死霊術師は眠らない Awake!!

Last-modified: 2025-03-14 (金) 05:22:04

『──目覚めよ、漆黒の刻印!!』

ラクダ色のカーディガンをぎゅっと腰に巻き、手首にシュシュをするっと通す。
くいくいっとネクタイを下げると勇気を出してシャツの前をぶちぶちと開けていく。

「ふっふっふ、我ながら完璧な変装…! どこからどうみても圧倒的ギャル!」

これなら誰も私を冥王クウリアンセムだと見抜けまい。
久理は自慢げに姿見鏡の前でくるりと回って見せる。

普段はつけないタイプのアクセ。ありえん丈のスカート。
髪も丁寧めに巻き、スクバの中は空っぽ。
リップもトゥルトゥルで香水もふっちゃって。

「やば、これ絶対私だってわかんなくない? 自分でみても誰!?ってなるし♪」

今回の任務はとある繁華街。
既に死霊術師としていつもの服装でどかーん!と一発やらかしている久理の顔は割れており、なんとかして街に潜入しなければならなかった。

「……うーん、完璧ではあるけど、1つだけ気をつけないと」

久理には心配事があった。

──そう、開虹である。

変装しているところを見られでもしたら、あの賢い間虹のことである。
既に一度任務に失敗していることは即座に見抜くだろうし、なんなら怒られてしまう。

「ふっ、おもしろい…!
 今宵の我が任務は間虹に見つからず、単独で潜入を成功させること!
 なるほど、それが世界の選択か…!!」

あーっはっはっは!と高笑いしながら久理は意気揚々と部屋を出る。
眩しい光が久理を包む。
さっき今宵とか言ったっけ? やば、完全に今はお昼だ。

「ふっ、この冥王には直射日光さえも宵闇のヴェール!」

決まった。自分への言い訳だけど。

「久理じゃん、どうしたの?」

きゃあああああ。

まさかの、ド正面に間虹。なぜ。なぜここに。
っていうか完全に私ってバレてるし!
くっ、さすがは闇虹…! この完璧なギャル変装を見抜くとは!

「あぁ、これから任務? ……何、その服?」

「えっ!? いや、これは、これは……」

どうする? どうする久理。悪霊さんを召喚して誤魔化す?
いや違う、こういうときこそ、冥王は堂々とするべき!

「こ、これが……、新たなる闇の正装……!」

「ギャルが?」

「…うん、闇ギャル」

「闇ギャル?」

「うん」

「……そっか! いいじゃん、かわいい♪」

ゆ、許された…!

ていうか、闇ギャルって!
自分でも意味が分からなかったし、たぶん闇虹も分かってないよね!?

「あ、任務失敗のレポートは後で出してね」

許されてなかった!

「うう……、はい、わかりました……」

「はぁ、しょうがないなぁ、私も一緒に着てあげるから」

「…間虹?」

「ギャルになって潜入するんでしょ? 一緒に行こ?」

「闇虹うううう!」

今宵(昼間)の潜入任務は、どうやら賑やかになりそうだ。


──『死霊術師は眠らない Awake!!』より抜粋