・ルーヴランスという者
進行内容
ルーヴランスという者の助言に従うならば、
南サンドリアのヒナリー夫人が、前教皇の
ことをよく知っているらしい。
■ 南サンドリア・カッファル伯爵邸
Hinaree:なんですって?
ルーヴランスに会ったのですか?
あの方はお元気そうでいらっしゃいました?
Hinaree:……そうですか。
ずいぶんと姿を見せないので心配しておりました。
ええ、もしもその身に何かあるようでしたら、
ミスタル伯爵夫人にも申し訳がたたなくて……。
Hinaree:え?
30年前、北の地に送られた調査隊のことを?
Hinaree:ええ、覚えておりますわ。
あのころ私は、今はダボイと呼ばれている
ラヴォール村の屋敷に住んでおりました。
Hinaree:ラヴォールの丘の上には修道院が
ありまして、その関係で前の教皇ムシャヴァット
さまをよくお迎えしておりましたの。
Hinaree:教皇さまはたしか、
「共同調査隊は、バストゥークから得た情報を
確かめるために組むことになった」とおっしゃって
おりました。
Hinaree:なんでも
当時のバストゥークは、死せる北方の大地に
大いなる力が眠っていると主張していたとか。
Hinaree:もちろん
ムシャヴァット教皇さまは、バストゥークの
言うことに半信半疑でいらっしゃいましたわ。
Hinaree:ですが、主人が「もしやそれは
楽園の扉かもしれぬ」と申しまして……
(駆け込んで来るウルミア)
Ulmia:カッファル伯爵夫人さま!
やはりサンドリア大聖堂は、
楽園の扉を見つけたのですか!?
Hinaree:あなたは!?
Hinaree:驚きましたわ。
タブナジアからの小さなお客さまが、
こんなに大きく美しくなられて。
Hinaree:しかも、そちらの冒険者の方とも
お知りあいでしたのね。
Ulmia:失礼致しました。カッファル伯爵夫人さま。
自制心を失ってしまって、ご挨拶もせずに……。
Hinaree:いいえ。いいのですよ。
今日は嬉しい知らせばかり。20年もの昔に
お迎えしたタブナジアからの小さなお客さまを、
こうしてもう一度お迎えすることができるなんて。
Ulmia:その節は、私のような者にまで、
心のこもったおもてなしをいただきまして
ありがとうございました。
Hinaree:いいえ、あなたがたは
大切なお客様でしたもの。タブナジアの
ミルドリオン枢機卿さまがおっしゃっていましたわ。
Hinaree:今日連れてきたのは、
世界に名だたる小さな吟遊詩人だと。
Hinaree:ふふふ。あなた、本当にまだ
小さくて、世界を見たいからついてきたと
しっかりしたことをおっしゃいましたわね。
Ulmia:これはまた……。
お恥ずかしい限りです。
Hinaree:そうですわ。あのとき、
一緒にいらしたもうひとりのお嬢さんは?
Ulmia:……。
Hinaree:いいえ、ごめんなさいね。
私ったら、思慮のないことを。
Ulmia:いえ、お気になさらずに。
彼女も元気です。あの戦火をともに
生き延びることができました。
Hinaree:まぁ、それは本当に良かったですわ。
暁の女神さまのご加護がありましたのね。
Hinaree:あの頃は良かったわ。
主人も、ムシャヴァット教皇さまも
ミルドリオン枢機卿さまも健在で……。
Hinaree:お三方が集まると必ず、
楽園の扉についての議論が夜通し続きましたわ。
Ulmia:カッファル伯爵夫人さま、
今日はその「楽園の扉」について、
お話をお聞かせ願えませんでしょうか?
Ulmia:私がここを訪れましたのは、
サンドリア大聖堂にてその話をきいたからなのです。
Hinaree:……。
Ulmia:たくさんの観客を前に、
もったいぶって繰り広げられていた説話は、
私の詩歌よりも酷い出来でした。
Ulmia:前の教皇さまが、死の床にて
宣託を受けたという話も聞きましたが、
街の人々より話を聞けば、どうにも
納得がいかないことばかり……。
Ulmia:あれはいったい、
どういうことなのですか?
Hinaree:ウルミアさん。楽園というのは、
死も怖れもないところだそうですわ。
Hinaree:ラヴォール村がオークに襲われ、
残酷な運命の手によって主人を失ったとき、
残された私を救ってくださったのは、
ムシャヴァット教皇さま、そしてその信仰でしたわ。
Hinaree:あなたも人の心を歌う身ならば、
おわかりでしょう? 真実なんて大した
ことではないのです。真実は皆を救えませんわ。
Ulmia:カッファル伯爵夫人さま、それで自分を
救えるのなら、私もそれこそ真実だと思います。
Ulmia:しかし、ミルドリオン枢機卿さまは
おっしゃいました。他の人を救うためには、
真実を知る勇気も必要だと。
Hinaree:ミルドリオン枢機卿さまが……。
Hinaree:わかりました。
気になっていることならございます。
ムシャヴァット教皇さまが亡くなる前、
私はお見舞いに参りました。
Hinaree:その折に、ムシャヴァット教皇さまが
おっしゃった言葉は今でも耳から離れません。
「真実を手放さざるをえなかった」、と。
Ulmia:真実を……
手放さざるを、えなかった?
Hinaree:そうおっしゃる表情は、
まるで死人のようでございました。
Ulmia:……。
Hinaree:あのとき、ムシャヴァット教皇さまが
おっしゃった「真実」というものが、楽園の扉に
関するものなのかどうかはわかりかねます。
Hinaree:ただ、あの後、
ミルドリオン枢機卿さまが爵位をお返しし、
サンドリアから姿をお消しになったことを
考えますと、関係は深いのかもしれません。
Ulmia:ミルドリオン枢機卿さまが
爵位をお返しになられた? それはいつのことです?
Hinaree:もちろん、20年前のことですわ。
タブナジアが獣人軍に急襲を受けた数日後のこと
だったと記憶しております。そのご様子ですと、
ご存じありませんでしたのね?
Ulmia:ええ。
ミルドリオン枢機卿さまは、あの戦火で亡くなった
ものとばかり思っておりました。最後にお姿を見た
のは、放たれた火に沈むタブナジアの市街地でした。
Hinaree:……そうでしたの。
ミルドリオン枢機卿さまにも、
女神さまの加護がありましたのね。
Ulmia:ええ。そのようです。
それで、ミルドリオン枢機卿さまは
どこへ向かわれたのでしょう?
Hinaree:そこまではわかりません。
ただ、ミルドリオン枢機卿さまのご捜索を
密命として受けた騎士がいるそうですわ。
Hinaree:その騎士の名は、ルーヴランス。
没落したミスタル伯爵家の末裔、元王立騎士団の
騎士になります。
(ヒナリー夫人の部屋を退出するウルミアとPC)
Ulmia:「真実を手放さざるをえなかった」……。
Ulmia:それは、楽園の扉に関する
真実なのでしょうか。それとも、あなたが
お探しの調査隊の真実だったのでしょうか。
Ulmia:それに、ミルドリオン枢機卿さまが
ご存命だったとは驚きです。ご存命ならばぜひ、
お会いして楽園の扉のお話をお伝えしなくては。
Ulmia:あの方ならば、皆を
良き方へと導いてくださるはず……。
End