賢者の石/15~17章

Last-modified: 2023-11-11 (土) 10:03:42
 

15章

ダメージを挽回

■日本語版 15章 p.360
ダメージを挽回するにはもう遅すぎたが、

■UK版 p.179
It was a bit late to repair the damage, but

■試訳

  1. 失った点を取り戻す時間はあまり残っていなかったが、
  2. やったことはもう取り返しがつかないけれど、

■備考

  • 時々「汚名返上」「名誉挽回」と言うべき所で「汚名挽回」と言って笑われる人がいるが、
    「ダメージを挽回」とはねえ…。

注目を引く

■日本語版 15章 p.360
ハーマイオニーは教室でみんなの注目を引くのをやめ、うつむいたまま黙々と勉強していた。

■UK版 p.179
Hermione had stopped drawing attention to herself in class, keeping her head down and working in silence.

■試訳
ハーマイオニーは教室でみんなの注意を引くのをやめ、うつむいたまま黙々と勉強していた。

■備考

  • 注目を集める、目を引く、注意を引くとは言うけど注目を引くとは言わないな。

木星の星図、木星の月

■日本語版 15章 p.363
ハリーはきっぱりとそう言い切ると、木星の星図を引き寄せ、木星の月の名前を覚えはじめた。

■UK版 p.181
He pulled a map of Jupiter towards him and started to learn the names of its moons.

■試訳
ハリーはきっぱりとそう言い切ると、木星の図を引き寄せ、木星の衛星の名前を覚えはじめた。

■備考

  • moonはここでは月では無く衛星の事でしょう。
    日本語の「月」にも衛星の意味は有る事には有りますが、一般的では無いですよね。
  • 「星図」も「天球を一つの平面状に投影して、天体の位置や明るさを現わした図。恒星図。」
    (広辞苑より)ですから、map of Jupiterも「木星の星図」なんて無理矢理訳さずに
    普通に「木星の図」位で良いのに。

気がついていたわ

■日本語版 15章 p.370
「(略)お二人さん、こっちはロナンだよ。ケンタウルスだ」
「気がついていたわ」ハーマイオニーが消え入るような声で言った。

■UK版 p.184
‘(略)An' this is Ronan, you two. He's a centaur.’
‘We'd noticed,’ said Hermione faintly.

■試訳
「(略)ハリー、ハーマイオニー、こっちゃロナンだ。ケンタウロスでな」
「見たところそのようね」ハーマイオニーはささやくように言った。

■備考

  • 気がついていたって、ケンタウルスがいる事に?
    それともロナンがハリー達に気付いてたの?
  • 紹介して貰って「こんにちは」とか「はじめまして」ならまだしも
    「気がついていたわ」だと失礼な人という感じがする。
  • ここでnoticedの直訳である「気がついた」を使うのは機械翻訳レベルなんだよね。
    「そのようね」「そうみたいね」で、「気がついていたわよ」のニュアンスが出てると思うけど、
    こう言う意訳の判断が出来ず、おどおど訳してる感じ。

連中は深い、心がな

■日本語版 15章 p.373
「(略)連中は深い、心がな。ケンタウルス……(略)」

■UK版 p.185
'(略)They’re deep, mind, centaurs . . .(略)'

■試訳
だが、連中の言っていることは難しいぞ。ケンタウルス……

■備考

  • mind you(いいかい、よく聞け、言っておくけど、念のため、しかし)と言う成句の省略形であるmindを名詞と間違えてる。
  • ここのdeepも「深い」と訳すと、それこそ「深くて」何は言いたいのか分からない。
  • 前後を読めばハグリッドが何を言いたいかはほぼ分かるね。
    ケンタウルスは何やら独自の哲学を持っているらしく理解しにくいと。
    それをdeepと言ってる。

パロミノ

■日本語版 15章 p.376
もっと若く、明るい金髪に胴はプラチナブロンド、淡い金茶色のパロミノのケンタウルスだった。

■UK版 p.187
this one looked younger; he had white-blond hair and a palomino body.

■試訳
こちらはもっと若く見えた。髪と尾は淡い金色、胴体は薄い茶色(黄金色)だ。

■備考

  • 禁じられた森(ユニコーン探し中)でのフィレンツェの容姿についての記述。
    パロミノとは「たてがみと尾が淡黄色で体が黄金色の馬」または
    「たてがみと尾が白で胴が黄金色か淡黄褐色の馬」のこと。月毛とも言う。
    「パロミノ」では日本人には理解出来ない。
  • この時の焦点は「パロミノとは?」。
    その謎は解消されたけど、日本人の感覚ではプラチナブロンドはマルフォイ父の様な白に近い金髪。
    明るい金髪は黄色に近いイメージだと思われる。
    だから邦訳は、胴と髪の表現も逆にならなければいけないのでは無いか?
  • 金茶色のパロミノって白い白馬みたいなもん?
  • パロミノは体毛が白から淡い金茶色の馬。
    たてがみと尾は胴体よりも白い事が多いので、頭髪がホワイトブロンドなら胴体は
    もっと濃い色のはずだ=薄い茶色(黄金色)になる。
    でも邦訳だとその辺の事が全然分かんないね。
    「こっちの(人)はもっと若く見えた。パロミノのケンタウロスだ。
    頭髪と尾はプラチナブロンドで、胴体の毛色は淡い金茶色だ」(注釈でパロミノ説明)とかでどうでしょ。

16章

話がうますぎると思わないか?

■日本語版 16章 p.388
ハグリッドにたまたま出会ったなんて、話がうますぎると思わないか?

■UK版 p.193
Lucky they found Hagrid, don’t you think?

■試訳
やつら運がよかったと思わないか?

■備考

  • 作者がLuckyを使わせた気持ちを察しろよ。
    ハリーはLuckyを使ってわざと遠回しな言い方をしてるんだから、
    そのニュアンスを再現するのが翻訳者の仕事。
  • ハリーが「やつら運がよかったと思わないか?」と分かり難い言い方したので。
    ロンが「何が言いたいんだ?」と聞き返した。この流れが大事。
  • つまり原作はハリーが皮肉で遠回しな言い方をしたせいで意味が伝わり難かったけど、
    邦訳はそのニュアンスを無視してハリーの台詞をはっきりした内容に勝手に変えたせいで
    ロンが察しの悪いアホの子になってるワケですね?
    …ダメじゃん。
  • 3巻でも同じような間違いとして、ルーピンが
    まね妖怪のボガートとはなんでしょう?」と言う馬鹿な質問をしてしまっているという…。
    その時点で出ていない発言を解釈して補足しないで欲しい。
    ネタバレする本とか最悪だよ…

いやに愛想よく

1巻における代表的な誤訳を参照。

魔法陣

■日本語版 16章 p.395
「何度言ったらわかるんです!たとえ私でも破れないような魔法陣を組んでいるとお思いですか!」

■UK版 p.196
‘I suppose you think you're harder to get past than a pack of enchantments!’

■試訳

  1. 「どうやらあなたがたは何重にもしかけた魔法のトラップより、自分達の方が頼もしいと思っているようですね!」
  2. 「どうやら貴方達は我々が用意した魔法の仕掛けの数々よりも、自分達の方が優れていると思っているようですね!」

■備考

  • ハードカバーの邦訳は原文の文意がかなり分かり難くなっており、オリジナルに近い。
  • hard:〈俗〉とても良い、素晴らしい、格好いい、最高にいかす、超すごい、一流で、魅力的で
  • get past:~を通り抜ける
  • 「a pack of enchantments」=「魔法のしかけ(守り)を束にした物」は
    マクゴナガル先生の巨大チェスやスネイプの毒薬パズル等、賢者の石を守る為の侵入者除けの魔法群の事。
    それを「魔方陣」と言うのは、どう考えても立派な間違い。
    ハリポタには召還魔法出た事は無いけどそれとは関係なく酷いよ。
  • 携帯版では「何度言ったらわかるんです!あなたたちの方が、何重もの魔法陣の守りより強いと思っているのですか!」に変更されているが、
    「何度言ったらわかるんです!」という原文に無いオリジナルの部分や「魔法陣」が残っている為、修正としては不十分。

心臓にいやな震えが走った

■日本語版 16章 p.409
ハリーの心臓にいやな震えが走った。

■UK版 p.202
With an unpleasant jolt of the heart.

■試訳
嫌な予感に心臓がドキンとした。

■備考

  • スプラウトの仕掛けた「悪魔の罠」を突破して通路を歩いてるとドラゴンが守っていると言われている
    グリンゴッツを思い出し、ここにもドラゴンが居たらどうしようと思うシーン。
  • 心臓にでは無くて「心、気持ち」が震えた、不安がよぎっただと思う。
    胸が激しく高鳴っているのだろうなというのは何となく分かるけど。
  • an unpleasant joltを直訳すると「不快なショック」
    これは『嫌な予感に心臓がドキンとした。』とかで良いんでは。
    無駄な擬態語が多い訳だけど、心臓震えさす位なら「ドキン」で良いと思う。
  • 「心臓にいやな震えが走った」だと心臓に疾患が有るみたい。
    日本語版は擬音語や擬態語が無駄に多いんだから、こういう時こそ擬音語や擬態語を使えば良いのに。

論理パズル

1巻における代表的な誤訳を参照。

17章

聞き上手

■日本語版 17章 p.443~444
ロンとハーマイオニーは聞き上手だった。ここぞという時に、ハッと息をのみ
クィレルのターバンの下に何があったかを話した時は、ハーマイオニーが大きな悲鳴を上げた。

■UK版 p.218
Ron and Hermione were a very good audience; they gasped in all the right places and,
when Harry told them what was under Quirrell's turban, Hermione screamed out loud.
※原文は改行無し。

■試訳
ロンとハーマイオニーは熱心に聞いてくれた。二人は緊張の場面では必ず息をのんだし、
ハリーがクィレルのターバンの下にあったもののことを話すと、ハーマイオニーが大きな悲鳴をあげた。

■備考

  • クィレルとの戦いの後、医務室にいるハリー。お見舞いにきたロンとハーマイオニーに一部始終を語って聞かせる場面。
  • 原文の雰囲気を残して日本語にするのは難しいね。
  • 「Ron and Hermione were a very good audience」を
    直訳すれば「ロンとハーマイオニーはとても良い聞き手だった」だけど
    「ロンとハーマイオニーは熱心に聞いてくれた。」としたらどうかな。
    He is a very good swimmer. という英文を訳すとき
    「彼はとても良い泳ぎ手です」とすると日本語としては自然じゃないから
    「彼はとても上手に泳ぎます」とするみたいな基本テクニックがあったはず。
  • gasped in all the right places は「緊張の場面では必ず息をのんだ」とか。

「金縛りの術」をかけられたより

■日本語版 17章 p.451
マルフォイは、「金縛りの術」をかけられたよりももっと、驚き、恐れおののいた顔をしていた。

■UK版 p.222
Malfoy, who couldn't have looked more stunned and horrified if he'd just had the Body-Bind Curse put on him.

■試訳
マルフォイは、金縛り術をかけられたとしてもこれほどではあるまいと思われるほど、呆然として恐怖にかられた表情をしていた。

■備考

  • 直訳すると、
    Malfoy, who couldn't have looked more stunned and horrified
    (マルフォイは、より呆然と恐怖にかられたようには見えなかっただろう)
    if he'd just had the Body-Bind Curse put on him
    (もし、金縛りの術をかけられたばかりだったとしても)
    これを纏めて整える時、「よりももっと」を使えば良い場合も有るけど
    この場合はマルフォイがBody-Bind Curseにかけられた事があるかどうか分からないので、
    「かけられたよりも」とは書かない方が良いだろうね。
    「マルフォイは、金縛り術をかけられたとしてもこれほどではあるまいと
    思われるほど、呆然として恐怖にかられた表情をしていた。」とかにするのがベターと思う。
  • 訳者は「金縛りの術をかけられた」よりもと考えたのだろうけれど、
    日本語ではこういう言い回しはしないから気持ち悪くて仕方ない。
    金縛りの術をかけられた時よりもなら多少マシなのだけど。

はい、その人です

■日本語版 17章 p.441
「クィレルが言うには、スネイプが」
「ハリー、スネイプ先生じゃろう」
「はい、その人です…(略)」

■UK版 p.217
"Quirrell said Snape -"
"Professor Snape, Harry."
"Yes, him - Quirrell said (略)"

■試訳
「クィレルが言うには、スネイプが」
「ハリー、スネイプ先生といいなさい」
「はい…クィレルがいうには(略)」

■備考

  • ダンブルドアは「『先生』とつけなさい」という意味で言ったんであって、
    誰の事か分からなかった訳じゃないんだから「はい、その人です」は可笑しい。

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  • 論理パズルは全文を書いて該当箇所を赤い文字にしました。見にくいと感じるようでしたら直していただいてもかまいません。あと、検証の部分はそのままリンクを貼ったけど、このWiki内にコピーしたページを作ったほうが良かったですかね? -- ヘキサ 2018-10-16 (火) 02:18:03
    • 検証ページのコピーを作成しリンクを貼り換えました。 -- ヘキサ 2019-05-12 (日) 16:20:22
  • わかったわかった… -- 2019-06-21 (金) 14:53:49
    • みたいなノリで「はい、その人です」って言ったのかと思った。 -- 2019-06-21 (金) 14:54:35
  • あれだけ問題視されたし論理パズルの誤訳はさすがに直ってると信じたいが… -- 2020-06-03 (水) 12:02:39
    • 誤訳のせいで矛盾してる記述になってしまってるから普通の出版社ならなおしてるミス -- 2023-08-31 (木) 20:41:15
  • 論理パズルは「1巻における代表的な誤訳」に移したほうが良さげ -- 2021-11-04 (木) 14:50:32
    • 反映させました [star] -- nevi 2021-11-04 (木) 15:50:31
  • 代表的な誤訳ページと章ごとのページに重複があっても別によくない?このページで一行だけでリンク飛ばしたら読み飛ばされそう。 -- 2021-11-06 (土) 07:27:25
    • 確かにそう思うぞ -- 2021-11-06 (土) 11:29:54
    • 先日の論理パズル、わたしは重複させてコピーしただけだったのですが、後日ほかのかたが整理整頓してくださったようです。たしかにスクロールしていくとリンク一行だと目立たないですね。少し考えてみます。 -- nevi 2021-11-08 (月) 00:33:22