みんな急いでいる。
きっとどこか大切な場所に向かっている。
待ち合わせかな?
それともお仕事?
けわしい顔、笑顔、まじめな顔、緊張してるのかな?の顔。
まるで別の世界のことみたい。
たった1枚のガラスを挟んだだけの現実が、全然ちがう世界のことみたいにみえてしまう。
「神さまって、こんななのかな」
同じ世界のことなのに、まるで映画を見てる、みたいな。
みんなは映画がおもしろいって言うけど、私にはよくわからなくて、だから、そんな感じかなって。
白い何かが目の前で揺れる。小さな手。
お母さんに手を引かれた子どもが手を振ってくれている。
「向こうからみても、そうなのかな」
刹那、甘い香りが鼻をくすぐる。
何か難しいことを考えていたきがするけれど、全部忘れてしまった。なにを考えていたんだっけ?
「お待たせしました」
後ろの席においしそうなパンケーキが届いていた。
──『甘くて幼い僕たちだから』より抜粋