[越後三島漁村 達成]
(泉よ。少し話がある)
(どうやら、あの小娘も薄々
感づいたようだがな)
とこよ。先に自宅に戻っていろ。
吾は泉と話がある。
<あんまり、遅くならないように
してくださいね。>
……心がけよう。
あれはどういうことだ、泉。
<先遣隊から報告は聞いた。
どうやら出現したあやかしはほぼ全てが――
「怪談」を元とした、土地に根付かぬもの
だったらしいの。>
<幾つかオヌシの鬼気に誘われ、
出でたものもあるようだったがの。>
土地に根付かぬものが多いのはまだいい。
かの地には「アレ」がいるからな。
他の伝承や信仰が割り込む隙間が無くとも
仕方は無い。だが――
先の大首の大量発生。それに今回の「朱の盆」
どちらも人の匂いと意思を感じた。
<わかっておるよ……幕府には、
ワシから真意を問うておこう。
あまり期待は出来んがな。純粋に幕府側は
何も知らぬ可能性がある。>
どうやら、吾がお前らに取り憑いたときとは
また情勢が色々と違うようだな。
<時も流れた、それは仕様のないことじゃ。
あの子の成長を見ていればわかるじゃろう?>
……
……ああ、そうしよう。
吾を失望させるなよ? 泉。
何用だ?
<何に義理立てしているかは問わんが、
もう少し前に出てきても構わんのじゃぞ?>
覚えておこう。だが、どう動くかは
吾の自由だ。
<そうじゃ。自由に、な……>