BO3におけるラウンドの価値とイデアルなハンター像の変遷

Last-modified: 2024-04-29 (月) 21:04:19

BO3におけるラウンドの価値とイデアルなハンター像の変遷

2022年のIJLとIVLのデータから考えるBO3という試合形式において先制点が与える影響というこの記事では2022年のIVLとIJLのデータを元に第1ラウンドを取得したチームの最終勝率を分析しました。そしてマップの選択権は重要か?脱領土化されたホームではマップ選択権、マップ制限権・陣営選択権の重要性と各ラウンドごとの得点を分析しました。ここで考えたいのは各ラウンドの戦略上の重要性、換言するなら価値についてです。言うまでもなく第2ラウンドは第1ラウンドの得点結果を、そして第3ラウンドは第1ラウンド、第2ラウンドの影響を受けています。ホームとビジターによるマップ選択権、マップ制限権・陣営選択権の違いこそありますが、第1ラウンド前半は各陣営が最も何のしがらみなく戦えます。そして2023年からはGlobal Banが導入され今まで以上に後半のラウンドは前半のラウンドの影響を受けることになりました。

まずは、第五人格において攻撃役と守備役というアナロジーを考えましょう。その場合は多くの人がお気づきのようにハンターが攻撃役でサバイバーを守備役と考えるのが妥当でしょう。なぜなら得点における追加点(攻撃点)は4吊り及び4逃げで発生します。しかしその比率は圧倒的に4吊りの方が多くハンターが追加点もたらす役割を担っています。サバイバーが攻撃役を担うことになる瞬間、4逃げ必須は万策付き絶体絶命の状況で最後の賭けに打って出るようなものです。最後の瞬間、そして最後の誘惑。だからこそトーナメントでの4逃げ必須での達成は長らく語り継がれるものになるのでしょう。とはいえ、サバイバーでも例外的に攻撃的と言える戦隊としてグランドスラム時代のWolves、銀河戦艦時代のFPX.ZQが挙げられます。

追加点の観点からは、環境ごとに重要なラウンド、ハンターが得点しやすく、その後のラウンドでの点差の挽回が難しくなる「分水嶺」となるラウンドが浮上します。後で数字を示しますが、2020年夏季IVLの「女王魔女環境」を例に取ると、特定のハンター(この場合は女王魔女)と他のハンターとの間に隔絶的なキャラクターパワーが存在していました。なので第2ラウンドまでが勝負どころといっても過言ではなくいかにこの二つのラウンドを戦うかが鍵となっていました。

とはいえ上記は追加点の場合に対するアナロジーで環境的にサバイバー環境の時はサバイバーが3点を持ち帰り、ハンターは2点を死守するというロースコア進行になり、サバイバーが攻撃役を期待され、ハンターは守備役が重要となります。そしてこの場合サバイバーにとって絶対に避けるべきことが0逃げという攻撃の決定的な失敗の発生です。なぜならこの環境下ではハンターに4返しを求めることが困難な状況だからです。反対にハンター環境の時はハンターが5点持ち帰り、サバイバーはハンターの猛攻を防ぎ0点をできるだけ避け、引き分けを保つつことでハイスコア進行を防ぐことが求められます。つまり、環境によってサバイバー・ハンターの攻撃と守備どちらを担うかは変化します。

具体例を挙げると2020年におけるZQ_Kenはハンター環境下での攻撃役のとしては極めて優れたハンターであり、2021年のWolves_Alexはサバイバー環境下での守備役として極めて優秀なハンターでした。すなわち時代によって求められるハンター像は変化する側面もあるということです。

この記事では2020~2023年のIVL、2022~2023年のIJLのリーグ戦全試合をもとに各ラウンドにおける得点状況と「分水嶺」を示し、時代によって求められてきたイデアルなハンター像を考察したいと思います。注:DongXという例外を出されると元も子もないので考えないでください

IVL

2020~2023IVLにおける4吊り率表.png
2020~2023IVLにおける4吊り率.png
2020~2023IVLにおける平均得点.png
なぜ4が重要かを簡単に説明するなら合計3-6でセットを返した場合、比較的達成可能な5-3この点差を返すことができない事です。もしこの得点を返すなら両陣営の勝利である6-2か4を返すかが必要となります。そこでラウンドの価値の源泉としての追加点、ラウンドごとの4吊り数はどう変化しているかを2020~2023年のIVLの全試合で集計しました。まずはIVLの状況を見ていきましょう。全体としてはフリーハンドで環境ハンターを使える第1ラウンドこそが得点源であるという傾向は変わりません。次に細かく年ごとの特徴を見ていきましょう

2020年での夏季IVLでは第1ラウンドが23.9%で第2ラウンドが19.4%に対して第3ラウンドは9.6%と夢の魔女・血の女王と他のハンターとの間に顕著なキャラパワーの差が存在していて第2ラウンドまでに多くの勝負がついているような状況でした。秋季IVLでは血の女王に変わり、Weibo_dの躍進に代表される彫刻師・ガードNo.26が環境入りしました。その結果IVL第1ラウンドが23.9%で第2ラウンドが19.4%に対して第3ラウンドは14.7%となりました。変化としては第3ラウンドで、ヴァイオリニストとガードNo.26くらいしか選択肢がなかった夏季に比べて性能を落としたものの血の女王が新たに選択肢として増え微増する結果となりました。とはいえ2020年は第1ラウンドと第2ラウンドが重要なラウンドであることがこの時代の特色でしょう。この時代に結果を残したハンターとしてのZQ_Kenを考えるとこの環境ではガードNo.26・血の女王・ヴァイオリニスト・泣き虫と夢の魔女に対抗しうるほどの練度を持ちかつ救助狩りで4吊りの発生する可能性があるハンターを所持し、4吊り合戦を制し、後のラウンドでも4吊を返せることが重要であることを示唆していたのかもしれません。

2021年では環境ハンターの弱体化が入り、破輪が登場しました。また、環境的に血の女王が少し復権した点でしょう。言うならばハンター間のキャラパワーが均衡化し始めたのが特徴です。均衡化が進み選択肢が増え始めたことで、キャラクターの練度と同様にキャラクター範囲も求められるようになったことは当然の帰結でしょう。実際夏季ラウンドごとの4吊率は第1ラウンドが20.6%で第2ラウンドが13.3%に対して第3ラウンドは21.9%で、秋季は第1ラウンドが17.2%で第2ラウンドが15.6%に対して第3ラウンドは17.2%となっており、夏から秋にかけてより夢の魔女・血の女王の座していた頂からプラトー(高原)へと均されていきました。均衡化が進みBO5を戦いうるハンターが増えた結果、プレイオフとCOAを制したのが豊富なキャラプールを誇ったWolves_Alexとなったことは当然のことかもしれません。繰り返しましょう、この年のキー概念は力の均衡化とそれに伴うハンター環境からサバイバー環境への転換です。そして、サバイバー環境になったことからのキャラプールの重要化です。

2022年は前年の状況が進行し、芸者、蝋人形師、書記官、漁師、使徒等が環境に加わりましたが、しかし決めてに欠けて変わらずサバイバー側へと環境が傾いていました。夏季のラウンドごとの4吊率は第1ラウンドが19.4%で第2ラウンドが8.9%に対して第3ラウンドは16.9%で、秋季は第1ラウンドが17.8%で第2ラウンドが12.8%、第3ラウンドは14.8%となっています。つまりどのラウンドも重要で、サバイバーは致命傷になり得る0逃げは絶対に避け、ハンターはキャラプールを拡大することであらゆる編成・得点状況に対処することが求められました。

2023年では夏季IVLからGlobal Banと夜の番人という強力なハンターが追加されました。しかし、IVLでは夜の番人は他のハンターを躍進させる追い風としての役割が強くさまざまなハンターが活躍しましたが、IJLと違い夜の番人自体を強く使うことはできていなかったようです。これはハンター1人体制というIVLの事情が要因となっているのかもしれません。この時こそIVLにおける均衡化の極限でありとあらゆるキャラクターが登場していました。しかし4吊り率および4吊数は最も低く第1ラウンドが13.9%で第2ラウンドが14.4%に対して第3ラウンドは15.1%となっていました。

しかし、この状況は一変し秋季においてプラトーは再び隆起しオペラ歌手のみがその座を占めることになりました。要するに均衡から不均衡へと。秋季では第1ラウンドが38.9%で第2ラウンドが13.3%に対して第3ラウンドは10.3%といて、第1ラウンドとその他のラウンドでは隔絶しており、秋季での第1ラウンドが極めて重要であることを示しています。なぜなら70回の4吊り数のうち13試合発生した4吊り合戦である26回を除く44試合は第1ラウンドを4の発生により落としていて、均衡化の極地である夏季の19試合と比べて高い確率で厳しい点差で第2ラウンドに進んでいるからです。そして、続くラウンドも第1ラウンドのGlobal Banは対オペラ歌手用のキャラが使用され、第2ラウンド以降はキャラパワーの高いサバイバーの布陣とそのまま戦うことになり第2ラウンドと第3ラウンド自体の4吊り率も極めて低くなっています。これは夢の魔女が4吊り合戦をしていた絶頂期の再来と言えるでしょう。この状況で求められるのは厳しいことは重々承知の上で、第1ラウンドで落とした4を返すことです。換言するとキャラプールは変わらず重要ですが、それを少々狭めても4吊の可能性のあるキャラの練度を高めることも求められるのではないでしょうか?

IJL

2022~2023IJLにおける4吊り率表.png
2022~2023IJLにおける4吊り率.png
2022~2023IJLにおける平均得点.png
IJLの状況を見ていきましょう。2022年のIJLと言えば1戦目ハンターの冬の時代とも言われ、分けで良しとされていました。実際にデータを見ると一番4吊り率及び得点を得ているのが第2ラウンドであることが特徴的でしょう。第1ラウンドのハンターたちはサバイバー陣が敷く強力な布陣を攻めあぐねて、編成に脆さが出る第2ラウンドから勝負を決めていたのでしょう。

2023年の状況ではIVLとの違いが出てきていて、これはハンター2人体制が影響していると考えています。IVLでのハンターのキャラプール拡大から夜の番人の練度を高め自体を強く使うことへとIJLは進みました。そして1戦目ハンターたちはFAV_Chikin、SZ_Burioの夜の番人そしてZETA_MiraiKの漁師などIVLとは違いキャラプールではなく、練度を高めることで第1ラウンドを取りに行くという選択をしています。IVLと比べてIJLの方が成功しているように見える点から夜の番人のようにキャラパワーのあるハンターが登場した時はそのキャラの練度を高めるという選択肢も悪くはないということを示唆しています。IVLにおいて秋季はIJLと同様にハンター2人体制へと以降したチームが見られたのがその表れではないでしょうか?

COA7グループ戦

COA7グループ戦での4吊り率.png
COA7グループ戦での状況を見ていきましょう。オペラ歌手は以前として高い4吊り率を維持しており、COA7でもオペラ合戦が継続されていることは否定できないでしょう。しかし2023年秋季IVL・IJLとの1番の違いは断罪狩人の存在です。この大会から断罪狩人は月の河公園を奈良公園と言わしめるくらい存在感を発揮しオペラに次ぐ4吊りを量産しました。つまりハンターにとってはオペラ戦を落としても逆転できる武器が増えたことであり、サバイバーにとっては第1ラウンドを有利に進めても逆転される危険性のあるハンターが増えたことを意味します。これはオペラ歌手合戦からオペラ歌手・断罪狩人合戦へのシフトであり、夢の魔女・血の女王の再来です。ハンターに求められるのは現在のCOA環境は夏季IVLでの夢の魔女・血の女王環境に近く第1ラウンド・第2ラウンドという危険地帯を越えて第3ラウンドに突入した時に4吊りを返せる練度、再び類推を持ち出すとZQ_Kenの夢の魔女であるガードNo.26と血の女王、そしてヴァイオリニストのようにキャラ幅を狭めたとしても、環境ハンターに匹敵するほどの練度を高め4吊りできるハンターを所持することでしょう。もちろんそれは極めて困難なことであり現実的でないという指摘はごもっともです。COAの面白くも残酷な点としては、準決勝からBO5が導入され、それ以前のBO3ではジャイアントキリングがより発生しうることでしょう。頂上へ到達するためにはまずはBO3でのサバイバーが前半のラウンドで思わぬ4吊りを喰らい、そのまま押し切れられるという事故を如何に減らすかが重要です。そしてハンターはその事故にどう対処するのかです。BO5は総力戦でありサバイバー・ハンタ-ともに持てる力を全て発揮するこの1年の集大成としてこれほど相応しい舞台はないでしょう。しかし、最後のBO5を見据えて練習してきたのに、それを発揮する機会すらなく敗退することほど悲しいことはありません。

終わりに

サバイバー環境下では、サバイバーにとっては決定的な敗北である0逃げだけは避けることが求められ、ハンターはキャラプールの拡大でロースコア進行でも確実にセットを取れる選択肢を増やすことが求められ、ハンター環境下ではサバイバーの4吊りという事故が発生しうることを想定し、ハンターは後半のラウンドでも4吊りできるキャラの練度を高める必要があるのではと考察しました。練度深化とキャラプールの拡大はトレードオフで、環境によってその配分の最適解を考えることも重要なのでしょう。次の記事ではここでも少し触れた日中におけるハンター二人体制によるBO1ハンターのPick状況から各チームは何を目指しなぜこの形になったかそしてどこに行くのかを考察します。