無銘の手紙

Last-modified: 2017-05-28 (日) 00:41:21

退ける妖は決意と共に

名を残せば力を持つ。
残った力は呪いともなる

 

名は残さぬ。むしろ
こうした文を――

 

いや、言い訳は無様だな。
飲み比べに負けた以上、受け入れよう

 

「俺」の意識が泥から引き上がられたとき、
目の前には二つの光があった

 

強い光は、希望も呼ぶが、
同時に様々なものを呼び寄せる

 

飽くことはなかった。
ああ、そこだけは認めよう

 

しかし光になれた目は、
暗闇の深さに耐え切れない

 

一つの光は消え、もう一つは闇となり、
たかっていた虫もまた消えた

 

……

 

鬼にしては短い時間だが、
光を忘れるには十分な時間が経った

 

お前と交えた刃金の散りに、
光が舞ったのを覚えている

 

二度は言わぬ。
吾はお前に期待している

 

退屈させないことに。
その行く先に震えぬことに

 

まっすぐ進めとは言わん。
真っすぐ進んだバカを知っているからな

 

存分に迷え。さすればその姿を
吾は存分に笑ってやろう

 

迷うことは弱さでも
罪でもないのだから

 

学びしことは心と力の在りよう

――手紙が、いや
 形代が置いてある――
言霊が託されたそれを、誰に宛てたか、
誰が聞いたかわからぬまま。
ただその想いが残るだけ……

 

筆に言葉を乗せるのは苦手なのよ。
なんと言われても苦手なの。

 

だからこうして意思を伝えるわ。
これなら……意地をはることもないし。

 

……

 

あなたがこの言葉を聞いているときは、
私が刃を向けた後、ってことになるわね。

 

後悔しないように残しておくわ。
私の一番の友だちに

 

あなたは私を殺してくれたのかしら?
友達に刃を向ける大バカ者に。

 

それとも……いいえ、これは
言っちゃいけないことね。

 

羨ましかった、学園の頃から。
その素質が、その人柄が。

 

その全てが羨ましくて、
憎たらしくて……大好きだったわ。

 

同期がどんどん居なくなる中、
結局最後まで残れたのは、うん、嬉しい。

 

……

 

ごめん……やっぱり、言っておく。
私はあなたとともに、まだ進みたかった。

 

でも、進むためには、邪魔なことがある。
封じなければならないこともある。

 

ここまで言葉が聞けたってことは、
私はそこに居ないってことね。

 

だって居たら途中で止めてるもの。

 

あなたと出会えたことに感謝するけれど、
その切っ掛けを許すことはできない。

 

あなたを道具にはさせない。
そのくらいなら、私が成り代わる。

 

……そういう決意だったのよ。
遺言として、覚えておいてね。

 

……

 

(遠くから泣くような声が聞こえてくると
同時に、言霊の呪は切れた)