「私って、やっぱり性格が悪いなあ」
ふいに声に出てしまった。
乾いた砂浜と、光を孕んだ寡黙な海が見守っている。
白い光が、木製の床をやわらかく照らしていた。
その上に、私は座っていた。すこし冷たい。けれど、思ったより気持ちよくて、じわじわと水着の布に熱が溜まっていく感覚があった。
あの人は、まだ来ない。
でも、それでいい。だって来るってわかってるから。
今日のために選んだのは、真っ白な水着。派手じゃないけれど、ささやかなフリルやお花がかわいくて、背中のあきが深くて、肩紐がすごく細い。胸元のラインも自分で言うのもなんだけど、ちゃんとわかってる子が選んだって感じのやつ。
昨日の夜、鏡の前で何度も着ては脱いで、お化粧の順番とか、髪の毛の結ぶ高さとか、爪の色まで、全部決めておいた。
がんばる禁止──。
がんばらなくてもいいように、そうならないように十全に準備して、あとは流すだけ。計画どおり、物語の主役になればいい。
何を話すかも、どんな顔をするかも、何十ものパターンが頭の中にある。笑うタイミングも、少し口をとがらせるタイミングも、「暑いね」って言うときの声のトーンさえも。
シミュレーションは完璧だ。
何が起きても対応できる。何が起きても、だ。
そりゃあ不老不死とはいえ年頃の女の子だし。少しくらいは、いやらしい妄想とか、そんなこと起きる?って展開を妄想しないわけじゃない。普通にする。でも、そういうことも含めて、私のシミュレーションは完璧なのだ。
どんなことが起きても、がんばる禁止。
ただの妄想好きなのかな?って不安になっちゃうこともあるにはあるけど、それが私だから。
知らないふりをして、驚いたふりをして、全部はじめてみたいな顔をして。そう、演技だってパーフェクト。ウソだとばれるようなヘマはしない。
この水着に気づいたときの、あの人の目線。たぶん、言葉にはしない。けれど、ほんの一瞬だけ静かになる。その一瞬を逃さないように、私は口元だけで笑うの。ちょっと照れてる風に見せて、でも心の中では、してやったりって思ってる。
うん、大丈夫。
事前の予想の中で、他の子たちもあの人の気を惹きたいだろうって分かってて、どんな風にアプローチするかも想像できていて、だからこそ、そうはならないように作戦と計画を立てた。
うまくいく。大丈夫。
目的のためなら何でもする。
ああ、やっぱり私って、性格が悪いなあ。