「うん、お鍋にして正解ね」
アンサーはご満悦だった。
だって鍋なら、暑くなったときに「脱いでいい?」が自然に成立する。
狙いすぎてない?
いやいや、鍋は健康的だし、みんな大好きだし、なにより準備が楽!
鍋を選ぶ理由なんて探せばいくらでも出てくるのだ。
「おなべー、おなぺー……♪」
即興で「お鍋たのしみの歌」を作曲しながら、アンサーは材料やホットプレートの用意を整える。
(無作為な計画こそ、真の計画……!)
ふわりと微笑みながら、鍋のスープをひと混ぜ。
ここまでは完璧。
でも、まだ準備は終わらない。むしろここからが本番だ。
「よし、次はヘアゴムね。」
何気なく髪を束ねる動作、それすらも重要。
ちょっとかき上げてからの、ゆるっとまとめるスタイル。
鏡の前で何度も角度を確認し、どのタイミングで結ぶのが最適かをシミュレーションする。
狙いすぎはダメ。でも、何もしないのもダメ。
「がんばる禁止、全ては計画。計算通りに。」
無自覚で無作為な無防備さすら予定のひとつ。
自然にやってる風で、最適な「隙だらけ」を演出するのがアンサー流の計画術。
(もうすぐあの人が来る……!)
やっとのことで取り付けた "2人で食事" の機会。
ちょうど2人で食べるのにいいくらいだけど1人だと多いかな、という量のお野菜を「偶然に」手にするまでの計画は長かったようで、思い返せばあっという間だった。
最終チェックに入る。
ソファには適度にクッションを散らし、寝転がる導線を確保。
照明はちょっと暗め、でも明るすぎないように。
気温は少しだけ上げて、鍋の熱気と合わせれば体感で「暑いね」が言いやすい空間が完成する。
油断とは、計算の上で成り立つものなのだ。
「……完璧」
そう呟いた瞬間、チャイムが鳴った。
ついに──来た。
アンサーはふわりと笑う。
「はーい、開いてるよぉー」
鍵をかけていない危うささえも計画通り、いつもどおりに何も準備していないかのように見せるための完璧な演出。
──も、きっとあの人は見抜いてしまう。
でも、それでいい。
そうなるところまで含めて……
「……わざとだから♪」