技術/バランス・アンバランス

Last-modified: 2007-04-05 (木) 22:53:12

バランス・アンバランス伝送

概略

アンバランス伝送は一般的な伝送方法で、シグナルライン(往路)とグラウンドライン(復路)の2本の線で情報伝達する。
バランス伝送はシグナルラインを正相(Hot)と逆相(Cold)の2つにし、合計3本の線で情報伝達を行う。
(正確には違うけど)

 

バランス・アンバランスの接続に関してはAPHEX EXPRESSOR model 651の取扱説明書(日本語訳)の最終ページにいろいろ書いてあります。
まぁ、今の環境(接続)が機材にとって最も良い環境ではない、ってことです。

ケーブルの距離

いろんな理由から、
アンバランス伝送は5mまで!!!
というか既製品で5m以上のアンバランスケーブルはほとんど見かけない。ギターシールドでも最長5m程度じゃないのかな?
まぁインピーダンスの面からも、一般的なアンバランス伝送はノイズに弱いという面があったりします。
(送りも受けも、バランス伝送は数百Ωの低いインピーダンスだけど、アンバランスは数kΩが基本的)

かといってバランス伝送もノイズに多少強い程度で、延長距離が長ければ長いほど、それによる音質劣化は避けられないのも事実です。
近年デジタル伝送システム(デジタルマルチ)が普及して、多くのPA屋がそのことに驚かされている様子。

 
 

まぁ、その辺を分かっていながら、音を聞き比べてよい方を取るのがエンジニアな気もします。

メリット・デメリット

バランス伝送のメリットはノイズに(多少)強いという点。
HotとColdにノイズが加わっても、受信側でHotの信号とColdの信号の差分を取るので、結果的にノイズがキャンセルされる、という仕組み。
簡単な計算だと、送る信号をX、ノイズをa、受信側で差分を取った後の信号をYとでもしておく。このときHot、Coldの信号H、Cは

H=X, C=-X

となる。伝送中にノイズを受けた信号をH',C'とでもすると

H'=H+a, C'=C+a

となる。受信側の処理は

Y=H'-C'    なので
=(H+a)-(C+a)
=(X+a)-(-X+a)
=2X

となって、なんかノイズが消えてますよ、ってことです。
TeX使いたいなぁ…wikiでも。

この時、バランス伝送ではグラウンドラインの電位は全く使われていない、つまり無視されています大嘘。グラウンドには電流は流れない状態になります。このことから、グラウンドリフトというノイズを抑える一つの方法が使えるのです。また、グラウンドにノイズ電流が入ってもほとんど無視することが出来る、というメリットも。

 

電磁気的には、中心導体(シグナルライン)のまわりを囲むように外部導体(シールド/グラウンドライン)が存在する場合、中心導体は外部の電磁界(ノイズ)の影響を受けないということが一般的に知られていますが、現実はシールドが完全になされるわけではないので、ノイズの進入は十分ありうる話である。ってかある。

また、ノイズのひとつにほかの信号線から漏れ出た電磁波もある。この辺を考えるとノイズ源なんてどこにでもあるものである。

 

直リンで申し訳ないですが、こちらのサイトを参考にするとなんとなくわかるかも。
http://www2.famille.ne.jp/~teddy/balanced/bal0.htm

 
 

デメリットはすぐ分かるように、シールド線がツイストペア(2本+GND)でなければならないこと。また、コネクタが一般的に多少高価なキャノンコネクタが必要になる、また機材側でも、バランス伝送を行うために部品点数が増えて価格が多少上がってしまうというデメリットもあります。

しかし、アンバランス伝送では一度入ってしまったノイズはほぼ除去不可能であるので、その点を考えればバランス伝送は安定したシステムを構築していく上では重要なファクターではないだろうか、と思ったり。

音量差

バランス出力をhotのみ(アンバランス)で受ける時と、hotとcold(バランス)で受ける時、受け側の電圧は2倍と大きく違ってくる(6dBの差)。おそらくバランス伝送を基準にほとんどの機材は設計されているので、どこかにアンバランスな機器を入れると音量が若干減る。

 

DN360はアンバランス出力ではあるが、出力段の増幅が2倍(+6dB)となっているので音量差は発生しない。
ただDriveRackをかますと音量がなんとなく増えた気がする・・・この音量変化は後述のパラ結線の問題かも。

音質

基本的には変わらない。
が、バランス伝送はどうしても通す回路の数が増えるので多少悪化する、という人もいるけどごくわずかな差だったりする。
むしろ外来ノイズを気にしなくてよくなる分ましか?

ノイズに関して

電源線には近づけないのが基本。
交差する場合は直交させること。電磁界の関係上、直交させた場合が電源線からの影響を最も受けにくくなります。
どうしても平行して這わせないといけない場合は下の図参照。


以下、カナレのカタログからの引用。

Q.金属配管を省きたいが、電源ケーブルとどれだけ離したらよいか?


A.金属配管をしないときはグラフの離隔距離が一応の目安になります。しかし、この離隔距離を考慮せずに電源ケーブルを配線すると、ノイズトラブルが発生することがあります。配線後のノイズ対策はたいへん困難ですので、できる限り、微弱信号を扱うマイクケーブルは金属配管による配線を推奨します。

noise00.JPG

バランス⇔アンバランス変換

バランス出力→アンバランス入力の場合、出力側の機器によっては問題が発生する。
マイク(ダイナミック系)や162SL(あともうないけどRX-7とか)のようなトランスという部品を使った出力の場合はColdをGNDに落としてもたいした問題はない。Coldを浮かせる(接続しない)のは厳禁ですが。ビンテージ物や古めの機材(20年物?)はこの構造が比較的多い。

そのほかの機材は電子部品でバランスアウトを構成しているが、Coldを直接GNDに落とすと、いわば電源コンセントの両端をショートさせることと同じようなことが起こるので、最悪の場合機材の破壊が発生する。

言ってしまえば、
電源が必要なバランスアウト機器の出力は変換アダプタをつなぐな
に尽きます。本来は。

でもメーカは馬鹿ではないのでそのような場合用の保護が入っているのが一般的です。それでも機材に負担をかけていることには変わりないので注意しましょう。

オス変・メス変を使用した場合のトラブルについて

オス変・メス変を使用した場合に、なんか変なノイズが乗ることがあります。

 

原因は入力・出力の方式に合った変換ケーブルを使用していないこと。

<例1>
・トランスを使用したバランス出力の機器(ダイナミックマイク、162SL)をバランスタイプのメス変を使い、DIに挿した。

この場合、DI側の標準コネクタはColdのラインに接点を持たないので、結果的にColdの信号線がどこにもつながれずに浮いた状態となってしまう。
内部構造の話をすれば、トランス出力はHotとColdの配線や抵抗値などの条件が揃わないとバランス出力ができない。Coldがどこにも接続されずに浮いていると、Hot側もまともな信号が送信できない。
結果として、よくわからん信号がノイズとなる、と。

 

まぁこれはDIなど受け側の設計で何とかなる問題でもある(Q-DIに関してはそのうち修正します)
具体的には標準ジャックの受け側がTRSフォーン(ステレオジャック)に対応したもので、Ring部分に接触する端子がグラウンドに接続されていればこの問題は発生しなくなります。

 

<例2>
・ボーカルの人がマイクにエフェクトかますとか言って、小型エフェクタの出力をバランスタイプのオス変を使用してキャノンにつないだ。

この場合は、小型エフェクタの出力はほぼアンバランス出力で設計されているので(ギターとかベースにはバランスなんて使えないし、コストが上がる)、これも結果としてColdが浮いてしまう状態となる。
バランス受けの機器は、Hotの信号とColdの信号の差分を取って受信しているので、GNDがつながっていよーがいなかろうがまぁ関係なく、Coldが浮いていて不安定な状態では、どんなにHotが安定していても差分を取ったら結局はぐちゃぐちゃな信号にしかならない。
結果ノイズとなる。

 

これも送り側の標準の出力コネクタがTRSフォーン対応のもので、Ring部分がGNDに落ちるようになっていれば問題は無い。ただし、アンバランス伝送であることには変わりは無い。

 

あとはこの場合、マイクとエフェクタ間も例1の事例と同じことが起こるので、そちらも気をつけたい。

ま、これはしょうがないかと。

コンソール側の状況

  • Verona
    全入出力がバランス伝送に対応。
  • M2000
    ST Inputに関してはアンバランス入力。monoのInputB(標準)はバランス対応
  • GF16/12
    13~16chはアンバランス入力。AUX,STEREO,MONOはバランス出力(書いてあるけど)
  • M8
    ピン入力以外は全てバランス入出力

逆相

過去の機材は、アメリカとヨーロッパでキャノンの規格が違っていたので2-hotと3-hotが混在している(1-GNDは共通、現在でも放送用機材とPA・レコーディング用とでは規格が違う)。
DN360は元々3-hotの機材であるが2-hotに改造済みである。
DI-1も3-hotが基準の機材だが、出力の位相切り替えスイッチを搭載しているので、逆相側(INV)にしておけば問題はない。
現在問題になりそうなのはE131とP-150D。ほとんど使用しないが。E131に関しては、インプット/アウトプットをキャノンまたは標準で揃えておけば、結果的には問題はない。P-150Dは入力側で逆相に変換するか、出力側で+-を入れ替えないと、他のアンプとの整合がつかなくなる。

ある音を逆相にすることで、無理矢理埋もれている音を(ちょっと不自然だけど)引っ張り出す方法もある。