「ほんとに?あけるの?僕が?」
煤墨がほんのちょっとだけ眉をひそめる。
「他に頼めるヤツ、いねー説あるから」
「ご指名光栄です」
そう言うと煤墨は眼鏡の縁を指先であげた。
「で、どこにあけるの」
「ここ」
決まった場所を指差すと煤墨はひとつ、ため息のようなあきれのようなよくわからない息を吐く。
「どうやって?」
「これで頼むわー!」
準備しておいた太い針を鉉覇は取り出す。
「野蛮だね、鉉くん」
「普通だろ」
「専用のやつ、いろいろあるでしょ」
「めんどくさい」
「いいけど、これって消毒とかするべきなんじゃない?」
「しなくていい説あるだろー、大丈夫だって」
どうせ傷口が化膿することなんてないんだし。
「はやく」
「はいはい」
煤墨が体に触れる。痛みに備えて目を閉じる。
そこに飛び込んでくる気配があった。
「ちゃんと消毒した方がいいと思うんだけど」
闇虹の声に鉉覇は目を開く。
一瞬目を閉じていただけなのに、あかりが眩しくて瞬きを繰り返す。
光の中に、煤墨と間虹の姿があった。
こどもの頃、目を閉じるのがこわかったことがある。だから眠るのがこわかった。でも暗闇の中でないなら、目を閉じるのはこわくなくて、光の中で目を閉じると瞼の裏になんだかみたことのない模様が見えるのが楽しかった。だからあかりをつけて眠りたかった。
鉉願はそんなことを思い出す。
「だってさ、鉉くん」
「不老不死は、自分の身体を雑に扱う免罪符じゃないから。
はい論破」
針を構えたままの煤墨に続ける形で闇虹が言い、鉉覇は肩をすくめる。
「かわりに闇虹ちゃんがやってよ、僕消毒薬とってくる」
「あっ、そういうの無理」
針を差し出した煤墨に間虹がきっぱりはっきり答え、鉉覇は吹き出す。
「なにか可笑しい?」
「闇虹は断る説出てたんで、煤墨に頼んだんだよなー」
「とにかく消毒はしなさいよ!」
言い合う鉉覇と間虹の間に久理が飛び込む。
「あー!闇虹と鉉覇が楽しそうなことしてるー!
私も混ぜてよー」
その後ろから玄鉄と濡羽もゆっくりと歩いてくる。
「ほらほら、小鳥ちゃんも混ぜてもらっておいでー」
「あたま撫でないで下さい!訴えますよ!」
「みんな集まってきちゃったね♪」
言い合う玄鉄と濡羽に煤墨が肩をすくめて告げ、間虹と顔を見合わせる。
「あんたは何してても目立つからねー、ねえ王様?」
「……くく、あははは!
みんな俺のこと大好き説ですぎだろー!」
ふたりよりさんにん、さんにんよりろくにん、仲間は多ければ多いほどいいって説あるよね、やっぱり。でも多すぎても困るかな。今がちょうどいいかな、どうかな。説っていろいろあるからね。
そのまま膝を抱えてくくく、と鉉覇は笑い続ける。