[出羽 弐 過去を知る者 壱]
<……>
<遠江で気を失った時――
見えてしまった……ある景色……
雪降る北国の光景。
……あれは、城の跡、だろうか?
しんしんと降る白い綿雪の向こうに、
藍色の空と濃緑の木々。
何かを思い出さないと――
そう急き立てられても、
記憶の中は、深い雪に閉ざされていて、
これ以上、掘り進むことを許さない――>
<……>
……うつしよ……
<……え?>
吾の声を忘れたか?
……
<あなたは……誰?>
……なんと。
久方ぶりに話をしようと思えば、
吾を忘れたと言うのか。
<私を……知ってるの?>
知って……も何も……
お前…………から……ないか……
……忘れ……のか…………
吾ら……旅を……
<えっよく聞こえないよ!
……旅って言った?>
……飛ばし……話……
……早く……所へ……
その為……北……
<(あ……
どんどん声が遠ざかっていく……)>
…………るぞ。
……
<突然目の前に現れたと思ったら
……消えた。
一体……誰なんだろう?
頭に見えていたのは……
「角」……だろうか?
だとしたら……>
[出羽 弐 過去を知る者 終]
相変わらず、甘いな。
うつしよよ。
<この声は……
あの時の……!>
うつしよを媒介に
声を送っているのだ。
お前達の戦い、
見せてもらったぞ。
あの程度で手こずるとはな。
吾の知っているお前はもう少し、
強かったが……記憶違いか?
<ごっ御主人様に向かって、
失礼な!>
ほう……
お前は、まさか、
あれの……型紙……か?
<あれって何だよ!
姿が取れないからって馬鹿にするな!>
そう怒るな。
それにしても……
さすがは、あれの型紙だな。
<どういうこと?
あなたはカタちゃんのことも
知ってるの?>
もちろんだ。だが、
積もる話は吾の所へ来てからにしよう。
……城で待っているぞ。
<御主人様だけじゃなく、
私のことも知っていた……
やっぱり……
そろそろ、お別れかもしれませんね。>