手袋を外すと、彼女の手はいつも通りに白く、滑らかだった。
ほんの数分前まで、「仕事」をしていたはずの指先は、今や何事もなかったかのように穏やかだ。
軽い息をつきながら、彼女はキッチンへ向かった。
「ギルティですねぇ」
もう今晩の献立を考えているなんて、と微笑みながら、冷蔵庫を開ける。
目の前には新鮮な野菜が並んでいて、まるで普通の日常がそこに広がっているかのようだった。
ロンドの顔には、一切の疲れも、迷いも見えない。
仕事を終えたばかりのはずなのに、その表情は変わらない。
赤い野菜を手に取り、彼女は少し首をかしげた。
ソースにするか、サラダにするか――その小さな選択が、今の彼女にとっては最大の関心事だ。
けれど、背後には、まだ消えきらない空気が残っていた。
手際よく片付けた「仕事」の記憶が、部屋の片隅にかすかに残る。
「ソースですかねぇ、やっぱり!」
彼女は明るい声で独り言を呟き、包丁を手にした。
──『ENVYFUL WORKS』より抜粋