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Last-modified: 2025-02-17 (月) 16:25:32

凍てつく世界に、そうして彼女の姿だけがあった。
空間の残骸、魔剣の残滓とも呼べるものに対して、それは明確な結論であったとするべきだろう。
これを以て世界のエントロピーは停滞し、終結し、あるいはその在るべき形と照応して永遠と相成った。

乱雑に飛び交う大小の光の粒だの、途方もない力の端くれだのといったものが、彫刻のように気高く在る氷の結晶のひとつひとつに乱反射して、触れれば崩れそうな程の-459.67ファーレンハイトを讃えるが如くゆらりゆらりと囲い踊る。

人というものの道理、否、幽世の道理さえもそれは超絶していた。
日不見の楔として永遠を選んだ其れとはまた異なる場所で、彼女もまた落ちることを厭わない。
只、その神想に叶う王としての自我を【■■】が有しているのならば、そのたった一つを標としてモノクロームの世界は永劫に再構成される。

あれはきっと光であったのだ。
昏い夜にありながら折々に輝きを魅せ、爛々と存在を示していた。
故に確たる意義を持たない【■■】がその美しさに惹かれるのは当然のことなのだと理解した。
そしてそれこそが、彼女が許せなかったものでもあった。

もう彼女は、暁を見てはいない。
白に染まりゆく黎明の中にいて、瞳は鮮烈な橙の輝きとして煌と鳴り響いている。
長く、永い夜が明ける。


──『mno.ABSOLUTE();』より抜粋