イベント/口寄せる暗雲

Last-modified: 2011-11-01 (火) 02:29:05

シナリオ/世界移動シナリオ-中世聖騎士編のイベント。


口寄せる暗雲

踊る箱庭

 

レミリアが父の葬式(サクヤ談。真偽は不明)で紅魔城を発ってから少しの時間が流れた。
場内を闊歩していた彼女の不在に、些か喪失感を覚える。主が居ない城程寂しい空間もないか。
……きっと、それも暫くのことだろうけど。
彼女が帰ってきたらいつも通りに振る舞えばいい。メイド達やブロントさんら城の住民はそんなつもりに考えていた。
考えていたのだが……。

 
 

……先ほどから城の外が騒がしい。
獣の叫びと言うか、不愉快な呻きが折り重なった様な音が城の外から聞こえてきた。城内からも分かるほどに、音は大きい。
異変を感じて、城のバルコニーに向かった主人公。

 
 

そこには、城を取り囲むかのように魔物の群れが怒涛を為していた。

 

デーモン、タウルス、ヴァンピール、ガーゴイル……

 

群れを構成するモンスター共の種類に、思わず目を見張る。高位魔族から下等な悪魔までよりどりみどりである。
……そしてその並びはどこかの軍隊の陣形を思わせるようなもの。

 

まさかねぇ?

 

「おそらくはお嬢様の首を狙いに来た不届きものかと」

 

背後から突如現れて解説するサクヤ。大分慣れてしまったのでもう驚きません。

 

「あら残念。貴方の反応は中々見ごたえがありましたのに」

 

無表情で小さく肩を落とすが、次の瞬間には真剣な面構えになっていた。

 

「たまに来るんです。人魔問わず、自分の名を上げようと、攻め込んでくる阿呆が」

 

最近は来ていませんでしたが、とサクヤは最後にぼそりと付け加える。
成程、主が居ないところを闇討ちとは汚い。匪賊には誇りもないのか。ふらやましいよ。
……ところでレミリアってそんなに有名なの?

 

「ええ、有名も有名、二つ名だけでも相当なネームバリューですわ」

 

なるほどねぇ。通りで辺鄙な所に住んでいる訳だ。

 

「お嬢様にから見ればいい迷惑だそうです。確かに迷惑ですね」

 

で、どうします?あの連中。

 

問いには答えず、サクヤは無言で銀髪に引っ掛けていたホワイトプリムを取り外した。

 
 
 
 

犇めく魔物の軍隊の先頭に立つデーモンが声高らかに叫ぶ。
スカーレットデビル今日が貴様の最期であるだとか、大人しく全ての地位と名誉を我に明け渡しそっ首を寄越すがよいだとか
大声でのたまうその台詞は心底小悪党染みた内容である。このデーモンが群れのリーダーなのだろうか。
しかしどれだけ脅し文句を吐こうが、反応は返ってこず、城は静寂に包まれている。
業を煮やしたデーモンが城に直接乗り込もうと歩を進めた時、何も前触れもなくナイフが飛来、目へ一直線に突き刺さった。

 

ぐちゃりと湿っぽい音を立てて潰れる眼球。聖銀製のナイフは潰れた目の奥の奥へと差し込まれ、そのたびに目から血が噴き出る。
デーモンは突然片方の視界が失われたことに茫然としていたが、じゅうじゅうと肉を焼くような音が眼窩から漏れている事に気付いた時、
彼(?)はようやく自身の身に起きている事態を悟った。激痛が襲いかかり、呻きながら思わず潰れた目を抑えた瞬間
もう片方の眼にナイフが突き刺さった。デーモンの視界が完全な暗闇に閉ざされる。

 

パニックに陥ったデーモンの絶叫が響き渡り、やがて収まった。
黒いコートを纏ったサクヤがその喉を一瞬のうちに斬り裂いたのだ。
血が噴水の様な勢いで噴き出て、空中に弧を描く。デーモンは口から血の泡を溢れさせ、そのまま地面に斃れた。
秒殺。その二文字がしっくりくる流れだ。
頭を失い、怒号をあげる魔物達。

 

「まずは一名様」

 

魔物共の群れを前にして尚、サクヤはマイペースな態度を貫く。

 

『オノレ……ニンゲン風情ガ!』

 

激昂したヴァンピールが吼える。その全身を無数の矢が射抜いた。
濁った体液が噴き出し、怒号が先程とは異なる、苦痛の色を滲ませて響き渡る。

 

「紅魔城へようこそ」

 

「……礼(bow)の代わりに矢(bow)を以て歓待しますわ」

 

その射撃はバルコニーに待機していたメイド部隊によるものだ。
隊列を組み、一列目が射て、二列目が弓を構え、三列目が矢をつがえる。一列目が矢を射たら交代、二列目が前に出る。これの繰り返しである。
鏃の雨霰が容赦なく降り注ぎ、敵対者の肉を削ぎ、抉り、突き刺さる。

 

「撃て撃てー!」「一つ撃ってはお国のためー♪」「ホント、お御持て成しは地獄だぜ! フゥハハハーハァー」
「どどんがどーん!」「まだまだいくよぉー」「撃ちてし止まーん!」「弓矢の味はどうだー!?」「平常心!平常心!」
「……後でボーナスでるかなぁこれ」「出ないんじゃない?」「家計苦しいもんねぇ」「嘘だそんなことー!?」

 

奮闘するメイド部隊を横目で見、サクヤは矢の雨の中で踊る魔物共に視点を戻す。
一見優勢に思えるが、長くは続かない。数体のヴァンピールが翼を広げて強烈な暴風を巻き起こした。
風の壁に矢は弾かれ、あるいは巻き上げられる。凄まじい風圧の余波にバルコニーのメイド部隊がドミノ倒しの様にその体制を大きく崩した。

 

「スカートが捲れる~!」「あ~れ~!」「やっぱり無理だー!」「やっぱりかぁあぁぁぁぁ!」「救護班!救護はぁあん!?」
「嵐の様な時代も~傍から見りゃただの何とやら~♪」「歌ってる場合かー!」
「あのヴァンピールこっち見てる!」「断罪の瞳される!?」「ゆっくり死ぬとかマジ勘弁!」「もう逃げてもいいですかー!」

 

「……あまり効き目は無いようですねぇ」

 

まぁわかっていた(予知夢)とフラットな表情で呟くサクヤにヴァンピールとデーモンが迫る。
ヴァンピールは鋭い爪を備えた剛腕を振りかぶり、デーモンは片刃の剣を振りかざし、メイド長をミンチにしようと襲いかかるが、
その一撃は全て白銀の鎧を纏ったメイン盾に防がれた。ヴァンピールの腕を盾が、デーモンの刃は剣が受け止めて離さない。

 

「おもえたちのナメた真似のおかげで俺の怒りのpワーが溜まってきてkなり危険悪いことは言わにいからこれ以上はやめてにしておいたほうが良い(優しく忠告)」

 

『ヌカセ……!』

 

「……だったら今すぐバラバラに引き裂いてやろうか!」

 

ブロントさんは盾と剣に力を込め、攻撃を弾く。
怯んだヴァンピールに目にもとまらぬ三段斬りを叩きこみあっという間に膾斬りに引き裂く、返す手で手に持った剣をデーモン目掛け投擲、
勢いよく投げつけられた剣は胸部に突き刺さり、デーモンの体はくの字に反り返った。ブロントさんはついげきにカカッと間合いを詰め、胸に突き刺さった剣の握りに手をかけると

 

「ハイスラァ!」

 

一気に真一文字に叩き斬り、そして血払い。デーモンが致命的な致命傷を負ったのは確定的に明らか。

 

『その、剣……! ……それに……エルヴァー……ン……ま、サか……貴様……!』

 

「ほう一般貧弱の雑魚のくせに俺を知っているとは本能的に長寿タイプ。もっともすえにお前は死んでいるが(死兆星)」

 

ブロントさんは剣の鍔で鎧の肩当てをカツンカツンと軽く叩き、デーモンを見下ろす。経験が生きた・・・と言いたいところだが、気付くのが遅すぎた感。
・・・いや、ちょと待て。

 

「oi miss おい みうs おもえまさか俺の事を知っている系の雑魚ですか? だったら今すぐ吐くべき死ぬ前にはくべき!」

 

『ノー……ブ…ザー……ナ……ぜ…貴、様が……スカー……レッ……デビ……に……い…………』

 

はっきり語る前にデーモンは息絶えた。
「ノーブなんとかザー」「スカーレッなんとかデビ」・・・
最後に発した末期の言葉に含まれた単語がブロントさんの記憶を刺激するがはっきりとは思い出せない。
……色々思うところはあるが、まだ敵は残っている。
ブロントさんはしばらくデーモンの遺骸を見つめていたが、迫りくる魔物の群れを見やると

 

「ベヒんもス!」

 

声高らかに、相棒の名を叫んだ。

 

グルアアアアアッ!

 

途端、城の壁をぶち破り(!)よばれてとびでて!ベヒんもスと言わんばかりにベヒんもスが敵を蹴散らし、ブロントさんの目の前に駆けつけた。
(穴のあいた城壁を見てサクヤとメイド隊の顔がみるみる青くなったのは御愛嬌)
カカッっと参上した相棒の頭をガシガシ撫でると、ブロントさんはその背に跨り敵軍目掛け吶喊した。

 

「うおりゃ! haihaihaihaihaihaihaihaihaihaihaihai――!」

 
 
 

なんとも、すごいことになったな……。

 

「……お客様も参加なされますか? というかむしろ参加してくださいお願いします

 

……仕方がないね。この数だと、ほっといたら負けちゃうし。

 

「そうしてくれるとありがたいです……あら?」

 

サクヤが珍しく驚いたような顔を浮かべた。
その目線の先は魔物の群れの先・・・城門へと続いている。
こちらも彼女に倣い、城門へと視線を向けた。

 
 
 

城門に、漆黒の騎士が立っていた。

 
 
 

(主人公が既に漆黒の騎士と面識があるかないかで反応が変化。面識があると「げえっ、しっこく!」的リアクションを見せる)

 
 
 

「……これはこれは、珍しい人が」

 

落ち着き払った様子で呟くサクヤ。
どういった訳なのか先ほどと比べると安堵が入り混じっているようだ。

 

あいつは敵じゃないのか?

 

「いいえ、立派な味方ですよ。メイド長の肩書きにかけて宣誓します」

 

漆黒の騎士はボロボロのマントを翻すと両手剣を引きずり、魔物の群れに接近する。
庭園中を賑わしていた魔族の絶叫が更に増えた。
突如発生した一方的な殺戮ショーを一瞥すると、サクヤはナイフを構えて臨戦態勢に入った。

 

「おかげで私も仕事が楽になりそうです」

 
 
 
  • 大規模戦闘
     
    勝利条件:敵の全滅
    敗北条件:主人公,ブロントさんどちらかの戦闘不能
    備考:3ターンごとに敵ユニット一体を中心とした範囲攻撃が発生。
     
    敵のユニットは15。
    内容はデーモン、ヴァンピール、タウルス、ガーゴイル。
    数はデーモンが3、ヴァンピールが2、タウルスが3、ガーゴイルが7となっている。ガーゴイルはペアを組んでいるが後は全てソロ。
    3ターンごとにメイド達が矢を放って援護攻撃を仕掛けてくれる。ただし敵味方判別の無い範囲攻撃なので攻撃範囲に突っ立っていると攻撃を喰らってしまう。
    発動前のターンにターゲットとなった敵ユニットにポインタが出現するので、該当ユニットから距離を置いた方がいいだろう。
    場合によっては邪魔になる可能性があるので、その場合はサクヤ専用のコマンド「命令」(発動後ユニットは行動済みになる。移動後は使用不可)を選択して矢の攻撃を中止させよう。
    中止した後に援護攻撃を再開したい場合は中止した時と同じく「命令」を行えばよい。ただしターンのカウントは次のターンから開始される。
 
 
 
 

haihaihaihaihaihaiィ!

 

ベヒんもス駆るブロントさんのヘヴィな一撃(別名:轢き逃げ)がデーモンに見事クリーンヒットした。
アワレにもデーモンは派手に吹き飛び、体を地面に大きく打ち付けた。
そのまま悲鳴を上げてのた打ち回るデーモン。きっと骨の数本はイカれているだろう。

 

『何故だ……何故貴様が……! 本来、奴を滅ぼす立場である貴様が……!』

 

と、痛みに喘ぎながら少し前に屠ったデーモンと似たような事を言ってきた。ブロントさんはベヒんもスの上からデーモンに言い放つ。

 

「そういえば先の奴も煮たような事を言ってた感。もう後がないからさっさとおとなしく言うべきだな。
・・・お前何知っているわけ?鬼の首を取った様にはしゃがられてもこっちがわからないと対応も遅れるんですわ?お?」

 

『……。ク、そういう訳か! スカーレットデビルの駒になっていると思えばこいつは滑稽な!』

 

「捏造はやめろよカスが俺はチェスの子馬のナイトではなく古代からいる居候のナイト。俺は俺の石で動いているんだが」

 

『……ク……クハハハハハ! ……滑稽! なんと滑稽!
あのブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー卿が!
自分の! 自分の意思でスカーレットデビルに与しているだと!』

 

「左記からどういうことか理解不能状態!そうやって話題を全然関係なくそらして負けを認めない気だな!」

 

『なァに、冥土へのいい土産話ができただけのことよ……』

 

「だからどういうことだと言っているデモンズ!」

 

『教えてやるものか……!』

 

ひとしきり哄笑をあげたデーモンはそう吐き捨てると、自らの武器を己の心臓にためらいもなく突き刺した。

 

「お、おいィ!?」

 

『そのうち……大層愉快な事に……なるのだろうなぁ……。
…………貴様のアホ面を……拝められないのが、残念だが……まぁ……いい……その時まで……せいぜい……苦しめ…………!』

 

そこまで呻くと、デーモンは息絶え、後には茫然と死骸の前に立つナイトだけが残された。

 

「ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー……」

 

ぼそりと呟くブロントさん。その心中では様々な言葉の羅列が渦巻く。
やがてとある光景が頭の中に浮かんだ。それは何処かの王城の玉座の間。
自分とそっくりな騎士が玉座に座する王の前に跪き、その人物の言葉を聴いている。

 

やがて王は騎士に問う。

 

――汝、騎士の中の騎士に問う。騎士たる汝が修めるべき務めとは何だ?

 

――戦えない貧弱一般人から現役の一級廃まで全ての盾になるのが純正の盾の務め(崇高)ナイトは守る相手を選ばない。

 

――では、我ら高貴なる者が名誉を代償に負うべきものとは何だろうか?

 

――義務と責任フランス語で言うとノブレス・オブリージュ
ナイトはPTの中心人物でヌードメーカーだが責任も重大。だがここにいる思考のナイトは義務も責任もみんな背負う。

 

――宜しい、ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザー⑨世。
宿望するのであれば、わしは汝に新たな責を課そう。

 

――古き森の吸血鬼・スカーレットデビルを討滅せよ。

 

――Yes.Sir

 
 

やがて、頭の中でカチリと歯車がかみ合う様な音がした。

 
 
 
 

「……嘘だろ」

もう一人のスカーレット

 

夜。日は既に沈み、夜の闇が紅魔城を覆っている。

 

サクヤは庭園にて戦闘で発生した被害の後始末を淡々と行っていた。
あれだけの乱痴気騒ぎが起きたおかげでガーデニングやら、コテージやら、悲惨な状況に陥っている。
破損個所の修復はまだ先の事として、あちこち飛び散った破片の回収くらいはしておかなくては・・・。
そのような経緯で作業を行っていたところだった。

 

そこに、漆黒の騎士が背後から忍び寄る。

 
 

「一年と半年ぶりですか。御息災で何よりですわ」

 

「……」

 

サクヤの言葉に、騎士の歩が止まった。

 

「こんなときくらい、重苦しい兜を外したら如何でしょう」

 

その一言を聞いた漆黒の鎧は兜を引っ掴み、そのまま脱ぎ捨てる。
中から蜂蜜色の髪が零れ出た。

 

「お久しぶりです妹様

 

「……久しぶり」

 

漆黒の騎士・・・フランドール・スカーレットはメイド長に向けてばつの悪そうな顔を浮かべる。
御目麗しい女性がガチガチの重装甲を纏う姿はなんともシュールなものだった。

 

「本日はどういった風の吹き回しで?妹様の助力で助かったのは事実ですが」

 

「きまぐれ、かな。たまには顔を見せないとお姉さま心配するし」

 

「・・・それは残念と言うべきか。お嬢様は所用でただいま城を空けています」

 

「何かあったの? 引っ越しの手配?」

 

「秘匿にしてくれとの御命令ゆえ、御容赦願います」

 

「……わかった、聞かなかったことにするね」

 

「御理解いただけて何よりです。・・・それにしても不思議でした」

 

「?」

 

「ブロントさんをガン見してましたから、てっきりブロントさんに喧嘩を売るのかと」

 

「……ばれてたか」

 

「戦闘中にも関わらず、事あるごとにブロントさんの方に顔を向けていたら嫌でもわかります」

 

フランはとある目的から事あるごとに見どころのある騎士に対戦を申し込んでは、これに勝利している。
そんな彼女だ。ブロントさんにも目を付けるんじゃないかと内心心配していたのだが、案の定だった。
溜息をつくサクヤに、フランが頬を膨らませながらも弁明する。

 

「むぅ……それは、サクヤの言うとおり最初はそのつもりだったけど……あの騎士様、ブロント・サンだっけ。
お姉さまの『いい人』でしょう? 先約が付いてる人に手を出す趣味はないわ」

 

「……なぜそのようなことが?」

 

「ブロント・サンからお姉さまの匂いがするから」

 

「……」

 

なぜわかるのだ。
一瞬そう思ったが、吸血鬼の嗅覚というものだろうと一応は納得する。
……それはいいとして、匂いがするって一体どういうことか。いや、心当たりがない訳ではないが。
無言の態度が気になったのか、フランに訝しがられた。

 

「……え、と何か変な事言った?」

 

「いえ、別に……そういえば妹様は城へは寄って行かれないのですか?直に夕食の時間ですが」

 

不安げな顔をされたのでやんわりと否定、ついでにそれとなく話題を逸らす。
そろそろ城では食事の準備が終わっている頃だ。現に庭園からも料理の芳しい匂いが漂ってくる。
・・・匂いから察するに今夜はミネストローネのスープだろうか。

 

「折角だけど、今日は遠慮するわ。また今度ね」

 

が、フランの返答は芳しいものではないかった。……「また今度ね」か。果たして次はいつになるのか。

 

「この格好ではちょっと、ね。初見の人もいるだろうし。今日はサクヤに顔を見せただけでも良しとしましょう。

 

……ふふ、今度来る時、あの騎士様はお姉さまとどんな関係になってるのかしら?」

 

言いたい事だけ言うと外した兜を嵌め直し、フランは庭園から立ち去った。
その後ろ姿はあっという間に夜闇に吸い込まれ、後にはサクヤが一人残される。

 
 

「くしゅん」

 

夜風に吹かれて、小さなくしゃみが一つ。

 

「……寒い」

 

……風邪を拗らせると後が面倒だ。
作業も粗方終わった、いい加減戻ろうか。
そう考え、サクヤはさっさと城に戻ることにした。

 

龍王の御元にて

 
 

「……見えてきた線を辿っていたら、まさか貴方の御元に続いたなんてね。お初にお目にかかりますわ……龍王

 

夜のサンドリア王城。
サンドリア国王の書斎にて、レミリア・スカーレットはいた。

 

書斎奥。マホガニー製の文机に佇むは、希代の名君にして『不死龍』ヴリトラを単独で破り、服従させたサンドリア最強の軍神……龍王ランペール・R・ドラギーユその人。
年齢上は高齢の筈だが目の前に対峙するその姿から老いによる暗い陰は一切感じ取れず、漂わせる気配も尋常のものではない。

 

「斯様な時間に珍客とは珍しい。しかしわしは吸血鬼の貴婦人と良い仲になった覚えは無いが……」

 

見事に蓄えられた顎鬚を撫で、怪訝な目でレミリアを見つめる龍王。
……夜の王と畏れられる吸血鬼を前にしてこの態度。
否、たかが吸血鬼程度では彼に警戒心を向けさせるには役不足なのか。
悠々泰然。威風堂々。目の前の人物ほどこの言葉が似合う人間もいないだろう。

 

「突然の訪問、失礼……レミリア・スカーレットと申しますわ」

 

「……スカーレット?」

 

「スカーレットデビル、と言った方がお解りになりやすいかしら」

 

「ほう?」

 

ランペールが纏う気が若干鋭いものに変化した。それだけの仕草でレミリアの肌がざわつく。
……これが龍王の気迫というものなのか。

 

「……むざむざ死にに来た訳でも、敵対しに来た訳ではない。ただ貴方に聞きたい事があるだけ」

 

「何か。好きに申してみるといい」

 

許しはあっさりと出た。話を聞いてくれるのだという安堵と、見縊られている様な不快感が入り混じった複雑な気分になる。
――随分な余裕。・・・いや、耳を傾けている分、剣を抜かれるよりはずっとマシか。
軽く息を吸い込み、レミリアはランペール王に問いかける。

 

「…………ブロントというエルヴァーンに心当たりは?」

 

これまでレミリアはサンドリア王国中でひっそりと調査を続けていた。
だから、ほんの僅かに予想は出来ていた。ランペール王の返答を。
森で倒れていた騎士。
高貴な身分のものだということは、見に纏った装備や武器からわかる。
では何故、その様な騎士が霧で視界の悪い僻地に赴いていたのか……?
思えば、前例はそれなりになる。

 

……。

 

だが、そう簡単に信じたくはない、確証が欲しかった。
ランペール・R・ドラギーユに直接問い質すという、下手をすれば自殺行為にも等しい行いに走ったのも、そのためだった。

 

龍王の前だ。今更何が起ころうが構いやしない。半ばやけっぱちの心境でレミリアは身構える。
……やがてランペールの口から答えが出た。

 

「ブロント……ノーブル・テザー家のやんちゃ坊主の渾名だな」

 

ノーブル・テザー……サンドリアの領の一角「ホッカイドゥ」を治める名家だ。

 

「……しかし貴公がその名を尋ねるとは妙な。
当のブロントは数ヶ月ほど前に貴公を討伐するために其方へ出向いている筈だが?

 

――ああ……

 

「やっぱり、か」

 

――あの騎士は私を滅ぼす為に森へやって来たのか。
……そして私は何も知らずに彼を助けた、と。
なんて喜劇だ、これは。

 

襲いかかる虚脱感に、幾ら予防線を張ろうが一度理解してしまえば一切が無意味なのだと知る。
半ば呆然とするレミリアに、ランペール王が続けて口を開いた。

 

「わしは貴公の質問にしかと答えた。……では、今度はわしがお前に訊ねる番だ

 

ランペール王が鷹の如き眼を鋭く細める。それだけの動作で、まるで金縛りにあったかのように全身が固まった。
まるで、真龍を前にしたポロッゴのようだ。ランペール王は判決を宣告する裁判官が如く、重々しく口を開いた。

 

「彼の騎士の事を知りながら、この場にいるということは……」

 

「いいえ」

 

レミリアは龍王の言葉をはっきりと否定する。龍王が考えているようなことは絶対にありえない。

 

「……彼は生きている。卷族になり果ててもいない、五体満足のまま。……自由を強制してもいない」

 

「……」

 

「案じなくても、あの騎士は近いうちに戻ってくる。……貴方から与えられた使命を果たして

 

「……一体何を考えている」

 

「なんてことは無い、選ぶ運命を誤った馬鹿な吸血鬼がひとりいなくなるだけのことだよ」

 

図らずか、声に自虐の色が混じった。

 

「……」

 

レミリアの意図に感づいたのか、ランペール王はその顔を顰める。
思わずレミリアの表情に苦い笑みが浮かんだ。
……全てを円満に終わらせる為には、自分にはこれしか思いつかなかった。

 

「大丈夫。悪い結末にはならない、きっと上手くいく……
……質問の返答感謝しますわ、龍王ランペール。今宵はこのあたりで失礼させていただきます」

 

「貴公は……」「御機嫌よう」

 

ランペール王が最後まで言う前に、無数の蝙蝠がレミリアを包み隠す。
蝙蝠が去った後に、先ほどの吸血鬼の姿は影も形もなかった。