prb.ABSOLUTE0;

Last-modified: 2025-01-23 (木) 00:56:41

「未完成だなー、私って」

結局、カフェを選んだプロブレムは、いつもの窓際の席に座ってストローをいじりながらふと思った。
なんで自分はこんな風に生まれてきたんだろう?って。

「ねえ、私ってさ、なんでこんなに色んなことが
 わかったり、見えちゃったりすんだろね」

そう、呟いてみても誰も答えてくれない。
周りにいるのは、カフェの騒がしいお客たちと、飲みかけのアイスラテだけ。

誰かの影響で飲んでみたけど、もうちょっと甘いのが好み。
今日はちょっと舌がしびしびする。そのせいか気持ちもちょっとしびしびしてる、気がする。

テーブルに落ちた小さな水滴。反射する光の角度。
それが時間の経過とともにどう変化するかが無意識に分かっちゃう。
それどころか、おそらくは未発見の光反射に関する定理なんかもなんとなーくおぼろげに頭に浮かんでしまう。
きっと計算とかしてるんだろうけど、当の自分には途中経過さえ分からない。

「きっと自分の気持ちとかも本当はわかってないんだろな」

面倒くさい頭だな、とプロブレムは苦笑する。
でも、止められない。そういう風にはできてない。

幼い頃の記憶は一切ない。
気が付けば天才ってラベルを貼られてた。自分でも言ってたけど。
だって、そうしないと自分の貌を保てない気がしてて。

天才なんて面倒だ。周りからもそう思われてるだろうけど。
なにより本人が一番そう思ってる。

でも──

「でもさ、だからって悩んでてもしょうがないよねー!」

プロブレムはふっと笑った。

既に答えは出ているから。だって私って天才だし。
悩んでるふりして、本当は「悩んでる」プロセスがほしいだけで。
答えはもう知っているから。

「んーー!毎日たのしーー♪」

もし自分を○○の天才と呼んでもらえるなら、楽しむ天才がいい。
この世界はプロブレムにとって難題ばかりでできていて、そして、なんとなく答えを出して生きていける。

けれど、プロセスも過去もないプロブレムにとって
「楽しむ」という行為は彼女に許された唯一のプロセスであり、過去なのだ。

兎にも角にも全部を楽しんで、思い出全てが「楽しかった」一色に染まる人生がプロブレムなのだ。

キラキラと光る水滴を指でなぞって、ストローをくるりと一回し。
アイスラテの最後の一口を飲み干すと、からん、と氷が心地よい音を奏でる。

空は今日も青くて、空気が澄んでいる。

「未完成だな、わたしって♪」

今日もきっと楽しくなりそうだ。


──『prb.ABSOLUTE0;』より抜粋