資料/「スタチャマニア?!」vol.3(2004年)冬号 蒼穹のファフナー プロデューサー対談

Last-modified: 2014-03-14 (金) 00:03:00

蒼穹のファフナー プロデューサー対談

千野孝敏(XEBEC)×能戸隆(XEBEC)×中西豪(スターチャイルドレコード)

フェストゥムとの共存という、人類の新たな可能性を指し示しつつ、壮大なドラマに幕を閉じた「蒼穹のファフナー」。一騎、総士ら竜宮島の少年少女たちの壮絶な戦いざまと、哲学的とも言えるテーマ性は、2004年のTVアニメの中で異彩を放っていた。そんな『ファフナー』はいかにして作られたのか?中西豪氏(スターチャイルドレコード)、千野孝敏氏、能戸隆氏(ともにXEBEC)の3人のプロデューサーが、今だから話せる舞台裏を大公開!

~死ぬ予定だった人が、かなり生き残りました

――そもそも『ファフナー』の企画はどうやって立ち上がったんですか?
能戸 2003年の8月です。ステルヴィアをやりながら、一人ぼっちでやっていたのを鮮明に覚えてます。最初、「ロボットで、オリジナルやってよ」という声が、スタチャさんからかかってきたのが発端です!
中西 その後、冲方さん*1が上げてくれたプロットのタイトルが『アーカディアン戦記』だったんですよね。
――冲方さんが『ファフナー』に加わったきっかけは?
中西 もともと、僕が全然違う場所で冲方さんと知り合ったんです。それで、何か作品をやりましょうという話をして、企画を練ったんですけど、それはちょっと保留ということになったんです。
能戸 で、能戸企画にいた平井さん*2と冲方さんが合体しました(笑)
――平井さんは、もともと能戸さんと一緒にやっていた?
能戸 そうですね。平井さんとは20年ぐらいのお付き合いでして、いつか平井さんとTVアニメで仕事してやろうというのはありました。ゲームとかでは、何度かメカやキャラクターデザインをしてもらってました。
――企画の段階では、もっと人が死ぬ展開になってましたね。たとえば真矢とか。
中西 そうですね。真矢は最初のプロットでは、死んでました。
能戸 コクピットが開くと死んでいて、弓子が「おかえり」って言ってました。一騎以外は全員死亡。もちろん、芹や里奈、広登も死んでました。本編では、甲洋は復活するし、咲良も死んではいない。当初の予定からすると、大分生き残りましたね。
――放映初期の頃は、オープニングの最初のカットで、手前に来るキャラはやがて死んで、奥に行くキャラは生き残ると言われていましたよね。
中西 それに最初気がついた人はすごいと思ってましたよ。
能戸  いや、見ていたら分かるんじゃないですか。
――結局、生き残りが増えていったのは、どうしてですか?
中西 人を殺すアニメじゃなくて、人がいかに生きてきたか、その過程を描くアニメにしようという話に、だんだんなっていったんですよね。もちろん、どんなピンチにもヒーローが助けに来てくれて、誰も死なないようなアニメじゃ緊張感がないですから、人の死を描くことをタブーにはしない。でも、皆殺しまで行かなくてもいいんじゃないかということで。で、それなら誰を殺しますか、という話を千野さんが……(笑)。
能戸 咲良が戦っていない時に倒れるというのも、千野さんですよね。最初はシャワーを浴びている時に倒れさせようと言ってた。
千野 パイロットとしての寿命が訪れるということだから、戦闘とは別のところで倒れてほしかったんです。リングを通していない時でも、フェストゥムの侵食はあるんだよということを見せたくて。
中西 残念ながら、シャワー中というのは使われませんでしたけど。
――大人キャラで、最初は死ぬはずだったのに生き残ったのは?
中西 溝口ですね。最初は、15話か16話で死ぬはずでした。
千野 でも、テレビ東京の東プロデューサーなんかは溝口を殺す派だったんですが、僕は殺さないのをけっこう主張しました。
中西 おかげで溝口は人気キャラに育ちました。よかったですね、殺さなくて(笑)。
能戸 溝口は自分が作ったんですよ。史彦って、司令官のくせにしゃべらないので、奴の心中を察して、代弁するキャラがいないと何考えているかわからないオッサンになってしまうので、急遽登場させました。
――溝口は史彦との絡みも、真矢との絡みも、いい味を出していましたね。それから、今回は島の日常生活が大事に描かれているなというのが印象的で、特に後半に、日常シーンの多さが目立ったんですけど、それについては、何か話し合われたんですか?
中西 16話以降、冲方さんにシナリオを全部書いてもらうことになって、それまで状況説明に追われていて描ききれてなかった一騎たちの日常や、島の暮らしをちゃんと入れていきましょうという話をしました。
――名前についてもよく考えてあるなぁと思うのですが、どなたが命名されているのですか?
中西 メインどころは冲方さんですね。各自に意味があって、説明された時はこれだって思いました。
千野 そうそう。説明された時は、文句のつけようがなくて。でも、いくつかは変更してますよね。
能戸 そうですね。設定も担当してるので、自分のほうでいくつか調整はしました。咲良、彩乃、鞘、紅音、果林、甲洋などは名は自分がつけました。 衛の姓は最初小館だったんですが、小楯にしたのは千野さんです。最初のショコラの名前は田楽でしたし(笑)。
――では最後に、最終回についてのお話を。ラスト数話の落としどころというのは、どうやって決まっていったんですか?
中西 22話以降はまとめて考えたいと冲方さんが言って、僕らに選択を求めてきたんです。一騎と総士でいくのか、竜宮島のドラマを取るのか、と。
――それで選ばれたのが、一騎と総士のほう?
中西 そうですね。登場人物が多いから、どこに主眼を置いて描くのかによって、切り口が無数に存在しているんですよ。それで、最終決戦地と今いる場所を分けて、その間を動くことで、ドラマを展開させていくことになりました。
能戸 最初の頃は、総士もファフナーに乗るという案もあったよね。
中西 ありましたね、でも結局、捕らわれて島から連れ出されてしまった総士を、一騎が仲間たちと助けに行くということになりました。フェストゥムとの決着も考えたところで、敵の大ボスがいて、それを倒したら終わりという展開ではダメなんじゃないかという話を3人でしましたよね。
能戸 初夏の暑い日でしたかね。「冲方さんが急に能戸さんに話したいと言ってきまして、これからジーベックさんに行くそうなので時間作ってください」 と中西さんから電話がきて、予定を全てキャンセルしたりして。あの頃は何度か当日急にという展開が多かったですよね。
千野 22話以降って、何にも知らなくて、これで行きますよと言われて、「えっ」って思ったし!
中西 あれはあれで大変だったんですよ。本当にねぇ。
能戸 20話の脚本って6月には上がってたしね(話をそらす)。
中西 そうでしたよね。いやー、20話良かったですよ。あんな展開になるとは、不意をつかれたというか、ツボをつかれたというか。いやー、本当に良かったですよ!


*1 シリーズ構成・冲方丁氏。企画初期から参加し、16話以降の全てのシナリオを担当
*2 キャラクターデザイン・平井久司氏