登場生徒一覧/ミニストーリー/不思議な本棚 FILE12

Last-modified: 2021-03-26 (金) 01:46:06

野盗に気をつけろ その3

  話者  セリフ備考
-週刊アドベンチャラー
 連載コラム

   野盗に気を付けろ

      その3
-ある晩 わたしは 誤って野盗団の棲家に
足を踏み入れてしまった。
気づかれぬうちに
退散を試みる わたしであったが
その行く手には ふたつの人影が
立ちはだかっていた。
-「リタ どうかしたのかい?」野盗の女
リタと呼ばれた 獣耳族の少女の隣に立ち
もうひとりの女が わたしを睨み付ける。

心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に
わたしは 声のひとつも出すことが出来ない。
「お前はなんだ? どうしてここにいる?」野盗の女
女は続けて そう問いかけてきた。
……刀傷 なのだろうか?

星明りに 照らし出された顔には
大きな痣のようなものが
浮かび上がっていた。
「痣」は「あざ」と読みます
もはや 逃げることなど諦めていた。
この女の機嫌を損ねれば
生きる道は絶たれる。

わたしは 震える声を絞り出し
自分の境遇を説明した。
仕事のために この山を
越える途中だったこと。

不運が重なり 誤ってこの地に
足を踏み入れたこと。

全てを 隠し立てすることなく伝えた。
「……なるほどねぇ」野盗の女
女は わたしを値踏みするように
しばしの間 視線を這わせると
納得したように殺気を緩めた。
「まあ 払うもんさえ払えば
 別にとって食いやしないさ」
野盗の女
「アタシも野盗の頭である前に 人の親だ。
 子供に 殺しの現場なんぞ見せたくないんでね」
親……? この子が娘?
「やめときな……。
 この娘に手を出したら 死ぬことになるよ」
野盗の女
わたしが人質を取って逃げるとでも
思われたのだろうか。

わたしは 誤解を解くべく
全力で首を横に振った。
……ただ ひとつ疑問があった。

少女は獣耳族……
おそらく 狼耳族あたりだと思われる。

女は見る限り わたしと同じ人間だ。
髪の色も 肌の色も異なり
血のつながりが あるようには見えない。
「この子は 拾い子なのさ」野盗の女
わたしの態度から意図を察したのか
女が答える。
そっけない言葉とは うらはらに
彼女が少女に向けた視線は
まるで本当の母親のような慈しみに
溢れたものに見えた。
-それから 少女を キャンプへと戻すと
彼女は わたしを 正規の登山道まで
案内してくれた。
「ただの 気まぐれのつもりが
 いつの間にか 情が移っちまってね……」
野盗の女
暗闇を先導しながら
彼女は わたしに語ってくれた。
「出来ることならば あの子には
 まっとうな人生を 歩ませてやりたい。
 アタシらの仕事には 関わらせたくないんだ」
野盗の女
「……けど そう簡単なものじゃない。
 この汚い仕事をやらなきゃ
 生きていけないのが現実さ」
「だから…… アタシはあの子には 生きるために
 必要なことは 全部教えてやるつもりだ」
「サバイバルのイロハ
 盗みの技 戦いで生き延びる術……」
「あの子に運があれば
 いつか それを 盗賊以外の仕事に
 生かせることも あるだろうさ」
そういって肩をすくめた彼女の背中が
わたしには どこか さみし気に見えた。

⇐前の物語へ     【ミニストーリー】へ戻る     ⇒次の物語へ