野盗に気をつけろ その3
話者 | セリフ | 備考 |
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- | 週刊アドベンチャラー 連載コラム 野盗に気を付けろ その3 | |
- | ある晩 わたしは 誤って野盗団の棲家に 足を踏み入れてしまった。 | |
気づかれぬうちに 退散を試みる わたしであったが その行く手には ふたつの人影が 立ちはだかっていた。 | ||
- | 「リタ どうかしたのかい?」 | 野盗の女 |
リタと呼ばれた 獣耳族の少女の隣に立ち もうひとりの女が わたしを睨み付ける。 心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に わたしは 声のひとつも出すことが出来ない。 | ||
「お前はなんだ? どうしてここにいる?」 | 野盗の女 | |
女は続けて そう問いかけてきた。 | ||
……刀傷 なのだろうか? 星明りに 照らし出された顔には 大きな痣のようなものが 浮かび上がっていた。 | 「痣」は「あざ」と読みます | |
もはや 逃げることなど諦めていた。 この女の機嫌を損ねれば 生きる道は絶たれる。 わたしは 震える声を絞り出し 自分の境遇を説明した。 | ||
仕事のために この山を 越える途中だったこと。 不運が重なり 誤ってこの地に 足を踏み入れたこと。 全てを 隠し立てすることなく伝えた。 | ||
「……なるほどねぇ」 | 野盗の女 | |
女は わたしを値踏みするように しばしの間 視線を這わせると 納得したように殺気を緩めた。 | ||
「まあ 払うもんさえ払えば 別にとって食いやしないさ」 | 野盗の女 | |
「アタシも野盗の頭である前に 人の親だ。 子供に 殺しの現場なんぞ見せたくないんでね」 | ||
親……? この子が娘? | ||
「やめときな……。 この娘に手を出したら 死ぬことになるよ」 | 野盗の女 | |
わたしが人質を取って逃げるとでも 思われたのだろうか。 わたしは 誤解を解くべく 全力で首を横に振った。 | ||
……ただ ひとつ疑問があった。 少女は獣耳族…… おそらく 狼耳族あたりだと思われる。 女は見る限り わたしと同じ人間だ。 髪の色も 肌の色も異なり 血のつながりが あるようには見えない。 | ||
「この子は 拾い子なのさ」 | 野盗の女 | |
わたしの態度から意図を察したのか 女が答える。 | ||
そっけない言葉とは うらはらに 彼女が少女に向けた視線は まるで本当の母親のような慈しみに 溢れたものに見えた。 | ||
- | それから 少女を キャンプへと戻すと 彼女は わたしを 正規の登山道まで 案内してくれた。 | |
「ただの 気まぐれのつもりが いつの間にか 情が移っちまってね……」 | 野盗の女 | |
暗闇を先導しながら 彼女は わたしに語ってくれた。 | ||
「出来ることならば あの子には まっとうな人生を 歩ませてやりたい。 アタシらの仕事には 関わらせたくないんだ」 | 野盗の女 | |
「……けど そう簡単なものじゃない。 この汚い仕事をやらなきゃ 生きていけないのが現実さ」 | ||
「だから…… アタシはあの子には 生きるために 必要なことは 全部教えてやるつもりだ」 | ||
「サバイバルのイロハ 盗みの技 戦いで生き延びる術……」 | ||
「あの子に運があれば いつか それを 盗賊以外の仕事に 生かせることも あるだろうさ」 | ||
そういって肩をすくめた彼女の背中が わたしには どこか さみし気に見えた。 |