「ぶみい、騙されたぁ……」
叢裂は赫と蒼を振り回しながら、反省していた。
いや、戦場で一人反省会を開いている場合ではないのだが、もう仕方がなかった。
だって、これまでの努力が全部無駄だったのだ。
(こうすれば「かわいい」って聞いたのに……)
みんなの言う通りにしてみたのに、なんだかうまくいかない。
かわいいってなに? なにをすればかわいくなれるの?
神との戦闘こそが人生だった叢裂にとって、初めて剣術で解決できない問題との遭遇だった。
(みんなが悪いわけじゃないよね、叢裂が悪いんだもん)
そう、自分が全部悪い。
かわいくない、自分のせい。
ただ強いだけの自分では、陛下にふさわしくない。
陛下の所有物として、陛下が恥ずかしくない武器でいないと!
と一念発起した叢裂であったが、早速心が折れかけていた。
闇虹さんは言ってた。「無邪気さ、かなぁ」って。
ロンドさんは「ギルティさですよ!」だっけ。
「わがままなところ、とか?」って言ったのはモノさん。
みんなの言う事をやってみたけど、なんだかイマイチ。
どうにも"技"の斬れ味が鈍くなってしまった。
無邪気に斬るってどういうこと?
ギルティに戦うのってどうすればいいの?
わがままに剣を振ってもいいのかな?
「ぶみい、かわいいって難しい……」
叢裂は武器だ。武器にとって人生は戦いだ。
ゆえに、叢裂は、戦いの中でかわいさを表現するものだと、心の底から思い込んでいたのだ。
「ええと、プロブレムさんはなんて言ってたっけ?
オラスさんはなんか早口で、ゼロさんは──…」
──刹那。
瞬時に湧き上がり、向けられる殺意。
叢裂の背後からの敵襲。
身を潜めていた天使の一撃が、集中を欠いた隙をついて叢裂に襲いかかった。
「叢裂ちゃん! 後ろだし!」
紫亜が咄嗟に叫ぶ。
「あの子、戦いに集中できてない──!!」
楓が瞬時に足を踏み出す。
…──キイイイイン──…
瞬きをする間もなく、鋭い剣戟が空気を震わす。
甲高い金属音が反響する。
「…え?」
一歩を踏み出した楓の足元に転がったのは、まさに叢裂に襲いかかった天使。
否、だったものだ。
「うーん、かわいい、かわいい……、うーん……」
…──ザシュッ──…
…──ガキィィン──…
叢裂は考え事をしながら、反射的に襲いかかる敵を斬り捨て、敵陣へ歩を進めていた。
「か、考え事しながらあの強襲を退けたんだし…?」
「しかも一撃、剣閃ぜんぜん見えなかったんだけど…?」
気がつけば、呆気にとられる紫亜と楓と、先を行く叢裂とでは少し距離が空いてしまっていた。
「……ん? あれ? あれあれ!?」
きょろきょろと叢裂が周囲を見回す。
「ぶみい、考え事してたら前にですぎちゃったぁ?
えっとー…、あ! 紫亜ちゃん! 楓!」
ぴょんぴょんと跳ねながら、叢裂が手をブンブンと振って紫亜と楓に合図を送る。
「2人とも遅いよぉー! こっちこっちー♪」
屈託のない叢裂の笑顔が戦場に咲く。
「ひゅへへ、無邪気だなぁ」
「にしし♪ 敵を敵とも思わぬ戦いっぷりは罪なんだしー」
「勝手に進んでおいてウチらを呼ぶとかわがまま放題!」
「それでいて、あの強さなんだし」
「何ていうんだっけ、そういうの?」
「うーんと……」
「あ! 思い出した!」
「「修羅!!」」