嘘イベ「トーキョー黙示録」

Last-modified: 2024-05-14 (火) 20:29:08
Ev1-1「東京堕天」かつては世界第三位の人口を誇った大都市です。

 ――――われ御座に座したまう者の右の手に巻物のあるを見たり。その裏表に文字あり、七つの印をもて封ぜらる。「その封印を解くに相応しき者は誰ぞ」と呼ばわる、強き御使いを見たり。

 ――――大いなるバビロンは倒れたり。悪魔の住み処、もろもろの汚れたる霊の檻、もろもろの憎むべき鳥の檻となれり。人びとはその淫行の瞋恚の葡萄酒をのみ、地の王たちは彼と淫をおこない、地の商人らは彼の奢によりて富みたればなり。

 ――――このゲームはフィクションであり、実在の人物・団体とはいっさい関係ありません。

 ――手足は痩せ細り、腹だけが異様に膨れ上がった、子供とも老人ともつかぬ紫色の人影。
 ――漆黒の体に青白いたてがみをなびかせ、額から長く弧を描く二本の角を生やした奇怪な馬。
 ――キルケーによく似た帽子をかぶり、炎をまとって浮遊する不気味なカボチャ。

 ――異形の者たちが、瓦礫と砂埃におおわれた廃墟を歩き回っていた。
 ――ディスプレイに映し出されたその光景に、俺は言葉を失ったが……
フレースヴェルグ「こ、これは……」
モモ「〈東京堕天〉!」
フレースヴェルグ「マカレンだーーーーーー!!」
 ――後ろで見ていた連中は大興奮だった。

 ――UOU学園と薔花にまつわる事件が終わり、ヨコハマの拠点化を一段落させた俺たちは、そこから湾岸ぞいに北上し、もう一つの大都市にたどり着いていた。
 ――トーキョー。
 ――かつて、この島国の首都だった都市だ。物資も、設備も、情報も豊富にあるだろう。ヨコハマだけでなく、ぜひともここも拠点にしたい。
 ――何はさておき、まず偵察だ。これはいつもどおり、スチールラインとヴァルハラに任せることにする。
アルマン「トーキョーはこの国の首都であると同時に、最大の人口密集地でもありました。滅亡戦争でも鉄虫の襲来がとりわけ激しく、アジア圏で最初に都市機能を喪失した地域のひとつです。現在どうなっているかは不明ですが、くれぐれも慎重に」
龍「了解した。まずは沿岸の人工島を確保したうえで、内陸へ進軍する」
(戦闘)
(戦闘中)
マリー「あの高架道路を越えれば、ようやく都心部に入れる。まったく、高架だらけの街だな」
レオナ「待て、マリー。なんだあれは……!?」
(戦闘終了)
マリー(通信)〈……偵察隊の映像がこちらです。鉄虫とは違うようですが、AGSだとしても見たことのないタイプです。見える範囲だけでも数百体はいますが、行動範囲は高架道路の向こう側に限定されており、こちらを攻撃する様子はありません〉
 ――マリーから送られてきたその映像を見て、俺はもう一度首をひねり、後ろの二人を振り返った。
【〈東京堕天〉って?】
フレースヴェルグ「よくぞ聞いて下さいました! 〈東京堕天〉とは!」
フレースヴェルグ「伝説サイエンスが誇る傑作オカルトVRPG『デジタル帝都ストーリー真・魔界錬成』通称『マカレン』の序盤で起きる大事件でして! クリフォトの樹に斧が入れられ、アバドンの門が開いたことによって東京は第二の魔界と化し、ゲヘナの火に生きながら焼かれる『炎の亡者』となった主人公が東京を再生させる方法を求めて……」
モモ「つまり、あれは伝説が作ったロボットです。マカレンっていうゲームは、東京が魔界に変わっちゃって、魔物があふれ出してきたっていう設定で、あれはみんなその魔界の魔物役のロボットです。見た目は怖いですけど、市販の小型AGSに外装をかぶせただけで、それほど戦闘力はありません」
 ――荒ぶっているフレースヴェルグを押しのけて、モモが簡潔に説明してくれた。
レオナ(通信)〈攻撃性はあるのか?〉
モモ「敵モンスターですから、あります。でも、一定範囲内に近寄らなければ大丈夫だと思います。正常に動いてればですけど……」
レオナ(通信)「わかった。慎重に接近してみよう」
【伝説製のロボットということは……】
 ――モモとフレースヴェルグが、そろってうなずいた。
 ――トーキョーにはもう一つ、重要な意味があった。ここには、伝説サイエンスの本社があるのだ。
 ――伝説サイエンスは自社の作品の主人公役や敵役として、軍事用にも引けをとらない戦闘能力を持ったバイオロイドを数多く開発していた。その是非はさておくとして、フクオカにある伝説の子会社ではサレナという強力な仲間を加えることもできた。
 ――子会社でそれなら、本社にはもっと強力なバイオロイドが眠っていてもおかしくない。トーキョーを訪れるにあたり、伝説サイエンス本社は重要な探索目標の一つだった。そのためにこうして伝説チーム(+一名)にも来てもらい、偵察の様子を一緒に見ていたのだ。
 ――決して、熱心なファンの猛烈な説得に動かされたわけではない。たぶん。
マリー(通信)〈閣下、どうやらモモの言うとおりでした。「魔物」達は、およそ5メートル以内に近づかなければこちらに関心を示さないようです〉
レオナ(通信)〈それと、もう一つ。魔物のいるエリアには、鉄虫がほとんど見当たらない。こいつらが駆逐したのか、別の理由かはわからないが〉
【よし。魔物を避けて、まずは都心部へ進むルートを確保してくれ】
 ――事前に確認した情報によれば、伝説の本社はトーキョーの中央部やや北より、ブンキョー区と呼ばれるエリアにある。
 ――あんな魔物……AGSがなぜ大量に街中をうろついているのかはわからないが、とにかく伝説が関係していることは間違いない。本社に行けばその原因も、解決法もわかる可能性がある。偵察隊を編制して、最優先で捜索するのがよさそうだ。もちろん偵察隊には、伝説のことに詳しい隊員が望ましいが……
フレースヴェルグ「はい! はい!! 司令官様! 偵察隊に志願いたします!!」
モモ「モモも行きまーす」
【わかったわかった】
 ――こうして、モモ、ポックル、アルマン、シャーロット、フレースヴェルグの五人が偵察隊として出発し……
 ――そして、そのまま消息を絶った。

Ev1-2「大東京帝国」もう始まっている、もう止まらない。

ラビアタ「ドローンは?」
マリー(通信)〈駄目だ。あの「魔物」ども、飛行物体に関しては鉄虫並みに鋭敏だ。スレイプニールならなんとか、といったところだが……〉
スレイプニール「行ってきたわ」
スレイプニール「まず、都内じゅうあの魔物がいっぱいうろついてる。東と北はアラカワ・リバー、西はタマ・レイクのあたりまでね。それと、旗が立ってたり、火が灯ってたりして、人が集まってるっぽい場所がいくつかあったわ。ちゃんと見る余裕はなかったけど、地図にマークしておくから」
 ――地図上にいくつかの光点がともった。スレイプニールのスーツには、あちこちに銃弾のかすめたあとや焦げつきが残っている。
【お疲れさま、スレイプニール】
スレイプニール「これくらい平気よ。じゃ、周辺地域の制圧に戻るわね」
 ――スレイプニールは厳しい顔のまま、ブリッジを出ていった。行方不明者の中に、スカイナイツの仲間がいるのだ。無理もない。
「閣下、まずは第二次偵察隊を、より大規模に編成します。それと同時に本隊も前に出て、橋頭堡を確保しつつ……」
【いや。僕が直接行こうと思う】
ラビアタ「いけません、ご主人様」
龍(通信)〈ラビアタの言うとおりです。何があるかわからない場所です〉
【でも、鉄虫はほぼいないんだろ】
 ――だったら、いるのはバイオロイドとAGSだけだ。妖精村の時のような通信攪乱にさえ気をつければ、危険は少ないはずだ。
 ――カゴシマの「聖域」での事件を思い出す。あの時、人間である俺があの場にいて、命令権をふるうことができたなら、悲劇のすくなくとも一部は止められていたかもしれない。
 ――東京で何が起きているのかはわからないが、もしあの時のように、人間達の遺した命令が原因で異常な世界が作られてしまったなら、俺にだけできることがあるはずだ。あの時のような思いは、もうしたくない。
ラビアタ「ご主人様……」
 ――俺の決意が固いことを察してくれたのか、ラビアタが困ったような笑顔を作った。
ラビアタ「護衛隊はこちらで厳選します。よろしいですね」
【ああ。よろしく頼むよ】
(暗転)
コンスタンツァ「というわけで、私達がお供させていただくことになりました」
 ――戦闘力とフットワークの軽さの両方を可能なかぎり追求した結果、七名の隊員がついてきてくれることになった。まず、俺の護衛担当としてコンスタンツァとリリス。
ブラックリリス「愛するご主人様をわずかでも危険にさらすことなど、決してしたくないのですが……ご主人様自身のお心とあっては致し方ありません。このリリスが命に替えてもお守りします」
 ――戦闘員としてナイトエンジェルと、スパルタンチーム三機。
ナイトエンジェル「基本的に戦闘時は全員私の指示に従って下さい。空の警戒が厳しいそうなので、どこまで役に立てるかわかりませんが」
スパルタンキャプテン「我々スパルタンズがいれば、制圧力については心配無用です」
 ――そして戦闘員兼、伝説社に関するアドバイザーとしてサレナ。
サレナ「が、頑張ります! まだ新入りですけど……」
龍(通信)〈最悪、妖精村の時のように孤立して囲まれたとしても、突破して帰還できる想定だ。まあ、そのようなことにならないのが一番だが……〉
ラビアタ「お気を付けて、ご主人様。無事のご帰還を心よりお待ちしております」
【ありがとう、ラビアタ。それじゃ、東京へ出発!】
(暗転)
ナイトエンジェル「あれが魔物ですか……なるほど、色々いますね。馬っぽいのや、鳥っぽいのや……人型もいます」
【間近で見ると、迫力あるな……】
サレナ「な、中身はただのAGSです。近づかなければ心配ない……はずです。たぶん」
 ――マリー達が事前に確かめておいてくれたとおり、魔物たちは5メートル以内に近寄らなければこちらに関心を示さない。俺たちは大昔のコンピュータRPGのようにきれいに一列に並んで、そろそろと魔物のあいだを縫って進んでいった。
サレナ「こうしてみると、魔物がいる以外はフクオカやヨコハマとそんなに変わらないですね……」
コンスタンツァ「ご主人様、あれを!」
 ――コンスタンツァが指さした先、ひん曲がった街灯の先に、何かが引っかかって揺れている。あれは……
【シャーロットの帽子だ!】
 ――近くによって確かめても間違いなかった。つまり、偵察隊はここまでは来たということだ。俺たちは自信を得て、さらに先へ進んだ。
(暗転)
 ――東京の中心部をかこむ、環状鉄道の大きな高架をくぐった時のことだった。
コンスタンツァ「地図によると、この先は……」
ブラックリリス「ご主人様、お下がりください!」
 ――リリスが飛び出して俺の前に立つ。その直後にモーター音がして、無数の影が飛び出してきた。
コンスタンツァ「何者です!」
 ――多くはAGSだが、バイオロイドもいる。みんなぼろぼろの汚い服を着て武装し、けわしい目でこちらを睨んでいる。
 ――一人が、長い棒の先にくくりつけた大きな旗を取り出し、ばっと広げた。白い布に真っ赤なペンキで、こう書かれていた。
「大東京帝国」
???「我々はァ、大東京帝国国民軍であるゥ! 貴様等こそ何者だ! 帝国は外国の内政干渉を断固拒否するものであるゥ!」
【帝国!? 国民軍!?】
コンスタンツァ「私たちは人類抵抗軍オルカ。こちらにいらっしゃるのは人間様です。あなたがたの指導者は誰ですか」
大東京帝国国民軍A「に、人間だと!?」
 ――明らかに動揺した様子のバイオロイド達が、何ごとか相談する。
大東京帝国国民軍B「どうします? 確かにあれは人間……」
大東京帝国国民軍C「渋谷か、秋葉原の連中の罠ということも……」
大東京帝国国民軍A「人間だろうと誰だろうと、帝国は内政干渉を断固拒否する! 貴様らをどうすべきかはアカリ様にご判断いただァく!」
コンスタンツァ「アカリ様?」
サレナ「……あ!」
【何か知ってるのか、サレナ】
サレナ「はい……あの、たぶんですけど、『大東京帝国アカリ』っていう伝説製の映画があってですね」
ナイトエンジェル「どんな映画なんです?」
大東京帝国国民軍A「何をごちゃごちゃ話しておるかァ! 貴様らを我らの拠点まで連行する! 武装解除してこちらへ来い!」
ブラックリリス「……は?」
ブラックリリス「誰だか知りませんが、そのアカリというのは映画の登場人物で、バイオロイドなのでしょう? それがご主人様のご命令に従わないばかりか、連行に武装解除ですって?」
コンスタンツァ「リ、リリスさん!」
ナイトエンジェル「いえ、この場合リリスさんが正しいです」
ナイトエンジェル「そちらの指示には従えません。アカリ様とやらが私達と話したいなら、本人がここまで来て下さい」
大東京帝国国民軍A「きっ、貴様ら! 帝国に刃向かうかァ!」
ナイトエンジェル「当たり前でしょうが。各員戦闘準備! 司令官、指揮をお願いします」
スパルタンキャプテン「スパルタンフォーメーション、スタンバイ」
(戦闘)
(戦闘終了)
 ――軍隊を名乗るだけあって、彼女たちはそれなりの戦闘訓練を受けているようだった。特に、自分の命を顧みないような捨て身の攻撃を平気でしてくるのが厄介だ。
 ――しかしもちろん、オルカから選りすぐった精鋭チームの敵ではない。
大東京帝国国民軍A「て、撤退! 撤退ッ!」
【待ってくれ! 話を……】
大東京帝国国民軍A「うるさい! 魔物弾だ! 音響弾を使え!」
 ――しんがりの一人がこちらへ向かって何かを投げた。少し離れたところに転がったそれは、突然ギーギーと、耳をつんざくような猛烈な音を立て始めた。
サレナ「何でしょう、あれ? 魔物弾?」
コンスタンツァ「いえ、これは……いけません!」
 ――コンスタンツァが周囲を見回す。その意味はすぐに俺にもわかった。
 ――近くにいた魔物たちがみんな、音に引かれてこちらへ寄ってきている!
 ――スパルタンアサルトが駆け寄って、その弾を粉々に踏み砕いたが、もう遅い。
ナイトエンジェル「味な真似を……司令官、申し訳ありません。あの数の魔物は少々骨です。さっきのヘナチョコ軍隊よりよほど手強い。撤退を進言いたします」
【くっ……】
 ――まだろくに状況もわからないし、誰一人見つけてもいないというのに。だが、ナイトエンジェルの言うことが正しい。俺はブラックリリスにぴったり護衛されたまま少しずつ後ろへ下がり、周囲の地形を見わたして脱出ルートを探した。
???「こっちだ!」
 ――突然、あたりに白い煙が立ちこめた。
???「こっちへ! 早く!」
 ――煙の向こうで、誰かが手招きしている。あれも何かの罠だろうか? 一瞬だけ考えて、俺は腹をくくった。
【みんな、撤退する!】
コンスタンツァ「了解です!」
スパルタンキャプテン「了解」
(暗転)
???「ここまで来れば、追ってはこないだろ。あいつら、なんでか帝国領内の奥の方へ来るほど活動が鈍るんだよね」
 ――煙が晴れてみると、俺たちを先導してくれたのは小柄な……ほとんど子供といっていいほどの、小さな一人のバイオロイドだった。
【……君は? さっきの連中の敵なのか?】
マリコ「敵ってほどじゃないけど、仲は良くありません。私はマリコ。一応、〈練馬ピョンテクラブ〉のリーダーやってます」

Ev1-3「練馬ピョンテクラブ」喜劇の思想の大系です。

【……練馬ピョンテクラブ?】
マリコ「そ。知りませんか? 「処す!」ってやつ」
 ――マリコと名乗ったバイオロイドは突然ヘンな顔をつくり、両手を奇妙な形にクネッと曲げてこちらを指さした。
【…………?】
マリコ「…………知りませんか。失礼しました……」
サレナ「わ、わたし知ってます! 旧時代に大流行したギャグですよね! えっとえっと、なんとか刑事……そう! メスガキ刑事マリコちゃん!」
【メスガキ刑事!?】
マリコ「あたり! 私がそのマリコです。それで……」
 ――マリコは言葉を切って、俺の顔をまっすぐのぞき込んだ。
マリコ「本当に、人間様なんですね。まだ人間様がいたのも驚きですが……どうしてこの東京に?」
【話せば長くなるけど……】
 ――俺たちはここまでの事情をかいつまんで説明した。
マリコ「なるほど、ご所有のバイオロイドが消息を絶って、その捜索に……ずいぶん奇特な方ですね」
【所有してるんじゃなくて、仲間な】
マリコ「……? はあ」
マリコ「とにかく、そういうことであればお力にならせていただきたいと思います。ここでは落ち着いて話もできませんので、恐縮ですが、私たちの拠点へご足労いただけるでしょうか」
【ありがたい。頼む】
 ――マリコはぺこりと一礼すると、先に立って歩き出した。
 ――歩きながら、俺はこっそりサレナに耳打ちした。
【……『メスガキ刑事』って何?】
サレナ「伝説の映画で、小学生なのに刑事のマリコちゃんを主人公にした、ドタバタギャグです。不条理だったり、下ネタが多かったり、めちゃくちゃな展開もあるかと思えば、ときどき哲学的だったりして、なんていうか……アバンギャルド?な作品です」
コンスタンツァ「私も、名前だけは聞いたことがあります。かなり過激なことで有名だったと思いますが……マリコさんは、とてもきちっとした方ですね?」
サレナ「過激な作品ほど、そういう傾向ありますよ。私たちエンターヴィランズに近いところがあるんでしょうね」
マリコ「そうですね。私自身が原作そのままの性格だったら、撮影なんてできませんから」
 ――いつの間にか、マリコがすぐそばに来ていた。
サレナ「わっ! ご、ごめんなさい!」
【伝説って、戦いとか殺し合いとか、血なまぐさい作品ばかり作っているのかと思っていた】
マリコ「そういったジャンルが一番受けたので、最終的には主流になりましたが、他にも色々やっていましたよ」
マリコ「バイオロイドなら、人間じゃできないような過激なギャグやリアクションにも耐えられますからね。骨が折れたり、爆発に巻き込まれたり、宇宙に放り出されたり……耐えられなかったとしても、代わりがいますし」
【う、宇宙……!?】
マリコ「違いといえば、私たちは本格的なアクションはやらないので、ボディの性能がそれほど高くありません。滅亡戦争の頃には、鉄虫と戦って活躍した伝説製バイオロイドも多かったと聞いてますが、私たちみたいなタイプには、そういう機会は全然なかったですね」
 ――なるほど。モモやサレナみたいな子ばかりではないということなんだな。自分の無知を反省すると同時に、強力なバイオロイドばかり期待して伝説社を調べようとしていた自分が、ちょっと恥ずかしくなってきた。
【ありがとう。勉強になった】
マリコ「恐れ入ります。人間様はすこし、風変わりでいらっしゃいますね」
 ――マリコの笑顔にはどこか、枯れた雰囲気があった。「悲しみを知っていなければ喜劇役者にはなれない」という、どこかで読んだ文句を俺は思い出した。
(暗転)
マリコ「着きました。このあたりはロッポンギといいまして……まあ、それはどうでもいいか。この森の中の建物が、私達の今のねぐらです」
 ――練馬ピョンテクラブというからネリマまで行くのかと思ったが、マリコのいう拠点は案外すぐ近くにあった。うっそうと茂る木立の中に埋もれた、大きな建物の廃墟だ。かつては博物館か、美術館か何かだったのだろうか。
子供のバイオロイド「リーダー、お帰りなさい」
セーラー服のバイオロイド「外の様子はどうでしたか」
何の特徴もないバイオロイド「その人達は?……えっ、人間!?」
 ――建物の中にいたバイオロイドがわらわらと寄ってくる。年齢も背格好もさまざまだが、戦闘力がなさそうだというのは俺にも見てわかった。
マリコ「はい、はい。あとで説明するから、まずは通してね」
 ――マリコは俺達全員を広い部屋に案内すると、ぺこりと頭を下げた。
マリコ「……あらためて、はじめまして、人間様。私は『メスガキ刑事マリコちゃん』の主役を務めていたバイオロイド、マリコと申します」
【オルカの司令官だ。あまり、かしこまらなくていいよ】
ナイトエンジェル「早速ですが、今の東京がどうなっているのか、説明してもらえますか。わけのわからないことがあまりに多すぎて、そろそろ麻痺しそうです」
マリコ「わかりました。では」
 ――マリコは大きな地図を取り出して、机の上に広げた。
マリコ「今の東京には、大きく三つのグループが勢力争いをしています。
マリコ一つ目が、先ほど人間様も遭遇した大東京帝国。『大東京帝国アカリ』の主人公・アカリをトップに戴く集団です。東京を新しいバイオロイドの国として独立させる……とかなんとか言ってますが、実際のところ従わない奴は力ずくで言うことを聞かせる、ろくでもない連中ですね。ただ一番きっちり組織化されてるし、数も多くて、いまの東京の最大勢力です」
【えーと……すまん。『大東京帝国アカリ』ってのは、どういう作品なんだ?】
サレナ「あ、私からご説明しますね。『大東京帝国アカリ』は、崩壊した……ちょうど今みたいになった東京を舞台に、超能力を持った女の子アカリが、仲間を集めて新しい国を作ろうとするっていうSFアクション映画です。もとは世界的に大ヒットした漫画だったのを、伝説が映画化したものですね」
【じゃあ、そのアカリは超能力を使うバイオロイドってことか? バミューダチームみたいな】
サレナ「そうですね。私も映画自体は観てないんですが、たしか人類を滅ぼしちゃうくらいの強大な力を持っていて、東京が崩壊したのもアカリの力が暴走したのが原因だったはずです」
【そんな力が!?】
 ――いくら伝説でもそんな桁外れの超能力を再現できるとは思えないが、しかし伝説だからな……。ともあれ、敵に回したくない相手なのは間違いなさそうだ。
マリコ「まあ、アカリはめったに人前に出てこないって話ですけどね。次が、渋谷を根城にしている『碌でなしアベンジャーズ』。同名の映画のメインキャラ達が中心になって、帝国が気に入らないって連中がなんとなく集まったレジスタンスみたいなもの……だったんですが、何しろ原作が原作なもんで、今じゃ仲間内の抗争に明け暮れてばかりの暴れものです。ある意味帝国よりタチが悪い」
サレナ「『碌でなしアベンジャーズ』っていうのは、渋谷を舞台に不良少女たちがいくつものグループに分かれて、ケンカで頂点を競うっていう、いわゆるヤンキーものですね。登場人物はみんな、ちょっと悲しい過去を持ってて、女性ファンが多かったんですよ」
マリコ「最後が秋葉原のカフェ・MaiDrive。『萌え燃えメイドライブ』の主人公達が中心になって、アイドルとかメイドとか、そういう系の作品のキャラが集まったグループです。前の二つよりは大人しいですが、すこし独特なところがあって、別の意味で交流しにくい奴らですね」
サレナ「『萌え燃えメイドライブ』は女の子たちのアイドルものです。昼間はメイドカフェで働いて、夜はアイドルをやるっていう……私そっちのジャンルはあまり詳しくないんですが、たしか大人気で、続編や姉妹作品がいくつも作られたはず」
マリコ「で、最後が私たち、練馬ピョンテクラブ。先の三つのどれからも落ちこぼれた、戦う力も特別な技術もない役者の吹きだまりです。私みたいなギャグ作品だったり、エロ作品だったり、やられ役の汎用モブだったり、出身はいろいろです」
マリコ「ほかにも新宿とか首都高とか、ヤバい場所はいくつかありますが……おおよそは、こんなところが今の東京の有様です」
【いくつか質問がある】
マリコ「はい。何でもお聞きください」
【トーキョーはいつからこんな状態に?】
【三大勢力は、どうして争っている?】
【練馬ピョンテクラブって何?】
【ありがとう。大体わかったよ】

【トーキョーはいつからこんな状態に?】
マリコ「十年……もうちょっと前だったでしょうか。東京近郊のどこかにあった伝説のプラントが、突然稼働しはじめたのがきっかけだと言われてます」
マリコ「それまでの東京は、言ってしまえば平凡な、バイオロイドが鉄虫の目をぬすんでひっそり暮らすような街でした。場所が場所ですから伝説のバイオロイドは多かったですが、別に仕切ってるわけでも何でもなかったんです」
マリコ「でもそのプラントが動き出して、大量に生産された「魔物」がどうやってか鉄虫をあらかた追い払ってしまった。それで暮らしやすくなるかと思ったら、すぐに大東京帝国が旗揚げして、バイオロイドをまとめ上げて大きな顔をしはじめた。そのあと碌アベができて、カフェができて……今じゃすっかり、街ぐるみで伝説色に塗りつぶされたような状態になってしまいました」
マリコ「たぶんアカリも、碌アベやカフェのボス連中も、魔物と同時期にプラントで起動したんじゃないでしょうかね。私はそう睨んでますが」

【三大勢力は、どうして争っている?】
マリコ「主義主張の違いもありますが……一番は、鍵を集めているからです」
【鍵?】
マリコ「はい。大東京帝国が出てくる少し前に、噂が流れ始めたんです。この東京のどこかに、七つの鍵が散らばっている。それを全部集めた者は、東京の王になれる」
【トーキョーの王? それも何かの作品の話?】
サレナ「どうでしょう……それっぽいですけど、そんな感じのキーワードが出てくる作品いっぱいあるので、ちょっとわかりません」
「最初は眉唾でしたが、帝国が本気でそれを探しているらしいとわかってからは、みんな必死に探し始めました。実は、私も一つ持っています」
 ――マリコは懐から取り出したものを俺に見せた。細長い金属の板で、表面には何か……梵字?のような文様が彫り込まれ、縁に切れ込みが入っている。確かに、見ようによっては鍵に見えないこともない。端の方に、線で描いた奇妙なマークが刻まれている。
コンスタンツァ「これは……占星術で、土星を表す記号ですね」
マリコ「分かっている限りでは帝国が三枚、碌アベとカフェが一枚ずつ持っています。最後の一枚はまだ見つかっていません」
 ――これを奪いあって、トーキョー中があらそっているわけか……。

【練馬ピョンテクラブって何?】
マリコ「あ、それは私の作品に出てくるグループの名前でして」
サレナ「司令官様、それも『マリコちゃん』の有名なギャグの一つです。三人組のおじさんが、パンツ一丁で出てくるやつでしたよね」
マリコ「そうそう」
 ――……それの何が面白いのかさっぱりわからないが、また彼女を落ち込ませたくはないので黙っておくことにした。

【ありがとう。大体わかったよ】
コンスタンツァ「それで、これからどうなさいますか、ご主人様?」
 ――東京がこんな状態だとわかった以上、拠点化については一から考え直すしかないだろう。今はとにかく、偵察隊の五人を無事に助け出すことが最優先だ。おそらく三大勢力のどれかに連れ去られたのだと思うが……。
マリコ「私も協力させてください」
【ありがとう。助かるよ】
マリコ「では手始めに、これをどうぞ。何かの役に立つかもしれません」
【いいのか?】
マリコ「全部が帝国の手に渡ったら厄介だと思って、保険のつもりで確保していただけです。どうせ使い道はありません」
 ――“シャナイシュキラ”のキープレートを手に入れた。

Ev1-4「渋谷四天王」何があっても、折れません。

ナイトエンジェル「……では、最初の目的地はシブヤということで。よろしいですね」
 ――ロッポンギで今後の方針を検討した俺達は、シブヤを支配している『碌アベ』と会うことにした。
 ――理由は三つ。まず、今いる場所から近い。次に、かれらはケンカの強さで優劣を決めるという。それなら、うちの皆の力を見せれば話がしやすいだろう。そして一番重要なこととして、
セーラー服のバイオロイド「あ、この金髪の女の人……私、ちらっと見たかもしれません。渋谷の連中に連れられてました」
 ――シャーロットらしき人物がシブヤにいたという目撃情報があったのだ。
セーラー服のバイオロイド「一緒にいたのが、えーと……无智血武馳か渋アベか、どっちだったかしら」
【何と何て?】
マリコ「ええとですね……」
 ――マリコとサレナが説明してくれたところによれば、こうだ。『碌でなしアベンジャーズ』、通称『碌アベ』という作品にはいくつもの不良グループが登場するが、その中でも特に強大なグループが四つある。
「無碌十字軍」「渋谷アベンジャーズ」「シスターズオブ芭流覇羅」そして「无智血武馳」。
 ――この四つのグループを束ねるヘッドは「渋谷四天王」と呼ばれ、皆から一目おかれている。今の渋谷でも、バイオロイド達はこの四つのグループのどれかに所属し、かれらが実質渋谷を管理しているらしい。つまり、その四天王に会うことが当面の目標だ。
ナイトエンジェル「まあ、聞けば血の気の多い連中のようですから。適当にうろついていれば、向こうから喧嘩を売ってくるでしょう」
(暗転)
【ここがシブヤかあ……】
 ――高層の建物が建ち並び、それが廃墟になっているのは一緒だが、ここまで通ってきた区域と比べると、その建物のつくりがどこかお洒落な気がする。
コンスタンツァ「旧時代には東京の中でも文化的な中心地のひとつで、ファッションや芸術に関わる施設が多かったそうです。こんな状況でなかったら、スカイナイツの皆さんが喜ぶでしょうね……」
ブラックリリス「!」
 ―― 瓦礫の山の上から、なんというかガラの悪い感じの女子が大勢現れた。服をだらしなく着崩しているのや、半裸みたいなのや……全員、服か体のどこかに「无」と大きくペイントしており、角材やバットを手にさげている。
???「お前ら、どこのモンよ?」
???「誰に断ってうちら「无智血武馳(むちちむち)」のシマうろついてるワケ? 死ぬか?」
ナイトエンジェル「……ほら、やっぱり言った通りになりました」
コンスタンツァ「私たちは人類抵抗軍オルカです。ここに仲間がとらわれていると聞いて……」
无智血武馳構成員A「うるせえ死ね! ヒャッハァァァァ!!」
(戦闘)
(戦闘終了)
无智血武馳構成員A「痛てててて」
无智血武馳構成員B「ほ、骨が、骨がっ」
【おそろしく血の気の多い子達だな……】
サレナ「まあ、原作自体そういう映画なので……」
ナイトエンジェル「動けないほどの怪我じゃありませんよ。さて、あなた達のヘッドに会いたいんですが」
无智血武馳構成員A「くそっ、この野郎……え、野郎? 男?」
无智血武馳構成員C「おいコイツ……いやこの人、人間じゃね?」
无智血武馳構成員A「マジ!?」
无智血武馳構成員B「人間!?」
ナイトエンジェル「今まで気づいてなかったんですか、あなた達。どこまで近視眼なんです」
无智血武馳構成員A「あの……もしかして、人間様ですか? 本当に?」
【そうだ。君たちのヘッドに会わせてくれないか】
无智血武馳構成員A「は……はい、呼んできます。ちょっと待ってろ……ください」
「无智血武馳」の不良少女達はあっという間に瓦礫の山の向こうへすっ飛んでいった。
スパルタンキャプテン「反応が正常です」
【ん? どういう意味?】
スパルタンキャプテン「彼女たちは、司令官が人間だと識別してからは命令に服従しました。バイオロイドとして正常な反応です」
コンスタンツァ「確かに……。逆に言えば、大東京帝国の人たちの反応は、正常ではなかったということですね」
ナイトエンジェル「何らかの刷り込みを受けているのか、洗脳の類いか……?」
无智血武馳構成員A「お待たせしました、人間様。ヘッドをお連れしま……」
シャーロット「陛下ぁ~~~~~~~ん!!」
【……シャーロット!?】
シャーロット「ああ、やっぱり陛下! 私を探しに来て下さったのですね!」
「无智血武馳」のヘッドとして呼ばれてきたのは、俺達のよく知る人物……行方不明になった偵察隊の一人、シャーロットだった。
シャーロット「感激です! やっぱり私と陛下は運命の赤い糸で結ばれているのですわ!」
【ちょっ、ちょっと待った! 説明してくれ!】
コンスタンツァ「そうですよシャーロットさん、どうしてここにいるんですか。しかも「无智血武馳」のヘッドって、どういうことですか!?」
 ――みんなから詰め寄られて、ようやくシャーロットは俺を解放してくれた。

シャーロット「……というわけで、東京の中心部に入ったところで、大東京帝国を名乗る者どもに襲われて、私たちは散り散りになってしまったのです。あの方たち、腕はさほど立ちませんが、人数が多い上に狂信的な戦い方をするので……申し訳ありません」
【いや、いいよ。あの国民軍には俺達もちょっと手を焼いたし】
ナイトエンジェル「それで、シャーロットさんは渋谷に流れ着いたわけですか?」
シャーロット「ええ。このあたりまで逃げてきたところで、「无智血武馳」の皆さんに絡まれまして。ちょうどいいので、ヘッドを名乗る方を軽くのして差し上げて、私が新たなヘッドとなったのです。これから他の皆さんを探しに行こうか、他のグループも従えて手勢を増やすか、どちらを先にしようか考えていたところでした」
【なるほど……】
コンスタンツァ「ということは、偵察隊の他の皆さんは、渋谷にはいないんですか?」
シャーロット「聞いたかぎりでは、そのようです。他のグループにいるという話も聞きません」
【うーん……じゃあ、七つの鍵について何か知ってる?】
シャーロット「鍵?」
 ――俺はマリコからもらったキープレートをシャーロットに見せた。
シャーロット「ははあ。そんな名前のものを、無碌十字軍が持っていると聞いたように思いますが……」
コンスタンツァ「どうなさいますか、ご主人様? ひとまずシャーロットさんは見つかりましたし、他のエリアを探すという選択肢もありますが」
【いや、せっかく来たんだ。渋谷のテッペンを獲っていこう】
 ――おそらくこの先、大東京帝国をもう一度相手にしなくてはいけないだろう。その時にそなえて、できるだけ多くの協力者が必要だ。
シャーロット「それならば陛下、無碌十字軍のヘッドにタイマンを申し込みましょう!」
サレナ「無碌十字軍は『碌アベ』の主人公「JJ」が率いるグループです。この渋谷でも一番勢力の大きなグループだと聞いています」
【よし、行こう】
(暗転)
シャーロット「そろそろ無碌十字軍の縄張りのはすですが……」
【JJっていうのは、どんな子なんだ?】
シャーロット「すみません。私も名前だけしか知らないのです」
サレナ「あっ、ご説明します。本名を「次藤ジュリオ」といって、頭文字をとってJJ。ちょっと先の未来が見えるっていう不思議な超能力があって、その力で渋谷最強にのし上がっていくんです」
 ――なるほど。不良漫画って、そういう超能力とかもアリなのか。
サレナ「それと、一番の特徴が……」
無碌十字軍構成員A「そこで止まれ、お前ら」
コンスタンツァ「!」
無碌十字軍構成員B「無碌十字軍に何の用だ?」
シャーロット「私は无智血武馳の新ヘッド、シャーロットです。そちらのヘッドにタイマンを申し込みます」
無碌十字軍構成員A「タイマンだあ? ハッ」
無碌十字軍構成員B「昨日今日ヘッドになったようなトーシロをJJが相手にするかよ。帰んな」
 ――ガラの悪さは无智血武馳の子達とさほど変わらない感じだが、この子達からはなんというか、貫禄のようなものを感じる。なるほど、最大勢力というのは伊達ではないようだ。
???「いや、いいよ。相手になってやる」
【……!?】
 ――その時、もう一人あらたな人影が廃墟の壁をぬけて姿を現した。
???「そこのパツキンだな? 无智血武馳を乗っ取った新ヘッドってのは」
シャーロット「!?」
コンスタンツァ「な……」
ナイトエンジェル「貴女は!?」
 ――シャーロットも、コンスタンツァも、ナイトエンジェルも、全員が目を丸くした。無理もない。そこにいたのは……
【……アルマン!?】

Ev1-5「碌でなしアベンジャーズ」本当に大事なことはケンカに勝つことではありません。

JJ「どうした? 鳩が豆鉄砲食ったような顔してよ。オレみたいなチビが頭を張ってるのが、そんなに珍しいかい」
 ――俺達はしばらく呆気にとられたあと、ようやくあれはアルマンじゃないと気づいた。
 ――オルカのアルマンでないのはもちろんだが、アルマンモデルでもない。髪の色がすこし濃いし、顔立ちもちょっときつめで、額に大きな傷がある。アルマンに似た別種のバイオロイドなのだ。
サレナ「司令官様、あれはたぶん、アルマンさんのダウングレードモデルです」
【ダウングレード?】
サレナ「アルマンさんの遺伝子設計図をもとにして、色々いじってコストを下げて、あのJJさんを作ったんだと思いますす。低予算映画ではよく使われた手法です」
【なるほど。そういえば、未来を見る超能力って言ってたもんな……】
 ――アルマンを元にして、それに近い能力を持たせたということか。いろいろ考えるもんだ。
JJ「へえ、オレの能力のこと知ってるのか。だったらお前らも、この力が欲しいってわけだな。帝国のヤツラみたいによ」
 ――手にした鎖をじゃらじゃら鳴らしながら、JJは上体をゆらすような歩き方でゆっくりとこっちへ近づいてくる。
コンスタンツァ「アルマンさんの顔でああいう言動をされると、違和感がすごいですね……」
【ほんとそれな】
JJ「どうした、今更ビビって相談か?」
コンスタンツァ「お待ちなさい、JJさん。ご覧になってわかりませんか? こちらにいるのは人間様です」
JJ「あ?」
 ――JJが足を止めて、俺の顔をしげしげと見るように首をかしげた。俺も一歩前に出て、彼女の目をまっすぐ見返す。
無碌十字軍構成員C「に、人間?」
無碌十字軍構成員D「本当に……人間様?」
 ――JJの背後にいる不良少女達がざわめきはじめる。
JJ「………………」
JJ「………………フン」
JJ「この中にさあ! 喧嘩する相手が人間だからって、びびってる奴いる?」
JJ「いねえよなあ!?」
【えええええ!?】
無碌十字軍構成員C「お……おおー!」
無碌十字軍構成員D「さすがJJ! うちらのヘッドだぜ!」
ナイトエンジェル「ちょっと、どういうことですかシャーロットさん」
シャーロット「私にだってわかりません!」
サレナ「じ、JJっていうのは強いリーダーシップの裏に、とんでもない凶暴性を秘めているというキャラなので……私も本人と会うのは初めてですけど……」
 ――そういうキャラはポックルみたいに、演技上のことにしておくものなんじゃないのか!?
JJ「グダグダうるせえなあ! オレが欲しいってんならさあ! ビビリじゃねえとこ見せてみろよ!!」
JJ「行くぞ、お前らあ!!」
シャーロット「陛下、私の後ろへ!」
(戦闘)
(戦闘終了)
JJ「くっ……そぉ……」
 ――なるほど、未来が見えるというのは伊達ではなかったようだ。JJはシャーロットのきわどい一撃を何度かかわし、一度は痛打を入れさえした。
 ――だがそこまでで、一対一で殴り合いをやったら、アルマンがシャーロットにかなうわけはない。ダウングレードモデルならなおさらのことだ。タイマンはあっさり片が付いた。
JJ「負けだよ。オレの負け。ちぇっ、好きにしな」
シャーロット「では、陛下に従って下さい」
JJ「…………」
JJ「オレ……ちょっとイカレてるみたいでさ。カーッとくると、人間様の言うことでも、たまに聞こえなくなる。そういうふうにできてんだ。その方が面白いんだってよ……大昔、オレを作った奴らがそう言ってた」
JJ「けどそいつら、結局クビになったんだぜ。オレを作ったのはそんな奴らだ。人間様はそんなのを手下にしていいのかい?」
スパルタンアサルト「危険なイレギュラーです。すみやかにバイオロイド専門脳外科を受診することをお勧めします」
JJ「へっ、今の東京にそんな上等なもんがあるかよ」
シャーロット「そんなことはどうでもよろしい。私は陛下が従うに値する方だから、従いなさいと言っているのです」
JJ「……あんた、『シャーロットロマンス』のシャーロットだろ? 随分惚れ込んだもんだな」
シャーロット「当然です」
JJ「…………。ははっ、こりゃ本当にオレの負けだ。司令官さん。あんたについてくよ」
JJ「『碌でなしアベンジャーズ』の主人公役バイオロイド。JJこと、次藤ジュリオだ……です」
【オルカの司令官だ。よろしく頼むよ】
 ――JJはスカートのポケットをさぐり、金属の板を取り出した。
JJ「オレ達は何も持ってねえが……こいつは大東京帝国の連中が探してる、値打ちものらしい。部下んなった印に、あんたに渡しておくよ」
 ――“アンガラカ”のキープレートを手に入れた。

Ev1-6「秋葉原メイド戦争」おいしくな~れ。

コンスタンツァ「そういうわけで、シャーロットさんと無事合流できました」
シャーロット「お騒がせしました……」
マリー(通信)〈順調なようで何よりだ。閣下、こちらもいつでも出撃できますが、いかがいたしますか〉
【ありがとう。今はまだ、俺達だけで行動した方がいい気がする。もう少しのあいだ待機でたのむ】
マリー(通信)〈はっ〉
 ――シブヤのバイオロイド達に無事協力をとりつけた俺達は、次にアキハバラの「カフェ・MaiDrive」へ向かうことにした。
 ――はじめはシブヤと同じように全員で乗り込もうと思ったのだが、
ブラックリリス「あんな危険なバイオロイドもいるとわかった以上、ご主人様をお連れするわけにいきません。まず私達だけで様子を見るべきです」
 ――……ということで反対され、作戦を練ることになったのだ。
ナイトエンジェル「『萌え燃えメイドライブ』というのは、どういう作品なんでしたっけ」
サレナ「ええと、もらってきた資料によるとですね。昼はメイドとしてアキハバラで働き、夜はアイドルとしてステージで歌い踊り、その合間に悪の秘密結社と戦って世界を守る女の子達を描いた物語……だそうです、当時は実際にカフェも運営していて、たいへんな人気だったとか」
ナイトエンジェル「要素を盛りすぎでは」
サレナ「でも大人気になって、後追いの類似作品もいっぱい作られたんですよ。一時はメイド服がブームになったとか」
シャーロット「私も何かのコラボイベントで、メイドドレスを着たことありましたわ。あとで陛下にだけお見せしますね、うふふ」
コンスタンツァ「…………」
【街に入るには、たしか……】
(回想)
マリコ「あいつらは少し変わってまして、あいつらの基準に合うやつしか街に入れないんです」
ナイトエンジェル「基準というのは?」
マリコ「一つはメイド服を着ていることと。もう一つは、何らかの武装をしていることです。奇妙な話ですが、あの街では戦闘能力がないとメイドとして認められないんですよ」
【えっ?】
 ――……メイドって戦闘できるものじゃないの?
コンスタンツァ「…………」
ブラックリリス「…………」
(回想終わり)
【武装したメイド、かあ】
ナイトエンジェル「いますね、うってつけのが」
コンスタンツァ「…………」
ブラックリリス「…………」
 ――確かに、コンスタンツァとブラックリリスならそのままで条件を完璧に満たしている。
ブラックリリス「私は行けません。この状況でご主人様の警護を減らすなんてとんでもない」
 ――ここまでずっと俺の護衛に集中していて、会話にさえほとんど参加しなかったリリスが珍しくきっぱりと断言した。こうなると、なかなか逆らえない。
コンスタンツァ「私も同じ気持ちですが、ほかに手がないのであれば……」
【リリス、しばらくの間護衛を君一人に頼めないか?】
ブラックリリス「……ご主人様がそう仰るのであれば。コンスタンツァさん、できるだけ早く片付けて戻ってきて下さいね」
コンスタンツァ「ありがとうございます。では、いってまいります」
(暗転)
機関銃を持ったメイド「そこで止まって! 名前は?」
コンスタンツァ「コンスタンツァS2・416と申します。故あってアキハバラに入れていただきたいのですが」
戦槌を構えたメイド「ふむ。ドレスコードはよしと……あら、もしかしてコンスタンツァ型!? すごい! 本物のバトルメイドのA級モデルに会えるなんて光栄だわ、入って入って! どこから来たの?」
コンスタンツァ「あ。はい。ありがとうございます」
(暗転)
コンスタンツァ「……ご主人様、聞こえますか? あっさり街に入ることができました」
【〈うん、離れて見ていた。街の中はどんな様子?〉】
(行き来する人影のシルエット)
コンスタンツァ「ロッポンギやシブヤと比べると、活気があって平和な感じです。飲食店らしきものも開いているようです。ただ、どうにも……」
【〈何か変なところが?〉】
コンスタンツァ「変といいますか、至る所にいるメイドの人達が、どうもですね……」
ミニスカートのメイド「いらっしゃいませ! あら、あなた見ない顔ね」
コンスタンツァ「あっ、はい。コンスタンツァと申します。今日入ってきたばかりなんです、よろしくお願いいたします」
ミニスカートのメイド「えっ、コンスタンツァってあのコンスタンツァ? わー、初めて見た! よかったらこの街を案内させてよ!」
コンスタンツァ「あ、はい、よろしくお願いします」
コンスタンツァ(ご主人様、いったん通信を切ります。あとでまたご報告させていただきますね)
(暗転)
 ――そう言って、コンスタンツァは通信を切ってしまった。
【大丈夫だろうか……】
ブラックリリス「問題ないでしょう。コンスタンツァS2モデルは、どんな状況でも立ち回れる万能型です。まして彼女は、一度はラビアタお姉様に銃を向けたほどの気概の持ち主。はじめから戦うつもりならともかく、敵か味方かもわからない所に一人で乗り込むなら、この中で彼女以上の適任者はいません」
【……ずいぶん彼女を買ってるんだな!?】
 ――リリスがコンパニオンの姉妹以外の誰かをこんなに褒めるのを初めて見た。リリスは俺の視線に気づくと、少し決まり悪げに笑った。
ブラックリリス「21分隊にいた時、私が皆とはぐれて任務を果たせなかった間に、ご主人様を見つけたのは彼女でした。それ以来、彼女を低く評価したことなどありません」
(暗転)
ミニスカートのメイド「……それで、ここがテレビ会館ね。いつ来ても誰かいるから、暇になったら来てみるといいわ」
コンスタンツァ「ありがとうございます。あの、このアキハバラのリーダーのような方はいらっしゃらないのでしょうか。一度ご挨拶しておきたいのですが」
ミニスカートのメイド「リーダー? あっはは、もちろんいるけど、会えるのはもうちょっとここに馴染んでからね」
コンスタンツァ「そうですか。では、私と同じように最近ここに来た方などは……」
(警報音)
ミニスカートのメイド「ヘルファイア・クラブが来たわ! みんな戦闘準備!」
コンスタンツァ「ヘルファイア?」
コンスタンツァ(たしか原作に出てくる敵の名前だったかしら……)
ミニスカートのメイド「外をうろついてるあの変なAGSのことを、私達はそう呼んでるの。ここんとこ、毎朝決まって来るのよね。あなたも戦えるんでしょ? 手伝って!」
コンスタンツァ「は、はい!」
(戦闘)
(戦闘終了)
コンスタンツァ「ふう……」
ミニスカートのメイド「あなた、すごいわね! 流石、本物のバトルメイドは違うわあ」
チェーンソーを持ったメイド「えっ、バトルメイド!? 三安の?」
二丁拳銃のメイド「本物? すごい! 超メジャーモデルじゃない!」
クロスボウを持ったメイド「いつアキハバラに来たの?」
???「なんの騒ぎ?」
メイド達「!」
ミニスカートのメイド「リーダー!」
コンスタンツァ(!? 白兎さん?)
???「ふうん……新入り?」
コンスタンツァ「は、はい。今日こちらに来たばかりです。コンスタンツァS2・416と申します」
コンスタンツァ(違う……よく似ているけれど、別の機種だ。シブヤのJJさんのように、白兎さんのダウングレードモデルなんだわ)
隼町うさぎ「そう。私は隼町うさぎ。今晩のステージ、あなたが今日のセンターよ」
コンスタンツァ「センター?」
ミニスカートのメイド「すごいじゃない! 戦いの後には必ずみんなでライブをするの。初日でセンターなんて、カフェ始まって以来よ!」
コンスタンツァ「はあ……」
隼町うさぎ「それから、あなた。負傷しているわね」
チェーンソーを持ったメイド「はっ、はい! 申し訳ありません、未熟者で、脚に弾を受けてしまい……」
隼町うさぎ「そう。今夜のステージまでに治しなさい」
チェーンソーを持ったメイド「は、はい……!」
コンスタンツァ「ちょっと待って下さい!」
隼町うさぎ「何?」
コンスタンツァ「その方はどう見ても重傷です。入院か、少なくとも手術が必要でしょう」
ミニスカートのメイド「ちょ、ちょっと! 何言ってるの?」
隼町うさぎ「……私達はね、みんなで戦って、みんなでステージを作るの。例外はない。この街はみんなで作る街なのだから」
コンスタンツァ「みんなで作るというのは、怪我人に無理をさせるという意味ではないでしょう? なぜ、そんなことをするんですか」
チェーンソーを持ったメイド「あ、あの! 私歌います! ステージに立ちますから!」
隼町うさぎ「……このコンスタンツァを振付師のところへ連れて行きなさい」
(暗転)
コンスタンツァ「先ほどはすみませんでした。差し出がましいことを」
ミニスカートのメイド「いや、よく言ってくれたよ。リーダーは真面目なんだけど、最近ちょっとピリついててさ……」
コンスタンツァ「私、よく知らないのですけど……あの方が『萌え燃えメイドライブ』の主人公なのですか?」
ミニスカートのメイド「え?……いや、そうじゃないだけど、ちょっとね……」
コンスタンツァ「?」
ミニスカートのメイド「そ、そういえばさ、さっき何か言いかけてたよね。戦闘が始まる前。何?」
コンスタンツァ「ああ、私と同じように、最近ここに来た方がいないかと思いまして」
ミニスカートのメイド「それならちょうどいいや。今から会う振付師が、こないだうちに来たばっかりの人だよ」
チェーンソーを持ったメイド「この建物です。ごめんくださーい」
(暗転)
フレースヴェルグ「ステップ、ステップ、ターン! ステップ、ターン、ポーズ! まだ同期が遅い! 最後にピタッと止まるのがこのダンスの命なんです、もっと集中して!」
コンスタンツァ「フレースヴェルグさん!?」
フレースヴェルグ「えっ……あっ、コンスタンツァさん!?」

Ev1-7「萌え燃えメイドライブ」みんなで作る物語。

フレースヴェルグ「はい、皆さんお疲れさまでした! 私はちょっと残って、この新入りさんと今夜のステージについて打合せをしますので、先に解散して下さい」
メイドA「お疲れさまでした」
メイドB「お疲れさまでしたー」
コンスタンツァ「お疲れさまでした、フレースヴェルグさん」
フレースヴェルグ「あ、はい……」
コンスタンツァ「さて、どういうことか、説明していただけますね」
フレースヴェルグ「はい…………」
(暗転)
フレースヴェルグ「……それで散り散りになった後、私はこのアキハバラの街中に墜落してしまったんです。ご存じのようにこの街にはドレスコードがありますから、はじめ追い出されそうになったのですが、『萌え燃えメイドライブ』の知識があったのが幸いしまして、振付師として置いてもらえることになりました。こちらの皆さんはメイドと戦闘は本職なのですがアイドル活動はアマチュアで、原作にも本人達がそれを自覚して振付師や作曲家を探す話がありまして……」
フレースヴェルグ「いやそれはともかく、そうやってここで足場を得て、他の皆さんを探そうと思っていました。決して趣味と実益を兼ねたなどということは、ハイ決して」
コンスタンツァ「……ということだそうです、ご主人様」
【〈まあ、とにかく無事でよかったよ……〉】
 ――根は真面目なフレースヴェルグのことだ。シャーロットと同じように、まず足場を確保してから他の仲間を助けようと堅実に考えたのは本当だろう。……趣味に走った面もあったかもしれないが。
コンスタンツァ「フレースヴェルグさん、私達は当面、大東京帝国ともう一度交渉するために、他の勢力を味方につけたいと思っています」
【〈フレースヴェルグから見て、アキハバラを味方につけることはできそうか?〉】
フレースヴェルグ「そうですね……可能だと思います。リーダーはかなり考えの固い人ですが、人間への忠誠心を失っている様子はないので、司令官が命じてくだされば従うでしょう」
コンスタンツァ「リーダーは「隼町うさぎ」さんといって、ちょうどJJさんのように、白兎さんをベースに廉価型にしたモデルのようです。そういえば、『萌え燃えメイドライブ』の主人公は、あの人ではないそうですね?」
フレースヴェルグ「あ、はい、そうなんです。『メイドライブ』の主人公、「下高井戸たぬき」さんは、少し前に魔物との戦いで亡くなったそうです。隼町さんはライバルグループ「ロイヤル和装メイデン」のリーダーで、主人公とはことあるごとに対立していた、宿敵といいますか喧嘩友達といいますか」
コンスタンツァ「怪我人を無理にステージに上がらせるというのも、そのなんとかメイデンのやり方ですか?」
フレースヴェルグ「なんですか、それ? そんなことがあったんですか!?」
コンスタンツァ「はい、先ほど。「みんなでステージを作る」のがこの街の方針だと言っていました」
フレースヴェルグ「……! それは……そんなことを……」
「いえ、それはロイヤル和装メイデンの方針ではありません。彼女たちは「選び抜かれた完璧なメイドでなければ、ステージに上がってはならない」というエリート思想が持ち味です」
フレースヴェルグ「「みんなで作るステージ」というのは、下高井戸たぬきさんの……「カフェ・MaiDrive」のやスタイルですね」
コンスタンツァ「では、どうして……」
フレースヴェルグ「……たぬきさんは、隼町さんをかばって亡くなったそうです」
コンスタンツァ「!」
フレースヴェルグ「もしかすると彼女は、だから自分が「カフェ・MaiDrive」のやり方を受け継がなくてはならない、と考えているのかもしれません」
コンスタンツァ「その結果があれですか? それは、あまりにも……」
フレースヴェルグ「そこはやっぱり、俳優バイオロイドですからね……。台本でそうするわけでもないのに、自分と正反対のキャラクターを真似るというのは、無理も出るんでしょう」
コンスタンツァ「…………。いいえ。問題は、もっと根本的なところにある気がします」
コンスタンツァ「ご主人様、ご足労をお願いして恐縮ですが、明日の朝になったら、アキハバラに来ていただけますか?」
【〈何か考えがあるんだね?〉】
コンスタンツァ「はい。おそらく魔物との戦闘がありますので、ご用意をお願いいたします」
【〈わかった。頑張れよ。フレースヴェルグもね〉】
コンスタンツァ「ありがとうございます!
フレースヴェルグ「ありがとうございます。さて、コンスタンツァさん、始めましょうか」
コンスタンツァ「えっ、何を?」
フレースヴェルグ「振り付けに決まってるでしょう! 今夜はコンスタンツァさんがセンターなんですから」
コンスタンツァ「あ、それはやるんですね……」
(翌朝)
機関銃を持ったメイド「人間様?」
戦鎚を構えたメイド「人間様だ……」
コンスタンツァ「ようこそお越し下さいました。ご主人様」
【おはよう、コンスタンツァ。それに君が、隼町うさぎだね】
隼町うさぎ「……人間……本当に……」
ナイトエンジェル「司令官、コンスタンツァさん。早速ですが、この街の周囲に「魔物」が接近しています。どうしますか」
コンスタンツァ「織り込み済みです、皆さん、戦闘準備をお願いします! ご主人様、私達にもご命令を!」
(戦闘)
(戦闘終了)
 ――魔物の数は多かったが、護衛部隊に加え、アキハバラのメイド達も戦闘に参加してくれたので、蹴散らすのに苦労はしなかった。こちらにも向こうにも、負傷者は出なかったようだ。
【ありがとう、みんな。アキハバラの人たちも、助かった】
日本刀を持ったメイド「は、はい……」
迫撃砲を持ったメイド「お礼言われちゃった……」
コンスタンツァ「いかがでしたか、隼町さん」
隼町うさぎ「…………」
 ――コンスタンツァは銃をしまうと、白兎によく似た黒いミニ和服姿のメイド……?のところへ歩いていった。なるほど、彼女がアキハバラのリーダーか。
コンスタンツァ「ご主人様のもとで戦えば、私達はこれほど強くなれるのです。仲間に無理をさせる必要はありません。あなた一人がすべてを背負う必要もないのです」
隼町うさぎ「……何が言いたいの?」
コンスタンツァ「ライブも結構、カフェも結構、みんなで何かをやるのも結構。しかし、いやしくも戦闘メイドたる者、よき主人に仕え、その方のために戦うこと以上の幸せはありません。たとえ架空の存在であっても、それは同じこと! 違いますか、皆さん!」
日本刀を持ったメイド「……確かに……」
チェーンソーを持ったメイド「気持ちよかった……」
二丁拳銃のメイド「さすが、バトルメイドのレジェンド……」
 ――コンスタンツァがここまで声を荒らげたのは、ラビアタと初めて対面したあの時以来だ。
ブラックリリス「コンスタンツァさんは旧時代、メイドの代名詞とまで言われた大ヒットモデルでしたから。あんな漫画に出てくるような誇張されたメイドを見せられては、黙っていられないこともあるのでしょう」
フレースヴェルグ「その通りです。元をたどれば『萌え燃えメイドライブ』も、コンスタンツァさんの影響で始まった第六次メイドブームに乗って作られた作品。つまり彼女達はみな、コンスタンツァさんの後輩のようなものなのです」
 ――……なんでフレースヴェルグがドヤ顔してるんだろう……。
コンスタンツァ「お恥ずかしい限りです。リリスさんの仰る通りで、ついムキになってしまいました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません、ご主人様」
ブラックリリス「まったくです。戦闘になるとわかっている場所にご主人様を呼び出すなど、本当なら絶対に許さないところですよ」
コンスタンツァ「本当にすみません……」
ブラックリリス「ですが、その甲斐はあったようですね?」
隼町うさぎ「……人間様」
 ――アキハバラのリーダー……隼町うさぎが俺の前まで歩いてきて、静かに頭を下げた。
【はじめまして】
隼町うさぎ「伝説製バイオロイド、隼町うさぎと申します。ただの役者に過ぎず、本物のメイドですらありませんが……配下に加えていただけるでしょうか」
【配下じゃない、仲間だ。よろしく、うさぎ】
隼町うさぎ「ありがとうございます……」
隼町うさぎ「これをお持ちください。帝国が探しているものです」
 ――“ブダ”のキープレートを手に入れた。

Ev1-8「AKARI」科学と真理では次元が違うのです。

 ――俺の手にはいま、三枚のキープレートがある。
 ――マリカの話が確かなら、大東京帝国が所持しているキープレートも三枚。互角の枚数を手に入れたことになる。
 ――これまでシャーロットとフレースヴェルグとは合流できたものの、モモ、ポックル、アルマンの消息はいまだに不明。三人の誰か、もしくは全員が、帝国に捕らえられている可能性はきわめて高い。
 ――まずは何よりも、仲間を取り戻す。そして可能なら、この混沌状態の東京を、なんとか平定する。
 ――そのために、もう一度大東京帝国に乗り込まねばならない。
【みんな、集まってくれてありがとう】
 ――シブヤ、アキハバラ、そしてロッポンギから集まってくれた大勢のバイオロイド達が、いっせいに俺に頭を下げた。
 ――これだけの人数がいれば、大東京帝国も俺達を無碍にはあつかえないはずだ。
(暗転)
大東京帝国国民軍「そこで止まれ! 帝国は外国の内政干渉を断固……!?」
 ――前回同様、正面から伝説本社に接近していった俺達は、案の定大東京帝国の兵隊に止められた。
 ――だが、今回はこちらに人数がいる。向こうは明らかに気圧されている。
大東京帝国国民軍「後ろにいるのはシブヤの……あっちはアキハバラのメイドか……!?」
コンスタンツァ「見ての通り、人間様はシブヤとアキハバラを従えました。あらためて、そちらのリーダーと話し合いを望んでおられます」
【俺はキープレートを三枚持っている。交渉しだいでは、これを渡してもいい】
大東京帝国国民軍「……アカリ様に上申申し上げる! そこで待っていろ!」
 ――国民軍の連中は走っていき、しばらく待っていると、大勢の足音が戻ってきた。
 ――大型AGSが四体がかりでかつぐ巨大な神輿のようなものが、武装したバイオロイドとAGSに守られてこちらへ向かってくる。神輿の上には白い布で四方を囲った台座が据え付けられており、その中は見えない。代わりに、その横に一人のバイオロイドが立って、こちらを見下ろしていた。
シャーロット「あれは……ヴェロニカさん?」
ナイトエンジェル「そういえば彼女も、もとは伝説の設計した機体ですからね……複製品か、あれも廉価版なのかも」
???「異国の人間よ。わが大東京帝国に何用ですか」
【君がアカリか?】
代言人「アカリ様は外部の者と言葉を交わすことはありません。私が代言人を務めます」
【俺達の仲間を捕らえているなら返してほしい】
代言人「大東京帝国に無断で踏み入ったものは、すなわち侵略者。解放する道理などありません」
シャーロット「何を勝手な……」
 ――飛び出しそうになるシャーロットを、俺は手で制して右手のプレートを掲げる。
【見ての通り、君たちの探している鍵だ。もし仲間を本当に捕らえていて、解放してくれるなら渡してもいい】
代言人「!……」
 ――代言人と名乗ったヴェロニカ型が、目を見開いた。白い布の囲いの中に頭を入れて、何ごとか相談している様子だ。
ブラックリリス「あの中にいるのがアカリ様ですか」
ナイトエンジェル「そういえばちゃんと聞いてませんでしたが、アカリってどういうキャラクターなんです?」
サレナ「ええとですね、説明すると長いんですけど」
フレースヴェルグ「あ、私もずっと気になってることがあるんですが……」
コンスタンツァ「静かに。出てきましたよ」
代言人「…………」
 ――囲いから出てきた代言人が、だまって手を上げた。
シャーロット「!?」
コンスタンツァ「うっ……!?」
 ――その途端、俺の周囲にいた全員が、頭をおさえて苦しみ始めた。
フレースヴェルグ「これは……!?」
ナイトエンジェル「司令官、ご無事ですか!? くそ……!」
 ――オルカの隊員達はすぐに頭を振って立ち直ったが、他の皆は苦しんだままだ。
マリコ・JJ・うさぎ「ぐっ……あああああ!」
コンスタンツァ「あっ! 鍵が!?」
 ――マリコ、JJ、うさぎの三人が、俺の手からキープレートを奪いとってアカリの神輿のもとへヨタヨタと駆けていく。
シャーロット「何をするのです!」
ナイトエンジェル「あいつら……!」
 ――はめられた? いや違う、これは……。
【ポックルの洗脳電磁波だ!】
 ――神輿の背後に控えていた大型トレーラーの扉がゆっくりと開く。そこには……
(拘束された三人のポックル大魔王。中央のポックルは魔法少女スキン)
サレナ「ポックルさん!?」
 ――真ん中のポックルはうちのポックルだ。間違いない!
代言人「七つの鍵は相応しき者が手にするべきもの。取引の材料にしていいものではありません」
シャーロット「いけしゃあしゃあと!」
【鍵はもういい! ポックルを救出するんだ!】
シャーロット「はっ!」
代言人「させません!」
シャーロット「!?」
 ――神輿の周囲を固めていた国民軍の兵士達がこちらへ襲いかかってくる。それだけでなく……
コンスタンツァ「魔物!?」
代言人「アカリ様のお力は魔物さえも動かすのです。帝国に刃向かう不届き者よ、思い知りなさい」
 ――この周辺にはいなかったはずの魔物までが、大挙してこちらを襲いに来た!
(戦闘)
(戦闘終了)
 ――第一波は蹴散らしたが、魔物は後から後から押し寄せてくる。オルカの仲間を除いたほとんどのバイオロイド達はまだ苦しんでおり、戦力にならないどころか、かれらをかばって戦う必要がある。
ナイトエンジェル「司令官、支えきれません! 撤退しましょう」
 ――退くしかないのはわかっている。だが、今撤退するとしたら、他の皆を置いていくしかない。そんなことが……
???「マジカル抜刀! 真空竜巻斬り!」
 ――その時、桃色の閃光が空から降ってきて、トレーラーを一撃のもとに破壊した。
モモ「ポックルちゃんは帰してもらいます! たあーっ!」
【モモ!!】
モモ「司令官! お待たせ! やっと会えました!」
モモ「魔法少女マジカルモモ! ここに見参です!」

	〈トーキョー黙示録〉第2部に続く。
Ev2-1「東京大崩壊」東京が死んで、何かが生まれました。

 ――トーキョー三大勢力の二つを仲間に加え、ふたたび大東京帝国との交渉に臨んだ俺達。
 ――しかし大東京帝国のリーダー・アカリは、ポックルの洗脳電磁波を使って俺達の仲間を操り襲いかかってきた。おまけに、三枚のキープレートも奪われてしまう。
 ――危機一髪という時、助けに現れたのは行方不明になった第一次偵察隊の一人、マジカルモモだった!
代言人「マジカルモモ!? くそっ、まだ仲間が……」
モモ「司令官、今です!」
 ――モモがトレーラーを壊したおかげで、皆の洗脳が解けた。ポックルも助け出してくれた。
 ――トレーラーにはまだ二人のポックルがいる。できれば彼女たちも連れ出したいが、その余裕はない。いつ洗脳が再開されるかもしれないのだ。ここは逃げるしかない……。
【全員、撤退するんだ! スパルタン、しんがりを頼む!】
スパルタンキャプテン「了解。全員を無事に撤退させます」
サレナ「突破します! 私が先頭に!」
ポックル「ぽっきゅるるる……」
フレースヴェルグ「ポックルさんは私が運ばせていただきます!」
(戦闘)
(戦闘中)
コンスタンツァ「モモさん、無事だったのですね。心配していました」
モモ「遅くなってごめんなさい。みんなとはぐれちゃった後、モモもこのトーキョーのことを調べてたんです」
シャーロット「何かわかりましたか?」
モモ「大したことは……。でも、大東京帝国は危険です。アカリっていう人は原作の帝国とは違う、何か良くないことを考えています」
フレースヴェルグ「それなんですけど、大東京帝国ってそもそも……」
ナイトエンジェル「相談はあとにしましょう。まだ敵が来ますよ」
(戦闘終了)
サレナ「ふー、やれやれやっと……あ、もうこんなあたりまで来ていたんですね」
ナイトエンジェル「……? おかしくないですか? 昨日通った時は、このあたりには魔物がいなかったはずですが……」
モモ「皆さん、あれ見てください!」
コンスタンツァ「煙!?」
 ――コンスタンツァの言った通り、ロッポンギ……マリコ達が拠点にしていた森の方から、黒い煙がもくもくと立ち上っている。
 ――いや、ロッポンギだけではない。気づけば周囲を囲むビルや木々の向こうから、煙が幾筋も上がっていた。
【何が起きている……!?】
 ――少し離れたところに、比較的状態のいい建物が残っていた。俺はナイトエンジェルに頼んでその屋上へ上げてもらい、あたりを見渡した。
【これは……!】
 ――トーキョーが燃えていた。
 ――見えるかぎり、いたるところで火の手が上がり、あちこちで爆発が起きている。風に乗って銃声と悲鳴が聞こえてきた。
ナイトエンジェル「魔物……!?」
 ――ナイトエンジェルが呟いた通りだった。
 ――魔物が……トーキョー中にひしめいていた魔物の群れが、いっせいに暴れだし、住民達を襲いはじめたのだ。

Ev2-2「妖怪都市〈新宿〉」魔女の支配する街。

マリー(通信)〈……下! 閣下! ああ、やっと通信が繋がった! ご無事ですか!? 例の魔物達が突然凶暴化して、こちらへ攻撃してきました〉
マリー(通信)〈トーキョー全土で同様の事態が起きていると思われ、緊急事態と判断して撃退と都内への前進を開始いたしました。勝手に軍を動かして申し訳ありません〉
【いや、それでいい。現地のバイオロイドが攻撃を受けている。できるだけ救助してやってくれ】
マリー(通信)〈そのようにしております。ただ、敵の数が多く、進軍速度が上がりません。閣下の位置情報は把握していますが、そちらの状況はいかがですか?〉
ナイトエンジェル「ナイトエンジェルです。現在は小康状態ですが、周囲を敵勢力に囲まれており予断を許しません。場合によっては私とフレースヴェルグ少佐で、司令官をそちらまで送り届けます」
【…………】
ナイトエンジェル「司令官、お気持ちはわかりますが、私はそのために護衛隊に加わっています。いざとなれば司令官の命が第一です」
 ――ナイトエンジェルの言うことは正しい。そんなことをしなくていいようにするのが、俺の仕事だ。
【状況を整理しよう】
 ――確認すると、集まってくれたトーキョーのバイオロイド達のうち、半数ほどがついてきていた。残りはあの場で、帝国に捕らえられたのだろう。無事を祈るしかない。
フレースヴェルグ「アキハバラとシブヤの人たちには、ロッポンギの非戦闘員を守るよう頼んでおきました。対立していた割には、意外とすんなり聞いてくれましたね」
コンスタンツァ「帝国ができるまでは普通に助け合って暮らしていたのでしょうし、そっちが本来の状態なのかもしれません」
 ――しかし、この人数を率いて、オルカの本隊と合流することはできるだろうか。あるいは、ここでこのまま持ちこたえることが?
 ――……どちらも現実的ではない。
モモ「モモに考えがあります。シンジュクへ行きませんか」
【シンジュク?】
無碌十字軍構成員「……新宿!?」
 ――トーキョー組のバイオロイド達が、突然ざわめいた。あからさまな恐怖と嫌悪の表情を浮かべている者もいる。
ナイトエンジェル「シンジュクというと、シブヤの近くにあるエリアでしたね。何かあるんですか?」
カフェ・MaiDriveのメイド「新宿には……妖怪がいるんです。蜘蛛の魔女が支配していると言われてます」
【妖怪……?】
ナイトエンジェル「蜘蛛の魔女? そういう魔物ですか?」
カフェ・MaiDriveのメイド「いえ、魔物じゃないんです。何だかわからない、化け物みたいなやつが……!」
 ――そういえば、シンジュクというのは記憶にある名前だ。マリコが「ヤバイ所」の一つに挙げていた気がする。
モモ「大丈夫です。モモの予想が当たってれば、司令官がいれば問題ない……はずです」
【よし。行こう、シンジュクへ】
 ――不安はあるが、どのみち選択肢は限られている。ここはモモの予想に乗ってみよう。
(暗転)
 ――シンジュク・ギョエンは見た感じ、木々に囲まれた普通の公園(の、なれの果て)に見えた。
サレナ「入ったとたん、魔物の追撃が止まりましたね……」
コンスタンツァ「本当に何かいるんでしょうか……?」
 ――日が暮れて、公園の周囲はよく見えない。警戒しながら進んでいくと、
ブラックリリス「! 司令官、オルカとの通信がつながらなくなりました」
コンスタンツァ「え!?」
???「立ち去れ……」
フレースヴェルグ「ひえっ!?」
???「疾く立ち去れ。ここは妾の守護する領域。お前達の踏み入ってよい場所ではない」
サレナ「でででで出たああああ!?」
【本当に蜘蛛女いた!?】
モモ「司令官、落ち着いて! あれは妖怪じゃありません!」
スパルタンキャプテン「マジカルモモの発言に同意します。登録済みの敵性機種情報を検知しました」
コンスタンツァ「スパルタンさん!?」
 ――敵性機種? 登録済み? よくわからないがつまり、ということは……
【あれって……AGS!?】
スパルタンキャプテン「そうです。戦闘指揮をお願いします」
 ――落ち着いてみると、俺にもわかってきた。蜘蛛女が動くたび、かすかだがモーターの駆動音がする。
 ――注意してよく見ると、手足の先がわずかにチラついているのがわかる。あれならオルカでも見たことがある。ホログラフィックスキンだ。そうとわかれば、怖いことはない。
【応戦するぞ、皆!】
(戦闘)
(戦闘終了)
スパルタンキャプテン「敵性機種の無力化を確認。戦闘終了」
 ――戦いを終えた俺達の前には、大型のAGSが六体横たわっていた。
アラクネー「くそ……蜘蛛の女王たる、この妾を……」
アラクネー「……戦闘継続困難。ホログラフィックスキン解除します」
シャーロット「あ、このAGS知ってますわ! 確か、ビスマルクのアラクネーとか……」
コンスタンツァ「アラクネーさん。こちらの方は人間様です。わかりますか?」
アラクネー「……脳波確認。体温確認。体臭物質確認。虹彩パターン確認。……あなたを人間と認めます」
アラクネー「初めまして、人間様。本機はN2E-888アラクネー145番機。ビスマルクコーポレーション東京支社警備隊第3分隊に所属しています」
【ビスマルクのAGSか……それが、こんなところで何を?】
アラクネー「このシンジュク・ディストリクトにはビスマルクコーポレーション東京支社が存在します。本機を含む東京支社警備隊は鉄虫の襲来に際し、所有者である人間は最後に「シンジュクを守れ」という命令を残して死亡しました」
「所有者の命令には曖昧な点があり、「シンジュク」という発言が東京支社を指す慣用表現なのか、シンジュク・ディストリクト全域を示すのかは不明でした。しかし発言の真意を確認する機会がない以上、最大限広義に解釈すべきと判断し、警備隊は現在までシンジュク・ディストリクト全域の防衛を行ってきました」
アラクネー「第1・第2・第4分隊は鉄虫との戦闘で機能停止。現在は第3分隊のみが業務を継続しています」
サレナ「…………」
 ――サレナが暗い顔をしている。ここにも、人間の残した最後の命令に縛られる犠牲者がいたのか……。
コンスタンツァ「……その、蜘蛛女のスキンは?」
アラクネー「本モデルのオプション装備の一つです。ジャマーによる広範囲電子封鎖および音響攪乱と併用すると、バイオロイドに心理的効果が高いことがわかり、使用していました」
ナイトエンジェル「とんだ妖怪の正体でしたね……」
【アラクネー。俺達に協力してもらえるだろうか?】
アラクネー「検討する時間をください」
 ――アラクネー達は集まって、何かを相談している。やがて、その中の一機がこちらに向き直った。
アラクネー「検討の結果、ビスマルクコーポレーションはすでに機能を喪失した可能性が大。所有者の最後の命令を遵守する義務は今なお存在しますが、現存する人間からの新たな命令も同等の重要性があると判断します」
アラクネー「あなたの指示に従います。ご命令をどうぞ」
【ありがとう。では、もう少しの間だけ、シンジュクを魔物達から守ってほしい。その後は、自由に……】
アラクネー「命令は正確にお願いします。「魔物」とは珪素-金属重合自生的有機体、通称鉄虫のことですか」
【いや、東京中にいる伝説製のAGS達のことだよ】
サレナ「『マカレン』用の改造AGSですよ。この間まではわりと大人しかったけど、急に暴れ出したでしょう? だから……」
アラクネー「再度確認します。現在都内に、伝説サイエンス製のVRPG仕様AGSは存在しません」
アラクネー「そう見える個体はすべて鉄虫です。貴方がたがいう「魔物」とはそれのことでよろしいですか」
サレナ「な…………」
【何だって……!?】

Ev2-3「七番目の鍵」七枚のキープレートは何のためのものなのでしょう?

マリー(通信)〈……アラクネーの言う通りでした、閣下。破壊した「魔物」の残骸を調査したところ、これは確かにAGSではなく鉄虫です。もともと本来の形状と異なる外装をほどこされているため、それに誤魔化されていました。内部は完全に鉄虫化しています〉
 ――……何てことだ。都内に鉄虫がおらず、あの「魔物」達だけしかいないのを奇妙に思ってはいたが……
コンスタンツァ「あれが鉄虫だとすれば、話がまるで変わってきますね」
ナイトエンジェル「ええ。この事態には伝説だけでなく、鉄虫が絡んでいる。それも……」
ポックル「ん……うーん……」
モモ「ポックルちゃん! 気がついたんですね。気分はどうですか? どこか痛いところは?」
ポックル「モモさん? え、えーと、ここは……? そうだ、私、帝国の!」
【落ち着いて、ポックル。とりあえずは大丈夫だから】
ポックル「社長! 来てくれたんですね。はあ~、よかった……いえ、よくないです! アルマンさんが、アルマンさんが大東京帝国に!」
モモ「やっぱり、アルマンさんは帝国に捕まっているんですね」
ポックル「はい、それで、何かおっかない計画に使われようとしてるんです! あそこの人たち、よくわからないんです。私も何だか、命令されたらふぁーって逆らえなくなって、そのまま機械に繋がれちゃって……」
ポックル「ああそうだ、それで七本の鍵が必要だけど、いざとなったら六本でも、とか何とか……」
 ――一刻も早く助けに行きたいところだが、正直、今のままでもう一度帝国に乗り込んでも、同じ結果になるだけだ。何かもう一つ武器がなければ……。
モモ「司令官。七本目の鍵を探しませんか?」
モモ「ポックルさんの話からすると、帝国は最後の鍵をまだ見つけてないみたいです。それがあればもう一度、交渉ができるかもしれません」
ナイトエンジェル「一度交渉しようとして、駄目だったじゃありませんか。もう一度同じことになるのでは?」
モモ「私たちだけで行けば大丈夫です。ポックルちゃんの洗脳波は、特定の誰かをご主人様とはっきり思ってる子には効き目が薄いんです。だからオルカのみんなはすぐ立ち直ったでしょ? それに……」
ポックル「わ、私もいます! 逆位相の洗脳波を出して、妨害できると思います」
サレナ「な、何とかなりそうな気がしてきましたね」
ナイトエンジェル「とはいえ、七本目を探そうにも現状手がかりがまるでありませんが……」
【……そもそも、他の鍵はどこにあったんだろう。みんな、覚えてる?】
練馬ピョンテクラブのバイオロイド「確か、マンションあさりをしていた時に金庫の中にあった……んだと思います」
無碌十字軍構成員「でかい魔物をぶっ壊したら持ってたんだったような。あんまり詳しく覚えてませんが」
カフェ・MaiDriveのメイド「廃墟の掃除をしていたら、デスクの引き出しから見つけました。伝説の系列会社の建物だったかと思います」
 ――金庫に、伝説の建物に、魔物からのドロップ? どうも統一性が見えない。
ナイトエンジェル「だいたい、あの鍵って何なんですかね? フレースヴェルグさん、わかります?」
フレースヴェルグ「ちょっと見ただけなので確かなことは言えませんが、伝説作品であんなアイテムってちょっと思い当たらないんですよね」
フレースヴェルグ「それに、伝説のロゴがわりと大きめに入ってましたよね? 多分、作品内のアイテムじゃなく、伝説社そのものに関わるものじゃないかと思うんですが」
ナイトエンジェル「実際の業務用のデバイスということですか? それをあんな趣味的なデザインにしますかね」
モモ「あ、それは伝説ではよくありましたよ。『マジカルモモ』シリーズのスタッフさん達はみんな、シーズンごとの変身アイテム型のセキュリティキーを持ってて……」
アラクネー「人間よ、報告があります。鉄虫……貴方がたのいう「魔物」がシンジュク・ディストリクトを包囲しはじめました。自動迎撃システムが応戦を開始していますが、長くはもちません」
ナイトエンジェル「何ですって!?」
モモ「司令官、きっとあいつら、鍵を探しに来たんです!」
 ――そうか。“アンガラカ”のキープレートは魔物が持っていたという。もし、魔物達も鍵を探し求めているのだとしたら? 
 ――奴らが探していないのは、このシンジュクだけだ。そして、ジャマーによる電子封鎖はたった今、俺達がオルカとの通信のために解除してしまった。
 ――魔物が……いや、鉄虫が探している鍵。伝説サイエンスにまつわる鍵……。
【アラクネー! シンジュクに伝説に関係する施設はないか?】
アラクネー「ありません」
 ――ないのかよ!
アラクネー「しかし、ビスマルクコーポレーション東京支社の第五企画室は、かつて伝説社の分室だったセクションです。伝説社がビスマルクとの提携を解除した際、当時のプロデューサーがビスマルクに残留して、そのまま移籍しました」
フレースヴェルグ「それだ! 行ってみましょう!」
アラクネー「案内します。最短距離では魔物が侵攻中のエリアを通過しますが、よろしいですか」
【構わない! 突っ切るぞ!】
(戦闘)
(戦闘終了)
フレースヴェルグ「ここが、ビスマルクの東京支社……」
モモ「アラクネーさん達が守ってただけあって、状態がいいですね」
サレナ「第五企画室というのはどこにありますか?」
アラクネー「こちらです。緊急用エレベーターがまだ生きています」
(暗転)
【よし、みんなで手分けして探すんだ】
サレナ「ありました、金庫!」
モモ「下がってください! マジカル抜刀・斬鉄剣!」
【……あった!】
 ――金庫の中には何枚もの書類と、これまで見たのと同種の金属プレートが入っていた。
 ――“アディティヤ”のキープレートを手に入れた!
フレースヴェルグ「あっ、カブラヤ・ホンタ! ビスマルクに移籍したのってこの人だったんですか! なるほど、時代ですねえ~」
 ――こんな状況でもフレースヴェルグは相変わらず、戸棚の資料を眺めて何やら勝手に感心している。
サレナ「ご存じなんですか?」
フレースヴェルグ「『ヴァジュラ』シリーズなどの怪獣映画で一時代を築いた、偉大な監督ですよ。怪獣映画も一時は大人気ジャンルでしたが、バイオロイド演者を使ったリアル撮影が主流になると、どうしても等身大じゃないものは下火になっちゃったんですよねえ。味のある作品も多かったんですが」
モモ「あ、『大怪獣ヴァジュラ』ならモモも知ってます。モモがデビューするよりだいぶ前の映画ですよね」
フレースヴェルグ「そうですそうです! 特に『ヴァジュラ対キングアルゴス』の映像は今見ても見応えが……」
ナイトエンジェル「そこ、思い出トークは後にして下さい。退散しますよ」
 ――ともあれ、これで最後の鍵が手に入った。これがどれほど役に立つかは、俺の使い方しだいだ。
 ――目指すはコウラクエン。なんとしても、アルマンを助け出さなくては。

Ev2-4「東京アンダーグラウンド」どんな都市にも、人に見せない秘密の場所があるものです。

???「大東京帝国ばんざい」
???「アカリ様ばんざい」
???「大東京帝国ばんざい」
???「アカリ様ばんざい」
???「……」
???「…………」
???「うさぎ。おい、うさぎっつったよな」
隼町うさぎ「あ……はい。JJ……さん?」
JJ「そうだ。お前、頭はっきりしてるか」
隼町うさぎ「……ええ。それなりには」
マリコ「やれやれ、やっと三人。どうやらここで正気を保っているのは、私たちだけのようですね」
隼町うさぎ「これは、私……穴を掘っていた? いえ、何かを発掘していたのでしょうか。私たち、何をしていたのです?」
JJ「オレが聞きてえよ。他の奴らは話しかけてもぼーっとして、手も止めやがらねえ」
JJ「代言人とかいう奴はあそこでずっと天幕の中と会話してやがるし、オレにそっくりなアルマンとかいう奴があっちで機械につながれてるしよ」
JJ「極めつけはあれだ。見ろよ、天幕の下んところ」
隼町うさぎ「あれは! ポックル大魔王モデル……」
JJ「それも二人もいやがる。オレ達がおかしくなったのもあいつらのせいだろうぜ」
隼町うさぎ「……少しずつ思い出してきました。私たちはあの鍵を人間様から奪って、帝国に届けてしまったのでしたね。あの鍵とここは、どんな関係があるのでしょうか?」
JJ「マリコ、お前はオレ達より昔から稼働してんだろ。何かわかんねえか。ココは何だ?」
JJ「なんで伝説本社の地下にこんな場所がある? このだだっ広い金属の床はいったい何だ? オレ達は何を掘らされてるんだ?」
マリコ「恥ずかしながら、わかりません。私が一線を張っていたのは伝説の本社が練馬にあった頃で、いまの場所に移ってからはほとんど倉庫番でしたので……」
JJ「ちっ、使えねーな。まあいい。オイうさぎ。お前、ここ脱走しろ」
隼町うさぎ「は?」
マリコ「あの資材小屋と外壁のあいだに隙間があるでしょ。あそこに大きなひび割れがあって、どうやら空洞につながっているようです。おそらく、伝説本社の敷地の外まで伸びています」
JJ「あそこから逃げて、外の奴らにここのことを知らせんだ。あの人間……はまあ、裏切ったオレ達を許さねえだろうな。でも贅沢は言えねえや。誰でも構わねえから知らせろ」
隼町うさぎ「なぜ私が? あなた、確か未来視ができるのでしょう。ご自分が逃げた方がいいのではなくて? それか、体の小さいマリコさんか」
JJ「その未来視で、お前が逃げるところが見えたんだよ。お前じゃなきゃ逃げられねえってことだ。早く行け」
マリコ「私たちが騒ぎを起こして注意を引きつけます。その隙に」
隼町うさぎ「……わかりました」
JJ「んじゃ、やっか。お前すぐに死ぬなよ」
マリコ「知らないんですか、ギャグキャラっていうのは頑丈なんですよ。さあ久々に行ってみよう、小笠原諸島のクロポッポ!」
JJ「何だそりゃ!?」
隼町うさぎ「……必ず戻ってきます」
(戦闘)
(戦闘終了)
コンスタンツァ「ひとまず撃退できましたが……」
【きりがないな、これは……】
 ――魔物は後から後から押し寄せてくる。さほど強くはないので、防戦する分にはどうにでもなるが、これを突破して伝説本社まで行くのは相当難しそうだ。やつらが鉄虫だと判明した今となっては、アラクネー達もうかつに前に出すわけにはいかない。
アラクネー「人間よ、提案があります」
アラクネー「このビスマルク東京支社には封鎖された地下通路があり、コウラクエンにある伝説本社まで通じています」
ナイトエンジェル「地下通路!?」
【どうしてそんなものが?】
アラクネー「伝説社と提携していた時代の名残です。キリシマ法成立以前、両社の間で非合法な撮影機材を流通させるのに使われていました」
 ――「非合法な撮影機材」とは……考えるまでもなく、バイオロイドのことだろう。忌まわしい設備だが、今は役にたつ。
【案内してくれ】
アラクネー「はい。こちらです」
(暗転)
アラクネー「ロック解除します」
 ――重々しい軋みとともに、数十年間使われていなかったであろう扉が開く。よどんだカビくさい空気がただよってきた。
ナイトエンジェル「ここをまっすぐ、コウラクエンまでですか。乗り物が欲しいところですが、贅沢は言えませんね」
シャーロット「早く行きましょう。こうしている間にも、アルマンがどうなっているのかわかりません」
アラクネー「人間よ。このアラクネー203番機をお連れ下さい。残存機の中で最も損傷の少ない機体です。移動用として利用して下さって構いません」
ナイトエンジェル「それは、助かりますが……防衛網は大丈夫なのですか?」
アラクネー「高確率で、15分以内に突破されます。そして、このまま本警備隊の全機が防衛を続けても、その試算に変更はありません」
アラクネー「ゆえに、我々はここで防衛を続け、追撃までの時間を稼ぎます。本警備隊のうちの一体だけでも、存続させて下さることを望みます」
【……わかった。アラクネー203、いっしょに行こう】
アラクネー203「了解しました。よろしくお願いいたします」
(暗転)
コンスタンツァ「……さすがに大型AGSに乗ると速いですね」
アラクネー203「ありがとうございます。目的地到着まで、予定ではあと15分です」
ナイトエンジェル「各員、戦闘準備」
スパルタンズ「了解」「了解」「了解」
 ――併走するスパルタン達が、いっせいに火器を構える。
 ――『碌アベ』のJJも、『メイドラ』のうさぎも、もちろん『メスガキ刑事』のマリコも、話せばわかる子だった。願わくば、大東京帝国のアカリもそうであってほしいが……。
フレースヴェルグ「司令官、ずっと気にかかっていて、言いそびれたことがあるのですが」
【ん?】
フレースヴェルグ「『大東京帝国アカリ』についてなんですが……「アカリ」なんていうバイオロイドは、いません。いるはずないんです」

Ev2-5「そして伝説へ」すべての始まりの場所へ。

【止まってくれ!】
 ――アラクネーが四本の脚をきしませて急停止する。サーチライトの光の中に、見覚えのあるバイオロイドがいた。
隼町うさぎ「に……人間様? 人間様ですか?」
【ああ、俺だ】
隼町うさぎ「申し訳ありませんでした……人間様を裏切ってしまい……ですが、信じていただけませんか、あれは決して……」
【それはいい、事情はわかってる。それよりどうしてここに? 他のみんなは?】
隼町うさぎ「あ……帝国に囚われて、本社地下で何か……よくわからないものの発掘をさせられています。JJさんとマリコさんは、私を逃がすための囮に……」
隼町うさぎ「…………」
コンスタンツァ「気を失っているだけです。緊張の糸が切れたのでしょう」
シャーロット「急ぎましょう。一刻の猶予もありません」
【ああ。フレースヴェルグ、さっきの話の続きを頼む。どういうことだ?】
フレースヴェルグ「……この中に映画の『アカリ』をご覧になった方はいますか?」
フレースヴェルグ「……いませんか、そうでしょうね。漫画は有名でも、映画はそこまでではなかったですから」
フレースヴェルグ『大東京帝国アカリ』の原作となった漫画『アカリ』は、全21巻もある大長編です。二時間の枠にはとうてい収まりません。そこで映画化にあたり、大胆な改変を加えて後半部分を丸ごとカットしました」
フレースヴェルグ「映画のアカリは、その強大な力を危険視され、物語がはじまった時点ですでに殺されてしまっているんです。遺体も軍部が解剖していて、本編に生きた姿のアカリは一度も出てきません。アカリ役のバイオロイドなんて、作られたはずがないんです」
【…………!】
 ――パズルのピースが噛み合うように、いくつもの事実が頭の中でひとりでに噛み合わさっていく。
 ――姿を見せないアカリ様。人間である俺の命令を聞かない代言人。魔物の正体。伝説本社周辺には姿を現さないという魔物たち。
モモ「それじゃあ、アカリ様は……!」
アラクネー「出口に到着しました。崩落部あり。突破します」
 ――瓦礫を蹴散らして飛び出した先は、横坑めいた広大な地下空間だった。ところどころにライトがあり、うすぼんやりと暗闇を照らしているが、奥の方は闇の中だ。
 ――少し離れたところで、大勢のバイオロイドがもみ合って戦っている。その中心にいるのは、JJとマリコだ!
隼町うさぎ「JJさん! マリコさん!」
【救助するぞ!】
(戦闘)
(戦闘終了)
マリコ「いや、絶好のタイミングでした。もう少し遅かったら、いくら私がギャグキャラでも死ぬところでした」
コンスタンツァ「お二人とも、無事で良かったです」
代言人「人間よ。一度敗れただけでは飽き足らず、帝国の深奥を踏み荒らそうというのですか」
コンスタンツァ「!」
 ――アラクネーのサーチライトがさっと照らした先、この空洞全体を見下ろす壁際に、何やら無数の機械が寄せ集められ、そこにアルマンが繋がれていた。その隣には代言人と、そして例の天幕も見える。
 ――俺は“アディティヤ”のキープレートを向こうからも見えるように高くかかげた。
代言人「それは!」
 ――代言人が手を上げると、俺の左右を固めているコンスタンツァとリリスが顔をしかめた。
コンスタンツァ「くっ……」
 ――また例の洗脳電波だ。ここからは見えないどこかに、あの時見た残り二人のポックルがいるのだろう。だが、
ポックル「そうはさせません! せーの、えいや!」
 ――こちらのポックルがこめかみに手を当てて力むと、みんなにのしかかる重みのようなものがフッと抜けたのが表情でわかった。
【もうそいつは効かない。アルマンを離せ。そうしたらこんなものはくれてやる】
代言人「小癪な……」
ポックル「むんむんむ~ん…………」
 ――ポックルは苦しげにうなっている。あまり時間をかけたくはない。俺はコンスタンツァからライフルを借りると、キープレートを思いきり高く放り投げ、宙を舞うプレートに照準を定めた。
【さあ、アルマンを離すか! 鍵を粉々にするか! 今すぐ選べ!】
代言人「くっ……!」
 ――代言人が何かを操作すると、ガシャン、と大きな音がして、機械の塊からアルマンが外れた。俺はライフルを放り出し、落下するアルマンを受け止めようと走ったが、
シャーロット「アルマン!」
 ――俺よりはるかに速く飛び出したシャーロットが、空中でアルマンをキャッチした。
シャーロット「アルマン、無事ですか、アルマン! 返事をして!」
アルマン「……シャーロット……?」
シャーロット「ああ、アルマン! よかった!」
【シャーロット! あとは!】
シャーロット「わかっていますわ!」
 ――シャーロットはアルマンを抱きかかえたまま壁面を蹴ってさらにジャンプし、アカリの天幕へ一直線に迫る。怒りの表情で立ちはだかる代言人をひらりとかわし、ビームレイピアが白い天幕を横薙ぎに斬り払う。
 ――その中から疾風のように飛び出したのは、予想したとおりのものだった。
【……鉄虫!】
 ――スピーカーに似ているが、もっと大きい。そいつは飛び出しざま、空中のキープレートを触手のような腕で受け止めると、そのまま壁を駆けのぼり、天井の向こうへ消えていった。
大東京帝国民「アカリ様! ア、アカリ様……?」
大東京帝国民「え……? 今のって、もしかして……」
 ――飛び去っていった鉄虫の姿に、坑内にいた帝国のバイオロイド達も混乱しているようだ。茫然自失している代言人と、アルマンの二人をかかえて、シャーロットが軽やかに戻ってきた。
アルマン「へ……いか……」
 ――コンスタンツァが無言で進み出て、アルマンの容態を確かめ、手当を始めようとする。
 ――しかし、アルマンはそれを押しのけて立ち上がった。
アルマン「陛下、あの鍵は……? 七つの鍵は、あの鉄虫に渡ってしまいましたか……?」
【ああ】
 ――アルマンを助けるためだ。後悔はしていない。だがアルマンは首を振る。
アルマン「いけません、陛下。追って下さい。あれの……デマゴーグの狙いどおりにさせてはいけません」

Ev2-6「デマゴーグ」嘘で人々を動かそうとする者。

アルマン「デマゴーグというのは、私が仮に付けた名前です。あれは天幕に身を隠して自らを人間と誤認させたまま、トーキョーのバイオロイド達をずっと操ってきたのです」
 ――大混乱に陥った地下をひとまずJJ達に任せた俺達は、地上へ続く階段を探し出し、全速力でそれを駆け上がっていた。
アルマン「鉄虫は人間の言葉を喋れません。それはあのデマゴーグも同じでしたから、身振り手振りやちょっとしたサインで意志を伝えられる腹心を一人用意して、あとの指示はその者から出させるようにしました。それがあの代言人です。さっきの反応を見る限り、彼女も「アカリ様」の正体は知らなかったようですね」
シャーロット「アルマンは最初から気づいていたのですか? 「アカリ様」が本当は存在しないと」
アルマン「もちろんです。私は映画版『アカリ』の内容も知っていますから。ただ、それを誰かに伝える前に掴まって、身動き取れない状態にされてしまったのは不覚というほかありません」
ナイトエンジェル「アルマンさんがつながれていた、あの機械は何をするためのものだったんですか?」
アルマン「一種のコードブレイカー……暗号解読装置です。七つの鍵を探すのと並行して、鍵が揃わなくてもセキュリティを解除できる方法も、デマゴーグはずっと研究していたようです」
(暗転)
 ――地上階に出た。気づけばもう、すっかり夜になっている。
 ――エレベーターは当たり前だが動かない。外壁の非常階段をさがして、ふたたび駆け上る。
【あの鍵って、一体何なんだ?】
アルマン「かつて、未完成のまま頓挫した伝説の極秘プロジェクトがありました。「ヴァジュラ計画」といいます」
アルマン「七つの鍵は、ヴァジュラ計画の七人の執行メンバーに与えられた認証キーです。人類が滅亡し、それぞれの持ち主が死ぬとともに所在不明となったあの鍵を探すのが、デマゴーグの最初からの目的でした。トーキョー中に魔物をはなったのも、伝説本社ビル跡に大東京帝国を築き上げたのも、すべてはそのためです」
 ――ヴァジュラ? どこかで聞いたような……。
フレースヴェルグ「ヴァジュラって、もしや大怪獣ヴァジュラですか!?」
アルマン「そうです、そのヴァジュラです。フレースヴェルグさんならご存じでしょうが、かつて子供向け娯楽映画の一大ジャンルだった怪獣映画は、バイオロイドを使ったリアルな映像作りが主流になると姿を消しました。どうしてもミニチュア特撮やCGが必要になり、リアリティに劣ると判断されたからです」
アルマン「しかし、かつての怪獣映画黄金時代を知っている古いスタッフの中には、どうしても諦めきれない人達がいました。彼らは粘り強く交渉を続けてついに上層部を動かし、企画を通して予算を確保しました」
アルマン「特撮に頼らない、本物の大怪獣を使った怪獣映画を作ること。それが「ヴァジュラ計画」です」
サレナ「ほ、本物の大怪獣? そんなのどうやって」
アルマン「もちろん、AGSです。動き出せば本当に都市を火の海にできるような、途方もない超大型のAGSを、彼らは作ろうとしたのです」
 ――そんな無茶苦茶な……しかし、確かに伝説ならやりかねないが……。
アルマン「幸か不幸か、さすがの伝説もそんなAGSを完成させることはできませんでした。予算は中断、企画は凍結され、作りかけのAGSは本社地下の大型倉庫に厳重に封印されました」
アルマン「陛下、先程までいた地下の横坑を思い出してみて下さい。床が金属だったでしょう?」
 ――俺は記憶の中の光景を掘り起こす。確かに、壁と天井はむき出しの土や岩だったが、床だけはがっちりとした金属製だった。
 ――本社地下の大型倉庫? まさか……!?
アルマン「はい。あれは床ではなく、扉です。本社ビルの一部が倒壊した際に地下倉庫も埋まってしまいましたが、あの下に、全高60m級の未完成AGS「大怪獣ヴァジュラ」が眠っているのです。そして、その扉のロック解除に必要なのが……」
【七つの鍵……!】
 ――最上階に着いた。ロックされた非常扉を、シャーロットのビームレイピアが切り裂く。
シャーロット「魔物! こんな所にまで!」
【相手をしている暇はない! 蹴散らせ!】
(戦闘)
(戦闘終了)
 ――最上階の会長室になだれ込んだ俺達が見たのは、
 ――デマゴーグが、最後の七枚目のキープレートをデスクのスロットに差し込んだところだった。
 ――“もう遅い”
 ――言葉を発さなくても、表情で鉄虫がそう言ったのがわかった。
 ――スパルタンズの銃撃がデスクを粉々に吹き飛ばす。だが、その時にはもうデマゴーグは窓から飛び降りて姿を消していた。
【俺だ! デマゴーグがまた地下に行った! なんとかして止めてくれ!】
ナイトエンジェル・フレースヴェルグ「追います!」
 ――飛行できるナイトエンジェルとフレースヴェルグが窓から飛び出す。俺達は再び非常階段を駆け下りる羽目になったが、その途中で本社ビル全体が震え始めた。
アルマン「司令官、あれを!」
 ――伝説サイエンス本社ビルのまわりには広い庭園があり、その先にはドーム式のスタジアムがある。出発前に読んだ資料によれば、あれも伝説の持ち物らしい。
 ――その庭園をまっすぐ縦断するほどの、大きな亀裂がいくつも地面に走り、その下から不穏な光が漏れている。
 ――俺達が階段を駆け下りる間にも、その亀裂はみるみる広がって地面を飲み込んでいく。ドーム球場の白い屋根が吹き飛び、醜怪な頭が現れる。土煙の中からぬうっと伸びてきた巨大な手が、俺達の足元の非常階段をむしり取った!
???「ゴアオオオオオオオオオ……!!」
 ――熱風が吹き付ける。それは鼻息だった。地の闇の底から頭をもたげた、大怪獣ヴァジュラの鼻息だった。

Ev2-7「決戦! オルカVS大怪獣ヴァジュラ」最終決戦には仲間が集うものです。

コンスタンツァ「あれがヴァジュラ……!?」
アルマン「遅かった……!」
 ――地面から出ているのはヴァジュラの右肩と、首から上だけだ。それでも、タイラントの全身より大きい。
 ――巨大な顔の額の部分に、デマゴーグが体をうずめているのが見えた。
アルマン「ですが、これほど大きなAGSなら、寄生するにも時間がかかるはず。それに、そもそもあのヴァジュラは未完成品です。今のうちなら勝ち目があるかもしれません」
 ――俺はいそいで指示を出して戦闘準備を調えた。リリスは俺の護衛。シャーロットはアルマンのフォロー。JJ達には帝国のバイオロイド達の救出と避難。
【残りの者は攻撃! あの大怪獣をぶっ壊せ!】
コンスタンツァ・ナイトエンジェル・フレースヴェルグ・サレナ・スパルタンズ「了解!!」
(戦闘)
(戦闘終了)
ナイトエンジェル「くそっ、図体がでかすぎる……」
サレナ「どっ、ドリルが……ドリルが過熱して……少し時間をください……」
 ――攻撃は通じている。巨大な爪や尻尾、熱線の攻撃も、かろうじてしのげてはいる。しかし、相手が巨大すぎて、こちらの与えるダメージが微々たるものにしかなっていない。
大怪獣ヴァジュラ「ゴオアアアアアオオオオオオオン!!」
 ――のたうつような尻尾の一振りが、崩れかけていた伝説本社ビルを、失敗しただるま落としのようになぎ倒した。
フレースヴェルグ「ああっ、貴重な資料があ!」
 ――フレースヴェルグが悲痛な叫び声を上げるが、今はそれどころじゃない。上半身と尻尾の先だけであれだ。鉄虫と化した状態で完全体として起動してしまったら、オルカの全戦力でも太刀打ちできるかわからない。なんとしても、あれはここで破壊しなくては。
 ――最悪、ドゥームブリンガーによる核爆撃まで視野に入れるべきか。都内のバイオロイド全員を安全圏へ避難させるのにどれくらい時間が必要か頭の中で計算し始めた時、
白兎「マジカルピンクムーンライト! 月光・唐竹割り!!」
モモ「白兎ちゃん!?」
白兎「待たせたな、モモ! もう大丈夫だ、私たちが来たぞ!」
ゼロ「ムラサキ流・雷神一閃!」
カエン「ムラサキ流・火神降臨」
ゼロ「モモ殿! 助太刀に推参したでござる!」
カエン「オルカのみんな、後から来る……カエン達、先行して助けに来た」
大怪獣ヴァジュラ「ゴアアアアアオオオオオオオン!!」
白兎「あぶない、二人とも!」
アタランテ「はあっ!」
ゴルタリオンXIII世「大魔王様、おそばに!! VIII世よ、貴様にだけ見せ場を作らせはせんぞ!」
サレナ「あ、はい」
アタランテ「主よ、我らが来たからにはもう心配はいりません。おっと、こちらを。ヨアンナ公から預かってきた盾です。これで御身をお守り下さい」
【みんな……!】
マリー(通信)〈閣下、ご無事ですか! ようやく敵の第一陣を突破して、侵攻速度が上がりました。間もなくそちらへ合流できます。取り急ぎ、伝説チームを先行させましたが……〉
【ああ、いま来てくれた! これで百人力だ!】
 ――俺はヨアンナの盾を高く掲げた。
モモ「魔法少女、マジカルモモ!」
白兎「同じく魔法少女、マジカル白兎!」
ポックル「だいま……いえ、魔法少女ポックル!」
ゴルタリオンXIII世「大魔王様の一の腹心、ゴルタリオンXIII世!」
サレナ「同じくゴルタリオンVIII世こと、サレナ!」
ゼロ「ムラサキ流クノイチ・ゼロ!」
カエン「同じくムラサキ流クノイチ・カエン」
シャーロット「銃士隊長シャーロット・ド・バッツ=カステルモール!」
アルマン「枢機卿、アルマン・ジャンヌ・デュ・プレシー」
アタランテ「リュカイオスの花、疾走せる狩りの女神アタランテ!」
【ヴァジュラを倒す! みんな、力を貸してくれ!】
全員「「「「「応!!!」」」」」

Ev2-8「東京黙示録」本来は、隠されていたことが明らかになるという意味です。

(戦闘)
(戦闘終了)
大怪獣ヴァジュラ「ゴアッ……ゴアオガアアアオオオオオン……!!」
【今だ!!】
モモ「サレナさん、それ貸して! ポックルさん! アルマンさん!」
ポックル「はい!」
アルマン「えっ、私も?」
モモ「一番ひどい目にあったじゃないですか! 一発かましてあげて下さい!」
アルマン「なるほど、それでは失礼して。とうっ」
モモ「いきますよ! みんなの希望をこのドリルに乗せて! マジカルーーー!」
ポックル「インフェルノーーー!」
アルマン「カーディナルアターーーーック!」
 ――三人の思いと体重を乗せたドリルが一直線に落下し、ヴァジュラの額に埋まったデマゴーグの胴体を貫いた。
デマゴーグ「…………!!!」
 ――声にならない声を上げてデマゴーグがのたうつ。だが、それで最後だった。
 ――煙とも体液ともつかない紫色の何かをまき散らして、デマゴーグはもがきながら消滅した。
ナイトエンジェル「やった……」
 ――ヴァジュラの動きが遅くなる。太く長い首がゆっくりと傾き、鋼鉄の軋む大きな音とともに、ある角度で止まった。
スパルタンキャプテン「……内部エネルギー、計測できず。ヴァジュラ、完全に停止しました」
ナイトエンジェル「……」
コンスタンツァ「…………」
サレナ「……やったああーーーー!!」
マリー「閣下! オルカ本隊、ただいま到着いたしました。……少し遅かったようですね」
【いや、ありがたい。怪我人の救助と、あの大怪獣の解体をたのむ】
マリー「はっ!」
(暗転)
アルマン「魔物達の動きが沈静化しています。指揮官を失って、統制がとれなくなったのでしょう。駆逐するのも難しくないと思われます」
 ――それはよかった。それにしても、あいつらにはすっかり騙された。
アルマン「それが目的でもあったのでしょう。ハリボテにすぎない外装部分を侵食しないでおけば、「伝説製のマカレン用AGS」に見せかけることができます。そうすれば伝説製バイオロイドに違和感を感じさせず、行動をコントロールできる。あのデマゴーグは、そうした鉄虫の繊細な操作に長けていたようですね。ここで撃破できて幸いでした」
【今回は大変だったな、アルマン】
アルマン「お恥ずかしい限りです。何のお役にも立てず、お手間ばかりおかけしてしまいました」
シャーロット「あら、囚われのお姫様のような貴女を助けるのは、なかなか面白かったですわよ」
【シャーロットも、お疲れさま】
シャーロット「どういたしまして、陛下のために働けたのですもの。ステゴロでテッペンを獲りあうのもたまには悪くありませんわね」
 ――シャーロットがガラの悪い言葉を覚えてしまった……。
ポックル「社長! ご紹介します。一緒に帝国に捕まってた、私の同型機二人です」
帝国のポックルA「は、はじめまして、人間様」
帝国のポックルB「このたびは、とんだご迷惑を……」
ポックル「白兎に見つからない所で休ませてあげてほしいんですけど……」
【医療班が来ているから、検査に行ってくるといい。ポックル自身もな】
ポックル「えへへ、そうします。はー、まだ頭痛い……」
モモ「司令官さん、お疲れさま」
【モモ、大活躍だったな】
モモ「司令官こそ! モモ、惚れ直しちゃいました」
【…………】
モモ「…………」
【すごい街だったなあ、トーキョー】
モモ「そうですね。はじまりは、鉄虫のたくらみだったかもしれませんけど……たぶん、伝説の本社があって、伝説のバイオロイドがいっぱいいて、東京を舞台にした伝説作品がいっぱいあって……そういう、いろんなことがないと、こんな風にはならなかったと思うんです」
【うん】
モモ「うまく言えませんけど、モモは、モモ達は伝説サイエンスのバイオロイドです。そのことは、泣いても笑っても変わりません。
モモ伝説がしてきたことや、伝説が作ってきた作品や、それを見た人達の思いや……そういったいろんなものが全部、モモ達を作る一部になってるんです」
モモ「それが、すごく辛くてイヤな時もあります。……いっぱいあります」
モモ「でも、ちょっぴり誇らしい時も、たまにあるんですよ」
【そうだな】
【そういうものを全部背負って、それでも笑顔でいてくれるモモが、俺は誇らしいよ】
 ――過去に何も持たない俺が言っても、仕方のないことかもしれないが。
モモ「ありがとう、司令官」
 ――それでも、モモはやさしく笑って、俺の肩に頭を乗せてくれた。
 ――夜が明け始めた。俺達のいる場所からはちょうど、横たわるヴァジュラの向こうから、朝日が昇ってくるように見えた。
(暗転)
フレースヴェルグ「……はっ。ここは? あれ、夢?」
ブラックハウンド「やっと起きたのね。フレズ、あなたモモさん達がヴァジュラにとどめ刺したところで感極まって気絶したのよ」
フレースヴェルグ「えっ……あっ……あれは現実? ああ! 録画しておけばよかったあああ!!」

	〈トーキョー黙示録〉第3部へ続く。