様が旦那様を連れているところを見たことも」
次郎「広有の、旦那様???親父は、広有は男だぜ?」
幽々子「え?え?でも、広有は、血ではなく力をもって継承する巫女のことだってお父様が・・・」

次郎「幽々子、なにか記憶を操作されるようなことをされた覚えは?」
幽々子「ない、けど・・・もし記憶を操作されてたら、そんなのも覚えてないかもしれない」
スキマ開く
紫「そんなに気になるなら私が診てあげましょうか?」
幽々子「八雲、様・・・」
紫「ああん、私(わたし)のことはフレンドリーにゆかりんでいいわよぅ」
幽々子「ゆ、ゆかりん・・・?」
次郎「間に受けなくていいぞ幽々子、こいつの正体は人をからかう妖怪だからな」
紫「次郎クンったら可愛い顔して冷たいんだからぁ」
次郎「どあああ!やめろ!くっつくなっ!!」
紫「あん、もう」
ぴきっ
幽々子「お二人ともずいぶん仲がいいんですね」
紫「そうよー。私(わたし)があなたがたをここに呼んだ目的、次郎クンだもーん」
次郎「は!?お前さっきは幽々子を・・・」
幽々子「あら、紫さんのことお前って呼んでるのですね、広有様」
次郎「ちょっと待て、お前、なんか誤解してるだろ」
幽々子「お前?私、お前なんて名前じゃありませんけど。あ、そっか、紫さんのことよね」
次郎「幽々子ぉ・・・」
紫「ふふ、可愛いのねぇ。幽々子ちゃん、私、あなたのことも好きよ」
幽々子「私だって別に嫌いじゃありません。いまのところはですけど」
紫「あらこわいこと。そんなに意地悪言わないで、私とお友達になってくださらない?」
幽々子「・・・紫、さんこそ、意地悪しないなら」
紫「ん。約束・・・じゃあ次郎クン、ちゃんと幽々子ちゃんに伝えておいてね」
消える紫
幽々子「伝える?私に?何を?」
次郎「あ・・・えっと、それなんだけどさ。幽々子」
幽々子「ん?」
次郎「しばらくここに居てくんないかな」
幽々子「ここ、って、幻想郷?」
次郎「うん。俺と義経は紫と一緒に京都へ行って・・・」
幽々子「私一人で?」
次郎「一人じゃないよ、紫は例の能力ですぐ帰ってくるし、鞍馬も残るって言ってるし・・・」
幽々子「やだ」
次郎「え?」
幽々子「やだ。私もいく」
次郎「え、えっと、頼朝の目的はお前を取り戻すことじゃん、だから・・・」
幽々子「やだもん。次郎、ずっと一緒にいてくれるって言ったもん」
次郎「う・・・ごめん、でもそんな長い間じゃないよ。危なくなったらすぐ帰ってくるしさ」
幽々子「そうだよね、義経様も紫さんも綺麗だもんね」
次郎「は!?い、いや、別にそういうんじゃないって!」
幽々子「よかったね。美人さんに囲まれて。羨ましいな~」
次郎「なにいってんだよ違うって!俺弱いから頼朝に狙われたら勝てないっていうか・・・いや、約束破ってごめん。でも俺、幽々子を守りたくて、だから・・・」
幽々子「くすくすくす。・・・いいよ」
次郎「え?」
幽々子「いいよ、待っててあげる。・・・(でも)すぐ帰ってきてね」
次郎「うん。絶対にすぐ帰るよ。約束」
幽々子「うん。約束」

●4幕 魂魄那由他
西行「さ、ここが今日からあんたの家になるんだよ」
小那由他「う、う・・・」
西行「怯えることぁないさ、ここではあんたをいじめるやつはいない。なんせあんたがどんなに暴れようとみんな腕っぷしだからね」
小那由他「お、おれより、強いやつ・・・」
西行「そうさ。食物もくれてやるよ」
小那由他「食物・・・」
西行「その代わり、あんたには武術の腕を磨いてもらう」
小那由他「あ?う?」
西行「もっと強くなれってことさね」
小那由他「もっと、強く・・・」
西行「そう。あんたは戦う坊主になって、アタシを守る仕事をしてもらう。その代わりの食物だ。わかるね」
小那由他「う・・・」
西行「なんだい。不服かい?まあいいさね。この棒をくれてやろう。これが今日からあんたの武器だ」
小那由他「けん・・・けんがいい・・・ぼうよりもけんがいい」
西行「剣かい。坊主は刃物を禁じられているんだよ・・・」
小那由他「けんがいい、けん・・・」
西行「そうかい。じゃあもう一つの家にいこうか」
小那由他「けんがいい・・・けん・・・」
西行「わかった。じゃあいまから魂魄のお屋敷にいくからね。ババアと一緒にもう少し歩こうな」
小那由他「こん・・ぱく・・・」
西行「そうだ。いいかい。あんたはそこについたら魂魄那由他を名乗るんだよ」

●5幕 鬼を追う三人
スキマの音
次郎「ここはどこなんだ紫」
紫「萃香の先回りした地点、のはずでしたけど、見当たらないわねぇ」
義経「んだよ。じゃ、ちゃちゃっともういっぺんたのむぜ」
紫「境界操作を利用した空間移送はまだ実験中の術ですの」
義経「あ?つまりどういうこった?」
紫「悪いけどここからは走って追いついてくださる?あちらの方向に気配を感じます」
義経「いちいち小難しい言い方するやつだな。ま、ここまで一瞬でこれただけでもよしとするか。走るぞ次郎、例のアレできるか?」
次郎「・・・」
義経「おい次郎」
次郎「あ?ああ、聞いてるよ、酒呑童子を追っかけるんだろ」
義経「へっ、置いてきた女房の心配か?」
次郎「は!?なんだよ女房って!俺と幽々子は別にそんなんじゃ・・・」
義経「だれも幽々子のことなんて言ってねえよ、色男」
次郎「ぐあ・・・あんまりからかうなよ、俺、こういうの慣れてないんだからさ」
義経「ひひっ。よう次郎、お前ちゃんと返事聞いたのか?」
次郎「へ?返事ってなんのこと?」
2話リフレイン、リバーブ
次郎「ぐああ・・・そういやお前、あれ聞いてたんだっけ・・・」
義経「幽々子の気持ち、ちゃんと確認したのか?」
次郎「いや、あれは、なんだ・・・なんつーか・・・いいんだよ、俺の気持ち伝えたかっただけだし」
義経「それで、心配して浮ついてるようじゃ世話ねーぜ」
次郎「ぐう・・・」
義経「ま、心配すんな。お嬢様のガードは硬い。一人にされたからってフラフラするようなタイプじゃねーよ」
次郎「そうかな・・・まじで?」
義経「ああ、マジでマジで。私が保証するよ」
次郎「う、うん。信じる」
義経「戻ったらしっかり気持ちを聞いとくんだぜ」
次郎「わかった。ありがとう義経」
紫「きゃー恋バナ!?私もまぜてくださる?」
義経「なんなんだよお前は・・・」
紫「次郎クンが好きなのはやっぱり幽々子ちゃんなの?」
次郎「う、うるさいな、アンタには関係ないだろ、ほっといてくれってば」
紫「あら、そうはいきませんわ。私のお目当ては次郎クンがもっている力なのですから」
次郎「俺の?」
紫「そう・・・あなたの持つ広有の力」
次郎「あんた一体・・・」
遠くで爆音
次郎「爆発!?」
紫「都の方ですわね。萃香の気配と方角が一致しますわ」
スキマのSE
次郎「なんだって!それじゃあ頼朝がなにかを・・・急がなきゃ!」
義経「おい妖怪。酒呑童子って野郎がいるのは確かにこっちなんだな」

次郎「紫?あれ?いない」
義経「チッ!なんなんだあの女」
次郎「俺の力が目当てってどういうことだろう」
義経「ありゃなんか企んでるな」
次郎「ああ」
義経「なあ次郎、広有の力って具体的には何ができるどんなものなんだ?結局私はまだ見たことがないんだが」
次郎「それなんだけど・・・実は俺もよく分かってないんだ」
義経「はぁ?自分のことだろうが」
次郎「うん・・・ちゃんと教えてもらう前に親父は・・・」

義経「ま、分からねえことをあれこれ考えてもしょうがねえか。今わかってるのは妖怪どもじゃ西行妖にゃ勝てねえってことだ」
次郎「そうだな・・・。いこう、百鬼夜行を止めないと」
爆発音
次郎「な、なんだ!」
爆発収まってくる煙の中に男が立っている
那由他である
那由他「今度こそ決着をつけよう・・・広有」
義経「てめえは!」
次郎「那由他・・・」

●6幕 魂魄妖忌
素振りをしている妖忌
妖忌「ふん!、、、、ふん!、、、、ふん!」(素振りの掛け声。しばらくずっと)
那由他「お前、どうしてそんなに平気そうな顔してられるんだ?」
妖忌「(素振りを続けながら)那由他っつたか?なんのことだ」
那由他「俺は日々の糧と引き換えに西行寺の言いなりになっている。まるで飼いならされた家畜だ」
妖忌「ひねくれたやつだな」
那由他「お前だってそうだろう。魂魄妖忌(っていうのは)。西行寺守護の役目につけられる名前だって聞いた。お前に付けられた犬の首輪だ」
妖忌「俺はそうは思わねえ」
那由他「なに?」
妖忌「俺がもらった魂魄妖忌の名は俺が俺であるための名だ。俺はこの名と共に生まれ変わると決めた」
那由他「自分が選ばれたとでも思ってるのか?違うね。たまたま(俺らの中で)お前が一番強くて、聞き分けがいい、西行寺にとって都合がいい存在ってだけなんだよ」
妖忌「俺は世の中だれも信じちゃいねえ」
那由他「俺もだよ」
妖忌「どいつもこいつも自分のことしか考えやしねえ。目に映るものは全て特になるか損になるかだけで図りやがる」
那由他「お前は・・・ここにいる連中は西行寺に尻尾を振る犬だ!俺は違う。俺は・・・」
妖忌「俺はもうなにもいらねえ。俺の剣は俺のためだけに振るう。俺は俺のためだけに自分の人生を生きる」
那由他「檻に閉じ込めらて自由を奪われた獣だ」
妖忌「檻に住む獣が自由じゃねえって誰が決めた」
那由他「・・・?」
妖忌「空をみろ」
那由他「空が、なんなんだよ」
妖忌「どこにいようと、誰とつるもうと、空の色は変わらねえ。じゃあなにが違う?・・・自由だ不自由だのとてめえの生き方に不満があるやつぁ、甘えてるんだ」
那由他「お前は外の地獄を知らないからそういうことが言えるんだよ」
妖忌「てめえの話は西行寺から聞いてる。俺もてめえと一緒だよ」
那由他「・・・」
妖忌「誰かが壊さねえかぎり景色はずっと同じなんだ。俺は自分の景色を自分で壊そうとしてるんだって西行寺に言われた。俺は俺が見ている景色を守る。それを壊そうとするヤツから守るために生きる。そう決めたんだ」

那由他「俺は、お前とは、違う」

妖忌「お前は俺とは違うのか?・・・那由他」
那由他「お、俺は・・・俺は・・・」

●7幕 因縁再び
那由他「さあ、決着をつけようじゃないか・・・」
義経「てめえ・・・消し炭にしてやる」
義経着火
次郎「義経、先にいけ」
義経「なんだと?」
次郎「こいつとは俺が決着を着ける。アンタは百鬼夜行を止めてくれ」
義経「ふざけるな、コイツは秀衡を!・・・うっ!?」
異様な殺気を放っている次郎
次郎「いいから行け」
義経「・・・お前、次郎、だよな」

義経「チッ・・・借り一つだぜ、次郎」
次郎「ああ」
義経「死ぬなよ」
走り去る義経
那由他「剣はいい。人を殺すなら剣がいい。武器の中で唯一、農耕具や狩の道具から発展した物ではなく、純粋に人を殺すために生み出されたからだ」
次郎「那由他・・・」
那由他「遠慮はいらない。最初から妖忌の力、つかいなよ」
次郎「那由他ぁあああ!!!」
半霊の術発動
がきいぃん!つばぜり合い。飛び散る火花
次郎「なぜだ!なぜ妖忌を斬った!」
那由他「半霊の作用で妖忌の記憶でも垣間見たかい?」
次郎「妖忌はアンタを信じてた!裏切られて、殺されて、魂だけになった後も!!」
那由他「そうだ!貴様が奪ったんだ!妖忌も幽々子も!」
がきぃん!!ずざー。離れる二人
次郎「まさかお前・・・」
那由他「はあああ!!!!」
つばぜり合い
次郎「妖忌の半霊が目的だったのか!!」
那由他「横取りしたのは貴様だろうに!」
次郎「許せない・・・そんな理由で友達を殺したのか!」
那由他「ごちゃごちゃ煩いんだよ!」
次郎「はぁっ!!」
次郎、瞬間移動。
那由他「くるか!?」
次郎「はぁあああ・・・ッ!?なに!?」
那由他「はぁあああ・・・」
次郎「あれは俺と同じ・・・」
那由他「貴様の技は妖忌の魂から引き出したまがい物だろう。間違えるな、貴様が俺と同じなのだ」
次郎「クソっ!!・・・迷うな・・・惑うな・・・意識を全て楼観剣に・・・」
共鳴音
二人「断迷剣!迷津慈航斬!(だんめいけん めいしんじこうざん)」
同じスピードで。加工したいので別撮り。
ドカーン!

●8幕 鬼と出会う義経
萃香「おらおらおまえら、キリキリあるかんかぁい!こんな調子じゃ、日が暮れっちまうよ~」
京の方向を睨めつける萃香
萃香「待ってな源頼朝、もうすぐそのそっ首、叩き落としてやるかんね」
妖怪たちのうめき声(時間がなかったら一幕のやつをリサイクル?)行進する百鬼夜行の足音。次第に大きくなり
義経「どうしたい?団体さんがそんなに慌てて。ガン首そろえてクソの川でもつくる相談かい?」
萃香「あ~?」
義経「いよう、アンタが酒呑童子か?ずいぶんとチビなんだな」
萃香「なんだ?人間かぁ?」
義経「通りすがりのももたろさんだ」
萃香「は?」
義経「なに、ちょいと世界の危機ってやつでね。恨みはないが退治させてもらうぜ」
萃香「ほ?・・・ふ・・・ふはははははは!こりゃ面白い、こんな面等向かって喧嘩売ってくる人間がいるなんてなぁ!!」
義経「いくぜ・・・はああああ!パゼストバイ・フェニックス!!!」
義経の背中に炎の翼が生える
義経「さあ、お仕置きの時間だぜ」
妖怪の群に突っ込んで行く義経
妖怪ボイス断末魔 ぐああ、とか、ぬおお、とか、バリエーション6個ほど
義経気合声6個ほど、はっ!はあ!、はああ!!、とりゃ!、せい!、などなど
百鬼夜行を圧倒する義経
義経「へっ、こんなもんかい。こいつぁさっさと終わらせて、頼朝ン所いけそうだなぁ」
萃香「おー。この一瞬で全部殺したかぁ。やるじゃんか。あんた、ただの人間じゃあないね?」
義経「そーゆーこった。ほれ、あとはてめー一人だ、さっさとかかってきな」
萃香「あと一人ぃ?それ私のこと言ってる?」
義経「他に誰がいるってんだよ。アホかてめえ」
萃香「そっか。そりゃ残念だったね。百鬼夜行はあんたが今潰した一匹が最後だよ。でも、私は私一人で百万鬼夜行だからねえ!」

●9幕 お留守番幽々子
幽々子「紫さんのお屋敷好きに使っていいっていわれたけど(間)次郎いつ頃戻ってくるのかな・・・」
羽音とともに鞍馬登場
鞍馬「この屋敷の御用聞きは全て式神ですゆえ、暇つぶしでもなんでも遠慮なく申しつけて大丈夫ですよ」
幽々子「わ」
鞍馬「あの方は優秀な式神使いでもありますからね」
幽々子「えっと・・・あなたも式神なのですか?」
鞍馬「私はしがない妖怪です。ここでは鞍馬天狗で通っております」
幽々子「鞍馬。それじゃあ、あなたが次郎が言っていた鞍馬天狗様ですね」
鞍馬「持て余してるみたいですねぇ、西行寺幽々子さん」
幽々子「そんなことはないですよ。私、一人でいるの平気なんです」
鞍馬「私の知る限り人間は一人でいるのを嫌うものですが、それが平気とは。実に興味深い」
幽々子「くす。面白い人ですね」
鞍馬「ほう?面白い?面白いとみますか」
幽々子「はい」
鞍馬「ほう・・・妖怪の住処に一人置き去りにされて怯えない人間ですか。長年人間を観察してきましたが、なかなかレアですねぇ」
幽々子「人間を、観察してきた、ですか?」
鞍馬「そうですよ。大昔からずっとです。西行妖が始めてこの世界に介入してきた時よりも前から人間を見てきました」
幽々子「人間はそんな昔からいたんですね」
鞍馬「ええ、人間はまるで成長をしない。今の世は特に酷い。強大な術を手に入れ、増長し、まるでこの世の主であるかのように振る舞う」
幽々子「怒っているのですか?」
鞍馬「怒る?なぜです?」
幽々子「あなた方妖怪を妖魔兵器として使役しました。それはつまり・・・」
鞍馬「ああ、そのことですか。あれは妖怪が人間の力に屈したまで。自然なことです。『妖怪に申し訳ないと思う』その思想こそがあなた方人の驕りです」
幽々子「そう。そういうものですか」
鞍馬「ほう、恥じるでも悔いるでも怒るでもなく、受け入れますか。やはりあなたの反応は興味深い」
幽々子「あなたは百鬼夜行に参加しなかったのですか?」
鞍馬「若い妖怪の考えはわからないもんでしてね」
幽々子「若い妖怪・・・妖怪の人のお年はよくわからないです」
鞍馬「ま、鬼の方がなにしようと知ったこっちゃないのですよ。加えて人間に干渉する気も、もうありません」
幽々子「義経様に稽古をつけたって聞きましたよ?」
鞍馬「ほう。あなたには。彼女が。人間にみえる。と」
幽々子「はい」
鞍馬「・・・ふむ。とにかく、私達忘れられし弱い幻想は自らを封印し、隔離された世界で生きることを決めました」
幽々子「それが、幻想郷・・・」
鞍馬「ええ。世界に背を向けて生きる。当初無理と思われたこの計画も八雲紫さんの協力で実現しつつあります」
幽々子「世界から背を向けて生きる、ですか・・・」
鞍馬「そういうことです。ですが、西行妖。あれだけはいけない。アレがいては我々の住むこの世自体を損なう危険があります。なにか手をうたなければなりません」
幽々子「そのための百鬼夜行なのではないのですか?」
鞍馬「愚昧愚昧。無知蒙昧(むちもうまい)とはまさにあのこと。あんなもの頭に血が登った特攻ですよ。私は私にできることだけはさせてもらおうと考えておりましてね」
幽々子「鞍馬様にできること?」
鞍馬「さて西行寺幽々子さん。ここ幻想郷は二重の結界に守られています。隙は多いですがね」
幽々子「はい。一つは平泉を隠していた結界。もう一つはここを外界から遮断している結界ですね」
鞍馬「実はさらにもう一つの結界があるのですよ。その効果はありとあらゆるものの出入りを禁じる。簡単にいえば一度入れたものは何をやっても絶対に出られない」
幽々子「・・・それは欠陥品ですね。それでは中にいれたものが無くなってしまうのと同じですから。なぜそのようなものを?」
鞍馬「我々幻想郷の隠遁派は、鬼とは違う、とある事で西行妖に対抗しようと考えておりましてね」
幽々子「と、あること。ですか」
鞍馬「そう・・・この結界はね、あなたへのプレゼントなんですよ」
幽々子「私、そんなもの使いませんよ?」
鞍馬「いやなに、あなたにこの中に住んでもらおうと思いまして。住めば都と昔からもうしますし?ものは試しというやつです」

●10幕 義経vs酒呑童子
義経「はぁはぁ・・・くそっ潰しても潰してもキリがねえ・・・」
萃香「あはははは!!どうしたどうした!もっとがんばりなよ!」
義経「やい!きたねえぞこのチビ助野郎!分身なんざひっこめて本体がかかって来い!」
萃香「汚い?人間風情が私たち鬼を汚いと言ったのか」
義経「こちとらてめえ倒して、頼朝のクソ野郎を倒して、那由他とかいうチンカスもブっ倒さなきゃなんねーんだわ」
萃香「・・・ま、いいや、潔いやつも喧嘩も大好きだよ」
義経「私は急いでんだ。ったく面倒くせえ日だぜ」
萃香「嘘だ。あんたは嘘をついている」
義経「は?」
萃香「私はあんたをよーく知ってるよ。ずっとみてきたからね」
義経「はあぁ?」
萃香「あんたは自分の闘争心、そして勝利がもたらす自己顕示に酔っているだけだ。本当は友も世界の行方もどうでもいいのだろう?」
義経「なんだてめえ、チビのくせにえらそうに語りやがって」
萃香「あんたが関心をもっているのは二人の人間。どちらも敵。一人は男。一人は、女」
輝夜「うふふふ・・・」リバーブ

義経「なんだと」
萃香「あんたが世界に関心がないように、二人もあんたに関心がないよ。あんたが誰を相手に何度勝利しようとこう言うさ。ああなんだかうっとおしい乱暴者がいるな、あそこのあいつはなんて名だ?ってね」

義経「そうかいそうかい、ただのチビかと思ったら、覗き見趣味のストーカー野郎だったか」
萃香「その度胸に免じて特別にあんたの望みを聞いてやろう。素手の喧嘩がお望みかい?」
義経「すかしてんじゃねえぞ、チビ野郎。ぶっ飛ばしてやるから覚悟しな」
萃香「遊びはここまでさ。人間の本能、逃れられない種の恐怖、鬼と人間の因果!ルール!知らぬなら、魂の底から、細胞の芯から思い出させてやろう!!」

●11幕 鞍馬天狗と幽々子
幽々子「蔵馬さん?」
鞍馬「さあ大人しく観念してくださいね。幽々子さん」
幽々子「観念?・・・私、食べられちゃうんですか?」
スキマ開く
紫「この天狗はあなたを封印しようとしているのよ。大丈夫?ゆゆちゃん」
幽々子「紫さん」
鞍馬「あやや。こりゃまたずいぶんとお早いお帰りで」
紫「それはこんなことのために作ったんじゃありませんけど。隠遁派の古狸が大人しく静観しているはずがないと睨んでいたけど・・・ようやく尻尾を出しましたわね」
鞍馬「いやはや。画策などと人間のマネゴトはうまくいくもんじゃないですねぇ」
紫「鞍馬天狗喜一方眼。萃香を担いだのもあなたね」
鞍馬「あやややや!めっそうもない。我等山の妖怪の頂点は飽くまでも鬼の方々でして」
紫「ふん、よく言いますわね。あなたたち妖怪のそういうところが嫌いなのですわ」
共鳴音
鞍馬「『あんたたち妖怪』とぬかすか。おのれは何者ぞ?未熟者めが」
ゴアアア突然むけられる突風のような鞍馬の殺気に気圧される紫
紫「なっ!?」
対峙する二人
緊張が高まりピークに達したところで間の抜けた幽々子の声
幽々子「ええっと・・・お二人ともどうしたんですか?私を封印するって話はどうなったんですか?」
紫ガクっ
紫「あなたを封印させないために、天狗と対峙してるのよ」
幽々子「なるほど、わかりました。私、難しい言い方苦手なんですね」
紫「わかったらお逃げなさい。はやく!」
鞍馬「大人しく逃がすとお思いで?」
幽々子「え?私逃げませんよ?」

紫「は?」
幽々子「えっと、まずですね。鞍馬さん?私、封印されたら困るんでやめてください」
鞍馬「は?」
紫「あ、あのね幽々子ちゃん。やめてって言ってやめてくれる状況にみえる?」
幽々子「うーん。でも次郎と約束したんです。待ってるって」
鞍馬「かわいそうですけど、その約束は反故ですねえっ!」
鞍馬天狗が起こした突風が紫に襲いかかる
とっさに結界で幽々子を守る紫
紫「幽々子!」
しばらくこらえるが
紫「う、うう!・・・きゃあああ!!」
吹き飛ばされる紫
鞍馬「どうしました八雲の御大将!あなたの力その程度ですか!」
紫「くっ!!」
おさえた声で鋭く幽々子
幽々子「おやめなさい」

紫「なにをやっているの幽々子、早く逃げて」
幽々子「逃げる必要はありません。それに・・・」
紫「え?」
幽々子「友達はほっとけないでしょ?」
紫「ゆゆ、こ?」
幽々子「鞍馬さん、どうしてその力をもって西行妖と戦おうとしないのです」
鞍馬「リスクヘッジというやつですよ。よりリスクの低い選択をとりたいもんでしてね」
幽々子「・・・私の知ってる男の子がいます。争いが嫌いで、戦うのが苦手で、なのに分の悪い戦いに巻き込まれて、いつも自分より強い敵と戦って・・・でも彼は絶対に諦めたりしなかった。あなたのように逃げたりしなかった」
鞍馬「天狗とはそういうものなのです。我等古き妖怪は持って生まれた己のアライメントに逆らうという機能をもっていないのですよ」
幽々子「そうですか・・・では、そのアライメントに直接訴えることにします」
紫「幽々子なにを・・・わぷ!」
幽々子を中心に空気がドロリと重くなる
表情が消え、沼の底のような瞳になってゆく幽々子
ただならぬ気配に怯える鞍馬
鞍馬「なんですこの気配は」
紫「幽々子・・・あなたまさか」
幽々子「紫、しばらく結界は自分の身を守るためにつかって」
紫「でも、あなたは」
幽々子「(自分の身は)大丈夫。(おなたを守ってあげる、だって)お友達、でしょ?」
鞍馬に向けてゆっくりと手をかざす幽々子
幽々子「天狗といえど妖怪。妖怪といえどしょせん定命(じょうみょう)。私の力からは逃れることはできません」
鞍馬「これが、西行妖の・・・」
紫「絶対死をもたらす能力」
幽々子「黒死蝶に翻弄されていたときの私とは違います。あなたが風より早く襲ってこようとそれよりさきに、あなたの命を念じ、奪うことができますよ」
次第に大きくなる幽々子の不穏な力
鞍馬「ぐ、ぐぬぬぬ・・・わかりました、負けです。リスクヘッジというやつです・・・とほほ」
幽々子「ふう・・・よかった」
不穏な気配すうっと晴れる
紫「死の気配が晴れた?あなた、力をコントロールしているの!?」
幽々子「うん・・・西行妖の力が私にフィードバックしているの感じる」
紫「それじゃあ」
幽々子「西行妖が復活するんだわ・・・」
紫「そんな!私の計算ではあなたの存在は絶対必須のはずなのに・・・」
幽々子「お父様の、頼朝の目的は、私を西行妖から守ること。なにか手段をみつけたんだ。でもそのおかげで自分の身が守れた・・・せっかく次郎が壊してくれた力なのに」
紫「こわす?広有が西行妖の絶対死の力を?広有の、破邪顕正の力は絶対封印の力。破壊の力などではないし、広有の封印は本人以外に決して解除することはできない」
幽々子「それじゃあ私の黒死蝶は」
紫「ええ、二度と顕現することはないでしょう」

幽々子「よかった・・・あなたの力、私の中で生きてるよ、次郎・・・」
共鳴音。気配を探る紫
紫「幽々子!義経と次郎クンの気配が弱くなっている・・・彼らになにかあったんだわ」

●12幕 人妖師弟
萃香「さっきまでの威勢はどうした?え?人間よ」
義経「このガキぃ・・・調子にのるんじゃあ・・・ねえっ!!」
炎を操り萃香に叩きつける
萃香に届く前に炎がかき消えてしまう
萃香「学ばないやつ。その程度の炎を私を焼けると本気思ってんのか?」
義経「まただ、クソっ!」
萃香「おりゃあ!!」
ただのパンチ。その威力で爆弾の爆発のような轟音が響く。
義経「ぐわあああああ!!!」
吹き飛ばされる義経
義経「がはっ・・・!!」
萃香「ありゃ、まだ生きてるの?んなアホな」
義経ぶつぶつと独り言のように
義経「鍛え方が違うんだよ・・・」
萃香「なーるほど、本当に不死身なんだな。これが蓬莱人か」
義経に歩み寄る萃香
倒れた義経の前で立ちどまり、見下げる萃香
萃香「鬼に喧嘩売って、生きて帰れれるとは思ってないだろうな」
義経「(聞き取れない小声でぶつぶつと)クソくらえ」
萃香「あ?なんだって?」
義経「クソくらって口からひり出せっつってんだよ、ヤギ野郎・・・」
萃香「・・・・ふ、ふはははははは!はぁ・・・なぁ、蓬莱人ってな、腕がもげたらどうなるんだい?」
ガシっ、義経の左手首をつかむ萃香
義経「ぐっ・・・」
萃香「にゅるっと生えてくんのかい?とかげみたいにさぁ!」
ギリギリギリギリ。激痛による悲鳴を声らてる義経
義経「ぐうううっ!!」
ブチブチブチぃ
義経「ぐあああああ!!!」
萃香「あはははは!!で?こっからどうなんの!?早く見せてよ!」
突如疾風、弾丸のようなものがすっ飛んでくる
萃香「・・・おいおい、こいつは一体何の真似だい?」
義経「な、に・・・?」
弾丸再び戻ってくる
萃香「鞍馬ぁ!!!」
鞍馬「はああああ!!!」
銃声のような音どおん!鞍馬の体当たりが萃香に命中
鞍馬「どーもどーも、義経さん、お怪我などありませんかね?」
義経「鞍馬・・・てめえ、何の真似だ・・・」
鞍馬「あや~・・・ボケたつもりでしたのに。人間の感性は奥が深い」
立ち上がる萃香
萃香「私に逆らおうってのか?天狗のあんたが」
鞍馬「ま、そゆことです。遅ればせながら時代の流暢に乗ってみようかと思いまして」
義経「手ぇ出すんじゃねえ、こいつは私の敵だ」
鞍馬「あやや・・・威勢はだけは相変わらずですねぇ。虎の巻の教え、忘れちゃいやって言ったじゃないですか」

義経「戦いは本懐(ほんかい)を見失うな・・・っていいてえのか」
鞍馬「左様。おぼえてるじゃないですか。義経、今のあなたの目的はなんです?」
義経「・・・頼朝、いや、西行妖を止めることだ」
鞍馬「いかにも。酒呑童子は飽くまでもただの障害にすぎません」
萃香「言ってくれるじゃんか。私がただの障害ね」
鞍馬「もとい、ただの、というには強敵です。ここは一つ共闘としゃれこみましょう。傷、もうすぐリザレクションするんでしょ?」
義経「はあ?どういう風の吹きまわしだよ。てめーらしくもねぇ」
鞍馬「ま、いろいろありましてね」
ちょっと前シーン
紫「私達幻想は人間の想像から生まれた存在なの」
鞍馬「私のような古い妖怪は行動できる範囲が狭いのですよ。設定が古いもんですからね」
幽々子「わかりました」
鞍馬「な、なにがです」
幽々子「私があなたに新たな想像を与えてあげればいいじゃないですか」
紫「長い年月を語り継がれて、伝説が湾曲して妖怪の性格が変わることはあるけど・・・」
幽々子「信じ、思い、書に残す。あなたは古い妖怪じゃない。これから産まれる妖怪なんです。いままで人を助けてきたんでしょ?本当はそういう者になりたいって望んでるんですよ」
鞍馬「人を攫って、結果そうなったこともあります。ですがそれはたまたまですよ。人間に介在した証である6書も文と武の巻の2書を残すのみですしねぇ」
幽々子「いいじゃないですか。これからは書き増やせば」
鞍馬「は?」
幽々子「文武を持って智見を広める。そんな妖怪がいたっていいと思います。だって・・・ふふ」
鞍馬「だって、なんです?」
幽々子「この世にあなたほど人を見てきた存在はいないのですから。あなたはその瞳にあまたの命を焼き写してきたんですよ」

鞍馬「なるほど、文武をもって智見を広める、ですか、たしかに私のような枯れた妖怪にはお似合いかもしれませんね。文武。そう、文武ですか・・・悪くないかもしれませんね」
ちょっと前シーンここまで
鞍馬「武をもって義となし、文をもって了見を助く。そんなところです」
義経「連敗続きで不愉快だけど、しゃあねえ・・・やるか、鞍馬!」
鞍馬「おおっと。ワタクシ、幽々子さんから新しい記号をいただいおりましてね、鞍馬天狗喜一方眼は廃業したんです」
義経のセリフの裏、駆け寄ってくる萃香の足音
義経「幽々子?あいつから名をもらったってのか?」
萃香「ごあああああ!!」
どおん!萃香のパンチ。空振りするが、地面に大穴をあける
義経「どああああ!!」
鞍馬「その辺は後ほど。修行を覚えていますね」
義経「ああ、いやってほどな」
鞍馬「ならばいきますよ義経!合わせなさい!」
義経「応さ!!」
鞍馬&義経「はああああ!!」

●13幕 決着
次郎「ぐあああああ!!!」
慈航斬どうしが激突は那由他に軍配があがる
吹っ飛ばされる次郎
くすぶり、一帯が焼け野原と化している
次郎に向かって淡々と歩み寄る那由他
那由他「誇りに思っていい」
次郎「ぐぅっ・・!」
那由他「妖忌の力を使ったとはいえ、魂魄の奥義をここまでつかいこなしたんだからな」
次郎「(憎々しげに)那由他ァ!!」
次郎瞬間移動
那由他「(つまらなさそうに鼻で笑う)ふん」
追いつく那由他
次郎「なにっ!?」
那由他のボディブロー。ドスん
次郎「ぐはっ!」
崩れ落ちる次郎
那由他「集中力を極限まで高め瞬発的に超高速移動を行う歩法。二百由旬(にひゃくゆじゅん)の一閃と言う」
楼観剣を拾い上げる那由他。チャキ
那由他「楼観剣か。こいつは返してもらおう(間)なんだその目は」
次郎「それは妖忌の剣だ。お前が手にしていいものじゃない」
那由他「(なにをいうかと思えば)これは魂魄に伝わる秘剣。貴様にこそ持つ資格はない」
次郎「そんなの関係ない。それは妖忌の・・・ぐは!!」
蹴られる次郎
那由他「(憎しげに)汚らわしい・・・妖忌の剣も魂も!人外ごときが手にしていいものじゃあない」
駆けつけてきた幽々子
幽々子「次郎!」
紫「次郎クン!」
那由他「くっくっくっく・・・幽々子にいつぞやの化け物か。ねえ広有、女に助けられるのはどんな気分だい」
次郎「ゆ、幽々子・・・どうしてここに」
那由他「どんな気分かって聞いてるんだよ!!」
那由他蹴り
次郎「ぐあああああ!!!」
幽々子「やめなさい那由他!」
那由他「やめさないって言った?・・・いやだね」
蹴り

紫「幽々子、私に任せてもらえる。たかが人間の剣士ごとき数秒で息の根を止めて・・・」
那由他「くるかい?化け物」
幽々子「まって」
紫「え?」
那由他「ふん・・・」
幽々子「一刻を争う事態だってことは分かってる。それにこのひとは・・・それでも・・・お願い」

紫「いいわ。あなたに任せる」
那由他からかう様子が消えて真剣に
那由他「で?どうするつもりだい、お嬢様」
幽々子「魂魄の主、西行寺の長として命じます。魂魄那由他、いますぐその者への手出しをやめなさい」
間 真剣なる那由他
那由他「確かに俺はいまだ、魂魄那由他だ。だが、その命は聞くわけにはいかない」
幽々子「やめなさい!那由他!やめて!!」
那由他「あなたに理解してもらおうとは思わない。広有、妖忌は返してもらう」
次郎「うわあああああ!!!」
共鳴音 奪われる半霊
間 静寂
那由他「楼観剣」
楼観剣をかざすチャキ
那由他「そして妖忌」
共鳴音、ここからしばらく鳴りつづける
那由他「たしかに返して貰った。これで、俺は・・・」
共鳴音徐々に大きくなる
妖忌「はぁ・・・那由他てめえ、なにやってんだよ」
妖忌、呆れたため息、しかし敵意のない気軽さで友達に言うように語りかけ始める
那由他「西行妖が活性化する瞬間を狙わせてもらった。君ともう一度話せると思ってね」
妖忌「そうじゃねえよアホ。俺を斬っちまったのはいい。てめえは昔っからわけわかんねーとこあったからな。いつかこうなる気がしてたからよ」
那由他「西行妖あんなものはこの世にいらない」
妖忌「そいつぁ同感だ」
那由他「あいつは存在しちゃいけない!君だって広有の正体は知ったんだろう!」
妖忌「共に幽々子を守ると約束したじゃねえか!あれは嘘っぱちだったってのか!」
那由他「先に裏切ったのは君だ!俺よりも幽々子をとったんだ!だから幽々子を守るって約束したのに!今度は・・・」
妖忌「那由他、てめえは・・・」
那由他「ババも俺をおいて先に逝った。ほらみろよ!やっぱりさ!やっぱり人は裏切るんだ!だからずっと言ったじゃないか!」
過去シーン 西行との思い出
怯える小那由他と対峙する西行
威嚇するようにうなる小那由他
小那由他「ぐるるる!!!」
西行「そんなに怖がらないどくれ、ババアはな、あんたのおかあちゃんになってやりたいんだよ」
小那由他「いらない。俺は、生まれた時から一人だ」
西行「木のまたから生まれんのは妖怪だけさ。あんたにもちゃあんと親はいたんだよ」
小那由他「親・・・」
西行「そうさ」
小那由他「う、うう・・・うあ、うあああ!!」
西行「那由他?」
小那由他「生まれてこなければよかった!!」
那由他嗚咽 西行のセリフその裏
西行「・・・なんだって?」
小那由他「俺なんて、生まれてこなければよかった!!」
西行「そうかい・・・」
小那由他「うわああああああん!!!!」
那由他に歩み寄る西行
西行「那由他」
小那由他「うあああ!!くるな!くるな!」
西行「アタシはあんたの味方さ」
小那由他「嘘だ!人は絶対に裏切る!!」
石を投げる
那由他を抱きしめる西行
小那由他「離せ!触るな!!グルァアア!」
西行に噛み付く那由他
肉を食いちぎる
西行「あんた、こんなのも知らないだろ?」
小那由他「あっ」

西行「ハグとキスさ」

小那由他「ハグ?」
西行「こうやって抱きしめて、愛情を体で伝えるんだよ」
小那由他「ウ・・・ウ、ウウウ・・・」
西行「いつか必ず、あんたを誰よりも一番に慈しんでくれる人が現れる」
小那由他「いつくしむ?」
西行「そうさ。だから、那由他、あんたは人間にならなきゃいけないね」
小那由他「ババア、は、俺の一番じゃ、ないの?」
西行「ババアは死ぬまでずっとみんなのババアだから」
小那由他「ウウウウ!!!」
西行「ふふ・・・いいかい、愛には愛が、憎しみには憎しみが返ってくる。あんたがいままでやってきた人食いの業は必ずあんたに返ってくる。その時が来ても決して負けるんじゃないよ。強く人を愛せる人間になるんだ。愛には愛が、憎しみには憎しみが返ってくる。忘れちゃいけないからねぇ・・・」
過去シーン終わり
那由他「そうだよ!人から愛されたいんだ!誰かに愛してもらいたいんだ!俺はただ人から愛されたい!俺を慈しんでくれる人が欲しい!それだけだよ!それのなにが悪いんだ!」
妖忌「西行の言葉も忘れちまったのか?愛には愛が、憎しみには憎しみが・・・てめえ、一体なにやってんだよ」
那由他「俺は、俺はただ・・・あの日のように、誰かのハグを・・・」

妖忌「(中空に向かってひとりごちて)すまねえ、幽々子・・・・那由他、安心しろ、これからはずっと俺がてめえと一緒にいてやらぁ」
那由他「は?」
妖忌「俺の魂、てめえにくれてやるさ」
那由他「信じられないね。広有についたやつの言うことなんて」
妖忌「斬られて味方になるやつがどこにいんだこのアホ!それに・・・もうわかってんだろ」
那由他「なにがだよ」
妖忌「幽々子はてめえの一番ってやつを見つけた。だったら俺はそいつの味方になってやるさ」
那由他「幽々子、幽々子・・・いつだってそうだ。君はいつだって幽々子のことばかりだ!」
妖忌「もう終めえだ。次郎に幽々子を託したように、おめえにあの二人を託す」
那由他「俺にガキのお守りをしろっていうのか!ふざけるな!!」
妖忌「初めて話した日を憶えてるか?・・・俺はお前と変わらねえ、お前は俺になるんだよ、那由他・・・それじゃあ足りねえか?」
那由他「妖忌・・・もう二度と裏切らないって約束してくれ・・・」
妖忌「馬鹿野郎。てめえを裏切ったことなんざ一度もねえよ」
光が大きくなり、次第におさまってゆく(共鳴音)
光の中、立ち尽くす那由他
幽々子「那由他・・・あなたは・・・!」
那由他「幽々子聞いてくれ、間も無く西行妖がこの世に降臨する」
幽々子「え?」
突如爆音、ラスボスっぽい曲

●14幕 アポカリプス
場転
苦しみ出す萃香
萃香「がああああ!!」
義経「な、なんだ!?」
ぼとり、そらから落ちる鞍馬天狗
鞍馬「ぐ、うううう!!」
義経「鞍馬!どうした!なにがあったんだよ突然!」
鞍馬「妖力が・・・私の妖力が何者かに吸収されています・・・!」
萃香「はぁっ!・・・はぁっ!・・・はぁっ!・・・」
義経「鬼野郎も苦しんで・・・(何かに気がついたように)妖力が吸い取られてる!?まさか!!」
轟音、次第に巨大なうめき声
萃香「くそう!私の・・・鬼の力が・・・」
鞍馬「ぐううう!!」
義経「鞍馬ぁ!」
鞍馬「なにをしているのです義経、早く西行妖のもとへ走りなさいっ・・・!」
義経「だ、だっておまえ・・・」
鞍馬「私は妖怪です。妖怪に死という概念はないんですよ」
義経「でも・・・」
鞍馬「いまあなたの力が必要なのは私ではありません。行きなさい。誇りを取り戻すのでしょう?」
義経「・・・ああ、わかったよ!」
立ち去る義経
鞍馬「いやはや、私もヤキが回りましたねぇ」
萃香「アホが、あの程度のやつになにができる・・・!」
鞍馬「なにを言うかと思えば、化け物を退治するのはいつの時代も人間です。あなたが一番良く知っていることでしょう」
萃香「黙ってみてられるか・・・私はそういう物なんだ」
鞍馬「あやや・・・これで死んだらあなたのせいですからね」
再び爆音 うめき声
場転
那由他「西行妖復活を止めることはできない。力を完全に取り戻せば世界は終わりだ。広有は斬らなければならない」
幽々子「なにを言っているのかわかりません」
那由他「時間がないんだ。俺を信じてくれ」
幽々子「あなたのなにを信じろというのです。妖忌を手にかけ、次郎を蹂躙して、いまその命を奪おうと言っているのですよ?」
那由他「広有を、次郎左衛門を頼朝の手に渡してはいけない」
幽々子「次郎を渡す?」
次郎、かろうじて顔だけ起こして
次郎「なんだよ、それ・・・」
幽々子「次郎!」
那由他「意識を取り戻したか」
次郎「幽々子じゃなくて、俺を頼朝に渡さないってどういうことだよ」
那由他「君は幽々子の変わりに頼朝が作り出した西行妖の器となる存在だ。君は人間じゃない」

次郎「は?な、なんだよそれ、いきなりそんなこと言われても笑えないって」
那由他「動揺しているぞ。記憶がなくても魂が理解し、事実を否定しようとしているのだ」
次郎「ちょっと待て、俺が人間のじゃないってどういう・・・」
那由他「次郎、戦争のことで覚えていることが一つでもあるかい」
次郎「そんなの当たり前だろ」
那由他「ならば、具体的にエピソードを思い出してみるがいい・・・なにも思い浮かばないはずだ」
次郎「あ、ああ・・・・嘘だ、こんなこと!」
那由他「当然だ。君の記憶は幽々子の記憶を元に植え込まれた偽りの記憶。君が存在しない6年前以前の記憶までフォーカスを合わせられるわけがない」
幽々子「私の記憶ってどういうことですか!?」
那由他「あとはそこの化け物に聞いてみるがいい」
次郎「ねえ紫」
紫「・・・」
次郎「俺が頼朝に作られたってなに?」
紫「真実を知ることが必ず正しいとは限りません」
次郎「真実・・・」

紫「それでもあなたは真実を知りたい?その瞳、曇らさず前を向ける?」
次郎「・・・ああ(返事)」
紫「次郎君、あなたは・・・」
共鳴音、不快な音しばらく続く
幽々子「そんな・・・次郎が・・・」
次郎「嘘だ・・・嘘だー!!」

腰を抜かしてしゃがみこんでしまう幽々子
那由他「分かっただろう次郎。俺は、君を、斬る」
ゆっくりと次郎に近づく那由他
那由他を制止したいが、立ち上げることも出来ず声がでない幽々子
幽々子「あ・・・やめ・・・」
妖忌「那由他」
幽々子「妖忌・・・?妖忌なの!?(声を振り絞る)お願い!那由他を止めてー!」
那由他「君も、俺を止めるかい?」

妖忌「那由他・・・てめえの好きにしろ」
幽々子「え?」
ズバッ!斬られる次郎
次郎「あ・・・」
幽々子息を呑むように
幽々子「次郎・・・!」
次郎「お、俺・・・俺は・・・」
倒れる次郎。幽々子の絶叫
幽々子「いやあああああ!!」
幽々子の声が終わってからクロスしないように
妖忌「那由他ぁ・・・本当にこれでよかったんだな!?」
那由他「ああ、次郎の命をとるのはやめにした」
妖忌「恨みは、もうねえんだな」
那由他「ないわけじゃないさ・・・でも・・・」
幽々子「どういうこと?いのちをとるのは、やめ、って・・・?」
那由他「いまのは白楼剣の斬撃。白楼剣の斬撃は人の迷いを断つ。藤原秀衡は己の迷いに飲み込まれたが・・・次郎、俺は・・・」

那由他「幽々子」
幽々子「あ・・・」
那由他「あなたに頼みがある。次郎に伝えて欲しい。西行妖を封じるために君の力が必要だと。必ず立ち上がり共に戦って欲しいと」
幽々子「そんな・・・いまの次郎にそんなこと・・・」
那由他「次郎を救うことは、あなたにしかできない」
幽々子「・・・わかりました」
那由他「頼む。できなければ世界は終わる」
踵を返す那由他
那由他「俺は征く」
幽々子「待って那由他、私は・・・!」

那由他「那由他は死んだ。俺は魂魄の業を継ぐ最後の一人・・・。今日この時より俺は妖忌、魂魄一族の頭領、魂魄妖忌だ」

●次回予告
ナレ「ついに西行妖は復活した。次郎左衛門は自らの出生の秘密を知り絶望の底落ちる。次郎左衛門の正体とは。そして世界の命運、その行方は果たして・・・」

エンディング曲が終わり切ったあとに、下のセリフがクロスして終わり。幽々子の長セリフに各人物のセリフがクロスするイメージ

幽々子「笑わないで聞いてね。私、いつか王子様が迎えに来てくれるって、ずっと信じてた」
でも、私の前に現れた人は想像と全然違ってた
背が低くて、年下で、頼りなくて、いつもあやまってばっかり
でも
誰かの幸せのために本気で怒れる人
真っ直ぐ前だけを歩く人
いつでも私のことを見てくれる、私だけの王子様
ありがとう次郎
私、あなたに会えてよかった
次郎、私、あなたが大好き」
次郎「幽々子、俺、いままで自分が生まれた理由ってなんだろうってことばっかり考えてた」
頼朝「この滅びを否定することは運命を否定することに他ならない。そう、世界は今日終わるのだ」
紫「広有の力は、力に取り付く呪いのようなもの。死してもまた新たな広有が生まれるでしょう」
紫「あれは形を持った絶望。具現化した死。あれが・・・」
義経「西行妖・・・!!」
那由他「楼観剣、白楼剣、俺に力をかしてくれ・・・!」
那由他「頼朝!貴様は俺が止める!!」
紫「さあ広有。あなたのすべてを解放しなさい」
次郎「わかったよ。俺は今日のこの時のために生まれてきたんだ」