怪文書(Vector)

Last-modified: 2019-03-02 (土) 17:40:22
Vector

「ただいま…ってなんだ。兄貴だけか」
部屋に入るなりずいぶんな態度を取るのはVector。妹だ。だからといってどうということもなく用意された食事を取り、言葉少なに風呂。と言ってペタペタと浴室に向かう。昔から変わらない、家では素足派なのだ。特筆すべき点もなく、今日も一日を終える…筈だった。その瞬間までは。
「兄貴!シャンプーとって!!」
声を張って呼ぶ声に反応すると、どうやら玄関に置きっぱなしらしい。しっかりしているように見えてどこかだらしないというか、抜けてるんだよな。ホイ持ってきたぞと脱衣所の扉を開けると、そこには全裸のVector。なんで…浴室にいないんだよ…?
「ーーっ!?!?お兄のバカッ!!変態!!私の裸なんて覗いて何が面白いのよ!?」
いや浴室にいると思うだろ普通!?なんで裸でそんなところに突っ立ってるんだよ見られたかったのか!?とにかくシャンプーを置いて立ち去ろう。脇目もすらずに俺は脱衣所を出た。
「……上がった」
憮然とした態度で脱衣所から出てきたVector。当然服は着ている。しかしどうしてもその薄着の下の裸が脳裏に浮かんで重ねてしまう。意外とあったよな…
「何鼻の下伸ばしてるの?最っ低…どうでもいいけど…」
Vectorはたったったっと2階に駆け上がっていく。確かに、今の態度はなかったかな。でもキレイだったし…っていかんいかん。頭を振って俺も風呂に…さっきまでVectorが入ってた風呂…。どうにもいけない。煩悩退散煩悩退散。
風呂に漬かって深呼吸をする。そういえば、今回は別のシャンプー買ったんだな。毎日嫌でも目に入る家族の洗髪料。どうにも些細なことが気になって仕方がない。
「お兄…お風呂、冷めてない?」
急な声に驚く。Vectorだ。
「入るからね」
は?どこに?なんでぽかんとしていたら、ドアを開けたVectorの裸体が目に飛び込んでくる。夢でも見ているのだろうか。
「詰めてよ…寒いでしょ?」
あ、ああごめんなんて言ってスペースを作る俺は頭をやられていたのだろう。ざぶん、と入ってきたVectorが背中合わせに湯船に浸かる。ざばざばと溢れ出るお湯が、人一人の存在をいやがおうにも感じさせた。というか、いいのか背中あたってるんだけど。
「仕方ないでしょう?湯船狭いんだから…それに背中ぐらいどうってことないし…」
嘘付けもじもじと動きやがってあっ背中でも柔らかいな…
「あのさ、さっきは、ごめん…流石にちょっと言い過ぎたかもしれない…」
何を今更。何年一緒だと思ってるんだよ。ぐいっと背中を押し付ける。Vectorは背中で押し返しながら、そういう問題じゃないと、ムスッとした声を上げる。更に押し返すと、不意にVectorの力が抜けた。上を見ると、視界いっぱいのVectorの顔。なんでこっち向いてるんだ…?気がつけば、Vectorは身を翻し、俺に正面を向けて、背中から抱きついてくる形になっていた。さっき不慮の事故で見てしまった胸が、背中にむにゅっと押し付けられている。
「お兄はさ、私の、その、見てどうだった?興奮した?」
そんなの…言えるわけ無いだろ……。