元記事:Nerf Wars: On downgrading Russian systems & units in Command
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さてウクライナにおけるロシア軍の戦闘結果が「一流とは言えない」ことが明らかになって以来,ウェブ上のあちこちでCommand開発チームに対する執拗な要求があった.リクエストは次のように要約できる.
それで,開発者の皆さんはいつになったら私たちがウクライナで見ているものに合わせて,Commandのデータベースにあるロシア軍装備をナーフするのですか?公式スペックをはるかに下回る性能しか発揮できてきないようですが.
(オックスフォード辞書より:「ナーフする」:(ビデオゲーム開発者が)ビデオゲームの新作やアップデートで,(キャラクターや武器などの)パワーを減らすこと.)
このコメントの海戦向け版はこうである:「巡洋艦モスクワへの攻撃をシミュレートしてみたのですが,史実通りに撃沈できませんでした.したがってCMOはおそらくロシア製兵器を過大評価しています」
さて,両主張にたいする短くて直接的な回答が存在するが,それをここに書いてはいけないと助言されているので,代わりにより入念かつ礼儀正しい回答を行うことにする.
デフォルトのCommand(未調整のDB性能値)は,ロシア製兵器(およびその他各国の兵器)が訓練を受けた乗組員によりその設計ドクトリンに従って運用され,本来あるべき通りに使用される状態を表している.ウクライナでの紛争が現実のものとなった直後,あるアメリカ軍の将軍は「ロシア製兵器はかなりうまく機能する…ウクライナ軍が使用した場合は」と指摘した.
(この簡単な例として,Carlo Koppはもしロシア製SAMが正しく運用された場合,そして正しく運用されなかった場合に何が起こるのかについて非常に洞察に富んだ分析記事を執筆した.好きな名言: 「シリア軍は移動式ミサイルを固定陣地として運用した;さらにレーダーを丘の上ではなく,谷間に設置したのは彼らが野外トイレ用の穴を掘りたくなかったからだった―本当である」)
同時に,Commandは戦闘が不毛な兵器コンテストではないと認識しており,数多くの「ソフトな要因」オプション(乗員練度,反応時間,ドクトリン設定,EMCON,ROE等)により,当該兵器の下手な運用を再現する能力を提供している.このためふたつの異なるユニットが全く同じ兵器を利用しているにもかかわらず,有効性と生残性が大幅に異なるという状況を生み出すことができる(我々のお気に入りの参考例は,1991年イラク軍のSA-6対空ミサイルと,1999年セルビア軍のSA-6対空ミサイルである).
プレイヤーが編集できる要素の例一覧:
- 陣営レベル,ユニットレベルの練度レベル
- 反応時間(OODAループ値)
- ドクトリン設定
- 交戦ルール設定
- EMCON設定
- WRA設定(つまり射撃設定)
- コンポーネントごとの機器故障
特に最後の点は,モスクワのシステム準備状況について最近判明したことに照らし合わせてみると特に重要である.漏洩した準備状況報告書(文章 (CYA)漏洩に関するいつもの警告)によると,艦中央SA-N-6射撃指揮レーダーと短距離用SA-N-4システムの両方が装置故障のために事実上使用不能となり,修理を待っている状態だった.さらには主砲だけでなく主要対空捜索レーダーも使用不能になっていた.すなわち,モスクワは航空ミサイル攻撃に対してほとんど丸裸の状態で活発な戦闘区域に送り込まれたのであった.
これをCommandで忠実に再現できますか?間違いなく.
どうやら乗員の熟練度が低く,反応時間の低下とこれまた最悪の損害応急という結果をもたらしたなど他の要因も再現できますか?こちらも,非常に簡単に再現できるといえる.
それでは,なぜ一部のCMOユーザーたちは,モスクワ沈没のような結果(あるいはサキ飛行場への攻撃,あるいはS-300/400対空ミサイルが全能でない,あるいは無人航空機がどう見ても自由に飛び回っている,あるいは…)を再現することが難しいと感じているのだろうか?
愛情に満ちた厳しい警告:一部の人々にとって「シナリオエディターで何かをテストする」とは手早くユニットをあちこちに配置して,DB上の設定値をいじらず,互いに自由に攻撃を許可して,それでおしまいである.ソフト要素,コンポーネント作動状態,その他最終的結果に直接する実世界での側面に関するカスタムは一切なしである.
ありがたいことに,もう一部のプレイヤーはそれを行うだけの規律がある.たとえばこの記事 [アーカイブ]などは実際の沈没直後,まだ情報が不足していたころの一例である(もちろん,これはこの話題に関する「最終結論」とはとても言いがたい.この方面の専門家たちは,たとえばなぜ駆逐艦シェフィールドは一発のエグゾゼミサイル被弾で沈没したのに,フリゲート艦スタークはエグゾゼを二発被弾して生き残ったかについて議論している.いや,第二次大戦の話題ですらまだ分析の対象となっている.モスクワ沈没が我々の孫の世代まで終わることなく議論されるだろうということは賭けてもよい).
たしかに,DBエントリ自体にソフト要因の問題を直接組み込んで,仮想戦場にロシア軍ユニットを生成したとき改めて手を加えなくてもすぐに破壊されそうな状態にしておくことは実に魅力的である.この便宜的なアプローチに対して支払わなくてはならない代償は,プレイヤーが人間(および文脈・状況)と機械とを明確に分離する能力を失っただけでなく,さらにこのロシア軍ユニットはいつもこのように振舞うだろうと知的に信じ込ませる羽目になったということに気づいたときになって初めて明らかとなる.
これは重要なのか?たとえば,1973年ヨム・キプルの日の直前に行われた兵棋演習において,イスラエル軍のある上級兵曹が「連中はほんの数年前あんなにも弱かったので」エジプト軍戦車を弱体化させていたという例について考えてみたい.この具体例は実際にあったことなのだろうか?多分,そうではないのかもしれない.しかし我々は事実として,1967年の電撃的勝利に基づきイスラエル軍当局がエジプト軍とシリア軍を大幅に過小評価しており(彼らは本質的に精神的な「データベース」を弱体化させたのである),そしてその知的近視眼により,数多くのイスラエル兵にとっては自らの命と引き換えになったということを知っている.このような錯誤をまた繰り返したい(あるいは繰り返してもよい)のか?
このような同一あるいは類似のハードウェアにもかかわらず戦闘能力の大幅な変化が生じた例は別々の戦争間だけではなく,ある戦争自体の別々の期間内にも発生している.ウクライナ戦に例を戻すと,開戦初期における「キエフへ進め」の時期,我々は数多くのロシア軍短距離防空兵器 (SHORADS)が完全に機能不全に陥っている際に航空機から爆撃された例を目撃してきた.なぜなら,どうやら対空部隊が(機動部隊を掩護するために)急速な移動を強いられたことでこれらが効果的に互いの部隊を掩護・交互移動できず,したがって設計され想定されているような実際の運用ができなかったためであった.その後,全く同じこれらのシステムがドンバスへと後退するロシア軍を掩護し,これらの部隊とともに適切に階層化されたとき(さらに開戦初期の苦い教訓が生き残った運用者に深く刻まれたことも否定できない),システムの有効性と生残性は期待されたレベルにまで回復することとなった.(そしてウクライナ軍は戦場にHARMミサイルを導入することになるのだが…それはまた別の話)
もしソフトな要因がデータベースエントリに組み込まれている場合,このような全く同じユニットで戦闘能力の大幅な変化をどのように表現できるのか?短い答え:不可能である.
(より長い答え:それぞれ異なる能力レベルと機器の整備レベルを持つ複数のエントリをDB内に作成することで不正行為やハッキングを行うことは可能である.これはとても粗野な手法であり,メンテナンス上の悪夢であり,またしても人と機械,文脈を混同していることになる.コンピューター版Harpoonの頃,同ゲームにはソフト要因が全く存在しなかったので我々はこれと似た手法をとらなくてはならないことがしばしばあった.だが今日ではもっと良い手法が可能であるし,そうしなくてはならない.)
それで,要約すると:Joe Playerが史実に従って弱体化したモスクワを最初から使えるようにするためだけにソフト要因をDBに直接組み入れることは,一般版のプレイヤーだけでなく特にPro版の顧客の両方に重大な損害を与えることになる.DB内にあるプラットフォームとシステムはきれいな状態で生成され,(デフォルトでは)有能な乗員が配置されているものとみなされている.これはデザイン上の見落としてでなく,意図的かつ慎重に選択された決定である.それからプレイヤーは自らプラットフォームを修正して,老朽化したただの標的から無敵の要塞まであらゆる状態に作り上げ,仮想環境上の文脈をそのプラットフォームにとって有利あるいは不利な状況に設定し,それから歴史的状況の再現あるいは過去・現在・未来における仮想状況の探検を行うことができる.しかしどのような場合でも,腕をまくって自分で作業をしなくてはならない.二十年前のNorm Kogerの言葉を引用すると:「ワードプロセッサーは,それを使い物語を作り上げようとする者に数多くの要求をするものである」
御一読ありがとうございました.
おまけ1
おまけ2:モスクワ沈没・ロシア兵器を弱体化しろ関連の議論
モスクワ沈没関連についてはそのうち独立記事化するかも?
- DB flaw - NATO Bias :: Command: Modern Operations 総合掲示板
(こっちは逆でロシア軍が弱すぎるという2021年の議論…のはずが3ページ目から強すぎ議論にすり替わった)


