謎のプリンス/1~5章

Last-modified: 2024-04-30 (火) 08:44:07
 

1章

むこうの大臣

■日本語版 1章 p.5
むこうの大臣

■UK版 p.7
The Other Minister

■試訳
もう一人の大臣

■備考

  • 第1章の章題。
  • 「むこう」だと、「こちらでない」「あっち側」「自分と関係ない側」と言うニュアンスになってしまう。
    マグルの首相は徐々にファッジに親近感を感じて、今回は運命共同体である事を認識するのがこの章のテーマと思うのですが。

元首

■日本語版 1章 p.6
さる遠国の元首

■UK版 p.7
the president of a far-distant country

■試訳
遠い国の大統領

■備考

  • 「元首」にビックリ。「President」は誰が訳しても「大統領」でしょうが。
  • 「さる遠国」も古い表現な気がする。

記憶を押しつぶす

■日本語版 1章 p.6
(略)不愉快な数々の記憶を押しつぶすのに精一杯で(略)

■UK版 p.7
(略)and trying to suppress unpleasant memories(略)

■試訳
不愉快な数々の記憶をふり払うのに精一杯で

■備考

  • 「記憶を押しつぶす」と言う言葉に違和感。
  • 原文も「抑圧する」みたいな意味のsuppressです。
  • でも日本語では不愉快な記憶などを思い出さない様にする事をあまり「押しつぶす」とは言わないので、
    普通の訳者なら「ふり払うのに精一杯で」などとしたと思います。
  • 電子版では「不愉快な記憶の数々を頭の隅に追いやるのに精一杯で」に修正されている。

部屋に背を向けて

■日本語版 1章 p.
ちょうどそのとき、部屋に背を向けていた首相の背後で、軽い咳払いが聞こえた。

■UK版 p.7
It was then, as he stood whith his back to the room, that he had a soft cough behind him.

■試訳
そのときだった。外を見ている首相の背後で軽い咳払いの音がした。

■備考

  • 「部屋に背を向けていた」は as~room のほぼ直訳かな。
    英語ではbackとbehind、違う単語を使えるからいいけど
    日本語で「~背を向けていた首相の背後で」とやると
    「背」という漢字がふたつ重なってくどい。
  • 「部屋に背を向けて」というのは日本語の表現としておかしいと思う。

垂れ込めている薄い霧

■日本語版 1章 p.
窓ガラスを覆うように垂れ込めている薄い霧を眺めた。

■UK版 p.8
looking out at the thin mist that was pressing itself against the glass.

■試訳

  1. 窓ガラスを覆うような薄い霧を眺めた。
  2. 薄い霧が窓ガラスにすり寄ってくるのを眺めた。

■備考

  • press oneself against...は「~に抱きつく」みたいな意味で
    ここは霧だから「覆うように」というのはまあきれいな訳だと思うけど「垂れ込めている」がおかしい。
    でも考えてみたら「立ちこめる」のも濃い霧のイメージ。
    『窓ガラスを覆うような薄い霧を眺めた』でいいのじゃないかな。
  • 「垂れ込める」という言葉は、「雲」みたいにある程度形があって「垂れる」ことが
    物理的に可能だから、「垂れ込める」っていうんだよね?
    霧みたいに形状がないものは「垂れる」のではなく、「立ちこめる」という動詞をあてはめないとおかしいね。
  • 「薄い霧が窓ガラスにすり寄ってくるのを眺めた。」
    なんてどう?

輝かしい自己満足

■日本語版 1章 p.20
しかし、そんな気持は、輝かしい自己満足で、たちまち掻き消されてしまった――――

■UK版 p.17
It was, however, eclipsed almost immediately by a glow of smugness at the thought (略)

■試訳
しかしながらそんな気持ちは、心地よい優越感の前にたちまち薄れてしまった――

■備考

  • 邦訳の方は何故自己満足が「輝かしく」と形容されているのか、その理由がはっきりしない。
  • 「心地よさ」「満悦」「高揚」等と訳すべきglowを「輝き」と訳してしまい、
    「自己満足の輝き」では変だから「輝かしい自己満足」としてお茶を濁したものと思われる。
  • smugnessは「ひとりよがり」「自己満足」等と訳される言葉だが、
    ここではようやく気持ちの上でファッジの上に立った喜びに浸っているので「優越感」が相応しいと思う。

連中は転覆、騒動を引き起こし

■日本語版 1章 p.21
「存在があからさまになって以来、連中は転覆、騒動を引き起こしていましてね。(略)」

■UK版 p.17
'Since they have moved into the open, they have been wreaking havoc. (略) '

■試訳
「その復活を公にしてからというもの、闇の勢力は大惨事を引き起こしてきました。(略)」

■備考

  • 「転覆」って引き起こすもの?そもそも原文に転覆何て無くない?
  • wreak havocは大惨事を引き起こすという事だよね。
    何で「転覆、騒動」にしたんだろう。分からん。
  • 橋が落とされたりしたせいで沢山の人が死んだのだから正に大惨事。騒動なんてもんじゃないよ。
  • 電子版では「存在があからさまになって以来、連中は破壊騒動を引き起こしていましてね。(略)」に変更されているが、修正としてはやや不十分。

下手人

■日本語版 1章 p.23
下手人

■試訳
犯人

■備考

  • 下手人て表現どうなん…犯人で良いじゃねえか。

2章

縷々(るる)

■日本語版 2章 p.50
ダンブルドアのスタッフに加わったとき、心からの悔悟の念を縷々(るる)語って聞かせた。

■UK版 p.
I spun him a tale of deepest remorse when I joined his staff,

■備考

  • 「縷々」は「細々と述べるさま」(広辞苑)を意味するけど、
    原文にあるspin a taleは(糸を紡ぐように)話を紡ぐ=作り話をすると言う意味。
  • "spin a tale"を「長々話す」と解説してある英和辞典も有るんだけど
    英語に詳しい人に聞いたらただの長話の意味じゃ使わないらしい。
    でっち上げ話というのがポイントとか。

3章

流言蜚語

■日本語版 3章 p.60
流言蜚語

■試訳
流言飛語

■備考

  • 通常は「流言飛語」と書きます。
  • 蜚は常用漢字では無いので一般の書籍で使う事は推奨されないはず。
    常用漢字に当て嵌まらない漢字を無意味に多用しているのも、邦訳の大きな問題の一つではなかろうか。

名前を明かすことを拒んだ

■日本語版 3章 p.60-61
忘却術士の一人は、昨夜魔法省を出る際に、名前を明かすことを拒んだ上で、動揺した様子で次のように語った。

■UK版 p.43
said one agitated Obliviator, who refused to give his name as he left the Ministry last night.

■試訳
動揺したある忘却術士は昨夜魔法省を出た時、匿名を条件にして次のように語った。

■備考

  • 新聞記事だから「名前を明かすことを拒んだ」より「匿名を条件に~」の方が良い気がする。

家屋侵入と窃盗未遂の廉(かど)で

■日本語版 3章 p.61
家屋侵入と窃盗未遂の(かど)

■UK版 p.43
for trespass and attempted theft

■試訳
不法侵入および窃盗未遂の罪で

■備考

  • trespassは法律用語なので、不法侵入か住居侵入が適切。
    (家屋侵入は法律用語では無い)
    また内容から、侵入したのは家屋で無い事が明らかなので不法侵入とすべき。
  • 更に新聞記事である事を考慮すると、「(かど)で」と言う表現は不適切。
    常用漢字を用いて「罪で」とすべき。

巷(ちまた)では

■日本語版 3章 p.61
問題の予言がどのようなものかは知られていないが、(ちまた)では、「死の呪文」を受けて生き残った唯一の人物であり、
さらに問題の夜に魔法省にいたことが知られている、ハリー・ポッターに関するものではないかと推測されている。

■UK版 p.43
The nature of that prophecy is unknown, although speculation is rife that it concerns Harry Potter,
the only person ever known to have survived the Killing Curse, and who is also known to have been at the Ministry on the night in question.

■試訳
予言の内容その他については不明だが、ハリー・ポッターに関するものではないかという憶測が広まっている。
彼は、「死の呪文」を生き延びたことで知られる唯一の人物であり、問題の夜に魔法省にいたことも知られている。

■備考

  • こう言う長い文章は、頭から訳していくと分かり易くなります。
  • (ちまた)では」と言う様な原文に無い言葉の使用は避けた方が良いでしょう。

「選ばれし者」と呼ばれ

■日本語版 3章 p.61
一部の魔法使いの間では、ポッターが「選ばれし者」と呼ばれ、

■UK版 p.43
Some are going so far as to call Potter the 'Chosen One',

■試訳
魔法界の一部では、ポッターを「選ばれし者」と呼ぶものすら現れてきている。

■備考

  • going so far as~が訳し切れていない感じがする。
  • going so farは直訳だと、それほど遠くまで行ってしまうと言う意味。
    どれほど遠くまで行ったかと言えば、as以下まで。
    つまり、「ポッターを選ばれし者と呼ぶところまで、何人かの人は行ってしまってる。」と言うニュアンス。

訳抜け

■日本語版 3章 p.62
魔法界は概ねこの任命を歓迎しているが、

■UK版 p.44
The appointment has largely been greeted with enthusiasm

■試訳
魔法界はおおむねこの任命を大いに歓迎しているが、

■備考

  • with enthusiasm(熱狂的に)の訳が抜けている。

学校に帰る学生

■日本語版 3章 p.63
秋の新学期にホグワーツ魔法魔術学校に帰る学生の安全を確保するため、(略)

■UK版 p.44
(略)ensure the safety of students returning to Hogwarts School of Witchcraft and Wizardry this autumn.

■試訳
この秋、ホグワ―ツ魔法魔術学校に戻る生徒の安全を確保するため、(略)

■備考

  • 「新学期」に該当する単語が原文中にはありません。
    丁寧に説明しないと読者が理解出来ないだろうという配慮が見え隠れしてイラっとする。
  • 「帰る」という表現が不自然。生徒が全員、学校に帰属しているみたいです。
    こんな新聞記事を書いたら、親御さんに怒られそう。
    家には帰りますが、学校には戻りましょう。
    学校に「帰る」感覚なのはハリー位しかいない)
  • 「学生」でも良いですが、後の方に「生徒」と訳しているのだから統一して「生徒」に。

暗くなる前に完了

■日本語版 3章 p.64
外出は、可能なかぎり暗くなる前に完了するよう段取りすること

■UK版 p.45
Wherever possible, arrange to complete journeys before night has fallen.

■試訳
外出の際はできるだけ暗くなる前に帰宅するよう心がけること

■備考

  • 日本語として変な表現。

お墨付き

■日本語版 3章 p.66
「お墨付き」

■UK版 p.46
missive

■試訳
「信書」

■備考

  • ダンブルドアが迎えに来ると言う手紙を原書ではletterとせずmissiveとカタい言葉を使ってるから
    訳も工夫しようとしたのだろうが、「お墨付き」は権威ある人からの許可や保証の事だから少し可笑しい。
    この手紙が本物でダンブルドアが本当に来るという保証も無かったし。
  • ここは「信書」位で良かったのでは。

吹き出したい気持ち

■日本語版 3章 p.68
大変だという焦りと、吹き出したい気持ちの両方を感じながら、

■UK版 p.48
Feeling both panicky and close to laughter,

■試訳
大変だという焦りとこぼれそうになる笑みを両方感じながら、

■備考

  • 吹き出すというと何か滑稽なシーンを目撃した時に、ぷっと笑う感じがします。
  • birst into laughterであれば、間違いなく「吹き出す」で言いんですが、
    close to laughterだと「笑い出しそうな気持ち」位では無いかと思います。

4章

空っぽの旅籠

■日本語版 4章 p.88
ダンブルドアはきびきびした歩調で、空っぽの旅籠や何軒かの家を通り過ぎた。近くの教会の時計を見ると、ほとんど真夜中だった。

■UK版 p.60
He set off at a brisk pace, past an empty inn and a few houses. According to a clock on a nearby church, it was almost midnight.

■試訳
(略)人気(ひとけ)のない宿屋(略)

■備考

  • 籠と教会が近くにある事が想像出来ない。
  • こう言う時は「人気(ひとけ)のない宿屋」と訳せば良いと思う。
    emptyだから「空っぽ」とかどんだけ語彙が無いのか…
  • 魔法界が古風だから「旅籠」が有ると思っていた人が居たけど、
    これがマグル界の宿屋だとは分からなかったりするのかも。

手水場

■日本語版 4章 p.104
「いや、手水場を拝借したいが」ダンブルドアが言った。

■UK版 p.70
‘No, I was wondering whether I might use your bathroom,’said Dumbledore.

■試訳
「いや、お手洗いを使わせていただきたいのだが」ダンブルドアが言った。

■備考

  • スラグホーンの家のシーン。
  • 「手水場」は凄く和風な感じがするし、こんな言葉使いのダンブルドアは原作より老人っぽく感じる。

取らぬふくろうの羽算用

■日本語版 4章 p.119
「取らぬふくろうの羽根算用はせぬことじゃ」

■UK版 p.79
‘Don't count Your owls before they are deliverd,’

■試訳
「結果が届かないうちにふくろうの数を数えてはならん」

■備考

  • 魔法薬のO.W.L.試験でO(優)は取れていないに違いないと心配するハリーに向かってダンブルドアが言ったセリフ。
  • 原文は“Don't count your chickens before they are hatched”(卵が孵るまえにひよこの数を数えるな)と
    言う英語のことわざ(結果は出るまで分からんよという事)のもじりかな。
  • 通常日本のことわざでは「取らぬ狸の皮算用」がそれに相当すると言われているが、ここで持って来るのは苦しい様な。
    「ふくろうの羽算用」って言うのが意味不明だし、「取らぬ狸の~」は結果に過剰な期待を寄せる事なのに
    ハリーは逆に余計な心配をしているので凄く違和感がある。
  • 無理して日本のことわざを当て嵌めず、そのまま「結果が届かないうちにふくろうの数を数えてはならん」とでも
    訳してこれがダンブルドア流のことわざだという注釈でも付ければ良かったのに。

5章

風船ガムピンクの髪

■日本語版 5章 p.123(※原文は改行無し)
ハリーは、トンクスがやつれたように思った。病気かもしれない。無理をして笑っているようだったが、
見た目には、いつもの風船ガムピンクの髪をしていないので、間違いなく色褪せている。

■UK版 p.82(※原文は改行無し)
Harry thought she looked drawn, even ill, and there was something forced in her smile.
Certainly her appearance was less colorful than usual without her customary shade of bubble-gum-pink hair.

■試訳
トンクスは無理をして笑っているようだったが、ハリーには病気でやつれているように感じた。
髪の色は普段の鮮やかなピンクではなく、普段より色鮮やかではなかった。

■備考

  • 風船ガムピンクって何?
  • 「けばけばしいピンク」とか「派手なピンク」じゃダメだったのか?
  • トンクスの髪は茶色だったっていうんだから、
    「色褪せている」じゃなく「いつものようにカラフルじゃない」って直訳の方が良くない?
    色褪せただとくすんだピンクなのかなって思ってしまう。
  • 前の文が一部くっついてるな。

かわいいモリウォブル

■日本語版 5章 p.130
「かわいいモリウォブル」

■UK版 p.86
'Mollywobbles'

■試訳
「かわいいモリー」

■備考

  • 「かわいいモリー」だけで良かったんじゃないかな。
    モリウォブルだとwobblesの部分の意味が分からないと面白くも恥ずかしくも無い様な。

コメント欄

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  • さすがに流言蜚語のくだりはいちゃもんじみてると思いますが... -- Ttt? 2020-09-29 (火) 06:39:07
    • 私はそうは思いませんが…こういうの本当に読みにくいです。スラスラ読んでる中で「あれ?流言飛語じゃないっけ?」とつっかからせちゃダメだと思います。 -- 2020-10-08 (木) 16:32:45
    • ハリポタは一応児童書なので常用漢字表にない表記はちょっと・・・ -- 2021-11-27 (土) 02:53:49
  • 風船ガムピンクは違和感感じた -- 2023-02-28 (火) 21:10:13
    • 意味不明よな -- 2024-03-27 (水) 19:15:47
    • これにかぎらず色の訳が下手な気がするぞ -- 2024-04-25 (木) 13:22:28
  • 5章の「An Excess of Phlegm」を「ヌラーがべっとり」と訳してます。直訳すると嫌悪感を感じる文字なので、妙訳かなとおもいました。「ヌラー」が「ヌガー」を想起させます。 -- 2024-04-27 (土) 09:31:57
    • ジニーは、フラーのことを、ヌラーではなく、Phlgem(痰)と呼んでいます(UK版p.78)。ヌラーは、翻訳者があてた訳語です。もしかしたら、ヌガーを思ってつけたのかもしれません。 -- 2024-04-27 (土) 23:21:47
      • 元のフラーがフルールのミスっぽいのが残念。フルールならヌルールやヌルヌルになってたんかね? -- 2024-04-30 (火) 02:21:09
      • 「フラー」の「フ」に斜めの線を一本入れて、「ㇴ」にした文字遊び、なんてことないよね? -- 2024-04-30 (火) 08:44:07
  • かわいいモリウォブルの「Mollywobbles」は、「collywobble」という「吐き気や下痢を伴う原因の分からないおなかの胃や腸の痛み」という造語をもじったという考えもあるらしい。そらなら、全然、可愛くない。 -- 2024-04-27 (土) 19:20:47