[陸奥 弐 自らの証明 壱]
<(ここはもしかして……
遠江で見えたあの……?)>
…………
この城を見て……顔色も変えぬ、か……
……
<この時はまだ、
城で出会うことになる鬼の知己が――
私の今後の旅を変え、
新しい土地を目指すようになること。
そして……
その存在と、旅の変化が、
あの子との別れのきっかけを作るなど、
想像もしていなかった……
あの子が泣けない理由を、
もっと早く知っていれば……>
[自らの証明 弐]
よく来たな。
うつしよ。
それに型紙も……
……ん?
あの女はどうした?
<葉月さんは今、
別行動してるんだよ!
お前に関係ないだろ!>
関係か……
なくもない、
……はずだが。
<あなたは……誰?
どうして私の名前を知ってるの?
……それに、カタちゃんのことも。>
……ほう。
型紙、
今はそう呼ばれているのか。
<そうだ!
御主人様が、呼び名をつけてくれたんだ!>
<あの……
質問に答えてくれないかな?>
はっはっはっ
相変わらず、吾を通す奴だ。
……吾が何者か、という問いであったな。
吾の名は、悪路王だ。
<悪路王……さん。>
さん、だと?
……本当に、吾を知らぬらしいな。
……お前はもしかして……
<悪路王さん……
どうして城の中ではなく、
城の外にいるのですか?>
……!
お前は……
この城を……
地下のことを知っているのか?
<……はい。
もしかして、城外に居ることは――
御主人様を呼んだことに、
関係していますか?>
相変わらず知恵がまわる。
お前は……本物のようだな。
<……>
だが、女。
お前は……
お前を呼び寄せたこと。
徒労に終わるかもしれぬな……
[自らの証明 参]
ここへ呼び寄せるまで、
お前はうつしよとばかり
思っていたが……
吾の誤解であったのかもしれぬ。
見た目は
うつしよそのものだが……
この城を見て何も感じぬとは……
問おう、
お前の名は何という?
<お前、
御主人様を疑ってるのか!?>
その通りだ。
吾のことも、この城も知らぬ以上、
当然のこと。
<……
私はうつしよだ!
色々と覚えてないのは、
……記憶がないから……>
ほう。記憶がない……か。お前は昔、
この城で「何があっても忘れない」と
ぬかしたことがあったが……
その言葉も、
起きた過去も、
都合よく忘れたか?
<……>
……
忘れられるわけがない。
お前が本物ならばな。
<私はうつしよだ!>
黙れ。
これ以上、
うつしよの名を騙るな。
どこで
アレの型紙を手に入れたか知らぬが……
傷物に用はない。
帰れ。
吾を怒らせぬうちにな。
<失礼な奴だ!
御主人様は本物だ!
私が言うんだから間違いない!>
<……ここで何が起きたか、
覚えてないけど、
私は……偽物じゃない。>
しぶといな……
……ふむ。
お前があくまで
うつしよだと
主張するなら――
吾と戦ってみよ。
うつしよならば、
今の吾になど、負けぬはずだ。
<……!
あなたと戦う理由はない……!>
ほう……戦わぬか。もしお前が
本物のうつしよならば、
失くした記憶に関して――
吾が知っていることを、
教えてやっても良いぞ……?
<私の過去を教えてくれる……?>
あくまで……
お前が本物ならば、
の話だがな。
<……わかった。
じゃあ、勝負する。
私が勝ったら、教えてね。私のことを。>
……来い。
[自らの証明 参]
お前は吾を――
「悪」と、呼んでおった。
<……親しかったの?>
親しい……か。
その言葉が当てはまるかは分からぬが、
かつて共に旅をしたこともあったな。
<一緒に旅を……>
本当に、
何も覚えておらぬのだな。
ふむ。
良いだろう。
どの道、
今のお前ではこの城を開くことは
できぬだろうからな。
今後、
再びこの城に戻ってくるであろう……
その時の為に――
協力してやってもよい。
……お前が記憶を取り戻すことにな。
<……本当に!?>
ああ。
その方が、吾にも都合が良い。
……今、旅をしていると言ったな?
<うん。
葉月ちゃんが教えてくれる、
私の、縁を追って……>
縁……か。
それよりも、吾が行き先を
指定する方が話が早そうだ。
お前に縁深い土地を……
そうだな……
まずはやはり、
九州へ向かうとするか。
お前が何者か。
その目で確かめると良い……
<悪路王さん、ありがとう!>
さん、などと、
こそばゆいわ。
「悪」で良い。