野盗に気をつけろ その2
話者 | セリフ | 備考 |
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- | 週刊アドベンチャラー 連載コラム 野盗に気を付けろ その2 | |
- | 焦りから 深夜の強行軍を選択した わたしは 野盗団の棲家に足を 踏み入れてしまった。 | |
普通ならば わたしはそこで 野盗たちに身ぐるみを剥がされ 武器や防具はもちろんのこと 持っていた薬や 金品すべてを 奪われていたことだろう。 | ||
抵抗すれば 命まで 奪われていたかもしれない。 しかし わたしは運が良かった。 | ||
野盗たちは皆 大きないびきをかいて 眠りこけていたのだ。 きっと 少し前まで 酒盛りを していたのだろう。 周囲にはアルコールの臭いが 立ちこめていた。 | ||
九死に一生を得た わたしは その場所を離れるべく ゆっくりと 踵を返した。 そのとき…… | 「踵」は「くびす(きびす)」と読みます | |
後ろを振り返った わたしの目の前に ひとりの少女が立っていた。 | ||
- | 年のころで言えば 五歳から 六歳くらい。 頭の上に付いた 大きな耳は 彼女が 獣耳族であることを 示していた。 | |
なぜ こんな場所にいるのか? 野盗たちの仲間なのか? 何より いつの間に 足音を立てず わたしの 背後に回り込んだのか? | ||
混乱する わたしに向かって 少女は静かに 問いかけてきた。 | ||
「……おじさん 誰?」 | 幼少期リタ | |
「そっ……それは こっちの台詞だ!」 | 冒険者の男 | |
わたしは 年端もいかぬ子供相手に 剣を構えていた。 | ||
怯える わたしの目には 彼女が腰に下げた 小さなナイフさえ 恐ろしい凶器に映っていた。 | ||
「お……お前は あそこにいる やつらの仲間なのかっ?」 | 冒険者の男 | |
「そう」 | 幼少期リタ | |
「みんな わたしの家族」 | ||
やはり この子は野盗の一味だったのだ。 今 声をあげられたら すべてが終わる。 すぐに この場から立ち去らねば。 | ||
相手は子供ひとりだ。 先手を取れば何とかなる……! | ||
剣を握る手に力を込める。 意を決し 息を小さく吸い込んだ そのとき…… | ||
- | 身も凍るような 殺気が わたしの背中に突き刺さった。 | |
「リタ どうかしたのかい?」 | 野盗の女 | |
そこで わたしは ようやく 陰に潜む もうひとりの 存在に気付いた。 | ||
暗闇から星明りの下に 歩み出た その人影は 確かに 女性の姿をしていた。 |