自らの証明

Last-modified: 2017-05-28 (日) 00:36:29

[陸奥 弐 自らの証明 壱]

 

<(ここはもしかして……
  遠江で見えたあの……?)>

 

…………

 

この城を見て……顔色も変えぬ、か……

 

……

 

<この時はまだ、
 城で出会うことになる鬼の知己が――
 私の今後の旅を変え、
 新しい土地を目指すようになること。
 そして……
 その存在と、旅の変化が、
 あの子との別れのきっかけを作るなど、
 想像もしていなかった……
 あの子が泣けない理由を、
 もっと早く知っていれば……>

 

[自らの証明 弐]

 

よく来たな。
うつしよ。

 

それに型紙も……
……ん?
あの女はどうした?

 

<葉月さんは今、
 別行動してるんだよ!
 お前に関係ないだろ!>

 

関係か……
なくもない、
……はずだが。

 

<あなたは……誰?
 どうして私の名前を知ってるの?
 ……それに、カタちゃんのことも。>

 

……ほう。
型紙、
今はそう呼ばれているのか。

 

<そうだ!
 御主人様が、呼び名をつけてくれたんだ!>

 

<あの……
 質問に答えてくれないかな?>

 

はっはっはっ
相変わらず、吾を通す奴だ。
……吾が何者か、という問いであったな。

 

吾の名は、悪路王だ。

 

<悪路王……さん。>

 

さん、だと?
……本当に、吾を知らぬらしいな。
……お前はもしかして……

 

<悪路王さん……
 どうして城の中ではなく、
 城の外にいるのですか?>

 

……!
お前は……
この城を……
地下のことを知っているのか?

 

<……はい。
 もしかして、城外に居ることは――
 御主人様を呼んだことに、
 関係していますか?>

 

相変わらず知恵がまわる。
お前は……本物のようだな。

 

<……>

 

だが、女。
お前は……

 

お前を呼び寄せたこと。
徒労に終わるかもしれぬな……

 

 

[自らの証明 参]

 

ここへ呼び寄せるまで、
お前はうつしよとばかり
思っていたが……
吾の誤解であったのかもしれぬ。

 

見た目は
うつしよそのものだが……
この城を見て何も感じぬとは……

 

問おう、
お前の名は何という?

 

<お前、
 御主人様を疑ってるのか!?>

 

その通りだ。
吾のことも、この城も知らぬ以上、
当然のこと。

 

<……
 私はうつしよだ!
 色々と覚えてないのは、
 ……記憶がないから……>

 

ほう。記憶がない……か。お前は昔、
この城で「何があっても忘れない」と
ぬかしたことがあったが……
その言葉も、
起きた過去も、
都合よく忘れたか?

 

<……>

 

……
忘れられるわけがない。
お前が本物ならばな。

 

<私はうつしよだ!>

 

黙れ。
これ以上、
うつしよの名を騙るな。

 

どこで
アレの型紙を手に入れたか知らぬが……

 

傷物に用はない。
帰れ。
吾を怒らせぬうちにな。

 

<失礼な奴だ!
 御主人様は本物だ!
 私が言うんだから間違いない!>

 

<……ここで何が起きたか、
 覚えてないけど、
 私は……偽物じゃない。>

 

しぶといな……
……ふむ。

 

お前があくまで
うつしよだと
主張するなら――

 

吾と戦ってみよ。
うつしよならば、
今の吾になど、負けぬはずだ。

 

<……!
 あなたと戦う理由はない……!>

 

ほう……戦わぬか。もしお前が
本物のうつしよならば、
失くした記憶に関して――

 

吾が知っていることを、
教えてやっても良いぞ……?

 

<私の過去を教えてくれる……?>

 

あくまで……
お前が本物ならば、
の話だがな。

 

<……わかった。
 じゃあ、勝負する。
 私が勝ったら、教えてね。私のことを。>

 

……来い。

 

 

[自らの証明 参]

 

お前は吾を――

 

「悪」と、呼んでおった。

 

<……親しかったの?>

 

親しい……か。
その言葉が当てはまるかは分からぬが、
かつて共に旅をしたこともあったな。

 

<一緒に旅を……>

 

本当に、
何も覚えておらぬのだな。

 

ふむ。
良いだろう。

 

どの道、
今のお前ではこの城を開くことは
できぬだろうからな。

 

今後、
再びこの城に戻ってくるであろう……
その時の為に――

 

協力してやってもよい。
……お前が記憶を取り戻すことにな。

 

<……本当に!?>

 

ああ。
その方が、吾にも都合が良い。
……今、旅をしていると言ったな?

 

<うん。
 葉月ちゃんが教えてくれる、
 私の、縁を追って……>

 

縁……か。
それよりも、吾が行き先を
指定する方が話が早そうだ。

 

お前に縁深い土地を……

 

そうだな……
まずはやはり、
九州へ向かうとするか。

 

お前が何者か。
その目で確かめると良い……

 

<悪路王さん、ありがとう!>

 

さん、などと、
こそばゆいわ。
「悪」で良い。