業界仕組みネタ2/CEDEC2008

Last-modified: 2010-09-12 (日) 21:48:00

CEDECのキーマンに10年目のCEDECやゲーム開発事情について聞きました

9月9日 (火) 〜11日 (木) の3日間の会期で昭和女子大学 (東京都世田谷区) で開催されるCEDEC (CESA Developers Conference)。ゲームデベロッパーによる、ゲームデベロッパーのためのカンファレンスとして今年で記念すべき10年目を迎えます。過去最大の講演数、参加者で開催されるCEDECについて、そして世界のゲーム開発事情について、CEDECの講師の選定など開催を取り仕切った CEDEC アドバイザリーボードの吉岡氏、斎藤氏、そしてCEDEC事務局からCESAの小林氏にお話を伺いました。

参加者
・吉岡直人 CEDEC 2008 アドバイザリーボード 委員長 (スクウェア・エニックス 研究開発部 チーフ・テクノロジスト)
・斎藤直宏 同 ビジュアルアーツ分野プロデューサー (バンダイナムコゲームス 制作統括デビジョン 制作部 ゼネラルマネージャー)
・小林岳人 同 運営事務局統括 (社団法人コンピューターエンターテインメント協会)

■健全な成長を遂げる10年目のCEDEC

ゲーム開発者が集い、様々な技術的な成果や挑戦について発表されるCEDECですが、10年前、東京ゲームショウに併催される形で始まったものが非常に健全な成長を遂げてきたと3名は一致するようです。

「元々の動機付けとしてあったのは、(特に日本では)なかなか技術者同士の交流が図るための場が少ない、そうだと技術レベルも上がりにくいという問題意識です。ゲーム開発に携わる人たちが一堂に会する場を設けて、技術者同士の交流をすることで、業界全体のレベルを上げていければという思いですね。特に現行機種においては、欧米のメーカーが技術力をつけてきていて、こちらもレベルを上げなきゃという意識は例外なく共有されるようになりましたね。真剣な場として確立してきていると思います」(吉岡氏)

各ゲームメーカーが持っている技術やゲームの作り方は重要な秘密であって、それは社外に流れてはいけないという風潮が過去のゲーム業界にはありましたが、近年ではその考えは薄れ、共有し高め合うことの重要性が認識されていっているようです。

「ビジネスとして競合しているので、技術者同士の交流がしづらい時代も確かにありました。ただ、自分達がより良いものを作ろうとすると、他がどういう努力をしているのかを知ることは非常に重要ですし、自分達の業績を広く発表したいというのは自然な欲求でもあります。参加して話を聞くこともできるし、発信してそこからフィードバックを得ることもできる、そういう重要な場にCEDECはなっていると思います」(斎藤氏)

「CEDECが健全に育っている面があるとすると、傷のなめ合いにはなっていなくて、非常に前向きでテクニカルな話がほとんどを占めている点でしょうか」(吉岡氏)

「それに講師の皆さんにはボランティアで動いてもらってるんです。運営も、CEDEC アドバイザリーボードの皆さんを中心に手作りでやってます。メンバーも吉岡さんや斎藤さんを始めとして各社の技術のトップにあるような方に参加していただいて、質の高い運営ができていると思います」(小林氏)

■日本と海外のゲーム開発事情

続いて、日本と海外のゲーム開発事情について伺いました。

現行世代機になり、技術のレベルも上がってきて、日本が世界のレベルから置いて行かれるのではないかという危惧も一部でありますが、そこまで危惧はしてないようです。

「ゲームの作り方、目指す方向性の違いはあるかもしれません。GDCに行っても、日本の技術の方が凄いこともあるし、勝ってるところもあります。技術レベルが違うというよりは、ゲームジャンルによっては海外が先行していることでの差がありますので、向こうの大型タイトルと同じようなものを作ると遅れはあるかもしれませんが」(斎藤氏)

吉岡氏
「この問題は幾つかに別けて考える必要があると思います。第一に、人間のレベルが違うかというと、それはないと思います。ただ、近年の欧米においてはCGやシミュレーション分野の人間がゲーム産業に来るケースが増えていて、トップのレベルを持つ人間は多いかもしれません。それでも全体で見て技術者のレベルが違うとは思いません。日本人も頑張ってますよ」(吉岡氏)

「技術レベルで圧倒的に欧米が勝ってるのは層の厚さだと思います。人口の差もありますし、コンピューターに関する教育レベルの差は否定できないものがあります。個々の技術レベルはなかなか比べにくいですが、ピンの部分ではいい勝負をしていると思います。彼らを見習ったほうが良いと思うのは、技術を投資対象と見て長期的に取り組む点です。GDCに行っても関心するのは、彼らのアウトプットもそうですが、それに対して非常に長い年月をかけて継続的に研究している人間がいることです」(吉岡氏)

「日本だとどうしてもタイトル単位の考え方での技術開発が多く、5年、10年の単位で技術開発するのはなかなか稀ですからね」(斎藤氏)

■次に来る技術は?

続いて、今後注目を集めそうなゲーム関連技術について聞いてみました。2011年とも2012年とも言われる次の世代のゲーム機も睨み、ハードの性能が更に上がることで、ビジュアルやサウンドが進化するだけでなく、生産性を上げるための技術が注目されるのではないかということです。

「まず絶対に外さないだろうというのは"メニーコア"でしょう。ゲーム機云々というよりも、コンピューターの進化を考えるとメニーコアは間違いないはずです。性能が上がることによって表現に関するテクノロジーも当然、継続的に進歩を遂げていくものだと思います」(吉岡氏)

「一方、劇的に進化するであろうのは生産性に関する技術です。一つはいま話題のプロシージャルですね。アーティストが一つ一つ手作りすれば、計算で表現するよりも圧倒的にいいものが出来ます。ただ、規模が大きくなる中でそれは不可能に近くなってきます。一方で計算機のパワーはどんどん上がっていきます。今後はどこを計算機でやって、どこを人間がやってメリハリを付けるかというのが重要な課題になってくると思います。これはここ数年で一番注目すべき技術だと思いますね」(吉岡氏)

斎藤氏も生産性が今後の焦点になるというのには同意見のようで、「絵を綺麗にするのとは違う分野かもしれませんが、結果的に製品のクオリティアップに関わる重要な部分です」と言います。今回のCEDECで、ビジュアルアーツの分野でも「コンテントパイプライン」のセッションが用意されています。

そして最も必要とされるのは、どうコストを有効活用するかという考え方だと吉岡氏は言います。

「コストや生産性を議論すると、ともすれば"雑に作る"ということと混同されてしまう場合があります。そうではなく重要なのは、必要なコストをどう有用に活用するかという問題です。生産性を上げるというのは、どこのクオリティに集中するかを決めるということで、クオリティにこだわる人であればあるほど生産性は無視できない問題になっていくと思います」(吉岡氏)

■CEDECは刺激を受けるための場

最後に今回のCEDECにかける意気込みを聞きました。

「一番意識したのは、モノを作りだす気持ち、クリエイター魂を持ち帰って欲しいということです。その上でテクニックとして色々なジャンルの技術について、学ぶきっかけを得られるセッションを用意しました」(斎藤氏)

「誤解を恐れずに言えば、80分間のセッションで伝えられる内容はそう多くはありません。CEDECに来るというのは、同じような現場で課題に挑戦した人たちに刺激を受けてもらい、会社に戻って更に勉強するということで初めて意味を持つものだと思います」(吉岡氏)

「10周年の記念すべき年になり、基調講演をはじめとして今までにない種類のセッションも多数用意しました。新しくプロフェッショナルがプロフェッショナルの技術的な功績に対して表彰するCEDEC AWARDSも始めます。講師も参加するパーティも用意していますので、刺激を受け、同業者と交流し、今後の仕事につなげていく為の場となっていますので、ぜひ参加してみてください」(小林氏)

■CEDECは9月9日〜11日に昭和女子大で開催

今回は3名の方にお話を伺うことができました。CEDECは1999年の秋の東京ゲームショウに併催という形で開催されたのが最初で、今年で10周年を迎えました。年々規模を拡大し、日本語で提供されるゲーム関連のカンファレンスとしては最大かつほぼ唯一のものと言っていい存在になりましたが、ゲーム業界の将来を真剣に考える人たちによって健全に発展してきたものだという印象を受けました。

インタビュー中に3名の口から何度も聞かれたのは「参加するだけでなく、発表する側にも立って欲しい」ということです。講師は毎年公募されていて、それなりの数の応募があるそうですが、「審査し切れないくらい来てもいい!」とのこと。成功も失敗も、経験は共有されることで、自分自身の力になるだけでなく、ゲーム業界全体の財産となり、岐路に立つ日本のゲーム業界にとって重要な宝になるはずです。ちなみに「講師は全セッションが無料で受講できるので、来年はぜひ講師に(笑)」(小林氏)とのこと。講師だけによるパーティも予定されているそうです。

CEDEC 2008は9月9日 (火) 〜11日 (木) に昭和女子大学 (東京都世田谷区) で開催されます。チケットは3日間有効のレギュラーパスが一般4万円、CESA会員2万5000円。1日のみ有効のデイリーパスが一般1万5000円、CESA会員1万円となっています。パスがあれば事前登録なしに全てのセッションを自由に選んで受講することができます。講師も参加する親睦パーティも10日に予定されています。

見聞を広め、交流を深める貴重な機会ですので、興味のある方は公式サイトをチェックしてみてください。

【CEDEC 2008】5年後のゲーム開発現場を考える 〜ゲーム会社技術開発の現場から2〜

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/11/31123.html
激動の次世代機時代も趨勢が定まりつつありますが、5年後のゲーム業界はどのような現場で開発を行っているのでしょうか。CEDEC2日目14:50〜は、一流ゲームメーカーの研究開発系に所属する5人を講師に招き、「5年後のゲーム開発現場を考える」というディスカッションが行われました。出席者は株式会社コナミデジタルエンタテインメントの植原 一充氏、株式会社コーエーの津田 順平氏、株式会社スクウェア・エニックスの吉岡 直人氏、株式会社セガの安藤 隆氏、株式会社バンダイナムコゲームスの大森 靖氏。5人ともゲーム開発に用いる技術を作り出すことが仕事です。

会場では、聴講者が講師の発言にリアルタイムでコメントをつけられる「ニコニコ動画」風のシステムを構築。講師が発言したことに聴講者が反応し、それを見て講師が更に議論を深めるというインタラクティブ性のある空間が形成されました。

5年後のゲームプラットフォームはメニーコア化を含めた高機能化が避けられず、1080pの環境でゲームを作ることが標準化。据え置き機と携帯機で役割分担が進むがどちらの路線もなくなることなく続き、ゲーム機としての本質は変わっていないだろう……とするのが講師5名の予測。

短期的技術トレンドとしてはCEDEC2008でも注目を集めたプロシージャル(自動生成)技術が流行。テクスチャやアニメーションなどを自動生成することでクリエイターの負担を減らすが同時にデバッグが複雑化し新たな課題に。
更なる進歩として並列プログラミングなど新技術の萌芽が見られるとしています。

プログラミングに必要となるのが言語ですが、プログラマのスキルの違いが顕在化する現行のC++ではなく、誰が書いても同じ結果を出せる言語が必要になるも、言語の習得難度を下げることにより「ひどいコード」が出てくる可能性も顕著に。デバッグのしやすさを考慮して設計された言語の必要性が増してくることが予想されています。

プログラムの開発手法そのものは現在と同様で、人件費の考え方が存在しないゲーム業界ならではの「根性」によるものが続行。現在主流となりつつあるゲームスクール系の人材は「コンピューターを知らずに入ってくる場合が多い」ため、新人教育の重要度が増大。基礎学力の向上など広範な対策が必要であり、これは企業の範疇を越えて国のレベルで行われなければならないとするところで意見がまとまりました。

【CEDEC 2008】「資金調達に時間をかけるよりも、世界に向けたアプリを作ろう」―中小ゲーム開発会社のための資金調達

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/11/31117.html
CEDECでは最新技術動向や生産性の向上などに注目が行きがちですが、「ビジネス&ロウ」としてゲームビジネスにまつわるセッションも多数用意されています。その中の一つ、10日の13:00より開催された「中小ゲーム開発会社のコンテンツ開発のための資金調達」では、新たに独立を考えている人、受託開発からの脱却を図りたい中小メーカーの関係者などに向けて、投資家や金融機関からの資金調達の方法について、ベンチャーの共同創業、経営支援に深く関わっておられるブレークスルーパートナーズの赤羽雄二氏、森広弘司氏、司会にIGDA日本の新清士氏を迎えてラウンドテーブル形式で議論が行われました。

まず赤羽氏は、日本の中小ゲーム開発会社がおかれている現状について、次のように説明されました。開発費の高騰や開発期間の長期化、大手パブリッシャーの下請け・孫請けという実態、自社開発したい会社が多くても資金・時間が不足。これに対してゲーム市場は世界化しており、韓国・米国・欧州発のゲームが躍進しています。更にこれまでのようなゲームではなく、オンラインゲームやカジュアルゲームが急成長するなどの市場環境の変化にも直面しています。

いきなりセッションタイトルに反する結論ですが、赤羽氏はこうした中小ゲーム開発会社が資金調達する道は現実的にはあまりないのではないかと断言します。一般的にゲーム開発会社にとって、資金調達のオプションとして以下のようなものが考えられます。

・匿名組合
・民法上の任意組合(製作委員会方式)
・SPC(特定目的会社)
・融資
・出資
・(助成金)

中小ゲーム開発企業のうちでこれらの選択肢を取り、成功裏に進められたのは、シグナルトークがオンライン麻雀ゲーム『Maru-Jan』に対して匿名組合で資金調達した例だけではないかと赤羽氏は言います。匿名組合はプロジェクトに対して出資者を募り、そのプロジェクトからの収益を配当するというもので、シグナルトークは20名の個人投資家から数百万円ずつの出資を得ることができました。しかし、法改正により適格機関投資家(金融機関など)の参加が必要となり、現実的なオプションではなくなりました。

その他の手法でも、製作委員会方式は出資者が無限責任を負い、どちらかというと投資というよりも共同事業に用いられるものであり、SPCでは事務コストがかさみ、数千万円〜数億円の規模の投資ではペイできづらく、銀行などからの融資も返済能力を明確示せなければ難しい、出資でも受託開発のような成長性に乏しい事業では受けることが困難になります。

これらのことから自社開発のための資金調達は大半の企業にとっては困難で、一方で行動を起こさなければ下請け状態が続き、競争力のない企業は振り落とされ、ますますじり貧になることを免れないでしょう。しかし、と赤羽氏は言います。資金調達をせずとも世界に羽ばたいていくチャンスが今目の前に広がってきました。

■世界を相手に商売するチャンネルが確立

WiiウェアやXbox Live Arcade、Xbox Live Community Games、iPhoneのApp Store、FacebookなどのSNSでのゲームプラットフォーム、アプリダウンロード販売が注目されています。最も重要な点は、コンテンツさえ作れば、容易に世界中に販売し、収益を上げることができるようになったことです。しかもそれが例えばApp Storeであれば、アップルに3割を支払うだけで誰にでも開かれています。特に、米国発のSNSであるFacebookで遊べるカジュアルゲームは急成長を遂げていて、Social Game Network、ZyngaといったFacebookプラットフォーム上での大手ゲーム会社はVCからそれぞれ15億円以上の資金調達を果たしています。収益モデルも様々なものが出ていて、販売時の課金はもちろんのこと、急成長するゲーム内広告、アバターなどのアイテム課金などが挙げられます。

1億人以上のユーザーを抱えるFacebookですが、ゲームが多数流通しているといっても、決してそれら全てがレベルが高いものというわけではなくて、ゲーム先進国で実力のある日本のゲーム開発会社であればアイデア次第で競争力のあるものを短期に作れるのではないかと赤羽氏は言います。制作したゲームは世界中で販売することができます。ダウンロード販売は日銭商売に近く、上手くいけば非常に少ない労力で制作したゲームで毎月の収入を得ることができます。実際に日本でも0.5人月程度で作ったゲームで毎月数百万円の売り上げを得ている会社があるようです。

そうして原資を稼ぐことができれば第二段階に進めます。。赤羽氏は、その実績や資金を元に、ユーザーの心をとらえ、競争力ある「オンラインエンターテイメント」(あえてゲームと言わず)を企画、実証デモを用意すべきと説きます。第三段階では極力低コストでサービスインし、会員獲得、ブラッシュアップ、コミュニティ構築、ブーム化を促進し、その勢いでVC等から資金調達をし、世界市場への展開を視野に入れていくというイメージが描かれます。

これは一例に過ぎませんが、受託開発に留まりじり貧状態を続けるよりは、リスクも低く、成功確率の高い賭けかもしれません。

■資金調達に悩む時間があればアプリを作ろう!

赤羽氏は現状への危機感を次のような言葉で示しました。

「カジュアルゲームが世界的にヒットし、世界中でゲームベンチャーが大量に誕生して、VCも沢山の資金を入れています。でも日本ではその気配は全くありません。CEDECには沢山の人が集まりますが、この資金調達セッションに参加していただいたのは25人でしたね」(赤羽氏)

IGDA日本の新氏も「今年2月のGDCはFacebookのアプリへの関心がもの凄く高くて、カジュアルゲームという分野がGDCの中心的な話題になっていました」と話します。

「資金調達に悩むよりも目の前のチャンスを取りに行こうよ、というのが私からのメッセージです。日本のゲーム産業は凄い力を持ってるのだから、戦わずにいきなり逃げ腰、負け犬根性を持つのはあまりに勿体ない。凄いチャンスが広がってます。しかもリスクは小さい。受託開発で低空飛行するよりも全世界の人々がゲームを遊ぶ時代のチャンスを掴みましょう!」(赤羽氏)

このようなチャレンジは大企業よりもむしろ小規模な企業による方が起こしやすいとされます。「イノベーションのジレンマ」を引き合いに出すまでもなく、大企業は既存の流通構造を崩すダウンロード販売のようなものには二の足を得てして踏みますし、今までのゲーム作りのパターンとは離れるカジュアルゲームへの取り組みは後手に回ります。受託開発で食べている中小ゲーム開発会社にとっては破壊的イノベーションは得るものこそあれ、失うものはないのです。ゲーム先進国たる日本のゲーム開発会社は例え中小であっても世界に通用するゲームを作る力があります。

現状のようなApp StoreやFacebook、カジュアルゲームといったものの爆発的進化は産業に混乱をもたらします。混乱は秩序を変えるチャンスです。現にApp StoreやFacebookで大きな利益を上げているのは、既存のゲーム業界のプレイヤーとは全く異なります。混乱が収まった時、生き残った、リーダーシップを取れた企業が新しい市場と共に成長することができます。赤羽氏は「チャンスはあと半年か一年」と言います。混乱が収まる前に参入することが重要になります。そして、繰り返しになりますが、そのハードルは限りなく低いのです。

【CEDEC 2008】PixelJunk Edenにおける植物制御に関する技術解説

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/12/31129.html
CEDEC初日19:40からキュー・ゲームスのスタッフによる「PixelJunk Edenにおける植物制御に関する技術解説」と題したセッションが行われました。

キュー・ゲームスは今年で設立7年になるゲームディベロッパーで、代表作にはGBA『デジドライブ』、DS『スターフォックスコマンド』などがあり、そのほかにもPLAYSTATION3のXMBやミュージックビジュアライザーなども手掛けています。

また現在では、『PixelJunk』シリーズの第一作目である『PixelJunk Racers』が2007年9月にPlaystation Storeで配信が開始され、その後『PixelJunk Monsters』そして今回のセッションのタイトルにもある『PixelJunk Eden』を配信しています。

今回のセッションでは、まず会社概要がシリーズコンセプトキュー・ゲームス スタジオディレクター 吉田謙太郎氏より説明されたほか、PixelJunkシリーズのコンセプトなどが語られました。

 具体的には
・ゲーム本来の楽しさを追求
・続編にとらわれないラインナップ」
・短い時間で何度も楽しめるリプレイ性
・ゲームを触ってみたくなるようなアイディア
・次世代機の技術を生かしたビジュアル&ゲームデザイン

といったものが挙げられました。

シリーズの狙いでは
・ゲームソフトパブリッシュのチャレンジ
・シリーズ化することでの知名度のアップ
・次々とリリースすることでインパクトを与える
・価格以上のクオリティーを保つことでのブランド構築
・ワールドワイド同時リリースによる宣伝効果のアップ
・自社IPを持つことで企業価値を高める

オンライン配信タイトル開発のメリットとしては
・開発コストの削減
・クオリティコントロール
・開発者のモチベーション維持
・マスターアップからリリースまで1か月
・開発者、開発チームのスキルアップ

などが挙げられていました。

これらは早い段階でユーザーからのフィードバックなどがあり、開発者のモチベーション維持にもつながるといった内容のほか、PS3のダウンロード販売は配信するデータ量にコストがかかるので、ファイルサイズには気を使うといった内容も語られていました。

そのためPixelJunkでは、データ内にムービーなどの巨大なファイルを内包することは極力避けており、代わりにオートプレイなどによるチュートリアルを実装しているそうです。

またオンラインという特性上、パッチによるアップデートやアイテム配信なども実装しやすいとのことです。

そのほかにもPixelJunkは、ゲーム内のデータをスクリプト化しているため、追加のマップパックなどのリリースもスクリプトの追加などで行えるようになっているそうです。これはゲーム実行ファイルのようなコアな部分を変更するよりもかなり簡単にできるとのことです。

配信部分でのワールドワイドの配信では、キュー・ゲームス社内には外国人スタッフが多いため、まず英語と日本語での開発を社内で行っているとのことです。

また、テキスト量が膨大にならないよう、開発の早い段階でテキストをフィックスし、意識して減らし、ローカライズしているといった内容が語られていました。

そのほかにもPixelJunkシリーズは、Youtubeへのアップロードやトロフィー機能など、意外と開発スケジュールに影響を与えず導入することができたといった利点があったそうです。

なお、PixelJunkシリーズの各タイトルの開発期間は最大半年、スタッフ数はプランナー、アーティスト、プログラマーなど最小限に絞り、現在は2ライン順並行で開発を行っているとのことです。

売上的な部分ではこれまでシリーズ3タイトルで累計一億円を超えており、オンライン配信タイトルでも、それなりの収益を見込めることが可能だということが語られていました。

続いて登壇者はキュー・ゲームス プログラマ 木下直紀氏に代わり、セッションタイトルのPixel Junk Edenにおける技術解説が行われました。

木下氏の講演では、PixelJunkではいくつかの技術によって構成されており、その中にはDistance Field、植物制御に関するシミュレーション、SPUを用いた高速のパーティクルシステムなどが挙げられていました。

Distance fieldは、入力画像に含まれるオブジェクトから各画像の距離を測定し、出力画像の画素として、白い領域のオブジェクトをDistance fieldに変換するといった技法です。

講演では、サンプルにある画像を例に解説されており、画像の白い部分を感知し、黒い部分は元のフィールドよりも遠いという設定の元、アンチエイリアシングをかけています。

また、オブジェクトの境界線を符号付きの値を画素値として使用したうえで、その画素のオブジェクトの画像のエッジ抽出などを用いてアンチエイリアシングへの応用なども可能だとのことです。

さらにDistance fieldを用いた画像では、画像を拡大したときの境界線を滑らかに改善することができ、本来であれば128×128の画像を拡大したときにジャギーが目立ってしまいますが、Distance fieldを用いた画像であれば、滑らかなエッジで表現できるということのようです。

これはDistance fieldを用いることで、アンチエイリアシングをかけることができ、画素値の0が近い状態を抽出することで、エッジとして抽出された領域を曲線で滑らかに明度の変換を行うと、全体のサイズに対して細いアンチエイリアシングをかけることができる、オブジェクトをズームレベルに対して適切な幅でアンチエイリアシングをかけることができるそうです。

この技法は、そのほかにも応用が可能とのことで、衝突判定を行ったときに、岩のような形状の変化しないオブジェクトと小さなキャラクターが衝突したというケースの場合、衝突した場所における岩の画像のディスタンスフィールドと衝突地点における岩の構成を調べることが可能となっているそうです。

また、衝突することで反発する方向などの計算にも使えるとのことです。

PixelJunkでは、これらのデータのビルドシステムにはGNU Makeを用いているとのことで、たとえば画像素材であれば、デザイナーがTGAで用意をして、オリジナルの変換ツールでTGAの形に出力。その後PCビルドで使用するためにDDSのアルファチャネルのみ形式に変換、PS3ビルドではさらにそれをGTFという形式に変換するといった手法が公開されていました。

またGTF形式であればPS3上では読み込み速度が速くなるといった利点があるそうです。同様に音声はWAV系で作成し、PS3ビルドではAT3に変換するといった手法を取っているそうです。

また、PixelJunkの開発はPCとPS3の両方で行っているとのことで、これはビルドが高速であるというメリットがあり、ステージデータのようなものはプログラムを走らせながら作業をする必要があるものはPCビルドを利用して作成されたそうです。

反面のデメリットとしては、PCではSPUが使用できないため、これに伴う回避策が必要であったり、PCとPS3の両ビルドでは違う実装をしなければならない場合は保守が煩雑になるといったことがあったとのことでした。

プロジェクトごとのバージョン管理には、サブバージョンを使用しているとのことです。通常の場合はランタイムデータを管理するのであれば、サブバージョンで管理するとよいとのことですが、最初からデータが肥大化すると作業工程などにも遅れが出てしまうため、開発終盤まではチェックインするまではサーバーでファイルを管理してRSyncを使ってデータの同期を取っているといった内容が語られていました。

また、両ビルドで異なる点としては、PS3ではSPUを用いて、PCではGPUを用いたアルゴリズムなどで代用しているといった点が挙げられていました。

PixelJunk Edenに登場する植物の表現では、植物の枝を木構造上に組み合わせた形で表現しており、植物の動きの表現のためにブランチをセグメント単位で分割し、幾何学的なパラメータを持たせて制御するといった技法を使っているそうです。

実際に植物をレンダリング際には、セグメントよりも細かい単位で植物のなめらかな曲線を補完しながらポリゴンを張るといった処理も行われています。

植物のような複雑な形状のオブジェクトに対して、キャラクターの衝突判定を行おうとする良い方法として、ピッチングバッファと呼ばれる低解像度のバッファを用意し、衝突判定を行いたい植物などのオブジェクトをレンダリング、レンダリングしたピッチングバッファの画素を順にスキャンしていくことで、単純にオブジェクトの衝突判定が実現できるといった発表もされました。

このときにピッチングバッファにレンダリングする際に画素値として植物などのオブジェクトに番号などを割り当てることで、何に衝突したかを判定することができるとのことです。

なお、PixelJunkでは、スキニングの処理を行う際にも高度な負荷がかかるため、PS3のSPUを用いて処理を行っているとのことです。

PixelJunkでは、パーティクルシステムのシミュレーションを高速で行うためにSPU1基を用いているとのことで、重力や外力が加わる環境下でのパーティクルの挙動のシミュレーション、キャラクターとパーティクルの衝突判定を前処理のようにあらかじめ荒く判定を行っているそうです。

またステージ中に登場するアイテムのようなものにも衝突判定を行っており、パーティクルの判定の前処理部分では最終的にはPPU側でパーティクルをKd-Treeの形で構成し、あらかじめ衝突判定を行いたい領域をしてしています。大まかな領域に含まれるパーティクルをPPU側でKd-Treeを構成し最終的な衝突判定を行っているそうです。

SPU側で行う作業では、パーティクルの物理計算や大まかな衝突判定を行いたい領域をKd-Treeを構築しフラグを付けておくといった方法で計算されています。

なお、PixelJunkではSPU1基のみで行っていはいますが、より複雑な処理を行いたいという場合は、SPUひとつでは足りないため、複数のSPUを用いた並列処理が必要となるそうです。

ゲーム中の処理部分では、PPU側で基本的に各処理のタスク管理を行い、SPUでは各タスクやコンテキストを管理・処理しており、これによりPPUに余分な負荷をかけず、余裕のある処理が可能であるといった内容が語られました。

最期に木下氏は「SPUは強力でSPU専用のチューニングをすれば、より早くなるし、手間はできるだけ多くのスクリプトに任せることで、生産性の向上などのメリットが生み出せるでしょう」といったコメントをし、講演は終了しました。

【CEDEC 2008】開発側にもコストを回収する意識が必要。『ルーセントハート』における実例

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/12/31135.html
CEDECもついに最終日。3日目13:00〜の「オンラインゲーム運営の視点から見たゲーム開発」では株式会社ガマニアデジタルエンターテインメントの中島 秀樹氏が自社の新作『ルーセントハート』を題材に利益を出すための開発に関して講義を行いました。

株式会社ガマニアデジタルエンターテインメントはオンラインゲームの運営会社。可愛らしい絵柄の新作MMORPG『ルーセントハート』が好評を博しているほか、『巨商伝』『ブライトシャドウ』などを運営。『ルーセントハート』では自社開発を行っています。

オンラインゲームは半永久的に運営できるため、ユーザーのモチベーションを維持することが重要。家庭用ゲームとは大きく考え方を変えることが必要であり「楽しいゲームを作ればユーザーが集まると言うことではない」と運営的な視点の重要さを強調。オンラインゲームにおいては1ヵ月の運営コストが数百〜一千万円程度かかるため、開発側にもコスト回収の意識が必要。これが欠けていた過去のタイトルでは「数字を考えずに開発が作りたいものを作ってしまい、負のスパイラルが発生した」とのこと。

ログインユーザー数と継続率を上げるのはオンラインゲーム運営で最も難しいところ。オンラインゲームの構造はキャラクターレベルの低いユーザーが多く高いユーザーの少ないピラミッド型であり、レベル上限を上げる「縦のアップデート」はやりすぎると継続率に悪影響を与えかねない側面があるため、遊びの幅を広げる「横のアップデート」や継続を意識したイベントやクエストでモチベーションを維持することが重要となります。

「コミュニケーションは最大のモチベーション」ではあるものの、日本ユーザーはこれが苦手。『ルーセントハート』はビギナーと女の子をターゲットとし「どうユーザー同士をくっつけるか、ユーザーに任せるのではなく開発も考える」ことで、同じ星座のプレイヤーが話せる「星座チャット」や、異性キャラクター同士をマッチングし共に冒険することでレアアイテムなどが入手できる「キューピッドシステム」を実装しました。

ユーザーと運営サイドの両方の大きな関心事となっている課金ですが、ゲームに制限をつけて課金してもらうのはマイナスであり、基本的に無課金で遊べるところにプラスαを付けるのが良いとの考え方を表明。『ルーセントハート』ではキャラクターの死亡時にスタンダードな「街に戻って復活する」選択肢に加えて「復活アイテムを購入する」ボタンを付けることで、パーティープレイ時に仲間と離れたくないので復活アイテムを買うというニーズを作り出しています。また、アイテムモールに嫌悪感を示すユーザーのためにクエストに組み込むなどの手法が必要となってきます。

日本人はキャラクターの強さよりも他のユーザーとの差別化を求めており、アバター類の売上が好調。やみくもにアイテムを作るのではなく「どこに売るか」を考えることが大事であり、ガチャガチャのようなランダム販売は最も効果が高いが反発も招くとして安易な実装と開発を戒めています。

『ルーセントハート』ではアニメ「CLANNAD」やニコニコ動画とのタイアップが話題となりました。新規ユーザーを獲得するのが難しい現在では仕掛けを考えていく必要があり、「CLANNAD」とのタイアップは新規獲得において有効であり、ニコニコ動画とのタイアップはお祭り感の醸成とアイテムの売上に貢献したとの結果を明らかにしました。

【CEDEC 2008】ゲーム開発会社が海外パブリッシャーから開発を受注するには?

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/12/31160.html
■海外受注にゼロベースから挑んで成功

国内市場が低迷する中、海外市場の重要性が叫ばれていますが、多くのディベロッパーにとっては敷居が高く感じられるのが実状ではないでしょうか。そんな中でサクセスケースとなったのが、大阪の老舗ディベロッパー、ナウプロダクションです。CEDEC2日目では同社がいかにしてゼロベースから海外受注業務をスタートし、わずか1年半で実績を上げたかが、論理的かつ明快に語られました。

講演タイトルは「欧米パブリッシャーに対するゲーム受注制作ビジネス提案、営業方法、プロジェクトマネージメント実例紹介、及びその具体的なゲーム受注制作事例、制作方法論、コミュニケーション、必要なドキュメンテーションの実例紹介」です。長いタイトルですが、これが講演内容をすべて物語っています。講演者は海外事業の旗振り役の大信英次氏と、ディレクターの溝口達洋氏で、大信氏がビジネスと営業面を、溝口氏が実際のゲーム制作についてスピーチしました。

ナウプロダクションは1986年に設立された大阪の中堅ゲーム開発スタジオで、家庭用ゲーム機で180タイトル以上の受託開発の実績があります。しかし国内市場の減少と共に、海外パブリッシャーと直接開発契約を結ぶ必要性を感じ、2007年の米GDCに初参加。その後も営業活動を続け、現在までに2社の自社タイトルを含む、4本の開発契約に成功しています。また、同時にアジア圏のディベロッパーに開発発注を行っており、英ディベロッパーとの共同開発、QAのカナダ企業への発注など、積極的な海外分業も展開中です。これにはコスト削減のほか、海外市場のニーズに即した開発という意味もあります。

本講演ではこのうち、米アクティビジョンから8月5日に北米で発売された『Little League World Series Baseball』の事例について、事後検証が報告されました。名前通りリトルリーグが題材の野球ゲームで、Wii向けのタイトルです。

■受託制作をビジネスとして理解する

まず大信氏は欧米パブリッシャーの現状について、好調な市場背景から前向きだが、PS3・Xbox360・PCのマルチ案件が主流で、日本企業には手が出しにくいとコメント。DS単体での開発予算低下も顕著だが、Wiiとのマルチ展開も多いので、ここが狙い目だと話しました(ただし『Little〜』もWii・DSのマルチタイトルでしたが、こちらはWiiのみ受注で、DS版は北米開発です)。一方でPSPはニーズが非常に少ないそうです。

さらに日本のディベロッパーは『塊魂』『ICO』のイメージが根強く、クオリティと創造性は非常に高いが、納期を守らないイメージが定着しており、過去に何度か試したものの、失敗したので現在は取り引きしていない例が多いとコメント。もっとも機会があれば発注したがっており、チャンスは大きいとした上で、ゲーム受託制作業務をビジネスとして正しく理解することが、成功の秘訣だと述べました。

まず必要になるのが、取引口座開設とNDA(秘密保持契約)の締結です。ただし1口座につき約1000ドルの社内コストが先方に発生するので、戦略的に口座開設を行うことが必要だとしました。また商談時には1〜2件の案件に絞って、相手に時間を与えること。最初は2〜3枚のコンセプトで良く、キービジュアルが重要なこと。最終的な契約にはプレイアブルデモが原則必要だが、デモ開発のための契約もあるので、交渉次第だとしました。また契約には弁護士を介した契約書の精査が必要で、比較的時間がかかること。その上で契約が成立したら、納期を守って開発を行うことが重要だと強調しました。

社内の開発体制については、基本的には英語ができなくても可能だが、ゲームビジネスの経験は不問でも、バイリンガルのアカウントマネージャが必須だとしました。また正式な企画提案書・開発仕様書に加えて、後述する技術仕様書が必須であること。実制作時には週単位での電話ミーティングに加えて、時には2泊4日でも強行出張が必要であること。さらにα版の前段階の、ファーストプレイアブル版での現地ミーティングが効果的としました。このほか、日本人には苦手な部分だが、論理的な説明のもとに交渉を行うことが重要で、予算や納期変更もロジックが通れば可能だとのことです。

このように、年間100日以上の海外出張をこなしている大信氏ですが、印象としては社内調整にエネルギーの9割を費やしているそうです。トップの理解はあっても現場のモチベーションが低いというのは、海外事業推進責任者が陥りがちな問題で、いかに人を動かすかがポイントだと述べました。そのためには当初、売上が少ない部署を積極的に助けるなども行ったそうです。その上で最終的には、海外事業推進責任者がすべての責任を背負う勇気と実行力が必要だと強調しました。

■為せば成る海外開発

続いてディレクターの溝口氏が実際の開発状況について説明しました。ゲームはWiiリモコンを振り回して遊ぶ野球ゲームで、リトルリーグが題材ですが、演出はメジャーリーグスタイルとなっています。好プレーを行うとパワーゲージが溜まっていき、3段階の必殺技を繰り出せます。またチームのキャプテンは「ゲームブレイカー」と呼ばれる、必ずホームランになる超必殺技が繰り出せ、文字通り一発逆転が狙えます。キャラクターデザインは日本のアニメ調で、これは米側からも日本ならではと好評だったそうです。

もっとも英語がほとんど話せないという溝口氏。当初は「?言葉」「?文化」「?仕事」の3つのギャップを感じていました。しかし、07年10〜11月にプロジェクトが立ち上がり、開発スタートが07年12月。そこから約半年間でマスターアップと、非常に短期間で進行した結果、?は「なんとかなる」、?は「わからない点もあるが、受け入れるように努力する」、?は「まだまだ努力が必要」という印象に変わったそうです。

プロジェクトの立ち上げ時で必要なのは、企画書とプレゼンテーション資料です。海外向けにどのような企画書を書いたらいいかわからなかったため、イメージがつかみやすいようにビジュアル中心で、具体例を多く盛り込みました。また初の海外出張で2泊4日の「弾丸ツアー」を実施したところ、クライアント側から驚かれ、これが「何かあったら、すぐに飛んでくる」と、安心感を与えた部分もあったそうです。おもしろさのツボ、特にユーザーの顔が見えない点も不安材料でしたが、これも実際に会って話すことで、かなり解消することができ、この点でもビジュアル材料は必須でした。もっとも、ギャップには最後まで悩まされたと語ります。

開発作業がスタートすると、次に待ち受けていたのはドキュメント地獄でした。英語からの翻訳作業も加わるため、実感としては2〜6倍になったといいます。メールベースでは混乱するだけで、エクセルファイルで質問や要望を一本化し、英文と日本文を併記して、開発スタッフ全員で閲覧可能にしました。書類を翻訳して提出するまでの作業フローの確立も必須でした。また前提として英文で処理できる部分は英文のままと、翻訳作業をできるだけ少なくすることも必要でした。こうした管理業務が激増した結果、溝口氏も現場のゲームデザインから離れて、ディレクターに専念することになります。

■技術仕様書の作成に苦心

α版の提出において、最重要課題となったのは、前述のGDD(ゲームデザインドキュメント、いわゆる仕様書)と共に、TDD(テクニカルデザインドキュメント、技術仕様書)の提出が必須となる点でした。このうち後者はデザイン・プログラムの技術仕様書や、各部門でのワークフロー、マネジメントの詳細など、これを見ればプロジェクトが再現できるというもので、A4の書類に2枚ずつプリントして、計400ページにのぼる例も珍しくないそうです。とても期間内には間に合わず、最終的に毎週アップデートすることで、β版提出までに何とか間に合わせることになりました。この経験から「日ごろから作業マニュアルを作成することが、時間短縮につながる」と痛感したそうです。

また本案件ではデバックも海外で行われました。アクティビジョンのバグトラッキングシステムが使われましたが、インターフェースから内容まで全て英語となります。もっとも大半のバグはタイトルや概要がわかれば対処可能なので、できるだけ内容が日本語で確認できるように、確認リストを作成するなどして対応しました。一刻を争うバグの場合は、アメリカ時間で朝の4時(日本で夕方6時)に携帯電話を介して担当者をたたき起こしたこともあったそうです。一般的に家庭に仕事を持ち込まないと思われがちですが、逆にいえばこれくらの信頼関係を構築することが、案件成功には必須なのかもしれません。

最後に溝口氏も、論理的な会話を通して、相手と信頼関係を構築することの重要性について強調しました。海外の開発者は、日本の開発者を「クリエイター」としては尊敬しているが、「ビジネスパートナー」としては皆無なので、この構築が不可欠であること。もっともメールや電話だけでは限界があるため、出張によるミーティングや、早めにプレイアブル版を提出できるようにするのが重要で、そのための社内体制構築が課題だとしました。そして「為せば成る」「アセットの重要性」「まずビジネスパーソンであれ」とコメントして、講演を締めくくりました。

このように、本講演は中小ディベロッパーによる海外展開の実例として、非常に興味深く、また明確な内容でした。なお同社は11月にジェトロ(日本貿易振興機構)でも、海外受託開発に関する講演を行うとのことなので、こちらも期待したいところです。

【CEDEC 2008】PS3のナルトの開発手法をサイバーコネクトツーの松山社長らが紹介

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/16/31187.html

【CEDEC 2008】Flashを用いてゲームUIを開発する―次世代機ならてではの開発手法

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/14/31175.html

【CEDEC 2008】ゲーム作りの考え方を家電や他のジャンルに応用すると〜ゲームUIの特性と応用の可能性

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/14/31174.html

【CEDEC 2008】Halo開発者が語るテクニカル・アーティストの重要性

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/15/31184.html
ゲームの「絵作り」はデザイナーとプログラマーの共同作業などと言われますが、開発負荷の増加と共に、両者の橋渡しが重要になっています。デザイナーとプログラマーの資質を併せ持ち、ツールの開発やパイプラインの管理、最新技術の研究やシステムの開発などを担当するパートが鍵を握るようになってきたのです。しかし、日本では専門職種として確立しておらず、何でも屋や、時には雑用として認識されているケースもあります。

CEDEC2日目の海外セッションでは、バンジースタジオで「Halo3」の開発に携わり、社内でこの「橋渡し役」を牽引するスティーブ・セオドウ氏が登壇し、「Haloの開発:テクニカルアートの役割」と題して講演しました。セオドウ氏は同社での事例を紹介すると共に、肩書きでもある「テクニカル・アーティスト」の重要性について指摘し、業界内での役職の確立について訴えました。

セオドウ氏は過去にバルブで「Half-life」などの3Dアニメーターとして勤務しつつ、徐々にツールとパイプラインの開発に集中するようになりました。その後Red Game Tools、Zipper Interactiveを経てバンジースタジオに移籍し、テクニカルディレクターに就任。現在は「Halo」シリーズのアートパイプラインを監督しつつ、最新グラフィック技術のリサーチを行っています。

はじめにセオドウ氏は、199年の初代「Half-life」と2007年に発売されたPCゲーム「elements」では、モンスターのモデル制作で作業量が5倍も増加した点に触れ、Haloシリーズでも飛躍的に開発負荷が増大したことを説明しました。2001年の初代Haloでは常時35名、最大50名の体制で2年半かかりましたが、2007年のHalo3では常時100名、最大300名の体制で3年間と、約4.5倍にも増大したそうです。

このように現世代機では大量のアセットと開発人員を効率よく裁いて、最新技術をふんだんに採り入れたうえで、納期までに「おもしろいゲーム」を開発しなくてはなりません。いくら大作でも「二流ゲーム」では意味がないのです。そして、これを解決する手段としてテクニカル・アーティストの役割が重要になっていると解説しました。

セオドウ氏はテクニカル・アーティストを、デザイナーとエンジニアの「キメラ」のような物だと語ります。アーティストに対してはクリエイティブに必要な時間を与え、退屈な作業にかかる時間を削減すると共に、エンジニアに対しては各種エンジンの限界性能をテストしたり、デザイナーが使いやすいツールデザインの助言を行います。さらにプロデューサーに対しても、ツールやミドルウェアの予算交渉などを担当するのです。

■Haloシリーズと共に成長

もっともバンジー社内でも、テクニカル・アーティストが重要視されはじめたのは、ここ数年のことで、Halo2が分岐点だったといいます。Halo1では元々マック向けに制作されていたHaloを、Xboxに移行させて納期内に仕上げるのが最重要課題でしたが、開発パイプラインはシンプルでした。しかしデザイナーが手作業でアセットを管理しており、生産性を向上させるツールもなく、エンジニアによってパイプラインが規定されていました。

そのため、より大規模化したHalo2の開発に絶えきれず、初めてテクニカル・アーティスト部門が設立されました(これにはキャラクター・アニメーションの品質向上のため、Maxに加えてMayaを導入したことも遠因でした)。といっても当初はフルタイム専任者がプログラマー1名のみで、主な職務はキャラクターリグの作成や、シネマ向けのツール開発を通して、主にデザイナーの生産性を上げることでした。

これがHalo3では、Xbox360への移行に伴い、マルチスレッドやシェーダー、ライティング、フェイシャルなどの新技術に対応や、段違いに増加するデータ量、大規模化する開発体制への対応が必要でした。そこで、まず部署がマネージャーリグ担当者・Maxのスペシャリスト・プログラマー・ディレクターの5名に増強され、その下に必要に応じてプログラマーが各部門から借りてこられました。最終的にプログラマーの数は11〜12名にものぼったそうです。そして現在、テクニカルアート部門は開発チームのうち9%を占めるまでに拡大しました。

セオドウ氏はこれに伴い、仕事の範囲も拡大したと言います。最も大きな違いは、デザイナーに加えてエンジニアのサポートも担当するようになったことでした。これにより両者の「橋渡し」を行うようになってきたです。その結果、今ではコンテンツパイプライン全体に対して責任を負うようになっているそうです。「これまでは(グラフィック)コンテンツを制作しない人が、パイプラインを作っていたので問題があった。それが今では、実際に制作する人がパイプラインを整備するようになってきている」(セオドウ氏)。

続いてセオドウ氏は、現在バンジーが抱えている問題と、その解決策について紹介しました。その1つが、アセットの増加に伴うファイル管理の問題です。今日のゲーム開発では、総データ容量は500GB以上、5万ファイル以上にものぼり、ファイル管理が困難になっています。重要なファイルを紛失する恐れや、属性を少し間違えただけでバグの温床になりかねません。さらに、この種のバグ解決には多大な時間がかかりがちです。

そこでiTunesのように、階層構造ではなくメタデータ検索が可能なアセット検索システム「バンジー・ライブラリアン」が開発されました。これによってデザイナーが必要とするファイルを、直感的に検索することが容易になったのです。ソースコントロールのチェックイン・チェックアウト機能もあります。「iTunesから多くのことを学んだ」とセオドウ氏は語ります。

このほかインポート・エクスポート向けのツール開発や、Max・Maya向けのスクリプト開発と、完成したスクリプトの自動配信など、さまざまな事例が語られました。セオドウ氏は、各種機能を追加され、統合化された3Dモデリングツールがゲーム開発における重要なプラットフォームになりつつあると語ります。そしてテクニカル・アーティストがデザイナーとエンジニアの「接着剤」になっていると、改めて言及しました。

■業界的な確立が重要

最後にテクニカル・アーティストの未来について語られました。セオドウ氏は、今後データ作成にプロシージャルが導入され、テクニカル・アーティストとしても、そちらの対応が迫られると予測します。群衆シミュレーションや、物理モデルと組み合わせた物理ベースアニメーション(Natural Motion)、プロシージャルアニメーション(ActorMachine)、プロシージャル・テクスチャー(Allegorithmic)などです。

ゲームの基本構造は「モニターに表示された絵が自由に動かせる」ことにあります。そのためデザイナーとエンジニアの接着剤であるテクニカル・アーティストが、いち早くこれらの最新技術をリサーチし、いかに開発パイプラインに統合していくかが、スタジオの技術力と成長に直結するというわけです。

その上で「コンピュータが芸術を生むのではなく、あくまで芸術家の道具にすぎない」と述べ、その最先端の領域に切り込んでいくのがテクニカル・アーティストだと解説。いつの日か、コンテクトリーダー(メインのアーティストや作曲家、ゲームデザイナーなど、コンテンツ作成の統括的ポジション)や、ストーリーテラーの分野にも、テクニカル・アーティストが必要とされる日がくるかもしれないと述べ、講演を締めくくりました。

このほか質疑応答で「テクニカル・アーティストを育成するには、どうしたらいいか」という質問に対して、セオドウ氏は「この役割を業界内で公式に認知させることが先決だ」と応えました。セオドウ氏はゲーム開発者向けの業界誌「ゲームディベロッパーズマガジン」にコラムを連載しており、ここでテクニカル・アーティストについての記事を書いたところ、大きな反響が寄せられたそうです。まず職分の定義付けが必要で、それに伴って求人も増加するという考えを示しました。

3Dゲームが主流となるにつれて、欧米で企画からレベルデザイナーという職分が生まれ、日本に伝播したのも記憶に新しいところです。一方で職分間の区切りを曖昧にして、柔軟性を持たせた開発体制を組むのが日本の長所であり、短所でもあります。前述の通りテクニカル・アーティスト的な役割は国内スタジオにも存在しますが、これがどのように専門化され、定義づけられていくか、注目していきたいところです。

【CEDEC 2008】最新の世界規模開発状況における理想と現実〜デジタル配信・無料・UGC

http://www.inside-games.jp/article/2008/09/15/31185.html

CEDEC初日の9日、「最新の世界規模開発状況における理想と現実」と題して、元GDCエグゼクティブ・ディレクターのジャミル・モルディナ氏が講演しました。モルディナ氏はデジタル配信・無料ゲーム・ユーザー創造コンテンツ(UGC)・トランスメディア(メディアミックス)の各テーマについて、海外ディベロッパーの「本音」を紹介しつつ、そこから得られる「教義」を解説していきました。

モルディナ氏は世界最大のゲーム開発者会議「GDC」で長年、企画・運営責任者を務めてきた人物で、世界中のゲーム開発者・企業と幅広いコネクションを持ち、これまで5000本以上の講義内容のレビューを行うなど、ゲーム開発の動向を客観的な立場から俯瞰してきた人物です。現在はフリーの立場で、精力的な活動を続けられています。

はじめにモルディナ氏はデジタル配信・カジュアル化・1コンソールの世界・ソーシャルネットワーキング・UGC・知的財産の保護・ハリウッドとの融合・無料ゲーム・トランスメディアといった、さまざまなキーワードを紹介し、その中でも北米の事前リサーチで特に反響が大きかったのが前述の4点だとしました。そして、これらには正確な統計情報が存在しないため、欧米ディベロッパーの声を匿名で紹介したいと語りました。

■デジタル配信の夢と現実

まずデジタル配信について、デジタル配信が確実に拡大しており、Xbox LiveやSteam、最近ではAppStoreなど、さまざまな成功例が出ていることを紹介しました。

もっとも現場の開発者にとっては、事態はより複雑なようです。「大手以外は既存流通で販売できなくなった。とはいえ、Liveアーケードで配信したところ、思ったほど売れなかったのも事実だ。ただし継続的に売れたのが違っていた」(大企業から独立したディベロッパー)、「そこそこ成功するとは思っていたが、価格付けやゲームの位置づけが良くなかった。そのため期待通りの結果は出せなかった」(日本のディベロッパー)といったネガティブな声がある反面、「ディベロッパーにとって、すごく良い環境ができた。サンフランシスコで、住宅ローンを一気に返済するくらい成功したディベロッパーもいる」(ハードメーカー担当者)といった、成功例も聞くことができたと述べました。

他に「フルサイズのゲームの小型版を作って販売することで、新規ファンを獲得できる。シリーズの間を埋めるゲームを作って、継続的に売上も出せる」(パブリッシャーの内作開発者)、「返品がないのが嬉しいし、海賊版対策にもなる」(パブリッシャー)など、さまざまな声が聞かれたようです。総じてデジタル配信が黎明期で、急成長をしているものの、混沌としている状態が伝わってきます。

こうした動向から、モルディナ氏は「あまり楽観的になりすぎるのも問題だ」とコメント。おもしろいゲームを作ることが何よりも重要だが、いまだ大作ゲームの開発費を回収できるほどではないとしました。そして「デジタル配信はプロトタイプの研究開発に向いている」という大作ゲーム開発者のコメントを紹介し、既存流通とデジタル配信がしばらく並列するという考えを示しました。

■無料プレーの波はどこに向かうのか?

次に無料プレーについて、はじめにモルディナ氏は「アイテム課金」と「ゲーム内広告」という2つのビジネスモデルがあると整理しました。そして前者はアジア圏で主流で、後者の例としてEAのPC向けタイトル「バトルフィールド・ヒーローズ」を紹介しました。アイテム課金は日本でも一般的ですが、北米ではこれからで、ゲーム内広告については日本でも挑戦が始まったばかりです。とはいえマイクロソフトが代理店大手のマッシブ社を買収するなど、注目が集まっている分野でもあります。

こちらも開発現場にとっては、「ゲーム内広告は世界観との調和が重要だが、広告主はバナーなどと同じような告知効果を期待するため、矛盾してしまう」(大手パブリッシャーの開発部門)、「バナー広告以上の効果は期待できないとスポンサーは感じているのではないか」「インド・中国・韓国では無料プレーでなければ成功できない。そのための手段として重要だ」「ゲーム内広告は大作ゲームでは、まだスポーツゲーム以外はみられない。ジャンルが合えば可能性がある」など、これも様々な議論があることを紹介しました。その上で「バトルフィールド・ヒーローズ」の取り組みが、試金石の一つとして注目を集めているとコメントしました。

■UGCが意味するものは?

第3のトピックはUGCです。これにはパーソナル化やカスタム化など、自分だけのモノが欲しいというユーザーの欲求とも深く関係しています。アバターやXbox360のフェイスプレート、筐体の改造などで、ジャミル氏もメトロイドのドット絵が描かれたNESを所有しているそうです。これらがゲームプレイと融合した例では、PS3の「リトルビッグプラネット」や、ウィル・ライト氏の新作「Spore」があります。米SNSのFacebookで遊べる無料ゲーム群などにも、UGCの影響が見られます。

ただしUGCの多くは無料で提供され、著作権侵害が多く、権利者側から良く思われていない傾向にあるのも事実です。ただし、そこにも様々な意見があるようで、「自社のサウンドやグラフィックデータを無償で提供して、ユーザーに『ミックステープ』を作ってもらっても良い。ユーザーはカスタマイズが好きだし、将来的に自社のブランドも上がる」(大手パブリッシャーのプロデューサー)という声が紹介されました。他に「完全に自由な状態よりも、何か誓約が与えられた方が人々は快適に、より創造的に作品が作れる」「UGCはクリエイティブの民主化だ。少し前はアルバムを作るのに、ちょっとした軍隊並の人数が必要だった。いまではPCとDVカメラがあれば誰でも映画が作れるし、Youtubeで世界中に公開できる」などの声も聞かれたとのことでした。

その後モルディナ氏は「今日のデジタル文化ではカスタマイズとリミックスは自然な流れ」とした上で、「創造的なユーザーはどれくらいだろう?」と問いかけ、全世界で販売されるような大作の市場は、まだまだ残るとしました。また「創造性をユーザーに解放するのはリスクのある行為だが、その管理を他人に委ねるよりは、自分たちが握っている方が望ましい」という考えを示しました。

■トランスメディアの突破口は?

最後にトランスメディアです。現在ハリウッドでは「スター・ウォーズ」エピソード2と3の間を埋めるアニメ映画「スター・ウォーズ クローン大戦」をはじめ、伝統的なライセンスビジネスに加えて、トランスメディアにも注力が始まっています。アセットを共有し、映画公開に合わせて、ウェブやゲームなどさまざまなメディアでコンテンツを同時展開していくモデルで、ゲーム業界でも「映画ゲーム」の大作が何本も登場しています。

開発現場では「最初に映画とゲームの中心スタッフが集まって、2ヶ月くらいアイディアを出して議論するんだ。それから映画のシナリオやゲームのプロトタイプを作る。その方が結局早くできる」(大手プロデューサー)という声がある一方、「80年代くらいから存在したけど、結局うまくいかなかった」(ベテラン開発者)という皮肉な見方も紹介されました。

また映画ゲーム開発者からは「映画は最後で編集できるが、ゲームはそうはいかない。最初の方向性が最後まで影響を与えるのに、ハリウッドはまだ教訓を得ていない」という批判がある一方で、映画業界からは「ゲームパブリッシャーは、出演俳優や映画監督、公開時期などを、最初から知りたがるので困る。モバイルゲームは開発時間や規模が短いので、より『映画ゲーム』向きだ。大作映画のキャラクターゲームなどが適している」といった声もあるとのことです。その中でもテレビ業界については、視聴率低下に伴い、新しいビジネスモデルが必要で、ゲーム業界とも提携を結びたがっているとコメント。映画もゲームも最初の第一歩が互いに踏み出せない中で、ウェブでのオリジナルエピソード配信をはじめ、テレビ業界が突破口になる可能性を示唆しました。

日本と海外のゲーム業界は、相違点がより多く取りだたされる傾向にあります。しかしモルディナ氏の講演は、違いもさることながら、実は同じような悩みも数多く抱えていることを示すものでした。日本のGDC出席者から「さまざまな刺激を受けたが、実は同じような悩みを抱えていることがわかって良かった」などという声も聞かれます。日本と海外ディベロッパーとの「距離」を縮めたモルディナ氏の講演でした。