資料/GREAT MECHANICS.DX18 インサイド・オブ・ファフナー 冲方丁(シリーズ構成・脚本)&能戸隆(プロデューサー)インタビュー

Last-modified: 2014-03-14 (金) 02:20:56

新作も決定し今後も動向から目が離せない『ファフナー』。ここではどのような経緯や思いで『ファフナー』が作られていったのかなどを、メインスタッフのインタビューを通じて解明していこう。

【インタビュー・その1】 冲方丁 ● テレビシリーズ:シリーズ構成(16話~)/文芸統括 劇場版:脚本

──『ファフナー』に関わられた経緯などをお話ください。
冲方 僕がアニメーション制作に興味を持って企画書を書いたりしていたところ、キングレコードのプロデューサー陣に興味を持っていただいたのがきっかけです。プロデューサー陣から「島・ロボット・群像劇・少年少女」といったキーワードが提示され、それらをヒントにして企画したものが『蒼穹のファフナー』の原型となりました。
──『ファフナー』成立においての冲方さんの役回りは?基本設定など冲方さんのアイデアが反映されているのかと想像しておりましたが。
冲方 まず成立に協力することが重要でした。世界観や大まかなプロット、群像劇を生みだす人間関係といった、企画実現に必要なものを提供しました。機体回り(機体の名称や、ジークフリード・システム、操縦桿が「指輪」であるとか、シナジェティック・スーツなど)もふくめ、ほとんど反映されています。中盤から、脚本にも参加させていただいてます。
──個と集団の関係、個と個のコミュニケーション、極限での人間性、人と人との絆についてなどなど、奥深いテーマを感じさせてくれる本作ですが、冲方さんが最もこだわった、特に描きたかった『ファフナー』世界のテーマは?もしくは、文芸設定、脚本として関わられて、最もお気に入りの設定、エピソード、セリフなどは?
冲方 「あなたはそこにいますか?」というキーワードが、作品の核心として成り立ったのは嬉しいですね。そしてその上で描きたかったのは、「第四人称への旅」です。視聴者と一緒に、「私(一人称)・あなた(二人称)・彼(三人称)」と認識を他者へ広げてゆき、究極的には「人類」や「生命」や「世界」といった「全(第四人称)」へ辿り着く。そしてその体験を踏まえた上で、「私」へ戻る。そういう大きな「心の旅」ができるといいなと思っていました。目の前にいる「あなた(二人称)」とのコミュニケーションから、どれだけ発展できるか、という挑戦でもあります。ですので、最も気に入っているセリフは、テレビシリーズ最終回、総士の最後のモノローグです。特番『RofL』や劇場版でも、総士の最後のモノローグに辿り着くたび、この作品に関わって良かったという実感が湧きます。
──『ファフナー』で好きなキャラクターは?その理由も。複数人でもかまいません。
冲方 登場人物全員に思い入れがありますが、中でも単純に好きなのは一騎ですね。相性が合うのか、次々に物語が生まれてゆき、無限に書いていられるキャラクターです。
──『ファフナー』で好きなメカは?その理由を。複数でもかまいません。
冲方 マークザインとマークニヒトです。どちらも「切り札的存在」で、非常に思い入れがあります。ただ、両者が登場する時は物語が一気に緊張したり収束したりするので、扱いにはとても神経を遣います。個人的にはマークジーベン、マークツェーンといった「狙撃型」が好きです。単純にカッコイイと思うのと、要所でシーンをぴりっと引き締めてくれます。それと、実はティターン・モデルが大好きです。重装歩兵といった感じで、ノートゥング・モデルのように「防衛型」とか「飛行型」とかに分化していない、プロトタイプ感が良いです。
──冲方さんが感じている『ファフナー』の魅力とは何でしょうか?
冲方 ごく普通の人間による「人間賛歌」が魅力だと思っています。つまり、万能な人間がいない。みな、限界がある。だからみなが、それぞれ役割を背負っている。役割を放棄する人もいれば、逆に複数の役割をまとめて背負おうとする人もいる。でも、どちらも上手くいかない。自分の役割を自覚することで個と個のつながりが生まれ、個我のないフェストゥムへの対抗手段になる。たとえその役割が犠牲になることであっても、それが「人間であること」なら、恐れず行う。そういう人々の姿が感動を生むのだと思います。
──『ファフナー』に関わられて良かったこと、新鮮な体験や驚きなどお話ください。
冲方 少年少女がバタバタと倒れていくような物語が、どう受け取られるか、おそらくスタッフ全員が不安だったと思います。結果として、非常に多くの視聴者の真摯さが、この作品を生かして下さった。死を前提とした生命の讃歌に、強い共感を寄せていただいたことに、驚きましたし、喜びを感じました。
──逆に、苦労したり上手くいかなかったことなどは?
冲方 原作のないオリジナルのアニメ作品を成立させることがどれほど困難かを学びました。アニメはどのメディアに比べても「前例主義」の色が強く、新しいものを作るには、驚くほど多くの制約が課せられます。それだけ大勢の人間が関係し、制作費も高額で、諸権利が細分化されているのです。そうした制約を乗り越えてオリジナル作品を軌道に乗せるには、状況を見抜く理性と、強い熱意が必要です。両者を兼ね備えたスタッフが何人もいたからこそ作品が生まれたのだと思います。
──TVシリーズからかなり時間を開けての劇場版となりましたが、制作するにあたって、目指した方向性、テーマなどはどういうのもだったのでしょうか?そして、劇場版制作において、特にこだわった部分というのを教えてください。
冲方 ファンの熱意が続編製作を実現させました。ですので、とにかくファンを失望させないことが最大の課題でした。その上で、「フェストゥムの視点」を描くことに挑戦しています。乙姫に代わる「ドラマ全体のキーワードを担うヒロイン」が考案され、それが来主操という存在となり、エウロス型という特殊な群の設定につながりました。この来主操に託されたテーマが、原爆の詩の「生ましめんかな」でした。絶望的な状況下で、子を生まれさせる産婆のイメージです。つまり(完全にネタバレになりますが)、「フェストゥムが、生命の誕生に参加する物語」が、劇場版最大のテーマでした。
──広大な『ファフナー』世界ですが、次回作ではこんな話がやりたいなど、希望などお話ください。
冲方 それは…秘密です!とにかく、この作品はまだまだ素晴らしい物語を秘めております。そしておそらく、非常に衝撃的な展開が待ち受けていることでしょう。乞うご期待です。
──『ファフナー』ファンの方々へのメッセージをお願いします。
冲方 皆様のお陰で、『ファフナー』の世界はさらなる成長へと向かうことになりました。本当にありがとうございます。これからも、皆様に末永く愛される作品になるようスタッフ一同、とことん頑張ります。いざ、新たな世界へ!「あなたは、そこにいますか?」
──ありがとうございました。

【インタビュー・その2】 能戸隆 ● テレビシリーズ:プロデューサー 劇場版:総監督

──『ファフナー』という企画を、能戸さんはどう受け止め、どう関わられたのでしょうか?
能戸 自分としては、最初のテレビシリーズの企画起ち上げになりましたので、かなり張り切っていましたね。ふたつ返事でやりますと答えた記憶があります。今思うと、オリジナル作品が初というのは無謀でしたが、周りのスタッフに助けていただきながら1つ1つ進めていきました。企画草案を冲方さんからいただき、それを叩き台としてこれらをどう料理するかを羽原監督や千野プロデューサー、中西プロデューサーらと悶々と打ち合わせを繰り返していました。かなり難産でした。文芸と設定も兼任していたので、大きなところから裏設定まで決め込んで行きました。
──キャラクターデザインの平井さん、メカデザインの鷲尾さんを起用した経緯は?
能戸 平井さんは最初から決まっていました。平井さんのキャラで作品を作るという企画でしたので。鷲尾さんについては、内容が見えてきた時点で、デザイン性以外に現行兵器に詳しい、見識のある人物ではないといけないというのがあり、鷲尾さんに打診しました。当時『宇宙のステルヴィア』で、この世界に引き込んでいたのが功を奏した感じですね。
──キャラクターデザインについて、平井さんへのオーダーはどのような感じだったのですか?真壁一騎、皆城総士、遠見真矢、皆城乙姫などそれぞれイメージはあったのでしょうか?
能戸 平井さんは器用な方なので、いろんな方向やパターンでキャララフを提示してくれました。発注時、明確にこれといった方向性を示せなかったので、苦労をかけたと思います。ただ方向性が決まってしまえば、ブレないので早いですね。一騎に関しては、「主人公で15歳、一人っ子で父と二人暮らし、過去に親友を傷つけてしまった罪悪感から人を寄せつけない。母がいない代わりに料理や洗濯を淡々とこなす。妙に行儀が良い」。総士は、「リーダー格の少年、15歳。左のまぶたを上下に裂くような傷跡がある。左目が不自由でよく見えない。涼やかで誰にも分け隔てなく接し、どんなことも真っ直ぐ受け入れる。自分に障害をもたらした一騎の事もとっくに許しており、一騎が罪悪感を抱き続けている事を喜びつつ憐れむという複雑な感情を抱く」。真矢は、「ヒロイン、15歳。一騎の近所に住む少女。ショートカットで活発そうな印象を与えるが、実は奥手で天然。いつも一騎が苦しんでいるのを遠くから見ているしかない自分に悔しい思いを抱いている」。乙姫は、「総士の妹、13歳。島の防衛システムと一体化している。かつて母親の胎内にいた時にシリコン型生命体に取り込まれかけたところを救出され、遺伝子レベルでシリコン型生命体と融合している」。といったように、形状では発注していないので、大きなデザインラインは平井さんに任せて、何案か出たものに対して、これで行きましょうといった判断をしてます。
──メカデザインについて。鷲尾さんへのオーダーはどのような感じだったのですか?
能戸 ファフナーという名称からイメージを膨らませて行ったんですが、どうにも従来のロボット的な発想しか思いつかず、自分の発想の貧困さにクラクラしていました。なので、このファフナーという機体のとっかかりこそ、試行錯誤の連続でした。この機体のデザインは、鷲尾さんの引き出しの奥にしまいこまれていたもので、苦しんで苦しみ抜いて出てきたものです。さらに羽原監督が関節についていろいろアイディアを出して、ブラッシュアップさせていきました。結果、デザインは良いのですが、作画泣かせの機体になりました。関節の曲げ方や、腕や脚の曲線や反り方の表現が難しく、その動きの特性は未だに活かせていないと感じています。難しいですね。次の新作でまたチャレンジしたいと思います。
──デザインに関しまして、裏設定のようなものがあれば?
能戸 デザインというか、コクピットが女性の子宮の位置にあり、パイロットは赤ん坊のように逆さになっているという羽原監督の思考が凄いなぁと思いました。そこが一番安全だから、赤ちゃんがいると力説していた姿を見て、目から鱗でしたね。
──同様にフェストゥムのデザイン決定の過程などをお話ください。
能戸 これも悩みました。というか自分がではなく、デザイナーの鷲尾さんがなんですが。初期のスフィンクス型あたりは、羽原監督の意見を中心にまとめたものです。コンセプトは神々しい感じ。プレアデス、イドゥン、スカラベ、リヴァイアサンあたりは、冲方さんがイメージを描いていて、その方向に鷲尾さんが盛り込んでいきました。
──ストーリーが、まとまっていった経緯などは?
能戸 企画の発端は近未来としかありませんでした。2146年にしたのは、近からず遠からずというものです。近いとあっという間に現在が追いついてしまい、設定との差異が出て、見ていても非現実として受け取ってしまい、映像との共感がされない。遠いと、これもまた身近に感じてもらえない。2146年も遠いっちゃ、遠いのですが、映像では語られない部分も含めたバックボーンを作り、さらに裏設定として作っていたものを表にしたら2146年となりました。ファフナーはかなりの裏設定がありまして、それらはいつか日の目を見るときもあるでしょうし、見ないものもあるでしょう。ただその積み重ねがあるからこそ、重いストーリーに耐えられる作品であると言えます。
──TVシリーズからかなり時間を開けての劇場版となりましたが、制作するにあたって、目指した方向性、テーマなどは?
能戸 劇場版まで時間がかかったとは、個人的には思っていなくて、どうしても寝かす時期が必要だと感じました。ではなぜ、寝かさなければいけなかったのか。全く別の主人公でのファフナーであれば容易ですが、一騎と総士の物語の続きを作るというのは、キャラクターもそうですが、制作側も成長する時間が必要で、あのまま作り続けていたら、一歩引いて全体を見て作る事はできませんでした。あまりにもキャラに傾倒しすぎていて、全力出し切っていて、スキルが足りなくて、経験不足で、シナリオに映像が負けてしまうと。うまく芝居をさせる事ができないと思ったんです。うまく表現できませんが、本能的に諸々が待ちの状態になった。そんな絶望と否定的な世界に居ましたね。そして2007年に再起動。そろそろ動ける気がして。いや、もう動かないといけないと思い、話をした時、誰もが否定せず、どう作るべきかを常に考えて行動してくれました。それを見て、やれると思いました。続編の主題としては「おかえり、総士」、これは当初から決まってました。「帰るべき場所」と「痛み」を根底に置き、正面から見据えて「おかえり、総士」の映像化を目指した結果が、『HEAVEN AND EARTH』となってます。空中戦にはこだわりたいと思い、今回ファフナー及びフェストゥムを3DCG化しました。グリグリとカメラも絵も動かすには、3DCGが必要だと思い、踏み込んでみました。結果、今後どう制作して行くべきかが見えました。
──新作について、現時点で発表可能な内容はありますか?もしくは、次回作ではこんな話を作ってみたいなどの、希望、野望などがあればお話ください。
能戸 新作については、今はまだ話すことができません。希望としては、“ファフナー無双”をやってみたい。テクニカル的にいろいろと試してみたい。機体特徴の取りあげていないディティールを細かくやってみたい。壮絶な内容にしてみたい。持てる全てを注ぎ込みたい!待っている皆さんの期待を裏切らないよう、がんばって生死の物語を作ろうと思います!
──『ファフナー』ファンの方々へのメッセージをお願いします。
能戸 前々から応援していただいている方、前からの方、今回からの方、皆さんの想いが作品を動かしています。ファフナーという作品が、何かしら皆様の生活に多少なりともプラスになれば嬉しいです。
──ありがとうございました。