「でも、疲れてないわけじゃないわよね、モノも」
アンサーがプールサイドで笑いかけてくる。だから疲れてないって言ってるでしょ、動けるし、と言いながら、タオルを受け取ってしまった私の負けだ。今日はもうアンサーには勝てそうにない。
「あれだけハードな訓練のあと、さらにトレーニングまで。モノはすごいわ」
アンサーの余裕が、私を穏やかに苛立たせる。同じことをあなたもやってきたでしょうに。「疲れた」なんて言ってしまったら負けを認めるみたいで、だから絶対言わない。そんなことないし、これくらい余裕よ、と強がって、否、強がっていることさえさとられないように、実際にはかなり疲れてることに手を差し伸べられないように振る舞う。アンサーは優しい。甘えてしまいたくなる。けれど、もしこれがアンサーでなくてプロブレムなら? ここで折れてしまったら、いつかあの子の前でもその顔を見せてしまいそうだ。それは嫌だ。
「がんばる禁止、休むのも訓練よ? 心のね」
「心の訓練…ね。まあ、今日は少しくらい…休んでもいいかもね」
訓練なら仕方ない、と思ってしまった自分が悔しい。悔しさを忘れたくて付き合ってもらったトレーニングなのに。まだまだ強くならなくてはいけないのに。
「だから、がんばる禁止よ?」
アンサーは、プロブレムはここにいないのだから、と添えて目を閉じた。見てないから、という意思表示だ。偉大なる先輩がいうのだから仕方ない。
「あーー、もう何も考えたくない」
私は思い切り飛び込んだ。
──『溶溶漾漾』より抜粋