コード(01)

Last-modified: 2017-07-25 (火) 17:56:18

序文

メジャースケールとマイナースケールを身につけたら、次はコード、特にダイアトニックコードと呼ばれるものの話に移ろう。以下の話は是非手元に鍵盤楽器を置いて読んでもらいたい。小さい頃使った鍵盤ハーモニカでもなんでもよい。

ダイアトニックコード

考えるのは相変わらずCメジャースケール(Cmaj)である*1。スケール上から適当に1つ音を選び、その3度上の音と5度上の音を選ぼう。要するに白鍵を1つ飛ばしに3つ押さえよう、というわけである。ドを選んだらド・ミ・ソ、ミを選んだらミ・ソ・シ、シを選んだらシ・レ・ファ、などが得られるだろう。それらは全て3和音のコードであり、特にCmajの音しか用いていないので、Cメジャースケールのダイアトニックコードと呼ばれるものになる。Cmajはドレミファソラシの7種類の音で構成されているので、Cmajのダイアトニックコードは今やった方法で7つ作ることができる。そして、それらで全てである。つまり、ド・ミ・ソ、レ・ファ・ラ、ミ・ソ・シ、…、シ・レ・ファ、の7つである。

コードネーム

上で作ったCmajのダイアトニックコード達はよく使うので、構成音をそのまま書く代わりに何か特別な名前を付けると便利である。
さて例によってCmajのダイアトニックコード達を実際に弾いてみてもらいたいのだが、何かお気づきにならないだろうか。スケールでやったときと同様、高さが違うだけで同じように響くコードがあることを認識してもらえるだろうか。
例えば、ド・ミ・ソ、ファ・ラ・ド、ソ・シ・レ、などは似たように響くはずである。また、レ・ファ・ラ、ミ・ソ・シ、ラ・ド・ミ、などもド・ミ・ソ達とは違った統一的な響きを感じるだろう。そう、コードもその相対的な音の関係が重要なのである。だから、コードネームはそのコードの特徴をきちんと表してくれるように付けると便利であろう。

メジャーコード

Cmajのダイアトニックコードのうち、ド(=C)から作られたド・ミ・ソというコードをCメジャーコードと呼び、通常、単にCと書く。ここで、ドをコードのルートという。スケールの時と同じ言葉を用いているが、違う概念なので注意しよう*2
先ほど、コードも相対的な関係が重要だと言った。そこで、Cメジャーコードの音の関係を調べよう。ドとミの音程は半音が4つで長3度、ドとソの音程は半音が7つで完全5度、である(ちゃんとそうなっていることを自分の手で確認してもらいたい)。逆に言うと、ルート・ルートの長3度上の音・ルートの完全5度上の音、この3つを並べた物がメジャーコードである、と呼ぶことができる。Cmajのダイアトニックコードでは、他にファがルートのコードとソがルートのコードがメジャーコードになり、それぞれFGと書く。

マイナーコード

Cmajのダイアトニックコードで、ラ(=A)から作られたラ・ド・ミというコードはAマイナーコードと呼ばれ、AmあるいはA-と書く。メジャーコードのときと同様の考察をしよう。
ラとドの音程は半音が3つで短3度、ラとミの音程は半音が7つで完全5度、である。この音程関係がマイナーコードを定義する。Cmajのダイアトニックコードでは、他にレがルートのDm、ミがルートのEmがある。
重要なことがある。メジャーコードとマイナーコードとの違いである。3度の音程が長3度であるか短3度であるか、というただ一点、それのみによって決定されているということを認識してもらいたい。この3度の重要性は色々なところで顔を出すのでよく体にしみこませて欲しい。

さて、ここまででC,Dm,Em,F,G,Amと名前を付けた。それではシ・レ・ファにもB何とかという名前があるだろうとお思いだろうが、ここでは敢えてそのお話を一旦保留し、4和音の話に移らせてもらいたい。

4和音のダイアトニックコード

相変わらずのCmajである。今まで出現したコードは全て3和音であった。もう1音はどのように足せばよいか?簡単である。さらに白鍵を1つ飛ばした上の音(7度)を足せばよい。例えば、ドがルートならド・ミ・ソ・シ、という具合である。3和音の時と全く同様に、ド・ミ・ソ・シ、レ・ファ・ラ・ド、…、シ・レ・ファ・ラ、と7つの(4和音)ダイアトニックコードが得られる。さあさっそくコードネームを付けよう。

メジャーセブンス

Cmaj上でドがルートのダイアトニックコードはド・ミ・ソ・シであり、これをCメジャーセブンスコードと言い、CM7と書く。Mではなくてmajと書いてCmaj7としたり、Mの代わりに△を書いてC△7と表記する流派もある。7度を足したからセブンスコード、単純な話である。そしてやることはさっきと同じ、音程差を調べよう。と言っても、最初の3つはCコードと一緒であるから、新たに調べる必要があるのは増えた4つめの音だけである。ドとシの音程は半音が11個で長7度である。メジャーコードの話とまとめると、ルート・長3度・完全5度・長7度、この4つの音の組をメジャーセブンスと呼ぶ、ということになる。Cmajのダイアトニックコードでは他にFM7がある。

マイナーセブンス

Cmaj上でラがルートのダイアトニックコードはラ・ド・ミ・ソであり、Aマイナーセブンスコードと呼んでAm7あるいはA-7
と書く。ラとソの音程差は半音が10個で短7度。マイナーコードの話と合わせると、ルート・短3度・完全5度・短7度、という4つの音の組がマイナーセブンスと呼ばれることになる。Cmajのダイアトニックコードでは他にDm7Em7がある。かなり端折ったが、やっていることは上と同じなので、何をやっているかわからなくなったときは前の方を何度か読み直して欲しい。

セブンス

Cmaj上でソがルートのダイアトニックコードはソ・シ・レ・ファであり、Gセブンスコードと呼んでG7と書く。ソとファの音程は短7度なので、順に積み上げると、ルート・長3度・完全5度・短7度、という音の組み合わせがセブンスコードを成す。Cmajのダイアトニックコードで他にセブンスコードになるものは存在しない。この特殊性も後々重要である。

マイナーセブンスフラットファイブ

Cメジャースケール上でシがルートである4和音のダイアトニックコードを考えよう。それはシ・レ・ファ・ラであり、Bマイナーセブンスフラットファイブコードと呼ばれ、Bm7(b5)B-7(b5)と書く。フラットファイブ(b5)のことを-5と書いてBm7-5B-7-5としたり、あるいはハーフディミニッシュ(φ)という記号を導入してと略記することもある。さて、この複雑な名前は何であろうか。マイナーセブンス、と呼ばれるからにはそれと関連がありそうである。その辺に気をつけつつ、音程差を調べてみよう。
シとレは短3度、シとファは減5度、シとラは短7度、となる。
比べてみよう、マイナーセブンスはルート・短3度・完全5度・短7度、であった。マイナーセブンスに比べて、5度がフラットしているのが分かるだろう。だからフラットファイブなのである。

シ・レ・ファ

フラットファイブが分かれば、シ・レ・ファにも名前を付けることができる。上で調べたように、シ・レ・ファはルート・短3度・減5度である。これはちょうど、マイナーコードと比べて5度がフラットしている。だからこれをBマイナーフラットファイブと呼び、Bm(b5)B-(b5)と書く。

ダイアトニックコードまとめ

以上で3和音4和音ともに全てのダイアトニックコードが出そろった。ここにまとめておこう。

3和音CDmEmFGAmBm(b5)
4和音CM7Dm7Em7FM7G7Am7Bm7(b5)

抽象化

さてここまでの話においては、スケールの音が全て白鍵上に並んでいる、という特性に基づいて色々な考察をしてきた。しかしながら、「メジャーコードはルート・長3度・完全5度の3和音で構成される」などの定義は、別にスケールが白鍵上にある必要は全くないことがわかるだろう。すなわち、ここまで構成してきた話は自動的に任意のメジャースケールに対して成立する。そこで次の様に記号を抽象化したい。
Cmajでいうド、Emajでいうミ、などつまりスケールのルートを今からIと書く。そこから順に、スケール上ですぐ上の音をII、さらに次の音をIII、…と書く。言い方を変えるなら、スケールのルートに対してその音は何度であるか?というのをローマ数字で書き表したことになる。Cmajでいうのなら、ドがI、レがII、ミがIII、…、シがVII、である。
そしてこの記号を用いて、先にまとめたダイアトニックコード達を書き直してみよう。

3和音IIImIIImIVVVImVIIm(b5)
4和音IM7IIm7IIIm7IVM7V7VIm7VIIm7(b5)

これが抽象的なメジャースケールのダイアトニックコードである。I~VIIの音程関係はずばりドレミファソラシなので、どれか1つでも具体的に定めると他も全て決まってしまう。例えばI = Gだと一旦定めると、I~VIIにはGmajの各音が入り、表はGmajのダイアトニックコードの表に早変わりする。あるいはVI = D と定めると、そのときはI = Fであることが分かるので、表はFmajのダイアトニックコードのそれになる、と言った具合である。
一体こんなことをして何の得になるのだろうか。それは後にコード進行の話をするときに利いてくる。慣れないうちは、I = Cだと思って聞いてもらえるとよいと思う。

マイナースケールのダイアトニックコード

ここまでずーっとメジャースケールの話をしてきた。マイナーでも同じような話を長々としなければならないのか…なんてことはない。なぜならスケール(01)の項で触れたように、任意のマイナースケールに対してそれと平行調の関係にあるメジャースケールとは構成音が同じだからである。今回の場合、Aminを考えればCmajで作ったものがほぼそのまま使える。ここに、Aminのダイアトニックコードを並べてしまおう。

3和音AmBm(b5)CDmEmFG
4和音Am7Bm7(b5)CM7Dm7Em7FM7G7

ご覧の通り、使われているコードはCmajと全く同じ、並び替えただけである。
抽象化もまったく同様に行えるが、注意してもらいたいことがある。多くの一般的な理論においては、マイナーはマイナーで独立したものと考えて抽象化している。すなわち次のような表を得る。

3和音ImIIm(b5)IIIIVmVmVIVII
4和音Im7IIm7(b5)IIIM7IVm7Vm7VIM7VII7

これは、Aマイナーのダイアトニックコードの表においてA = Iと書いたものである。しかしながら、現代的なポップスにおいては、AminとCmajのような平行調にある2つの調はほとんど転調と意識されることなく自由に行き来する傾向にある。よってこのような関係にある2つの調を統一的に扱うため、敢えて次の様な表を提案したい。

3和音VImVIIm(b5)IIImIIImIVV
4和音VIm7VIIm7(b5)IM7IIm7IIIm7IVM7V7

I~VIIの関係はメジャースケールのものを流用し、起点だけを変えた形になっている。この表において、VI = A と書けばAminのダイアトニックコードの表の完成である。おそらく正しく理論を学ぼうとする者にとっては紛らわしいことこの上ないと思うので、そういう人はこの辺でブラウザを閉じてちゃんとした理論書にあたることをお勧めする。そうではなく、適当にそれっぽく使える知識が欲しいと言う人だけついてきていただきたい。

その他のコード

ダイアトニックコードには出現しなかったけれど重要なコードというものは他にいくつかあるので、それらを紹介していきたい。ちなみに以下ではとりあえずルートをCとして記号を定めるが、もちろんルートは何でもよい。

オーギュメント

CaugあるいはC+と書かれるこのコードの構成音はド・ミ・ソ#であり、これは三和音のコードである。音程は順に、ルート・長3度・増5度となる。ここで定義していない度が出てきた。半音が8つなら短6度じゃないか、と思うかもしれないけれど、これはあくまでルートに3度と5度を積み重ねた和音として扱いたいのでこういう表現になる。増4度の例から察されるように、増5度は完全5度より半音広い音程を指す。
なお、3度と5度を積み重ねた3和音はメジャー、マイナー、マイナーフラットファイブ、オーギュメントの4つで全部である。

ディミニッシュ

CdimあるいはC0と書き、構成音はド・ミb・ソb・シbbとなる*3。音程は順に、ルート・短3度・減5度・減7度となる。減7度は短7度よりも半音狭い音程、または長6度を7度の音程の考え方で書いた場合のことを表す。Cm6(b5)と書かないのはaugと同様、セブンスを積んだ音を出すためである。
*4

マイナーメジャーセブンス

CmM7あるいはCm△7と書かれ、ド・ミb・ソ・シという構成音になる4和音コードである。音程は、ルート・短3度・完全5度・長7度である。3度がマイナーで7度がメジャーという命名になっている。

サスフォー

Csus4と表記されるこのコードは、今までのコードとは性格が異なる。構成音はド・ファ・ソであり、音程はルート・完全4度・完全5度となる。今までの、1度・3度・5度を積み重ねる、というルールに従っていないのである*5。だからなんだという気もするが、スタート地点の「白鍵を1つおきに押さえる」という発想からは決して出て来ないという意味で特別なコードだと言える。

他にもまだ紹介していない3,4和音のコードはいくつかあるが、ほとんど見かけないので省略させてもらう。

転回形

Cというコードを考えよう。これはド・ミ・ソという構成音であるが、実はドとミとソ、という3種類の音が使われていれば、それぞれはオクターブくらいずらしてもコードとしての特性はあまりかわらない。例えばドを1オクターブ上にしてミ・ソ・ド、さらにミを1オクターブ上にしてソ・ド・ミ、などとしても、それらはすべてCという名前を持つ。ただし、時々最低音を明示したいときがあって、たとえばミ・ソ・ドの場合はC/EとかC on Eと書く。ソ・ド・ミの場合はC/GC on Gである*6。オンコードとも言う*7
また3和音と呼ぶものの、3種類の音しか使っていなければ、オクターブくらい違う音をいくつ重ねてもやはりそれらは同じコードネームを持つ。例えば下から順にミ・シ・ミ・ソ・シ・ミと6つの音を重ねたとしよう。これはミとソとシしか用いてないので、結局Emという名前を持つことになる。ちなみにこれはギタリストが最初に覚えるEmコードの構成音である。

まとめ

ここまで出現したコードの音程関係をまとめておこう(sus4を除く)。

種類3度系5度系7度系
(メジャー)長3度完全5度-
m短3度完全5度-
m(b5)短3度減5度-
aug長3度増5度-
M7長3度完全5度長7度
7長3度完全5度短7度
m7短3度完全5度短7度
m7(b5)短3度減5度短7度
dim短3度減5度減7度
mM7短3度完全5度長7度

*1 別にどのスケールで話をしてもよいのだけど、白鍵が並んでいるので説明しやすいのである。簡単のため、というやつである
*2 文脈で大体判断できるのだが、たまに紛らわしいので違う用語が欲しいなあと思う
*3 シbbを単にラと書いてしまうこともあるが、理論的にはダブルフラットで書くべき
*4 この4和音をdim7と書き、先に説明したm(b5)のことを称してdimと書く流儀も実は多い。ただこの表記の場合、ダイアトニックコードにおいて3和音のときVIIdimと表記した場合、4和音であるm7(-5)と大きくギャップが出来てしまうのであまり好きでない。誤解を無くすようにするには、この項での4和音をdim7と書き、3和音はdimコードではなくm(b5)と書いてdimという記号を排することだがそれも何だかなあという気はする
*5 増3度と捕らえられないこともないが
*6 分母に来る記号は、メジャーコードと同じであるにも関わらずルート単音を指定する
*7 オンコードと言った場合、それは転回形のみならず、任意のルートを取り得る。例えばGはファの音を含まないが、G/Fという表記が許されて、構成音は下から順にファ・ソ・シ・レとなる