七森

Last-modified: 2023-12-12 (火) 21:29:47

急遽復元

夕方、スマホのスリープモードを解除すると海未から連絡が入っていた。

『またご飯行きませんか?』

はぁ・・・これで何度目かしら。どうせ今日も私たちの関係は前にも後ろにも進まないんでしょ?そんなため息をつきながらも断る理由は見つからず、結局諦めていつものお店に向かうのだった。

「それで穂乃果が・・・!ことりが・・・!」

また始まった、幼馴染の近況報告。ほっっっんといつまでも仲がいいわよね貴女たち。ていうか、週3で私と会ってるのに毎回話題にできるってどんだけよ。ほかに話すことがあるんじゃないの?代り映えしないいつもの話にすでに飽き飽きしていても、向かいに座る彼女は全く気付かず楽しそうに話を続ける。私が聞きたいのはそんな話じゃないんだけど・・・なんて思っても最後まで口に出すことはなく、そうはいっても気付くだろうと海未にタイミングを任せて、私はうんうんと相槌を打つことに徹した。

「この前の話だけど」

でも結局最後まで海未は気づかずお開きになりそうだったから、仕方なく私から口火を切った。そしてその瞬間、彼女の顔から楽しそうな表情が消えた。なるほど、分かってて話さなかったって感じね。いつまでも煮え切らない態度の彼女に痺れを切らした私は、一つだけ大きな嘘をついた。お見合いの話が来ている。そう伝えたあの日の海未は口でこそ「そうですか」と何でもない風に言って見せたけど、相当ショックを受けていることを隠すことはできてなかった。

「素敵なご縁じゃないですか?真姫のところに来る話ですから、私なんかより、ずっといい人だと思いますよ。それに、ご家族が病院を経営されているんですから、ね?」

なによ、黙って聞いていれば私のことばっか。自分の気持ち棚に上げて、自分を卑下して。だったらなんでそんな辛そうな顔すんのよ!なんで泣きそうな顔でそんなこと言うのよ!貴女のそういうとこ、もううんざりなの!!いいわ、そんなに言わないなら、力ずくで本心を引き出してあげるわ。

パァン!

乾いた平手打ちの音が響いた。

「真・・・姫・・・?」

恐らくそれが精いっぱい紡ぎだせた言葉なんだろう。真横を向かされた海未が、信じられないという青ざめた顔でこちらを見ていた。人なんて引っ叩いたのこれが初めてだから力加減なんて分からないし、手だってジンジンするけど、もうそんなことに臆するほど私は子供じゃない。いい?耳の穴かっぽじってよーく聞きなさい。

「私ね、あなたの事が好きよ。だから、許せないの。あなたを悪く言う人が。たとえそれが、あなた自身であっても」

今思えば、最初からこうすればよかった。あんな回りくどいことをしたって、いい子に徹してこじれるのは予想できてたし。それに、人の本心に触れておいて自分の本心は隠したままなんて、そんなことできないでしょ?さぁ、聞かせてちょうだい。貴女が私に抱いてるその思いの丈を。

「いいわけ、ないでしょ。嫌に決まってるじゃないですか!真姫が私以外の人と結ばれるなんて、考えたくもありませんよ!私だって真姫のことが好きです!大好きです!!だから、どこにも行かないでください!ずっとずっと、私と一緒にいてください!!」

ポタリポタリと雫を零しながら、それでも私をまっすぐ見つめて放さない熱い眼差しに、迷いは感じられなかった。ちゃんと言えたじゃない、自分の本当の気持ち。「涙の告白なんて」ってきっと貴女は言うでしょうけど、私は嫌じゃないわ。むしろ、本気で想ってくれてたことがよくわかって、ちょっと嬉しい。

「ほら、もう泣かないでよ。ずっと一緒にいてあげるから」

そっと抱きしめて背中をなでる。さっきまであんなに冷静を装っていたのに、自分の気持ちをさらけ出した途端これなんだから。ほんと、面倒な人。でもそんなところさえ愛おしく感じてしまう私も大概なんでしょうね。

おしまい