資料/アニメディア2010年1月号 冲方丁インタビュー

Last-modified: 2014-03-14 (金) 02:10:39

「“異質なもの”と遭遇した時に感性をどう働かせるのか、感じ取ってほしい」

──TVシリーズ『蒼穹のファフナー』の前日譚だった前作『RIGHT OF LEFT』から5年。ついに正式な続編『HEAVEN AND EARTH』が劇場公開されます。
冲方 今回の劇場版制作は、ファンの皆さんに呼ばれたから可能になったようなものです。僕もうれしいけれど、まずは竜宮島に住んでいるキャラクターたちに「つらいこともあったけれど、みんなに愛されていてよかったね」と声をかけてあげたいですね。
── 一度完結した物語の続編を書くというのは、難しくはありませんでしたか。
冲方 TVシリーズのラストシーンを描く前から、シリーズが終わった後に一騎たちがどのように生きているかのイメージはありました。逆に、そういった?その後?のイメージがなければラストシーンを描くことはできないので。そもそも『ファフナー』という物語は、竜宮島の人々が生きている時間をある期間だけ切り取って描いているものなので、その後についてもアイデアだけはいろいろあるんですよ(笑)。『ファフナー』後の5年の間に、人間として、物書きとして成長した自分ならできるかなと思って、続編に挑戦しましたが、実際に書き始めてみると、どうやって書けばいいのかわからなくて苦労の連続でした。
──今回の『HEAVEN AND EARTH』は、公開が近づいても詳しい情報が明らかになっていませんが、どういう物語になるのでしょうか。
冲方 そうですね……現時点で言えることは少ないんですが、企画は新キャラクターとして、第三の主人公・来主操を登場させようというところからスタートしました。
──来主操とはどういうキャラクターなんでしょう。
冲方 来主は、船に乗って竜宮島に漂着します。「漂着」というアイデアを思いついたのは竜宮島という、“島”としてのアイデンティティーを際立たせたいと考えたからです。その竜宮島へ、操が外界からやってくる。彼はある意味、浦島太郎のような存在です。そして操は、一騎と総士の絆の間に入ってこようとする、かつて総士がいた場所に入り込もうとするキャラクターです。そんな操が目の前に現れて、はたして一騎はどういった行動をとるのか……というのがポイントになります。キャラクターのバランスとしては、一騎、総士、そして操がトライアングルを描くようなイメージですね。
──それは気になるキャラクターですね。今回、そのほかに新キャラクターというのは登場するんでしょうか。
冲方 今回、TVシリーズの2年後が舞台ということで、ファフナーのパイロットとして一騎たちの後輩が登場します。『RIGHT OF LEFT』が一騎たちの先輩の物語だったので、先輩から後輩の3世代にまたがる物語になりました。さらに言うと、物語の発端は一騎たちの親の世代から始まっていますし、今回の『HEAVEN AND EARTH』では一騎たちの後輩のさらにその先の世代も出てくるので、『ファフナー』という作品は通して5世代という長い時間軸を持つ物語になりました。
──もともとTVシリーズの時から「親子」というものについては意識されていたと思いますが、そういう世代的な縦軸というのは最初から意識していたんでしょうか?
冲方 そうですね。『ファフナー』という物語は竜宮島という限定された空間が舞台ですよね。そこに時間という「縦軸」を入れようということは考えていました。ただ、始めた当初は5世代目まで描けるとは思いませんでしたが(笑)。
──劇場版ということで、戦闘シーンの迫力にも非常に期待できそうですね。
冲方 今回のアクションは、よりドラマチックになっています。まず先輩たちと後輩たちの関係があります。たとえば遠見真矢の後輩には誰がなるのか、そこにどんなコミュニケーションが生まれるのか。それが戦闘シーンのおもしろさにつながっています。また、ファフナーも新型が登場しますが、いずれもかなり個性的な機体で、ドラマの中でパイロットとファフナーが果たす役割が重なるようになっています。小楯衛*1はどんな機体に乗るのか、空を飛ぶ機体に乗るのは誰なのか──という具合にキャラクターとの関連性を楽しみにしてもらうと、戦闘シーンがよりおもしろくなると思います。
──5年ぶりの『ファフナー』ということで、脚本を執筆される上で苦労された点を具体的に教えてください。
冲方 『ファフナー』を描く時は、一騎たち竜宮島の住人が今どうしているかを観察して描くような気分なんです。これは最高に大変で、最高に楽しい作業です(笑)。頭の中に竜宮島はあるので観察はできるんですが、久々の執筆だったので、TVシリーズの細かないきさつはだいぶ忘れていました。そこでDVD-BOXを見直してメモをとったりしながら、自分を“ファフナー脳”にしていきました。描きたいことがとめどなく湧いてくるので、ドラマを所定の時間にまとめていくのが大変でした。TVシリーズの2クール分になっちゃうぐらいの膨大なアイデアを詰めて詰めて完成させました。脚本の決定稿に至るまでに、30稿ぐらい重ねましたね。
──『ファフナー』という作品は登場人物が多いですが、そのあたりも苦労が多かったのではないでしょうか。
冲方 そうですね。『ファフナー』は「全登場人物」×「全登場人物」の数だけ人間関係があり、そこにドラマがあるので、どこをどう削って、どこをどう入れていくかはかなり苦労をしました。
──『ファフナー』という作品をひと言でいうと、どういう物語でしょう。
冲方 『ファフナー』という作品には、斬新なドラマみたいなものはあまり必要ないと思っています。それよりも、自然に観客の共感を呼ぶことのできる物語が必要なんだろうと。その共感を通じて、「異質なもの」と遭遇した時に、人は感性をどう働かせるのかを感じ取ってもらう。『ファフナー』はそれについての物語だと思います。それは今回の『HEAVEN AND EARTH』でも同じですね。


*1 堂馬広登の誤りと思われる