[悪路王前]
数年ぶりの客かと思えば、
今度は間をおかずに二人目か。珍しいな。
阿倍の一族か。吾(われ)を退屈させたのでな。
加護を与えて帰したぞ。
陰陽師だろう、お前は。
――ふむ。血族に連なるものではないのか。
伝心を通してやった。
詳しくは向こうに聞くがいい。
今すぐお前を帰しても良いのだがな。
血に依らぬ陰陽師は久しぶりだ。
吾の血は鬼を産む。身体の一部であれば、
新たな吾すら生み出せる。
これは吾の眼球だ。
姿を見せた方が便利であろう。
名を名乗れ、そして目を見せろ。
鬼の一族をも使役する陰陽師よ。
本当に懐かしさばかり覚えるな、今日は。
しかしこれは困った。
余りに懐かしくてな、飽かんのだ。
吾を退屈させればすぐに帰すのだが。
陰陽師。平凡な質問でもして吾を飽かせよ。
替わりに答えられることならば答えよう。
図に乗るな陰陽師。吾に名前を呼ばれたくば、
泉程度には力をつけよ。
……
――変わらぬな。
刃を合せてやる。光栄に思え。
そして吾を退屈させてみせよ。
でなければ、お前が死ぬだけだ。