資料/アニメージュ オリジナル vol.7 冲方丁インタビュー

Last-modified: 2014-03-14 (金) 02:12:59

『ファフナー』が描く”帰還”

──製作が決まった『蒼穹のファフナー』の新作『HEAVEN AND EARTH』のお話も聞かせて下さい。
冲方 どこまで話していいんでしょう……そうだな、舞台はTVシリーズの2年後で、TVシリーズに出てきたキャラは「ほぼ」全員登場するはずです。そこで、引き続き人の生と死の問題を描きつつ、「死」という意味を含んだ帰還、還る、土に還る、故郷に還る、還らぬ人。生まれた場所に還ること、還れないこと……そういうことをきちんと描きたいと思いました。竜宮島から出て行った人たちが還ってくるのか来ないのか、どんな還り方をするのか、あるいは逆に、これから出て行く人たちやいつか還って来るであろう人たちは……とにかく「還る」ということがひとつのテーマになります。
──『ファフナー』らしい”重さ”を感じるドラマになりそうですね。脚本を書くのは、苦労なさいましたか?
冲方 いや~本当にキツかった(苦笑)。決定稿の脚本の表紙には「3稿」と書いてあるんですが、大嘘で、本当は27稿(笑)。
──それはスゴい!
冲方 単純な分量だけでいうと、文庫本4~5冊分の文章を書いてますが、それを全部捨てて最終稿を書き直してますから。プロットも4~5回作り直してます。これじゃあ「ROL」を越えてないよ!とか「これじゃ内容スカスカだよ!」とか。
──どんな点に苦労なさったんでしょうか?
冲方 限られた尺の中に、いかにして登場人物を収めるか……『ファフナー』は舞台が島なんで、とにかくみんないるんですよ(笑)。描かないわけにはいかない。その上に新キャラまでいるので。本当に、どうやってまとめようかと悩みまくって、時間もかかりました。現場にはご迷惑かけてしまいました。中西Pは「脚本が書き上がった時点が制作スタートです」って言ってくれたんですが……ということは僕が書き終わらないと始まらない、と逆にプレッシャーになったり(笑)。とにかくやるしかないと、朝から晩まで、2週間くらいパジャマしか着てなかった時期もありましたね。仕事場の床で寝てたりとか。どうしたらいいんだ?と、のたうち回りながら書きました。物語も二転三転しましたけれど、正直「もう、これしかない!」という結末にはたどり着けているじゃないかとは思います……何か、喋っていて胃が痛くなってきました(笑)。
──(笑)。最後にお聞きしたいのですが、小説を書きつつアニメとも密接に関わってこられた冲方さんにとって、「目指す理想のアニメ」みたいなものはありますか?
冲方 理想のアニメですか……う~ん、あまり他の作品を観てないので(苦笑)。目をつぶってシャベル振り回して、穴を掘ってるような感じなんですよ。「手応えがあった!じゃあ次の手応え!!」みたいに。理想があって「次はあっちに行くんだ!」というのがあれば、確かに心強いんですが、逆に今は理想が持ちにくいですよね。ありとあらゆるものが分散していますから。ただ僕はアニメといっても絵作りというよりストーリーテリングの側面が強いので、「もしかすると、こんなストーリーテリングも、アニメという媒体なら受け入れてくれるんじゃないか」という期待の方が大きいですね。アニメーションは、やればやるほど懐の深さを感じるメディアです。これから先、僕の中に出てくるもの、これから出会うもの、作っていくものを、形にしていってくれるんじゃないかと。一方で、アニメーションでは絶対に形にできないような小説も心して書いていかないと、喰われちゃうぞっていう恐怖心もあります。ただ、理想の形は、まだまだ試行錯誤というか、チャレンジですね。そういう意味では、先ほども言ったように今回の『マルドゥック・スクランブル』は、もしかすると原作小説があるアニメーションの、ひとつの理想の形になってくれるんじゃないかと思います。あとは、責任を持って作れるようになりたいですよね。つまり、社会的な責任を背負えるもの、インパクトの強いテーマでも「アニメーションだったら、そこまで踏み込んで描いてもいいよね」というものになっていって欲しい。実は今回の『ファフナー』の新作には、原爆とベトナム戦争のイメージを導入しているんです。キービジュアルが何で赤いかというと(*今回はモノクロページだが、P60に掲載している『ファフナーHAE』のキービジュアルでは、背景の海が深紅に染まっている)、原爆のイメージだからなんです。真っ青な空に赤が進入して染まっていく=死が充ちていくというイメージを描きたかった。本当にやっていいのかと相当悩んだんですが、「今だから、アニメだから、『ファフナー』だからやってもいいんじゃないか」と、勇気を振り絞りました。『ファフナー』という作品のテーマからいって、人類が持つ最も巨大な殺戮の象徴を出さずじまいというのは、どうなんだろうと。ただ、それはあくまで娯楽として成り立たせたいという意図のもと、導入しています。娯楽だからこそ人の心に届く、という面もあるから。
──アニメならば、そういうテーマや表現にも踏み込める?
冲方 アニメという媒体は、技術も成長し、観客も成熟している。もちろん、絶対にある程度は曲解されるだろうと思うけれど、作品自体が観客全員から誤解されて、歪んで伝わってしまうようなことはない。僕にはそんな確信があるんですね。そこは、信頼して作品を作ろうと思っています。……しかし考えてみると『マルドゥック・スクランブル』も『ファフナー』も、どちらもハードだなぁ(苦笑)。作っている方は無我夢中なんですが……まあ、乞うご期待です!