豫譲(刺客)

Last-modified: 2024-11-08 (金) 14:42:51

↑に引き続き刺客列伝

忠義の士と見る場合、
自己満足の拘りで暗殺失敗おじさんと見る場合
評価が割れる

 
 

前半はまあ美談かもしれない

高評価してくれる主君(晋の智伯)に出会った

智伯甚尊寵之

宿敵(趙の襄子)の策で主君が敗死した

及智伯伐趙襄子,
趙襄子與韓、魏合謀滅智伯,

  • 攻めてきた連合軍から韓と魏を説いて寝返らせたらしい

滅智伯之後而三分其地。

  • 滅ぼして領地を山分け 悪い奴らだ でも裏切られた方も悪い奴だ

趙襄子最怨智伯,漆其頭以爲飲器
💀🎨🖌🤗🤣🤣🤣

  • あー野蛮野蛮

山中で復讐を決意する 「知己」

豫讓遁逃山中,曰:
嗟乎(ああ)
 士爲知己者死,
 女爲説己者容。

(おとこ)は己を知る者の為に死し、
女は己を(よろこ)ぶ者の為に(かたちづく)
(※現代のSNSでは即座に燃える少なくとも一言余計な発言 しかしここは紀元前)

 今智伯知我,我必爲報讎而死,
 以報智伯,則吾魂魄不愧矣。」

暗殺失敗おじさん(1)

厠(トイレ)で暗殺チャンスを伺うが気取られて捕縛



乃變名姓爲刑人
罪人として偽名で潜入


襄子如廁,心動,
(襄子は不穏な気配を感じ取ったので)
執問涂廁之刑人,則豫讓,内持刀兵,曰:「欲爲智伯報仇!」
(厠の壁塗りしていた男(=豫讓)を調べさせたら、
刀隠し持ってて「智伯の仇!!!」と叫んだ)

左右欲誅之。
(側近らは処刑しようとした そらそうだ)

襄子の対応がかなり偉い

襄子曰:
「彼義人也,吾謹避之(のみ)
 且智伯亡無後,而其臣欲爲報仇,
 此天下之賢人也。」
(いやこいつは良い奴だよ、ただ俺が注意深く警戒すれば済む。
智伯の奴はとっくに一族ぶち殺したってのに、家臣がまだ仇を取ろうとする。
立派な心掛けじゃんね。)

(ついに)(ゆるし)去之(これをさらす)

  • 宿敵の家臣だった暗殺未遂犯を無罪放免
    寛大じゃね?
    まあ宿敵の首をオモチャにして気が済んだのかもしれない

問題はここから

暗殺リトライ(ハードモード)おじさん

豫讓又漆身爲(らい),呑炭爲啞,使形狀不可知,行乞於市。其妻不識也。
(妻にも分からないくらい徹底的に偽装して物乞いを始めた。)

気付いた友人はびっくりして正論で殴ってくる

行見其友,其友識之,曰:「汝非豫讓邪?」曰:「我是也。」
其友爲泣曰:
「以子之才,委質而臣事襄子,襄子必近幸子。
 近幸子,乃爲所欲,顧不易邪?
 何乃殘身苦形,欲以求報襄子,不亦難乎!」
(あなた才能あるんだから襄子に仕えりゃ厚遇されるだろ。
んで厚遇されたら簡単に殺れるじゃん。
なんでわざわざそんな姿になってまでハードモードの暗殺計画で復讐しようとしてんの?)

拘りおじさん

豫讓曰:
「既已委質臣事人,而求殺之,是懷二心以事其君也。
 且吾所爲者極難耳!
 然所以爲此者,
 (まさに)(はじ)天下後世之爲人臣懷二心以事其君者也。」
(それでは二心を持って人に仕えることになってしまう。
たしかに困難な道だろう!
それでもこうしているのは、
二心を抱いて君主に仕えるのは恥ずかしい行為だと後の世の人臣に知らしめるためなのだ)

暗殺失敗おじさん(2)

豫讓伏於所當過之橋下。
橋の下に潜伏

襄子至橋,馬驚,襄子曰:「此必是豫讓也。」使人問之,果豫讓也。
襄子が橋まで来たら馬が急にびっくりしたので、豫讓の殺気か?と調べさせたらマジで豫讓がいた

  • 馬すげーな
  • いや毎度殺気だだ漏れで潜んでるのは暗殺の心構えがなってないんじゃないか?

襄子の正論タイム

於是襄子乃數豫讓曰:
「子不嘗事范、中行氏乎?智伯盡滅之,而子不爲報讎,而反委質臣於智伯。智伯亦已死矣,而子獨何以爲之報讎之深也?」
(お前智伯以前にも別の主に仕えてたんだろ?んでそいつら智伯が滅ぼしたけど、お前別に復讐とかしなかったじゃん。なんでそこまでして智伯にだけ忠実な家臣やってんの?)

豫讓の反論タイム

豫讓曰:
「臣事范、中行氏,
 范、中行氏皆衆人遇我,我故衆人報之。
 至於智伯,國士遇我,我故國士報之。」
(以前使えた范や中行は私を普通の家臣として扱ったから、普通の家臣として報いたんだ。でも智伯は私を国士として扱ったから、国士として報いるんだ)

襄子

襄子喟然嘆息而泣曰:
「嗟乎豫子!
 子之爲智伯,名既成矣,
 而寡人赦子,亦已足矣。
 子其自爲計,寡人不復釋子!」
使兵圍之。
(いやあお前はホンマにすげー奴だわ、歴史に名前残るよ。でも許せるラインは超えちゃったと思うからこの前みたいに許すわけにはいかないよ)

最後のメッセージ(1)

豫讓曰:
「臣聞明主不掩(おおはず)人之美,
 而忠臣有死名之義。
 前君已寬赦臣,天下莫不稱(しょうせざるはなし)君之賢。
 今日之事,臣固伏誅,
(名君は臣の美徳を隠蔽しない、
忠臣は義の名の下に死ぬ。
以前あなたは私を寛大に許した、天下の人々があなたを褒め称えないはずがない。
私はもとより命を捨てる覚悟だった。)

最後のメッセージ(2)

 然願請君之衣而撃之焉,
 以致報讎之意,則雖死不恨。
 非所敢望也,敢布腹心!」
(でもお願いします、衣服をいただけませんか。せめてあなたの衣服を斬りたい。これを以て復讐とし、後悔なく死にたいのです。
無茶言ってるのは分かってます!)

認める襄子がまた偉い

於是襄子大義之,乃使使持衣與豫讓。
豫讓拔劍三躍而撃之,
曰:「吾可以下報智伯矣!」
遂伏劍自殺。
死之日,趙國志士聞之,皆爲涕泣。

  • 渡された衣服に三度斬り掛かって「報いたぞ!」と叫んでそのまま自刃エンド
    ~残った人々はその忠義にみな号泣したのであった~
 

これホンマに美談か?

結局拘りを優先して最善手を打たなかったせいで暗殺失敗しただけじゃね?

(参考)真面目な書き下し文

https://dl.ndl.go.jp/pid/926465/1/207