"──いつものアクシオンゲート。ここが、居場所。"
木の置物を倒してみた。
部屋の中から、驚いたような悲鳴が聞こえる。
今度は干してある服を引っ張ってみた。
すると抱きかかえられて、ベランダの縁に戻された。
「あら、かわいい猫ちゃん♪ イタズラしちゃダメよ?」
『みて! 黒猫! めずらしー!」
「野良猫かな? あんまり見ない子だね」
黒い尻尾を垂直に立てて、堀の上を悠々と歩く。
手を伸ばす子供には目もくれず、吠える犬にも目をくれず。
気が向いたら寝転がり、気ままにまた歩き出す。
ふと、気になって足を止めた。
商店街のショーウィンドウ、"GRAM"の白いワンピース。
「気になるのかい、黒猫ちゃん? もし猫用があったら、きっと似合うだろうね」
かけられた声に、飛び上がった。
「あれ、キミ……どこかで会ったかな?」
そこから先は、覚えていない。
ただ、いつもどおりの帰り道をひたすらに走った。
何がそうさせているのかも、よくわからなかった。
* * *
「シオン、戻ったのか?」
「……んー」
レアリザスを適当にあしらって自分のベッドに潜り込んだら、布団の隙間から白い布地が見えた。
いつかみんながくれたのに、一度も袖を通さないまま無造作に放り投げられた、"GRAM"の白いワンピース。
大きくため息をついてからもぞもぞとゆっくり起き上がって、まだ一度も袖を通していないそれに手を伸ばす。
いつもと同じ時間。
いつもと同じ人々。
いつもと同じお散歩。
いつもと同じ仲間たち。
いつもと、少しだけ違う一日。
「おいシオンー? 早くしないと遅れちゃうぞー」
「いまはいってこないで」