資料/アニメージュ2010年12月号 「回帰する冲方丁」冲方丁インタビュー

Last-modified: 2014-03-14 (金) 02:06:35

もう一度、あの島へ

総士の帰りを待つ一騎と竜宮島。新たに描かれる『ファフナー』の物語を冲方丁が語る

──『ファフナー』続編の構想はTVシリーズの頃からあったのですか?
冲方 いえ、キャラクターの過去や未来についてスタッフと話したりすることはありましたが、あくまで背景としてで、まさか続編を作ることになるとは思ってもいませんでした。ところが去年、能戸(隆)プロデューサーと他の作品の打ち合わせをしていたはずなのに、いつのまにか『ファフナー』を作ることになっていたんです。『ファフナー』は”作品に動かされてる”みたいな感覚があって、いつも気がつくと、とんでもないことになってるんですよ(笑)。
──舞台は、TVシリーズ終了から2年後の竜宮島だそうですね。
冲方 いろんな案がありましたが、40年後で島に主要キャラのお墓がある、みたいなのは、さすがにやめようと(笑)。それに一騎と総士の関係にも決着をつけなくてはいけないということで、2年後にしました。
── 一騎と総士の関係は、どのように描かれるのでしょう?
冲方 2人は相棒というだけではなく、”指揮官と兵士”です。『ファフナー』では、大人が子供を戦いに送り出すのではなく、子供である総士が同じ子供を戦いに送り出すという厳しさを描きたかった。そして総士の支えになっているのが一騎なんです。静と動、頭脳(ブレイン)と武器(アーマー)。一騎が総士に寄せているのは”盲目的信頼”ですが、支配されている”盲従”とは異なります。総士の命令で一騎は動きますが、同時に総士も一騎に追いたてられている。今回、この2人の普遍的な関係性は、書いていても嬉しくなりました。そんな2人が「最後に交わした約束」のその後を描くのが『HEAVEN AND EARTH』です。さらに、戦いの新たな局面と後輩の初陣、大人を見舞う災厄、そして人類の行く末も描かれます。これまでも、人類が繰り返してきた戦争の様々な様相を取り入れてきましたが、心のある存在との戦いという、ある意味、もっとも過酷な戦いが後輩たちに託される。
──盛りだくさんの内容ですね。
冲方 ですから、なかなか尺に納まらずに、何度も書き直しを迫られました。映画なのに主役級の子供だけでも9人いて、新キャラに大人に島に住み着いた人類軍まで盛り込もうとしたので……無茶でしたね。
──新キャラの「来主操」はどういう存在なのですか?
冲方 彼に託したのは、島に何かが漂着するというイメージと、TVシリーズでは描かれなかった絶望と希望です。栗原貞子さんという反戦詩人が書いた「生ましめんかな」という原爆の詩があります。負傷者があふれる地下室で、若い女性が産気づいたとき、自分も重傷を負っている産婆が「私が生ませましょう」と名乗り出て、子供をとりあげた後に息をひきとる──人類史上最悪の人災の中での、生命の誕生を描いた作品です。この詩に通じる「託されて生き、託して死ぬ」という人間の営みと魂の循環を、アニメならではの表現で描ければと思っています。