今日は何をお望みですか?

Last-modified: 2024-11-18 (月) 16:17:37

なのでプロブレムは、モノに向かって大声を出した。

「と、いうことでぇー? モノ、こっちむいてー! はい、スマーイル♪」

響く、ソフトな電子音。
現実とモノにとっては一秒以下。
だがプロブレムにとっては体感一分くらいの長い静止を経て、狙い通りのツーショットをプロブレムは手に入れた。

実に自分たちらしくて、いい写真。
特に見返り美人ならぬ見返りモノの顔がとてもいい。

この日、この時、この場所でツーショットを撮れば最強! という直感は確かだったと、プロブレムは自画自賛。

だが、画面を見ながらご満悦な彼女は、後ろからユラリと立ち上り始めた冷気には気づいていなかった。

「なにが『と、いうことでぇー?』なの、バカブレム」

声のトーンは直滑降。
うつむいているから目が隠れているところが空恐ろしい。
だけれどもプロブレムは、そんな状況をまだ知らない。

「えっ、なんとなく? そう言えばモノが振り向いてくれるって思ったから♪」

「説明もなしでいきなり?」

「でもさ、めっっちゃカワイイよ! ほら、み、て……」

「……バカブレム」

「す、すっごく良くない!? アングルもバッチリ♪」

「バカブレム」

ようやく振り返り、これはまずいとプロブレムは察する。

温かい空気と冷たい空気がぶつかったらどうなるんだっけ。
雨が降るくらいならマシだけど、雷にまでふったら大変だ。
そう思ってしまうくらいの温度差があった。

なのでプロブレムは一瞬で様々な言い訳を思い浮かべて……
やはり、その全部を投げ捨てた。

「ごーめーんーっ! すーっごくイイ写真が撮れたの! 私の勘があそこしかないって言ってたの! それにモノとここで! ツーショット撮りたかったの!」

両手をパンと合わせた泣き落とし。
理屈も理由もへったくれもない、清々しいまでのわがまま。
でもなんとか許してもらいたい。
だって二人のいい思い出にしたかったから。

そうしてプロブレムが頭を下げたまま一秒、二秒。
プロブレムにとっては十分くらいの時間が経った後で、頭の上から「はぁ」というため息が聞こえた。

「それ、早く私にも送って」

「モノぉおおおおおお!!」

「ああ、もうっ! ひっつくな、バカブレム!!」


──『今日は何をお望みですか?』より抜粋