修羅かわいい

Last-modified: 2025-03-14 (金) 05:45:01

「ぶみい、騙されたぁ……」

叢裂は赫と蒼を振り回しながら、反省していた。
いや、戦場で一人反省会を開いている場合ではないのだが、もう仕方がなかった。
だって、これまでの努力が全部無駄だったのだ。

(こうすれば「かわいい」って聞いたのに……)

みんなの言う通りにしてみたのに、なんだかうまくいかない。
かわいいってなに? なにをすればかわいくなれるの?

神との戦闘こそが人生だった叢裂にとって、初めて剣術で解決できない問題との遭遇だった。

(みんなが悪いわけじゃないよね、叢裂が悪いんだもん)

そう、自分が全部悪い。
かわいくない、自分のせい。

ただ強いだけの自分では、陛下にふさわしくない。
陛下の所有物として、陛下が恥ずかしくない武器でいないと!
と一念発起した叢裂であったが、早速心が折れかけていた。

闇虹さんは言ってた。「無邪気さ、かなぁ」って。
ロンドさんは「ギルティさですよ!」だっけ。
「わがままなところ、とか?」って言ったのはモノさん。

みんなの言う事をやってみたけど、なんだかイマイチ。
どうにも"技"の斬れ味が鈍くなってしまった。


無邪気に斬るってどういうこと?

ギルティに戦うのってどうすればいいの?

わがままに剣を振ってもいいのかな?


「ぶみい、かわいいって難しい……」


叢裂は武器だ。武器にとって人生は戦いだ。
ゆえに、叢裂は、戦いの中でかわいさを表現するものだと、心の底から思い込んでいたのだ。


「ええと、プロブレムさんはなんて言ってたっけ?
 オラスさんはなんか早口で、ゼロさんは──…」


──刹那。


瞬時に湧き上がり、向けられる殺意。

叢裂の背後からの敵襲。
身を潜めていた天使の一撃が、集中を欠いた隙をついて叢裂に襲いかかった。

「叢裂ちゃん! 後ろだし!」

紫亜が咄嗟に叫ぶ。

「あの子、戦いに集中できてない──!!」

楓が瞬時に足を踏み出す。


…──キイイイイン──…


瞬きをする間もなく、鋭い剣戟が空気を震わす。
甲高い金属音が反響する。


「…え?」

一歩を踏み出した楓の足元に転がったのは、まさに叢裂に襲いかかった天使。
否、だったものだ。


「うーん、かわいい、かわいい……、うーん……」

…──ザシュッ──…

…──ガキィィン──…

叢裂は考え事をしながら、反射的に襲いかかる敵を斬り捨て、敵陣へ歩を進めていた。


「か、考え事しながらあの強襲を退けたんだし…?」

「しかも一撃、剣閃ぜんぜん見えなかったんだけど…?」


気がつけば、呆気にとられる紫亜と楓と、先を行く叢裂とでは少し距離が空いてしまっていた。


「……ん? あれ? あれあれ!?」

きょろきょろと叢裂が周囲を見回す。

「ぶみい、考え事してたら前にですぎちゃったぁ?
 えっとー…、あ! 紫亜ちゃん! 楓!」

ぴょんぴょんと跳ねながら、叢裂が手をブンブンと振って紫亜と楓に合図を送る。

「2人とも遅いよぉー! こっちこっちー♪」

屈託のない叢裂の笑顔が戦場に咲く。


「ひゅへへ、無邪気だなぁ」

「にしし♪ 敵を敵とも思わぬ戦いっぷりは罪なんだしー」

「勝手に進んでおいてウチらを呼ぶとかわがまま放題!」

「それでいて、あの強さなんだし」

「何ていうんだっけ、そういうの?」

「うーんと……」

「あ! 思い出した!」


「「修羅!!」」


──『修羅かわいい』より抜粋