自分を知る声

Last-modified: 2017-05-28 (日) 00:37:09

[出羽 弐 過去を知る者 壱]

 

<……>

 

<遠江で気を失った時――
 見えてしまった……ある景色……
 雪降る北国の光景。
 ……あれは、城の跡、だろうか?
 しんしんと降る白い綿雪の向こうに、
 藍色の空と濃緑の木々。
 何かを思い出さないと――
 そう急き立てられても、
 記憶の中は、深い雪に閉ざされていて、
 これ以上、掘り進むことを許さない――>

 

<……>

 

……うつしよ……

 

<……え?>

 

吾の声を忘れたか?

 

……

 

<あなたは……誰?>

 

……なんと。
久方ぶりに話をしようと思えば、
吾を忘れたと言うのか。

 

<私を……知ってるの?>

 

知って……も何も……

 

お前…………から……ないか……
……忘れ……のか…………
吾ら……旅を……

 

<えっよく聞こえないよ!
 ……旅って言った?>

 

……飛ばし……話……
……早く……所へ……
その為……北……

 

<(あ……
  どんどん声が遠ざかっていく……)>

 

…………るぞ。

 

……

 

<突然目の前に現れたと思ったら
 ……消えた。
 一体……誰なんだろう?
 頭に見えていたのは……
 「角」……だろうか?
 だとしたら……>

 

 

[出羽 弐 過去を知る者 終]

 

相変わらず、甘いな。
うつしよよ。

 

<この声は……
 あの時の……!>

 

うつしよを媒介に
声を送っているのだ。

 

お前達の戦い、
見せてもらったぞ。
あの程度で手こずるとはな。
吾の知っているお前はもう少し、
強かったが……記憶違いか?

 

<ごっ御主人様に向かって、
 失礼な!>

 

ほう……
お前は、まさか、
あれの……型紙……か?

 

<あれって何だよ!
 姿が取れないからって馬鹿にするな!>

 

そう怒るな。
それにしても……
さすがは、あれの型紙だな。

 

<どういうこと?
 あなたはカタちゃんのことも
 知ってるの?>

 

もちろんだ。だが、
積もる話は吾の所へ来てからにしよう。
……城で待っているぞ。

 

<御主人様だけじゃなく、
 私のことも知っていた……
 やっぱり……
 そろそろ、お別れかもしれませんね。>