……………
ほう、陰陽師か……お前は。
こんな所に何用だ?
……まぁ大体の所は想像つくが。
<あなたが……大滝丸さんですね。>
その通りだが……
俺の名を知っている、ということは――
最近この辺りをうろついている輩の仲間か?
<悪路王さんに……>
あなたのことを聞いて来たんです。>
――なに?
悪路王……阿弖流為か。
懐かしい名前が出てきたものだ。
で?
阿弖流為が俺に何の用だ?
受肉した、とかいう話は聞いたが――
まさか、あやかしとなった俺に
同情しているわけではあるまい。
……やはりそういうことか。
ならば……さっさと帰れ!
そして奴に伝えろ。
そんな情は要らぬ、とな。
<悪路王さんは、
あなたのことを心配して――>
だから要らぬ! と言っておるのだ!
俺は幽世だかが与えたこの力を気に入っている。
あやかし? それがどうした。
鬼と呼ばれていたものが、そう変わっただけだ。
わかったら、さっさと帰れ。
俺は弱い者に興味はない。
<弱いかどうかは、
戦ってから判断してください!>
なんだ、生意気な奴だな。
……阿弖流為の使いなだけある。
<私は使いじゃない。悪路王さんに……
あなたを倒すように、頼まれたんです!>
……………
阿弖流為も余計なことを。
しかも、こんな弱そうな奴によ。
<だから……>
あー、わかったわかった。
弱いかどうかは勝負してから、だろう?
活きのいい奴は嫌いではない。
まぁ、よいだろう……
かかって来い。
相手をしてやる。
お前が俺に勝つことは有り得ぬが……
……もしも勝てば……
……………
ふんっ可能性のないことを
考えるのは時間の無駄だな。
<(今、大滝丸さん、
少し寂しそうな顔してた……)>
<(もしかしたら……)>
<(あやかしのままでいいなんて、
嘘なのかもしれない…・・)>
どうした? 黙り込んで。
怖気づいたのか?
俺はいつでも戦える。
お前の準備ができたら、かかってこい。
<(あの、私が勝ったら、
大滝丸さんは、どうなるんですか?)>
そんなことは有り得ぬが……そうだな。
昔は望んでこの地を守っていたが……
力を得た今は、その引き換えだろうが……
俺はこの地に縛り付けられている。
その、縛り付ける楔が、
抜かれるんだろうよ。
……まぁ、一度や二度勝つ程度では
無理だろうが……
俺の退屈しのぎにはなるな。
ほら、遊んでやるよ。
<(やっぱり、あやかしの身ゆえの枷が、
大滝丸さんを縛ってるんだ……)>
<(悪路王さんの言った通り、
勝ってその枷を外してあげないと……!)>
どうした、勝負しないのか?
<いえ、準備はできています。
いざ、勝負!>
ああ、来い!