資料/アニメージュ2004年11月号 冲方丁(文芸統括)緊急ロングインタビュー

Last-modified: 2014-03-14 (金) 01:23:52

「一騎と総士は理解しあえるのか?」

外の世界を知った一騎は、総士との絆を再生できるのか?
16話から脚本を一手に引き受けている冲方さんに話を聞いた

──一騎が竜宮島を出て、新国連と接触したということは、何を意味しているのでしょうか?
冲方 竜宮島は、滅んでしまった日本の代わりに、日本の文化全体を保存して、それを高度なレベルで管理していく島なんです。普段の生活をあれだけ大事にしているのは、閉鎖環境の中で少しでも多様性のある価値観を作り出すためで、アルヴィスが表立って全てを管理してしまったら、生命の発展性がなくなって、みんなロボットみたいな人間になってしまうはずです。子供たちには、島のシステムを理解する前に、価値観の多様性というものを身につけてほしかったので、アルヴィスはずっと隠されていて、普通の生活を与えられていた。だから、いきなりアルヴィスとかファフナーとかが出てきたので、一騎にとって非常に分かりにくかったんです。逆に新国連はすごく分かりやすい組織なんですよ。
──新国連のどういうところが分かりやすいのでしょうか?
冲方 生命とか進化とか価値観の多様性とか、そういう概念的なものを目的とする前段階にある組織だからです。フェストゥムに殺されないためには、戦うしかないというのが、新国連の存在意義なので。『ファフナー』のテーマは「会話と相互理解」で、竜宮島やフェストゥムというのはそのテーマを背負っている存在なのですが、新国連は戦うことだけが目的の集団。会話とか相互理解というテーマとは全然関わりのない存在なんです。
──一騎とっては*1、竜宮島の複雑な成り立ちを理解するために、新国連に一度接触したのは悪いことではなかった、と?
冲方 そうですね。竜宮島を客観視するためには、一度外に出て、よりシンプルでよりひどい集団を見るしかなかったということです。
──しかし、新国連の人たちを救うために戦う時の一騎は、今までの戦いより迷いのない気持ちで戦っていたと思います。
冲方 今はこの人たちを守るために戦えばいいんだ、と。とにかく敵をやっつければいいんだ、と。シンプルかつ分かりやすい理由を与えられたので、一騎にとっては戦いやすかったんでしょう。でも、そこが新国連の怖いところですね。思考停止して戦うというのは分かりやすいですし、精神的肉体的充足感も簡単に得られる。人間はどうしても、分かりやすいところに行きたがってしまうんですよ。竜宮島のように、フェストゥムがいる環境の中で、難しい思いをして自分たちの文化を保存していくよりも、まずは戦え、と。しかしそれでは、相互理解はいつまで経っても不可能で、対立が果てしなく続いてしまいます。
──モルドヴァでの戦いと同時に、竜宮島が人類軍によって侵略されますが、史彦はあっさり占領を許してしまいましたね。そのあたりにも、竜宮島の思想というか、価値体系がよく現れていたのではないでしょうか?
冲方 史彦は非戦主義ですね。人類軍の占領を無抵抗で受け入れたけれど、しかし根底には抵抗の意思がある。イケイケの新国連を相手にしてもきりがないので、いったん譲るけど、シンプルな価値体系で生きてきた新国連の人間に、竜宮島の複雑な価値体系をコントロールできるはずがないと分かっているんです。一方、新国連はそんな竜宮島は得体が知れないし、自分たちの存在意義を脅かすものと感じる。そして、やがて竜宮島を恐れるあまり、破壊しようという方向へ向かっていきます。
──「パイロットよりファフナーのほうが大事」という総士の言葉が契機となって、一騎は竜宮島を離れたわけですよね。それで新国連に行くと、人間を守るための戦いがあって……。しかし、その後に衝撃的なことが起こって、もう一度、竜宮島のこと、そして総士とのことを見つめ直すことになりますね。
冲方 一騎的には、新国連行きというのは、なぜ総士がいちいち抑圧的であるのか、その理由を見つける「旅」と言うか「家出」だったと思うんです。竜宮島という価値観が、総士の背景にあるのだということを、いかに理解するか、という。
──そしていずれ竜宮島に戻ってくる?
冲方 新たに生まれ変わって、島に戻ってくることになると思います。一騎と総士の関係は、一騎のほうが上にくるほうがバランスがいいんですよ。一騎は男であるにも関わらず、母性的な性格ですね。自分を相手に理解してもらう前に、相手を理解しようと努力するタイプ。一方、総士は、相手のことは考えず、まずは俺を理解してくれ、というタイプです。そうしないとファフナーをコントロールできないからなんでしょうけど、すごく父性的なんですよ。危機に対処するためには、他の感情を排除して、合理的に物事に当たっていく、という。
──総士的なやり方だと、短期的には効果がありそうだけど、長期的にはいろいろムリが生じてきそうですね。
冲方 そうですね。だから、一騎に余裕が出て、総士が尖ったことを言ってもいちいち反発せずに、今はお前の言う通りやるけど、それが絶対的な価値ではないよ、みたいな母性を発揮してくれると、うまく行くんじゃないか、と。ここでも「会話と相互理解」という物語のテーマが浮上してくるんです。
──一方、真矢は一騎を迎えに行くという行動を起こすことになるわけですが、彼女の今の気持ちというのは?
冲方 真矢と翔子の立場の逆転というのが、まずありました。病弱だった翔子がファフナーに乗って、自分は見ているしかない、と。それでみんなの写真を撮るようになるんですが、自分がカメラマンなので、写真には自分の姿がない、ということに、真矢は気づくんです。その時に、とにかく行動しなければ、と考えて、一騎を迎えに行く。そして、外の世界を知る三番目の子供になるわけです。
──それによって、真矢も変わるわけですね?
冲方 だんだん仲間の精神的支柱になっていくのが、真矢ですね。彼女の成長は大きな鍵になっていくと思います。真矢、一騎、総士という順番で精神的な成熟度が高いと、3人がうまく成長していけると思うんですよ。危機的状況に具体的に対処しなければいけない時は総士が先頭に立って、真矢は一歩下がって精神的な支柱としてそれを見守って、一騎は現場に立ってそれぞれの価値観を理解して、両者を繋ぐ存在になる。それができると、素晴らしい仲間になれるのではないかと思います。
──さて、まもなく発売されるCDに、冲方さんが書かれたドラマが収録されますが、このドラマには、一騎、総士、真矢の関係性を捉えるのに、かなり重要な情報が入っていますね。
冲方 10話の、一騎が島を離れる時期に、3人が電話を掛け合っているという設定のドラマです。思いが一方通行になってしまう悲しさを、声だけのやり取りで表したい、と考えて書きました。ぜひ聴いてみてください。

『ファフナー』最重要Keyword

※冲方氏のコメントのみ抜粋。

●皆城乙姫

乙姫では、個人的に放任主義的母性というのをやりたいな、と思っています。
周囲の存在に、あらゆることを自分の意思で選択することを望むのが、乙姫なんです。
そして、乙姫自身はそれをひたすら見守るだけ。象徴的な言い方をすると、彼女は“花”ですね。
一瞬だけ咲いて、それによって島の新しい価値観を作り出す。そんな存在として描かれます。

●真壁紅音

この人がフェストゥムに同化されたことは、物語的に非常に重要です。
単なる端末ではなくて、フェストゥムの中にいても、自分の意思というものが残っている。
と言うことは、つまり、フェストゥムに自己という概念を教えてしまったのが、紅音なんです。
それがフェストゥムにどのような変化を与えたかは、これからの物語で明らかとなります。

●ミール

生き残った日本人は、ミールを研究することによって、自分たちの文化を保存すると同時に、新たな進化の可能性を探ることになりました。それがアーカディアン・プロジェクトで、ミールを媒体にして、自分たちの文化をいくつかの島にアーカイブ化して保存したのです。だから竜宮島のどこかにミールが存在しています。
また、フェストゥム側のミールというのもあるのですが、今の段階では詳しい説明はできません。


*1 ※原文まま